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第十一話「グッドイブニング」①

 チラッとカドワキ氏を見ると、椅子に座ったままで、顎の下に腕を組んでうつむき加減でメガネがキラーンと光ってる。

 

「クックック、さしもの策士、遥ちゃんでもこの展開は予想してなかったようだな。悪いが、天霧達はこちらの手の者に拿捕させてもらったよ……」


「ば、馬鹿な……天霧達がそんな簡単にっ!」


「はぁい……遥ちゃん、聞こえてる? ごめんね……提督から、遥ちゃんを足止めすべく、その足を奪えって命令されてさ。カドワキさん、おかげ様で天霧ちゃんに気付かれること無く、バッチリ接舷。すでにCICに侵入、制圧済みよっ!」


 ……携帯端末の天霧のチャンネルから、聞こえてくるのは島風の声っ!

 後ろの方から、天霧が悲しそうに、ごめんなさーいとか叫んでる声が聞こえる。

 

 ま、まさか、このアタシが出し抜かれるなんてっ!

 

「くっ、カドワキさん……一体、どうやって……」


「フハハハハッ! こんな事もあろうかと思って! 君らの艦の外部監視システムにバックドアウイルスを仕込んどいたんだよ! 開発者舐めるなァッ!」


 立ち上がって、メガネをクイッと持ち上げながら、思いっきりドヤ顔を決められる。


 ……あー、すっかり油断してたけど、この人って、真性のマッドだったんだ。

 

 マッド故のぶっ飛んだ発想、自重なんて言葉はない。

 こう言う事も平気でやらかすんだった。

 

 うーん、完全にしてやられた。

 

 おまけに、島風達がグルだなんて……だ、騙されたぁ……。

  

 ……それから、二時間ほど。

 アタシはと言うと、フリフリのドレスなんかで着飾らされて、カドワキ氏の言うところの接待食事会に参加させられていた。

 

 半ば強制的に。

 青基調でやたらと胸を強調するデザイン、リボンやら何やらで飾られまくった可愛らしいの。

 なお、肩丸出しのチューブトップ風のデザインだから、防御力は皆無。

 

 肩がスースーして、とっても落ち着かない。

 

「あっはっはっ! 遥提督も、ドレス姿似合うねぇ……。でも、もうちょっと表情を可愛くしないと。笑顔、笑顔っ!」


 ……メイド服姿の狭霧が傍らで茶化す。

 

 本来、こう言う役目は天霧の役目なのだけど、グエン艦隊の駆逐艦連中とすっかり意気投合してしまって、隅っこの方でテーブルを囲んで、朝霧、夕霧も交えて、揃いも揃って、楽しそうによろしくやってる。

 

 まぁ、してやられたとは言え、あの戦いで共に肩を並べて戦った戦友同士の再会。

 たまには羽目を外させてやってもいいかなって言う、アタシなりの気遣いで、好きにさせている。

 

 狭霧は……根っからの真面目っ子なんで、副官役を買って出てくれた。

 けど、茶化しやがって……許さんぞ。

 

「アタシ、スカートって足元スースーして、好きになれないんだけどさ。そもそも、サリバン女史もなんで、こんなカッコさせたがるんだか……それにアンタも何やってんのよ。なんで、あっさり拿捕されてんのよ」


「いやはや、カドワキの旦那のバックドアウイルスで、センシティブ系が嘘ばっかり流しててね。気がついたら、天津のヤツが隣にいるんだもんなぁ……。まったく、開発者には敵わないね。ちなみに朝霧と夕霧は陽炎と不知火にやられた……流石、グエン艦隊の精鋭、恐ろしく手際が良かったわ。タイミングまで揃えられたもんで、仲間に警告する暇もなかった……完敗でしたわー」


「感心してる場合かっての! ……やれやれ、各艦のセキュリティを根本的に見直さないと、実戦だったら、アンタら軽く全滅だったよ?」


「まぁ、いいじゃん。アドモスさんも元々私らの大口スポンサーなんだし、私らの艦の装備も大半がアドモス社製。向こうも提督のことはお気に入りなんだから、これも接待の一貫……そう考えなって! ちょーと、くるっと回って、全体見せて……変なとこあったら直すから」


「やれやれ、こんなの柄じゃないと思うんだけどなぁ……」


 言われたように、その場でクルリと回るとスカートの裾を踏んづけそうになる……それに、お腹回りとかコルセットで締め付けられて、めっちゃ苦しい……昔の人は、良くこんなの普段着にしてられたよなぁ……。

