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第八話「Struggle to the DEATH」③

 対空レールガンを一斉に直上に向けて、一点集中砲火!

 

(ば、馬鹿なァーっ! 何故っ!)


 一瞬女の絶叫が聞こえた気がした。

 

 ソウルダイバー……自分の魂を兵器に転送した言わば有人機を撃ち落とすと、たまにこんな風に敵パイロットの断末魔を聞かされるハメになる。

 

 ……この感覚。

 レプライザルの直接制御機……それもド本命を叩き落とすことに成功したらしい。

 

 続いて、残ったスツーカとコルセアがプラズマ雲の中から、次々と墜落同然に漫然と落ちてくるのを撃墜しようとして、めんどくさくなって止める。

 

 案の定、急降下爆撃でなく、ただの急降下墜落となって、全機エーテル流体面に叩きつけられて、一斉に爆発する。

 正面で低空飛行をしていた機体も、一瞬フラついて次々とエーテル流体面に激突していく……。

 

「……急降下中の敵機……全機撃墜っ? 10機は居たのに、す、凄いです……さすが、遥提督。でも、レプライザルはどうなったので? なんだか、一瞬敵機が止まったように見えたんですけど……」


「奴が意識転写してた機体を狙い撃ちして落とした。軽い死亡体験をしたってところだろうさ。たしかに意識転写ってのは有効だけど、自分が落とされるとなって逃げ損なうと、普通の人間だと即死。頭脳体でも一瞬ブラックアウトして、すべての機体の制御が外れるから、隙だらけになるんだ。結果はご覧の通り、周りにいた奴ら、全機まとめてエーテルにダイブして全滅。案外、これで味方も少し盛り返したかもね。天霧、後は任せる……ちょっと休憩させてもらうよ」


「って、提督っ! 血塗れじゃないですか! メ、メディーックッ!」


「バカ、ちょっとコネクタが掠めて、切っただけだ。この程度かすり傷だろ」


 コネクタを首筋やら手首から抜きながら、どっかりと椅子に座り直す。

 まったく、指揮官自ら銃を取って、対空戦をするハメになるとは……キッツい戦いだなぁ……これ。


 ハンカチで顔を拭うと、真っ赤に染まる。

 痛みはあるけど、ペインコントロールでカット……血も止まってるから、こんなの放置で構わない。


 天霧も吹雪型共通の対空戦が苦手という欠点があるから、こうやって時々フォローすることもあるのだけど。

 レプライザルが直々に出てきて、そのお相手となると天霧一人だと手に余る……。

 

 アタシも、さすがに一人で操艦とか無理だけど、天霧のシステムサポートがあれば、射手としてくらいは戦える。

 今のだけで、20機は落とした計算になる……軽くエース級の戦果かもしれないけど、所詮は借り物……天霧のスコアって事でいいや。

 

 まぁ、こんな真似やってる提督なんて、アタシ以外に居ないと思うけどね……。

 こっちでも暇な時は、ネットでVR対戦ゲームとかやって、戦闘の勘を鈍らせないようにしてるから、実戦でもそれなりに役に立ってる。

 

 でも、この世界のゲーマーってのも、意外に侮れない。

 

 たまに宇宙空間戦術シミュレーションゲームで、かち合うユーリィって女性ゲーマーがいるんだけど、ゲームなのに冗談抜きで殺気を読んで、超回避したりする……レプライザルの直卒機なんかよりも、あっちの方が手強かったかもしれない。


 どう見ても、3次元空間戦闘の熟練者って感じなんだけど、直にチャットで話した感じだと学生とかそんな感じだった。


 何とも腑に落ちないけど、アタシもかつてはそんなだったから、あまり人のことはとやかく言えない……平和な世の中でも、たまにそう言う戦の申し子みたいなのが混ざってる……そんなもんだ。

 

 戦術マップを見ると、周囲の敵機は撤退したようで、危機的状況は乗り越えたようだった。

 

 操艦は天霧に任せて、こっちは戦術マップを見ながら、統合指揮に専念する……。

 

 けれど見ると、完全に初霜が孤立状態で孤軍奮闘中。

 ……マラン、デリブルがすでに補給のために一時後退、陽炎、不知火は残弾がもう二割以下となり、後退中と言う状況。

 

 この二隻は、いくつかの銃座や砲塔が弾薬切れと言う状態で、もはや撤退やむなしだった。

 

 ちょっと、目を離した隙にこれかっ!

