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第十話「これはひとつの後日談」①

 あの戦いから10日ほどが過ぎていた。

 アタシは、アドモス社所有の巨大ドック艦「風林火山」を訪れていた。

 

 目的は、アドモスのトップエンジニア……あの戦いで救出したカドワキ氏との面会だった。


「やぁ、お久しぶり、カドワキさん少し痩せた?」


 物々しい雰囲気の武装した警護スタッフに案内されて、作業室に入るなり、気楽な調子で声をかけると、中に居た痩せぎすのメガネを掛けた中年オヤジが破顔する。


「誰かと思ったら、遥ちゃんだったのか! ケリー・イレズンとか聞いたこともないヤツからの面会要請なんて、何事かと思ったら……。なんだよ、俺と遥ちゃんの仲なんだから、普通に名乗ってくれれば顔パスで済ませたのに……まったく! ささ、散らかってるが、適当に座ってくれ! まったく、相変わらずのきょ……じゃなくて、美人ちゃんだねぇ……。飲み物はコーヒーでいいかな? 合成品のインスタントだから、口に合わんかも知れんがな」


 嬉しそうに、カドワキさんが得体の知れない機械やら技術書やらで埋まってるソファとテーブルを片付けてくれて、座るスペースを確保してくれる。

 

 警護スタッフ達が呆気にとられたように、その様子を見つめているのだけど、カドワキさんがさっさと下がれと言わんばかりに手を振ると、敬礼と共に慌ただしく立ち去っていく。

 

 その様子を見届けると、私もソファに腰掛けさせてもらう。

 あまり綺麗とは言い難いけど、いつものこと。


 湯気の立ったマグカップから、合成品のインスタントコーヒーのなんとも安っぽい香りが立ち上る。

 

 どうでもいいけど、ちゃんとマグカップを洗ったのかちょっと気になる。

 それに、巨乳って言いかけたのは、聞き捨てならんよ?

 けど、言ってる矢先に座った拍子にボヨンボヨンと揺れる……ガッデムッ!


「ありがとうございます。あいにく、アタシは本来の個人IDを無くした身でして……。まぁ、ちゃんとこれから行くってメールで予告はしといたんだから、それでチャラにしてよ……と言うか、元気そうで何より! あの時はごめんね。挨拶もしないで帰っちゃって!」


 言いながら、コーヒーを一口。

 

 苦っ! ……ブラックじゃん。

 たっぷりミルク入れて、お砂糖山盛りが良かったなぁ……。

 こう言うところは気が利かないんだから……。

 

 どうせなら、濃厚なココアのみたかった。


「おかげさんでな……。全く、助けに来るなら来るで予告くらいしろよな。危うく死人が出るところだったぞ? それに思い切り罠だったみてぇじゃねぇか……無茶にも程があらぁ! あんま心配させんなっ! 天霧も大破、沈む一歩前だったみてぇじゃねぇか……ったくよぉ」


「まぁ、そう言わないでよ。そんな人質救出作戦やるのに、これから、助けに行くよ……なんて、言ってたら、勝負にならないっての」


「やれやれ、確かにおっしゃるとおりだ。しかしまぁ……俺もあの戦闘の詳報を見せてもらったが、よくあんな戦力差で勝てたなぁ……敵の数の桁がおかしいだろ? と言うか、お前さん……恨まれすぎだろ」


「ははっ、そう言うのもあって、偽名と偽造IDフル活用してるんだよ。とにかく、アタシもあちこちから恨まれてるみたいでね。今は周辺にうちの奴らが張り込んでるから、一応安心していいよ……」


「ああ、天霧達も来てたのか……まぁ、そりゃそうか。まったく、こっちのレーダーにも光学観測にも全然引っかかってねぇぞ……。全く、艦艇ステルスの基礎システムを組んだ俺が言うのもなんだが、エスクロンのナノマシン装甲ってのは、なかなかどうして優秀な隠蔽システムだなぁ……。エリコのヤツもうちの開発との共同だったとは言え、実用レベルの物をこの短期間にきっちり仕上げて、大量生産の体制まで整えるとは、さすがにやるねぇ……」


「エスクロンの技術力も相当なものだからね。例の新型機もなかなかの性能だった。エリコさんのとこのテストパイロットがなかなかの曲者でね。新型機のくせに初っ端から、かなりの完成度だったんだが、アレが関わってるなら納得さ」


