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第十二話「第九潜行艦隊」⑤

「なるほど、初霜って言えば、化物みたいな戦闘力の艦だって思ってたが、そんな背景があったのか……。確かに例の艦隊に通じるものがあるな。しかしまぁ、大したもんだな……こんな断片的な情報を繋ぎ合わせて、そこまでの推論を導き出すとは……確かに、遥ちゃんの推理は納得がいくもんだ」


 佐竹提督が感心したように、呟く。

 島風もうんうんと頷いている……ちなみに、彼女も一緒になって、初霜の話を聞いてたひとりだ。


「まぁ、あくまで憶測だからね。これが事実かどうかは解らない……いわば、最悪想定ってところだ。ただもしも、アタシの推測通りだとすれば、恐るべき侵略者がその牙を研ぎながら、こっちへの進出を狙ってるって事になる。これは由々しき事態だと思う……それこそ、シュバルツなんか比べ物にならない……その程度には脅威じゃないかな」


 こっちの世界の駆逐艦……天霧も島風も駆逐艦勢ではトップクラスと言われるほどの実力者。

 最新の装備と数多くの修羅場を乗り越えたと言う意味では、文句なしのエース格。

 

 そんな彼女達でも、先の戦いではその戦果は、初霜には及ばなかった。

 その戦術行動を正確にトレースした戦闘シミュレーションデータ……そんなまがい物が相手であっても、彼女達にとっては、生存時間の長さがステータスになる程度には、その戦闘力に差を付けられている。

 戦艦級の火力も、空母の数の暴力すらも退ける……アレは、問答無用の最強……別格だった。

 

 けれど、万が一アレが敵に回ったら……アタシらは、本気で勝てないかも知れない……。

 

 そう考えると、あの艦隊はもはや脅威以外何者でもなかった。


「確かにな……あの初霜レベルの艦が10隻もいたら……そりゃ、もう誰も止められねぇかもしれねぇな……。しかし、こうも重要な情報を惜しみなく流してくれるって事は、俺を信用して、重要情報を提供してくれたって事か。こりゃ、ちょっと軽々しく信頼を裏切る訳にはいかなくなったな」


「あたぼうよ……遥ちゃんを裏切るような真似しやがったら、この俺が許さねぇ。例え、テメェが相手でもな!」


「解った、解った! 神に誓って、遥ちゃんを裏切ったりはしない。いや、遥ちゃんの信頼の答えるために……そう言うべきかな?」

 

 ……うん、佐竹提督。

 いい人認定……神に誓ってなんて言うやつこそ、神様なんて信じちゃいない。

 

 だから、信用なんて出来ない。

 

 信頼してくれたんだから、その信頼に応えるために裏切らない。

 そう言ってくれた方がよほど信頼できる。

 

 要するに、信義にもとる……自分自身を裏切るようなものだから。

 

 神様は裏切れても、自分自身の信義ってものは、なかなか裏切れない。

 であるからこそ、信頼に足ると言える。

 

「なかなか、いい返答ですよ……佐竹提督。では、今回の作戦は我々「裏門集」と第9艦隊の共同作戦としませんか? お互い、追ってる相手は同じ……正直、あの連中は放置しておいていいような奴らじゃないですから。我々、この宇宙のエーテルロードの守護者としては、この世界を守るためにも、総力を結集すべき……アタシは、そう考えます」


「……実際の所、あの艦隊は未だ敵と断定出来るほどの脅威ではないんだがな……。勝てそうもないからと言って、逃げ腰で媚びを売るなんて調子じゃ、向こうの要求に問答無用で従うしかなくなるからな。俺も遥ちゃんの意見には同意するぜ。少なくともアレと互角に戦えるくらいでなけりゃ、話し合いもできっこねぇ……要するにそう言いたいんだろ?」


 さすがグエン提督だった。

 アタシが内心で抱いていた懸念を見事に代弁してくれた。


「……グエン、お前も蛮勇の士のように見えて、意外と考えてるんだな……。正直、お前や遥ちゃんは、助太刀してもらった事で向こう側の肩を持つって可能性も考えていたんだがな」