 

 と言うか、これって腰のクビレを強調する奴なんだから、アタシに必要なのかすごく疑問。

 むしろ、デカすぎるお尻と胸をどうにかして欲しい。


「あはは、そう言えば、可愛らしいカッコするのって、いつぞやのユレさんの密着レポート以来だよね。あの時は、アイドルみたいなカッコで戦闘指揮とか面白いことになってて……あれで、提督のファンがいっぱい付いたらしいよ。まぁ、今はそこら辺も機密情報指定になってるから、幻のデータ扱いされてるらしいけどね」


「……む、むしろ、完全抹消して欲しいよ! って言うか、ドレスチェックは? 別におかしなとこもないでしょ?」


「うん、見た感じ大丈夫そうだ。あ、主賓のご到着だよ。ご挨拶、ご挨拶!」


 燕尾服姿のグエン提督と、ドレス姿の縦横少々大きめのマダムが姿を見せる。

 一応、これも接待……そう思って、アタシも姿勢を正すと、スカートの端をつまみ上げて、ペコリと挨拶。

 

 思わず、敬礼なんてしそうになって、同じ様に敬礼しかけていたグエン提督と目が合って、揃って苦笑。

 

「ご、御機嫌よう。この度は、お食事会ということで、ご招待ありがとうございます!」


(提督、笑顔……なんか顔、引きつってるよ?)


 うるせーっ!

 表情筋が仕事してない……笑顔、笑顔。

 

 ヤバイ……やり方忘れてる?

 笑顔ってどうするんだっけ?

 

 思わず、狭霧に助けを求める様に視線を送る……フォ、フォローミー!!


 ……フォローはあった。

 ドブシュッと脇腹に、狭霧の手刀が入って、思わず身体がくの字になる。

 

「あふっ……な、何すんのっ! このバカァっ!」


 本気の狭霧の一撃なんて、上半身と下半身が軽く生き別れになるところだけど、幸いそんな事はなく、軽いボディタッチ的なもの。

 

 けど、身構える暇もなかったので、思いっきり変な声が出た。


「あっはっは! それそれっ! なかなか、いい表情だと思うよ。提督はもっと笑わないと……勿体無いよ」


「そうだな。やぁ、遥お嬢……お会いできて、光栄だ。先日は色々世話になったな」


 グエン提督がアタシの前で跪いて、手を取ると手の甲にチュッと軽く口付け。

 

 ……ぐっはぁ。

 この人、いきなり何してくれてるのよっ!

 

 いきなりのこんな不意打ち。

 喪女歴長いアタシ的には、刺激が強すぎる……。

 

 顔がボンっと火が点いたように、熱くなるのが解った。

 思わず、クラっとしたところで腰に手を回されて支えられる。

 

「ととっ……ワリぃな。もしかして、ちょっと刺激が強すぎたかな? ん?」


 近いっ! めちゃくちゃ顔が近いよ! グエン提督。

 なんか、背景にキラキラとか花とか出てるんじゃないの、コレっ!

 

「あああ、あう。わう、わう、わう……えっと、その……」


 やばい、よく見なくても、この人イケメン……猛禽を思わせるその鋭く青い目がじっとアタシを見つめてる。


 普段はボサボサのワイルドヘアも、今日はワックスでバッチリ固めて、オールバックで渋みを強調。

 顎の下のちょび髭も渋さとワイルドさを醸し出してて、ナイスアクセント!

 

 やばい、まさにイケメン……ナイスミドルッ!


 そのナイスミドルが、アタシの腰を、腰をぉおおおっ!

 

「ごめんねぇ、グエン提督。うちのボスって基本的に男の人に免疫ないんだ。触られるとすぐこんな風にグデグデになっちゃう……なので、お触りは厳禁なんだ。そんな訳でしっつれい!」


 狭霧が後ろから抱き抱えて、グエン提督から引き離してくれる。

 

 うーん、免疫がないのは確かなんだけど。

 もうちょっとくらい……なんて思ったりもする。

 

 イケメンに抱き抱えられるとか、喪女的にはあんま無い機会なんだけどさ……。

 

 いや、でも危なかった。

 もし二人きりだったら、あれだけで「もう好きにして、クタッ」って感じになりそうだった。

 

 タッチ一発轟沈とか、アタシ、チョロい! チョロすぎるでしょ!

遥提督のチョロさは、半端ないです。

本人は、ツンデレの一種みたいに思ってるんだけど、すぐデレる。(笑)

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