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第十二話「第九潜行艦隊」④

「うーん、それがですね……この魚雷。開発コードネームは「屠龍とりゅう」って言うんですけど……。結局、この兵器を研究してた開発部隊を星系ごと失った関係で、未完成に終わってまして……。とにかく、第二弾頭の大口径プラズマ封入カプセルがその後の研究を引き継いだ開発部隊では、上手く作れなくて……。要するに短砲身の500mm口径荷電粒子砲を使い捨てにするようなもので、コスト的にも問題があって、やはり無理があるって事で計画ごと廃棄されたはずなんですが……。これが完成品ってことですか? けど、何処の誰が……」


 荷電粒子砲ってのは、フッドなんかに使われてる戦艦主砲クラスだと、パワージェネレーター……大型熱核融合炉直結……なんて力技でブッ放してるんだけど……。

 

 桜蘭の特務駆逐艦や潜行艦に搭載された小口径タイプの方は、プラズマを超伝導コイルで覆って無理やり閉じ込めたプラズマ封入カプセルを用意し、撃つとなると、その圧を開放して、一気に打ち出す……そんな仕組みを採用している。

 

 炭酸飲料にラムネいれて、栓を緩めると中身が盛大に吹き出す……丁度そんな感じの原理の代物。

 当然ながら、弾切れがあるので、あんまり連発できないって欠点もあるのだけど、小型艦でも荷電粒子砲を装備する手段として、エスクロンやアドモスでも研究が進められている。

 

 もっとも、この方式だと大口径砲に対応できない。

 プラズマカートリッジもある程度の大きさになると、超電導コイルの重量や稼働エネルギーのコストが馬鹿にならなくなって、結局核融合炉直結のほうが早いってなるので、カートリッジ式となると重巡クラスの20cm口径程度のものが限度ではないかと言われている。

 

 けど、未完成の技術……それも失った星系の開発部隊が開発していた技術という事なら、なんとなく話が見えてきた。

 ……ならば、ちょっとカマでもかけて、確認してみるか?


「……イオンさん、ちょっと聞いていい? その開発部隊ごと、失った星系の名前。ずばり、斑鳩星系でしょ?」


 さぁ、このイオンってのがどこまで腹芸が出来るのか、解らないけど。

 表情の変化とかで、当たりくらいは付けられる。

 

 悪いけど、アタシはそう言うの鋭いよ?


「すごいっ! よくご存知で……何で知ってるんです? 一応、斑鳩星系の放棄の件は機密レベルも高い情報なんですけど……。斑鳩の開発部隊については、失われてから、その技術力の高さが見直されて、上層部の判断ミスとか糾弾されてましたね。実際、あまりに突き進みすぎてたせいで、危険視されてわざと見捨てたって話もあったみたいで……前政権の暗部とも言われてます」


 ……ド直球だった。

 

 このイオンって頭脳体。

 一応、プロクスターで潜入工作までやってたって話なのに、チョロすぎる。

 

 もっとも永友提督ですら、潜入にあっさり気づいて、敢えて泳がせてたらしいし、その諜報活動も何かと穴だらけで、かなり杜撰だったとは聞いてる。

 

 要するに、腹芸出来るほど、器用じゃない……。

 

 思わず苦笑する。

 多分、この頭脳体……カドワキさん辺りにもこんな調子で、重要情報のバーゲンセールみたいな感じで、ポロポロと話してたのかもしれない。

 

 思わず、佐竹提督と目が合うと、苦笑される。

 

 当たらずといえども遠からず……トレード契約みたいな感じで、こっちは駆逐艦磯風が向こうの世界に派遣されてるらしいんだけど。

 

 まぁ、向こうの磯風同様にこっちの磯風も勢いだけの突撃屋。

 口の軽さじゃいい勝負だろうけど、持ってる情報の価値じゃ、断然イオンだなぁ……。

 

 この娘とこうやって、繋ぎを持てたのは僥倖。

 

 ……斑鳩製の超兵器を所属艦である有明と夕暮が使っていた……そう言う事なら、もう決まりだろう。

 

 斑鳩星系は、黒船の勢力圏に取り残されながらも、自力で生き延びていた。

 

 その突き進んだ技術力を最大限に用いることで、自給自足の体制を整えて、所属艦艇は圧倒的少数での終わりのない迎撃戦を繰り広げるうちに、誰も及ばないほどの経験値を積み重ね、その高度な技術力を背景に、強大な戦闘力を手に入れた。

  

 そして、その斑鳩星系にレナウン以下のブリタニア特務艦隊が合流。

 桜蘭とブリタニアの接点は、デルクリア大海経由以外の道は存在しない……のだけど。

 

 斑鳩の面する流域は、長駆一万キロの彼方ではあるものの、ブリタニアの領域と繋がっている裏道のようなものらしかった。

 

 ブリタニアが内戦状態となっているのであれば、女王一派でもある英軍派は、英米の戦力バランスから考えると追い込まれる側になると言うのは想像に難くない。

 

 追いつめられた末に、斑鳩方面へ逃走し、斑鳩艦隊との接触を持った。

 

 あくまで、憶測ながら、アタシはそんな風に予想していた。

 

 そして、連中はこちらの世界へつながるゲートを発見し、こちらの世界へ人知れず進出。

 シュバルツとアタシらの戦いに武力介入を試みた……恐らく、そう言う事だ。


 けれど、その目的は判然としない。

 救助が必要なら、平和裏に穏便に接触すると言う手もあったはず。

 

 何故、同じセカンドのシュヴァルツ艦隊を、ああも徹底的に粉砕したのか?