「セカンドの奴らを心から信じるなんてのは、愚行だとアタシは思ってますよ。結局、考え方や価値観があまりに違いすぎます。楼蘭だって、今は協力関係にありますけど、それも利害関係が一致しているからこそですからね。あの艦隊とは、未だに利害関係も何もない。想定敵として、その攻略法や対抗装備、戦術を準備しなければなりません。そして、奴らと本格的に事を構えるには、やはり中央軍との協力体制は不可欠。その為には中央軍で、もっとも身軽な佐竹提督との協力は今後のためにも得る物は大きい……そう考えています」


 辺境軍とアタシの関係は、悪くない。

 もともと、アタシも辺境軍の一司令官で、いくつもの戦いに参戦、潮目を変えてきたりで、戦友という問答無用の信頼関係が構築できている。

 アタシ自身が「裏門集」としての独立艦隊を率いるようになっても、その辺の関係は維持されている。

 

 けれど、辺境軍はあくまで、即応迎撃戦力の性格が強い……本格的な侵攻艦隊との戦いともなると、中央軍の抱える主力級の戦力は必要不可欠とも言えた。

 

「へへっ、きっちり利害関係を計算の上でって事か。確かに、俺らも君らと手を組む事で動き易くなるからな。むしろありがたい話だな。いいだろう……そうと決まりゃ、せっかくだから、今から俺らと合流でもしないか? 直接会った上での情報交換って奴だな」


「ああ、俺達は装備受領で、アドモスの風林火山とランデブー中だ。そう言う事なら、是非来てくれ。お前とも久しぶりに酒でも酌み交わしてぇところだしな。座標送るぜ……そういや、お前らのところの花鳥風月って、風林火山の同型艦らしいな。せっかくだから、製造メーカー……アドモスの社長、サリバン女史にでも挨拶していくか?」


「ビッグマダムがいるのか? そりゃ、是非挨拶しときたいな……うちもお前らみたいに、軍事企業とよろしくやりてぇって思ってたからな」


 佐竹提督、完全に乗り気だった。

 中央艦隊って、何かとお硬くて、予算は出すから装備品は自前でなんとかしろって方針だったりもする。

 けど、そんなじゃ、国を挙げて総力で、技術開発をしてるセカンドに追いつかない。


 こちらも、銀河連合の総力を挙げてでも、向こうに負けないくらいの勢いで技術開発を続けないといけないのだ。

 

 桜蘭との戦いの時点で、そんなのとっくに明らかで、アドモスやエスクロンと言ったやる気のある軍事企業は、比較的装備品に自由が効く辺境艦隊を中心にせっせと売り込みしまくってるし、割と総力を挙げて、技術開発に余念がない。


 その技術力についても、アドモスはトップエンジニアのカドワキ氏の不在により、若干の停滞を見せていたけれど、その間隙を付くような、エスクロンの伸びが凄まじかった。


 エスクロンのエリコさんの才能ってのが注目されてるようだけど、

 その影には、エース級の実力を持つテストドライバーや数多くのTire1クラスの古参AI群……。

 こちらの銀河の最先端を進む企業国家の真髄を発揮しつつあるのは、確かだった。

 

 こうなってくると、強力な戦力が集まってる中央艦隊にも、いい装備を回してあげたいところ……。

 今のところ、コソコソと技術供給自体はしているのだけど、武蔵達もより多くの実戦経験や有力な装備を欲している。

 

 セカンド側の強力な艦艇群との戦いを想定すると、やはり彼女達の戦力強化は不可欠だろう。

 

 前例と既成事実を作るためにも、この第9艦隊との連携ってのは、こちらとしても願ったり叶ったりだった。

 

「……そう言う事なら、マダムの出番かな……。お願いしていい?」

 

