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第八話「Struggle to the DEATH」④

 けれど、敵の数は圧倒的だ。

 

 実際、旧ドイツ海軍とフランス海軍の保有していた戦闘艦艇の総数を超えるほどの隻数が居ると思うのだけど、連中は性能度外視の劣化コピー艦Z100番系駆逐艦なんてので、大幅に水増ししてる。

 

 一隻一隻の性能は無人警備艦程度で、大したことはないのだけど、こうも数が多いと厄介な相手だった。

 

 何より、レプライザルに制空権が奪われて、敵の観測機が進出、敵艦隊後方の戦艦群からの長距離支援砲火のつるべ打ちで、前衛艦隊のいる流域はもう沸騰したようになっている。

 

 戦艦群との距離は軽く100kmは離れているのだけど、どうもレールガン改装した艦が何隻かいるらしい。

 

 ポケット戦艦アドミラル グラーフシュペーやら、ビスマルク、ティルピッツ……多分、その辺りのようなのだけど、とにかく砲撃頻度が凄いので、命中率は低いのだけど、十分な脅威となっていた。


 各艦弾道計算の上で回避は出来ているものの、あれだけ集中砲火を撃ち込まれると、さすがに分断され、徐々に身動きが取れなくなる……確実に追い詰められつつある……そう認めざるを得ない。

 

 これで、未だに撃沈ゼロなのは、もはや奇跡以外の何物でもない。


 それに、先程から弾薬不足の艦が続出して、千歳千代田、信濃と言った空母連中が、航空機の制御を祥鳳に丸投げして、補給艦として駆け回っている状況だった。

 

 航空戦力の搭載数を削ってでも、空母に弾薬を搭載して、戦場での補給手段を用意していたグエン提督や永友提督はさすが実戦慣れしてるとしか言いようがなかった。

 

 どの艦も善戦している……他の艦隊だったら、ここまでやれていたかどうか。

 

 けれどいよいよ、グエン艦隊の最後尾……フッドの付近にまで敵機が進出し、その対空砲火が唸りを上げ始めていた。

 後方から発煙あり……どうやら、被弾すら許してしまっているようだった。

 

 さすがにもう限界が近い……アタシもそう感じていた。

 

「グエン提督、これまで大変ありがとうございました。提督は、麾下の艦隊をまとめて一度後方へ下がってください。最後衛のフッドまで戦闘に参加して、被弾までしているような状況、これ以上は不味い……とにかく、一度下がってください。余力があるうちに下がるのは基本ですっ!」


 限界ギリギリになってから、撤退するなんてそれはもう手遅れなのだ。

 

 まだまだ余力がある……戦えるうちに後退する。

 それは防衛戦の基本と言えた。


「バカ言え、お前さん達が下がってからでねぇと、こっちも下がれねぇっての! 今、前衛艦隊とフッドをここから引かせたら敵は一気に広い場所に展開して、お前らの所に殺到する……そうなりゃ、もう負け確だ。だから、俺達は意地でもここから先は下がらねぇ! フッド、構わんから、むしろ前進しろ! 思い切って打って出て、前衛の駆逐艦共を援護するっ! いいか! 遥ちゃん、歳上のそれも上官の言う事は問答無用で聞くもんだ! 返事はっ!」


 ちっくしょうっ! ……なんか、じんわりと涙が出てきた。

 

 アンタ、カッコ良すぎるんだよ! こんにゃろーっ!

 乱暴にまぶたをこすって、立ち上がると抗議する。


「冷静に戦況を分析した上での進言なんですよっ! 人が心配してるってのにっ! もうっ! 死んじゃったって……知りませんからねぇっ!」


 ……後半は、ものの見事に涙声。

 なんだって、こうも気持ちのいいヤツらに限って、死に急ぐんだ!