 

「……前衛艦隊っ! 初霜が孤立して、敵の集中砲火を浴びている! 誰か、手の空いてる奴は即座に支援に回れっ! 大至急っ! 急げっ!」


 流石にこの状況では、誰も彼も余裕がなく、相互連携での情報統合戦闘なんて、すでに破綻していた。

 

 ほっておくと、すぐにバラバラの個艦戦闘状態になってしまうので、先程からアタシやグエン提督が、口頭で指示を出すという古典的なやり方で戦線を維持していたのだけど、全体を見ていたアタシがレプライザルとの戦闘にかまけているうちに、初霜への後退指示のタイミングを逸したようだった。


「こちら島風、指示了解……初霜、もう下がりなさいっ! 援護する! 陽炎、不知火、二人共後退中止っ! 情報連携っ! 統制射撃用意ッ! 二人共悪いけど、一発だけ援護射撃付き合って! 今度は私が前に出るっ! 全艦援護射撃撃てーっ!」


 弾薬補給のために、後退しようとしていた陽炎、不知火が慌てて、Uターンしてきて島風と隊列を組むと、3隻共同による高精度統制射撃を実施。

 

 初霜を取り囲みつつあった駆逐艦がまとめて被弾、包囲網が崩される。

 

 初霜も絶妙な操艦と火力集中で、敵の先頭艦を沈めると一気に後退に移り、今度は島風が前に出る。

 島風、初霜によるツートップ体制による防衛ラインを構築、完全に弾を打ち尽くした陽炎と不知火の後退を援護すべく、攻勢に出ていく。

 

 恐ろしく統制された高練度の為せる連携……戦術モニターの輝点の動きを見ているだけでも、その滑らかな有機的な連携は、空恐ろしくなるほどのものだった。

 

 けれど、そんな精鋭でも数の差は、如何ともし難いようだった。

 

「提督っ! 敵機第二波……来ますっ! 数12っ! スツーカです! 低空からの半包囲体制で一気に来ます! 更に後続Bf-109もっ! こちらも10機程……しつこいっ!」


「まだ来るのか! レプライザル……まったく、ご主人様に似て執念深いな!」


 再度、天霧に接続すべくコネクタを伸ばしていると緊急入電。

 こうも立て続けだと、さすがにちょっとよろしくない……脳チップが焼けなきゃ良いけど……。

 

 でも、やらなきゃこっちが沈められる……多少のリスクは、止むを得ない。

 

「こちら、天津風! これより、旗艦天霧を援護します……そこ、動かないでください! 天霧、リアルタイムでの敵機座標情報くださいっ! 盲撃ちになりますが、必ず当ててみせます!」


 ……前線の島風達を支援すべく前に出てきていた天津風が、絶妙なタイミングで長距離からの援護射撃を開始する。

 

「この距離で当てるつもりなのかっ!」

 

 ここからの距離は軽く40km……ずいぶん遠くに居て、完全に視認範囲外。

 

 ……にも関わらず、正確な砲撃が放物線を描きながら、続けざまに流体面上で炸裂し、敵機の半包囲陣形に大きく穴が開く……さしものレプライザルもあんな長距離からの対空砲撃なんて、想定してなかったのだろう。

 

 3機ほどが巻き込まれ吹き飛ばされた事で、敵機の陣形が一気に半壊する……噂の強豪天津風……とんでもない手練だっ!