 

 カイオスは、負けたときの事なんか考えてなかっただろうけど、斑鳩の連中は、シュバルツの軍事力低下がどう言う影響を与えるか……それ位は解ってると思いたいのだけど……明らかにオーバーキルだった。

 

 もっとも、あの状況ではシュバルツ艦隊を全滅させる以外、こちらも選択の余地は無かった。

 連中が手控えていたとしても、結果は変わりなかった……と思う。

 

 或いは、分別というものが無いのかも知れない。

 純粋に自分達がこちらに進出するにおいて、目障りだったから、先に潰しといた。

 

 その可能性のほうがむしろ高い。

 英軍ブリタニアも内戦で押されて、居場所を失いこちらの世界に進出して活路を見出そうとしている。

 むしろ、そう考えるほうが妥当。

 

 こちらに手出ししようとしなかったのは、戦端を開くには、時期尚早と判断した。

 

 ……なるほど、かなり話が見えてきた。

 素晴らしい……お礼にこちらもいくらかの重要情報を提供するとしよう。


「なるほどね。だいぶ、話が見えてきたよ」


「ほほぅ……。良かったら、遥ちゃんの推理ってのを、聞かせてもらえねぇかな? 悪いが俺にゃ、何がなんだかさっぱりだ」


「うん……。まず、謎の艦隊の正体が解ってきた。連中は恐らくその斑鳩星系の実験艦隊の生き残りだよ。恐らく、凄まじいほどの苛烈な戦いを生き延び、独自進化を突き進んだ結果……それがあの異常な戦闘力。そう考えると辻褄があう」


「……当時の記録だと、スタンピート級……数百匹ものインセクターがあの流域を埋め尽くしていたんですよ? 間違いなくネストも進出していたと思いますし……常識的に、生き残ってるはずが……」


 イオンが補足説明をしてくれる。

 そんなかよ……そう言う事なら、回廊封鎖も頷ける。

 そんな大群……重力爆弾でまとめて吹き飛ばすくらいしか、対応しようがない。

 

 けれど、あの初霜レベルの戦闘力を持つ艦艇が複数いたら?

 先の戦いでも、シュバルツ艦隊の侵攻を完封したのは、初霜が最前線にいたと言うのが極めて大きい。

 

 あの継戦力……あの戦闘力……まさに別格と言ってほどの働きだった。

 グエン艦隊の島風達も派手にやってくれたけど、撃破スコアじゃ初霜のスコアは圧倒的だった。

 

 あれが3隻もいれば、いくら膨大な数の敵がいても、後方支援さえしっかりしてれば、鉄壁の守りになるだろう。

 ましてや、それが重巡クラスの重武装艦となると……もはや、手に負えない存在になっているのは間違いなかった。


 実際、斑鳩艦隊の所属艦には重巡利根の名があった。

 重巡クラスの艦が初霜と同等の装備、未来予測システムを持っているとすれば……相当ヤバイな……それ。

 

「……それが生き残った可能性が高いんだよ。実は初霜もそこと関係あったみたいでね。どうも彼女も雪風共々、斑鳩の実験部隊所属だったらしいんだ。こっちの世界に流れ着いたのも、次元転移実験の結果……と言っても、その実験自体は大失敗。初霜も大規模重力心の爆心地にいたせいで、轟沈一歩手前の損傷を受け、その頭脳体もイチから再生措置が必要なほどの手酷いダメージを受けて、オールリセット状態で復旧。そんな状態で永友提督達と出会って、拾われて……今に至る。これは多分、佐竹提督達も知らない情報だと思う。その初霜と同じレベルの連中がぞろぞろいたとしたら……黒船がいくらいても、問題にならない……少なくともアタシはそう思う」


「……本当なのか? それは……初霜の話は俺もいくつか聞いてはいたが。そんな事情があったなんて、知らねぇぞ。そんな重要情報が今まで伏せられてたなんて……ちょっとさすがに問題だろう」


「そりゃ、知らないのは当然。これは本人から聞いた話だからね……要するにプライベート情報ってところ。別に機密情報でも何でも無いけど、一応機密扱いって事にしといて。彼女にとっては大事な思い出みたいだし、妙なところに話が行くと永友提督の足を引っ張ることになる。それはさすがにアタシとしては不本意だ……そこら辺は、ご理解の上でってところだよ。佐竹提督」


 ……実のところ、戦いが終わって皆で、祥鳳の豪華お風呂に入りながら、酒でも一杯……なんてやってたら、ほろ酔いになった初霜本人がノロケ話として、提督との出会いやら、そこに至る経緯とか洗いざらい話してくれたんだけどね。

 

 それと同時に、彼女と提督の絆……彼女の思いとかも垣間見えて、ちょっと複雑だったけど。

 

 ……正直、羨ましくも思った。

 愛されてるなーと思ったし、本気でべた惚れだって解ったから。

 

 永友提督って、ちょっといいなーって思ってただけにこっちは被害甚大。

 人の恋バナで酒なんか飲むもんじゃない。

 

 夜中、一人で布団に包まってたら、なんか無性に泣きたくなって、何時も通り布団に潜り込んできた天霧に、無言で抱きしめられて、子供をあやすような感じで慰められたってのは、ちょっと人には言えない。

 

 ……アイツ、絶対いいお嫁さんになれると思う。

 と言うか、普通にアタシの嫁のような気もしないでもない……。

 

 まさに、嫁艦っ!

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