 

 ……ずっと昔、あのいくつもの戦場での別離がフラッシュバックする。

 身体を引き裂かれるような悲しみが蘇って来て、目頭が熱くなる……。


「このっ! どアホ娘っ! こう言う時の返事はサーイエッサー一択って習わなかったのか? てめぇは、新兵からやり直してこいっ! まったく、ピーピー泣くんじゃねぇよ……いいか? この至近弾の硝煙と鉄の焼ける匂いし始めてからが、本物の戦場って奴なんだぜ。出来れば、このスリルをめいいっぱい楽しみたいからな! フッド、ガンガン前に出て、ジャンジャンぶっ放せ! 弾は惜しむなよ! フルファイアーッ! ブチかましてやれっ! ハーッハッハァッ!」


 ったく……戦争狂ってやつはコレだから。

 思わず苦笑する。

 

 こう言うのに限って、驟雨しゅううのごとく銃砲火をしれっとくぐり抜けて、生き残るもんなのだ。

 銃弾は、ビビった奴から順番に当たっていく……戦場で、まことしやかに囁かれるある種のジンクスの一つだ。

 

 勇者は弾の方から避けていく……実際、そんなもんなんだから、侮れない。

 

「了解、了解、そう言うことなら、もう心ゆくまで楽しんできてください。それと今のは……硝煙が目に染みただけです。こちらもとっくに最前線ですからね。柄にもなく、少し熱くなってしまったようで……お恥ずかしい限りです」


「ははっ、そう言うことにしといてやるよ……遥ちゃんっ! けどまぁ、女の子の涙に見送られるなんて、まさに勇気100倍って奴だな! よっしゃ、この場は俺達に任せとけっ! 行くぞっ! フッド!」

 

「らーじゃ。それじゃ、遥ちゃん行ってくるわね。うん、お姉さんも遥ちゃんの事好きになっちゃいそうだわぁ。今度、一緒に遊びましょっ! 恋する乙女の涙に報いる為にも、ここは頑張りどころよねー」

 

 ……違うって言ってんだけどさぁ……。

 

 けど、グエン提督の意気に答えるように、対空砲火、レールガン、荷電粒子砲を総動員して、まるで活火山のような勢いで敵を屠っていくフッド。

 

 個人宛のダイレクトメッセージで「君の恋を私は応援する。色々相談乗るよ!」なんて、場違いなメッセージが届く。


 フッド……絶対、なんか勘違いしてる。 

 これは……そんな浮ついたもんじゃないやいっ!

 

 アタシは……どうも、人に必要以上に感情移入しちゃって、泣いたり怒ったり……昔から、そんな感じで感情の起伏が、人より激しい傾向がある。

 

 戦士や指揮官として、それはあまり良い傾向とは言えないから、努めてクールに冷徹に振る舞おうとしてるんだけど……。

 駄目だな……クールにも非情にもなりきれないや。

 

 それにしても、グエン提督も単なる蛮勇でフッドに突撃を命じた訳ではないようだった。

 

 確かに、前線の駆逐艦群の勢いがさっきから停滞気味だった。

 なにせ、陽炎と不知火、マランとデリブルが弾薬切れで後退し、初霜と島風のたった二隻が敵艦隊を食い止めているのだ。


 雷電姉妹も打って出て来てるのだけど、一旦下がって天津風の形成してる第二防衛ラインからの遠距離支援に徹してる。

 どうも、初霜が抑えているようで、時々前に出るのだけど……引っ込められるように下がっていってる。

 

 先陣の二隻は、クルクルと忙しく最前衛を交代しつつ、戦線を維持しているのだけど、島風も銃身加熱やら敵機の銃撃で、武装を失い火力が減衰し始めている……現状、その戦闘力は6割位。

 

 初霜ですら、攻撃力が8割程度まで落ちている。

 弾薬については、本当に艦の隙間という隙間に弾を詰め込んでいたようで、充足率は高い水準を保っているようだった……。

 

 と言うか、見ていると砲撃も銃撃も最小限に抑えているようで、破損した装備もナノマシン修復システムで、次々と復旧させる事で、戦闘力を維持しているようだった。

 

 他の艦も同様のシステムを積んでいるのだけど、本来そんなのは、後方に下がってやるようなもの。

 

 初霜は最前線で戦いながら、それをやってのけている。

 他の艦はそこまで器用に出来ていないので、ある程度、休み休みで消耗を抑えようとしている。


 まさに、戦い慣れた古参兵の如き戦いぶり……やっぱ、アレ半端じゃないな。

 