 

 それだけに留まらず、すかさず信濃の秋茜が上空から、雲を突き抜け逆落としで、敵機を蹴散らしにかかる。

 所詮はスツーカ……護衛もなしでは、秋茜改には為す術無く、呆気なく掃討されていく。

 

 後続していた爆装仕様のBf-109も不意を突かれた上に、天津風の放つ榴散弾の弾幕で動きを制限されたところを呆気なく撃ち落とされる。

 

 援軍っ! これはありがたい……。

 正直、危機的状況だったのだけど、一瞬で敵機が蹴散らされ、再び辺りが静かになる。

 

「天津風……ありがとう。とっても助かったよ!」


「いえいえ、先程は提督自ら銃を取っていたと聞き、さすがにこれはお手伝いせねばと思いまして……で、出過ぎた真似でしたか?」


 ぼさっとした髪で、両目を隠した陰気な雰囲気の黒セーラー服の少女。

 

 天津風……根暗っぽいけど、多分アタシのご同類。

 ちょっと親近感を感じないでもない。


「そんな事無いよ。そういや、本が好きなんだってね。今度、お勧めの本でも紹介してあげるよ」


「ホントですか! いやぁ、島風さんと言い。同好の士が増えて嬉しいです! 私、がんばりますね! あ、私の好きな本も今度データを送りますんで、良かったら読んでくださいね!」


「うん、楽しみにしてるよ。ただし、これが終わってからだね」


 そう言うと、慌てたように天津風もここが戦場がだったことを思い出したのか、敬礼と共にフェイドアウトする。


「……遥提督、ごめん援護が遅れた! あの距離で敵機を撃ち落とすなんて、天津風ってすごいね……初霜顔負けのスーパーショットだった!」


 信濃だった……こっちもなかなかいいタイミングだった。


「ああ、信濃か。助かったよ……けど、こっちに秋茜を回せるほどの余裕がよくあったね」


「それが、さっきいきなり一瞬だけ敵機がフリーズしてね。おかげでまんまと押し返して、一息つけたし、こっちに秋茜を回せる余裕が出来たのよ。あれってなんだったんだろ?」


「ああ、さっきレプライザルの直接制御機をアタシが落としたからね。アレ食らうと、人間だと即死だし、頭脳体でも軽く臨死体験みたいになって、結構キツい事になるんだよ」


「見せたかったですよーっ! あの遥提督の冴え渡る射撃の腕前を! プラズマ雲越しにレプライザルを「そこぉっ!」なんてカッコよく、叩き落としちゃって! やっぱ、提督半端じゃないです!」


「……まじですか? それもレプライザルの直接制御機をなんて……遥提督やりますねぇ……。私らでもあのコルセア、倍くらいの数で袋叩きにしてやっとって感じだったのに……。けど、おかげ様で、空戦については、ちょっと盛り返せたみたいです。大金星じゃないですか! とりあえず、秋茜を二機、ここらの制空機として置いておきますよ。総旗艦があんな集中攻撃されるとか、さすがにちょっと洒落になってません」

 

「うん、助かる。秋茜改……悪くないね。いい機体だ」

 

 やっぱ、あれが潮目になったか。

 微力ながら、頑張ったかいがあった……ちょっと嬉しい。

 

「ですよね! 軽くしたおかげで、Bf-109相手でも十分戦えてます! まだまだ行けるんで、ここから盛り返していきましょう!」

 

 うん、士気についても問題ない……この期に及んで、皆、負けムードってもんが、これっぽっちもない。

 

 それに共同作戦が多いとは言え、グエン艦隊と永友艦隊、どちらの艦隊も上手く連携しあっていた。

 

 最前線でも、永友艦隊の雷電姉妹が参戦し、目まぐるしく入れ代わり立ち代わり、前進と後退を繰り返し、それぞれが絶妙に連携して、戦線を支えあっている。

 

 大軍相手の寡兵にも関わらず、戦線の維持が出来ているのはそう言うことだった。

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