 まぁ……諸事情から、私はそのエスクロンのテストパイロットの素性に詳しかった。


 なにせ、以前……軽く揉んでやるつもりで彼女の実戦演習に付き合ったら、危うく天霧ともども殺されかけたくらいだったからな。


 おまけに、その後の戦いで、クリーヴァが投入してきた未知の黒船の進化個体との戦い。 

 正直、アタシら銀河連合艦隊ですら、手こずるような前代未聞の難敵だったんだが。


 そんな難敵にほとんど単騎で立ち向かって生き残った上に、派手に削っていってくれて、おかげで思った以上に簡単に倒せてしまった。


 その時、カイオスのクソ野郎もついでみたいに死んでたが、カイオスとアレじゃ役者が違う。


 なんなんだありゃ……ガチものなチート主人公か何かだとしか思えない……はっきり言って、末恐ろしいヤツだった。

 

 彼女については、先の人質奪還作戦にも参戦させるように、エスクロンも言ってきていたし、彼女がいればもっと楽な戦いになったのは確実だったんだが……。


 アタシは彼女をこの戦争に関わらせると言うエスクロンの方針には反対だったし、この戦争はあくまでアタシらの戦争であり、アタシらが終わらせるべき……そう考えていたから、敢えてエスクロン側の支援や戦力提供は断っていた。


 まぁ、今から考えると変な意地を張って、永友提督達にも要らない苦労を掛けたようなものだったけど……。


 エスクロンの戦力なんて、まだまだヨチヨチ歩きの子供みたいなもので、いくら彼女が飛び抜けてても、あの戦いでは足手まといにしかならなかっただろうから、間違った判断だったとは思えなかった。


「ああ……。噂のエスクロン第3世代強化人間か……。前々から噂くらいにはなってたんだが。どうもエスクロンは、予定を大幅に前倒しして、連中を新CEOの取り巻き……要するに、社の最高幹部としてデビューさせることを決定したみてぇでな。どいつもこいつもヤベェ奴らばっかりって話だ。まったく、これからどうなっていくのやら」


 この辺の話はアタシも知ってる。

 新エスクロンCEO……ゼロ・サミング氏。


 アタシも映話越しで、かのお方と話をする機会があったんだが。

 ありゃ、とんでもない傑物だって、ひと目見て解った。


 まったく、この銀河の地上世界の住民なんて、どいつもこいつも軟弱なポンコツばかりとか思ってたけど。


 どこにでも、例外ってのはいるものなのだ。 


「確かにねぇ……。エスクロンは独自にエーテル空間戦闘艦やエーテル空間戦闘機なんかも開発してて、本格的に参戦する気になってるみたいだし、祥鳳もVR演習でそのテストパイロットにボッコボコにされて、相当ハイレベルな実戦経験を積めたみたいで、敵の弱さにビックリした……なんて言ってたよ」


 実際、ゼロスナイパーで揃えた祥鳳戦闘機隊の戦績は凄まじく、先の戦いでのキルレシオは二桁台を下回ることがなかった。


 もっとも、そのゼロスナイパーにしても、エスクロンにとっては、もののついでで作ったようなものらしいからなぁ……。

 

「ほほぅ、そりゃ興味深いな……例のゼロスナイパーとか言うヤツか。うちのアサルトゼロの発展型と思いきや、エスクロン独自の技術でイチから設計して組み上げた優秀な機体らしいな……。そのテストパイロットについちゃ、以前から噂は聞いてはいたんだ。……エスクロンの強化人間、幼少時から時間をかけて強化、調整した第3世代型ってのがそろそろデビューしてるって話だが、まさにそいつなんだろうな」


「なるほどね……確かにあの大佐とVR空戦やって、白星挙げたとか言ってたくらいだから、普通じゃない……。事実だとしたら、ちょっと薄ら寒い気もする……。しかし、強化人間なんて、エスクロンもなかなかクールな事やってるんだねぇ……。第3世代なんてなると、もう何十年も前から開発してたって事だよね……。戦争のない世界でそんなのが開発されてたって時点で、十分驚嘆に値する……エスクロンも侮れないね」


 まぁ、ぶっちゃけ……あれは突然変異体みたいなものだと思ってたんだが。

 その取り巻き連中までも、同レベルって事に正直たまげた。

 

 ちなみに、もちろん、大佐はスツーカ、テストパイロットはゼロスナイパーとハンデ戦みたいなもんだったらしいけど。


 あの大佐とやりあって勝つとかその時点で十分おかしいし、VR演習であの初霜や島風と言った強豪を下してるって話もあって、その時点でもう半端じゃない。

 