 けれど、初霜と島風がいくら強くても、所詮は二隻の駆逐艦に過ぎない……。

 初霜はともかく、その背中を支える島風の戦闘力が下がっている以上、彼女に負担が集中してしまっている。

 

 陽炎と不知火は、流体面上にばら撒かれた補給コンテナを回収して、弾薬補給中。

 

 二人が戦線に復帰すれば、少しはマシになりそうだけど、あれでは補給も最低限。

 

 戦い詰めでジェネレーターやレールガンがオーバーヒート気味なので、もう少し休ませてからでないと長くは持たない。

 噛ませ担当とか言ってたけど、まっさきに脱落するから長期戦に慣れてないっぽい。

 

 けどまぁ、それも仕方ない。

 この状況で更にフッドの火力が抜けたら、如何に初霜と言えど、もう防ぎきれない。

 

 もはや敵の突破……戦線崩壊は避けられない。

 敵もフッドこそが一番の脅威と認識したようで、雲霞の如く敵機の群れと、後方戦艦群の砲火が集中していく……。

 

 しかしながら、フッドの装備も最新鋭、何より数ある戦艦の中でももっとも最前線で派手に戦ってきた巡洋戦艦だけに、そんな攻撃程度でどうにかなるほど、甘くない。

 

 その対空砲火は凄まじく、敵機は次々に撃ち落とされていく。


 釣瓶撃ちに放たれる戦艦砲も正確な弾道予測演算の上での巧みな操艦で、器用に躱していく……いくら最新のナノマシン装甲と言え、戦艦の砲弾なんて直撃したら、タダではすまないだろうに……けれど、今も至近弾のエーテルの波を被りながらも、フッドの前進は止まらない!

 

 あんな状況で、平然と笑っていられるグエン提督……もはや、勇者以外の何者でもない。

 

 ……モテる訳だよ、あのオッサン! 

 あんな姿を見せられたら、女だったら普通に惚れる、カッコ良すぎっ!

 

 ううっ、またなんか視界が滲んできた。

 小娘じゃあるまいし、そんなピーピー泣いてる場合じゃないだろっ! 

 

 けど、どんな強力な兵でも、限界ってもんはある……フッドの弾薬も心許なくなりつつあるし、ジェネレーターも過負荷気味で悲鳴をあげているのが、ステータスを見てるだけでも解る。

 

 主砲の荷電粒子砲もパワーチャージにえらく時間がかかってるし、銃身加熱でレールガンの連射速度も露骨に下がっている……流体放熱フィンを展開したようで、その運動性能も低下しつつあった。

 

 甲板上のヒートシンクラジエーターも赤熱状態になって、陽炎が立ち上っている。

 艦内温度も上昇中……どうみても、危機的状況……。

 

 けれど、フッドや初霜の獅子奮迅の奮戦にも関わらず、敵の攻勢圧力は弱まる気配がない。

 ……あれでは、そう長くは持たない。

 

 永友艦隊の後衛各艦も、懸命に退路確保すべく猛烈な空襲下で踏ん張っている。

 

 さすがに、レプライザルも最前線機のダイレクトリンクなんて、うかつな真似はもうやっていないようで、いくらかは押し返せたようなのだけど、なかなか隙が無く防戦一方。

 

 中継ステーション付近は、信濃がリソース集中投入中の秋茜二機が粘ってる上に、天霧とアタシの奮戦で、一筋縄ではいかないと思われたのか、その主攻からは外れたようだけど、その分が祥鳳達の方に向かっていってしまっている。

 

 ハーマイオニー隊の防衛線が抜かれ、最後衛の祥鳳の付近にも、敵機が進出しているようだけど、疾風、追風の二隻の直衛護衛艦とわずかに残った直掩機の奮戦で何とか周辺の制空権を維持している。

 

 航空戦に関しては、もはや最終防空ラインの攻防と言う段階にまで、押し込まれてしまっている。

 

 けれど、向こうの航空兵力は尽き果てる気配が無い。

 

 恐らく、純粋に航空機を積んで飛ばすだけの、キャリアー艦を何隻も用意してるんだろう……あのレプライザルを活用するならば、質より量……奴らも自分たちの長所ってもんをよく解ってる。


 ……この戦場に、もはや後方もなにもない……混戦以外の何物でもなかった。

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