「あら、ご指名みたいね……。始めまして、佐竹提督! 思ったよりイイ男じゃないの!」


「……お、おぅ……御本人様ですかい。もしかして、ずっと側にいたのか?」


「マダムは我々の同志ってところですから。そちらも色々縛りのある中、苦労してるようですからね。マダム……第9へのスポンサードって問題ありますかね?」


「中央軍って、接待攻勢も受け付けないし、民間企業に何が出来るとか、そんな調子なのよね……。でも、実際は間接的に、うちやエスクロンの装備やら技術って、中央艦隊に流れてるからねぇ……。頭脳体の娘達はむしろ、前向き。そう言う事なら、お偉いさんに黙って、装備品とか横流しする分には問題ないんじゃないかしら?」


 まぁ……実際、武蔵あたりなんて、自前で自艦の砲をレールガン改装しちゃったくらいだしねぇ……。

 武蔵の搭載砲の460mmレールガンって、アドモスの試作品がそのまんま流れて、自前コピーした代物。

 

 ちなみに、その出処はカドワキさんの作ろうとしてた460mm飛行砲……。

 

 結局、レールガン改装までして、色々試行錯誤を繰り返した挙げ句、やっぱり使い物になりそうもないってんで、廃棄処分するはずだったのだけど……。

 

 姉妹艦交流と称して、プロクスターまでやってきた武蔵が、倉庫の肥やし状態になってたそのブツを、要らないならくれって持っていったって話を聞いてる。

 

 武蔵は、武蔵でそれを自分のものとしてリサイクルして、自力で艦載砲として改装して搭載。

 

 連合艦隊総旗艦の大和もいつの間にか、話に乗っかって、ちゃっかり同じのをコピーして装備。

 更に、小口径化して長門やら伊勢と言った戦艦連中にもコピーしてバラマキ。

 

 中央艦隊は、装備技術自体は遅れてるのだけど、こんな調子で地道にこそこそとアップグレードしてたりなんかする。

 駆逐艦や空母連中についても、辺境警備艦隊の所属艦艇から、姉妹艦の繋がりやら、同じ陣営のよしみとかで、中央艦隊へコピー流出しまくってる。

 

 第一艦隊の赤城と加賀なんかも、アサルト・ゼロに更新済み、秋茜なんかも試験運用してるって話を聞いてる。

 

 カドワキ氏達も特許とかケチな事を言うつもりもなく、むしろアップデートとか助言したくてウズウズしてるらしい。

 

 結局邪魔になってるのは、中央艦隊を仕切ってる軍上層部。

 ココら辺は、中央艦隊は抑止力にして、最後に動くべきって頑固な考え方をしてるから、とにかく使えない。

 

 まぁ、中央艦隊は大型主力艦ばかりで、動かす場合のコストが馬鹿にならないから、その考え方も解るんだけど……。

 動かすべき時に動かさないとか、割と困った状態になってしまってるのも事実だった。

 

 もっとも、現場からの突き上げと言う形で、あちこちほころびも出来ているので、時間の問題って気もしないでもない。

 

「提督! 提督! アドモス社のスポンサードの件、私達は全員一致で支持しますよ!」


 ヨーコが全力で主張する。

 後ろの方から、そうだそうだ……なんて聞こえてくる様子から、他の連中も似たようなものらしかった。

 

「はははっ……お前らがそんな調子じゃ、断れねぇよ。そんな訳で、マダム……技術協力の件、正式にお願いしてよろしいですかな?」


「もちろんよっ! じゃあ、正式な契約書とか作らないとね! そっちさえ良かったら、専属の支援チームを派遣する準備だって整えるわよ。じゃあ、ご来艦、お待ちしてるわよ」


「へいへい、んじゃお前ら……花鳥風月、抜錨だ! 目的地は風林火山……。んじゃ、一旦回線も切るぜ。遥ちゃんもマダムも……お会いできることを楽しみにしてるぜ」


 そう言って、敬礼と共に回線が切れる。

 さぁて……面白くなってきた!


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