 反射、体力、思考速度、身体構造などを薬物投与や身体強化改造により引き上げた強化人間……そう言う事なら、それも納得だ。

 ……と言うか、彼女の反応速度は明らかにマイナス領域……要するに予知能力とか、そう言うレベルだと思う。


 そんなのをアグレッサーにして、完熟演習なんてやってたなら、祥鳳戦闘機隊がチートじみてたのも納得だった。


 さすがに五分の条件では、アタシだって勝てる気がしない……なにぶん、さすがに実戦から離れて久しい。


 こんな時代外れのロートル……現役バリバリ……それも規格外の怪物相手なんて、荷が勝ちすぎる。


 人間兵器とか、余り褒められた話じゃないと思うけど……。


 ありゃ、間違いなくほっといても自分から戦場へ飛び込んでいく。

 或いは、アレがいるところが戦場になる……そう言う類だ。


 それでも、子供を戦場に出す気は無いと言って、頑張って内輪に押し留めて日常生活を送らせようとしてるエスクロンってのは、なんとも人間味あふれる企業だと思う。

 

 そこら辺の甘さ、なんだかんだで27世紀の未来人ってところではあるんだが……。


 ……連中は自分達がパンドラの箱を開けたって、解っているのだろうか?


「まったく、俺が留守の間、色々滞ってんじゃないかと思ってたけど、杞憂だったみてぇだな……。何よりエスクロンの連中が思ったよりも派手にやってるみてぇでな……。こりゃ、俺らも負けてらんねぇな……」


「まぁ、VRでのテストパイロットやアグレッサーくらいなら、アタシでも務まるから、今度色々手伝わせてもらうよ。アタシもこう見えてもガチの実戦経験者なんだ。公式記録は残ってないみたいだけど、エース級の腕前はあると思っていいよ。もっとも、その手の仕事は随分ご無沙汰だから、リハビリから始めないと……だけどね」


 これまで葬った幾多もの反AI派……人類統合軍のエース級パイロット達。

 中には、アタシのクローンなんてのまでいた……どいつもこいつも難敵ばかりだった。


 そんな強者共や、名も知らぬ有人機乗りと凌ぎを削る日々……撃墜スコアは100機じゃ利かない。

 十分エースを名乗る資格はあるだろう。

 

「そういや、遥ちゃんも空戦に関しちゃ、結構な腕前だったんだよな。なら、是非お願いしたいところだぜ。俺らんとこのテストパイロット連中はどうもパッとしねぇからなぁ。信濃ちゃんなんかの方がよっぽど腕がいい。それより、今日は何の用なんだ? こんなシケた中年オヤジのとこに、わざわざ遊びに来て、世間話に興じるほど暇じゃねぇんだろ?」


「そうだね。頼んどいた件、あの謎の艦隊の技術解析は出来てる? それにセカンドの情勢に何か変化はあったかな? 要するに、色々と通信回線越しじゃ出来そうもない内緒話ってところだよ。この部屋、防諜はちゃんとやってる?」


「……俺、ただの民間の技術屋なんだがな。情報屋でも、便利屋でもねえんだぞ? まぁ、防諜に関しては、俺も素人じゃねぇからな。音響、電磁場……シールドはどちらも完璧だ。艦の侵入者対策もばっちりだぜ? ただ、IDを偽造されちまったら、さすがにどうしょうもねぇけどな……正直、盲点だったぜ」


「さすが、用心深いね。なぁに、ID偽装なんて早々出来るもんじゃないから、アタシみたいなのはめったに居ないさ。と言うか、カドワキさんの人脈って桜蘭にまで伸びてるって、知ってるからさ。そこら辺も含めて、色々聞けるかなって思ったんだ」


「ったく、俺を褒めても、何も出ねぇぞ……? とにかく、例の艦隊の解析データだが、これがまた難儀なことにセカンド製って事は解ったが、そこから先がなかなかなぁ……。あまりご期待には添えられねぇかも知れんが、一応解った事だけでも伝えておくさ」


「……こっちはセカンド側の情報に疎いから助かるよ。桜蘭の技術者と交流があるような人って、ほかは永友提督くらいしかいなくてさ。ただあの人、技術的な話になると疎いからねぇ……。カドワキさんも人質生活から戻ったばかりで、色々忙しいだろうけど、ちょっと付き合ってよ」


「まったく、高く評価してくれてるようで、実に嬉しいねぇ……。まず例の艦隊についてだが、ブリタニア系の艦でも、レナウン級の情報は非公開らしくて、桜蘭の情報筋でも追えなかった。どうも、ブリタニアの女王陛下直属の特務艦隊の一艦らしい……解ったことはこの程度。ただ外観からすると、黒船の装甲技術を流用してる可能性はあるな。ビスマルクから至近距離からの直撃弾貰って、軽く跳ね返してやがるのが、この解析映像からも明らかだ……どんだけかてぇ装甲してんだっつーの」


 言いながら、カドワキさんがあの時撮影された映像をいくつも空間投影し始める。

 うーん、説明モードに入ったカドワキさんって、話長いんだよなぁ……。

23/02/20

この辺、宇宙きゃんの前提で見ると、

ハルカ提督が言ってることが矛盾してたので、

後出しで改稿しました。(汗)

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