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第七話「大正義の名の下に」②

「レナウン、有明、夕暮、アマゾン、アローの各艦は利根の砲撃後、全艦突撃敢行! 隠蔽状態のままギリギリまで接近し、敵艦隊の横合いから殴り込んで蹂躙突破せよ……いい感じで、最後尾に主力艦が並んでるから、そいつらを残らず平らげて来い! 有明、夕暮……いつもどおり、先陣は貴様らに任せる! 存分に暴れてこいっ!」


「司令っ! 私達の話聞いてくれてたんだね! うんうんっ! 任せといてーっ! 夕暮、夕暮……こりゃ凄いよ。戦艦、空母、選り取り見取りで食べ放題……私達のプラズマ魚雷なら、戦艦の装甲だって紙同然……軽くぶち抜いて、奴らのド肝を抜いてやろうよ!」


「ですよねーっ! これは何処から手を付けるか迷っちゃいます! アマゾンさんに、アローさんも食べ残しは厳禁ですよ! あ、レナさんは後ろから付いて来る感じでいいと思います……美味しい所は我々がまとめて頂いちゃいます!」


「あらぁ、こんなごちそうの山。貴女達だけ楽しむなんて、ズルいですわよ。ここは、あたくしも一緒に美味しくいただかせていただきますわ!」


 ……殺る気満々の腹ペコ蛮族駆逐艦共はともかく、レナ……お前はちょっと待てと。


「レナさんや……お前さんは、今、陛下の座乗艦なのであるぞ? ……そこら辺、当然言うまでもなく、分かっておるよな……ん?」


 今の状況……大正義陛下座乗艦が、先陣切ってとか論外。

 ここは、敢えて釘を差しておく必要があった。


「愚問っ! 栄えある座乗艦の使命とは、常に先陣を切って、主君の勇気を示すことにあーるっ! 我が君の臣下たる同志諸君っ! 陛下の勇気をしかと見よっ! 柏木司令、突撃了解した! 目標敵主力艦艇群! ルクシオン陛下の名の下に、正義の刃をもち、悪を駆逐するっ! 全艦突撃っ! 我に続けーっ!」


 いや、ちょっと待てって言いたいんだけどさ、俺。

 何が愚問だよ……大正義陛下がそこに乗ってるのよ?

 

 我に続けじゃない! 夕暮の言う通り、後ろで見ててやるから、お前ら先に行けってやるのがふつーだっての!

 

 つか、大正義様も少しは止めて欲しかった。

 ……レナが沈んだら、死ぬの自分って解ってんのか、あいつ?

 

 と言うか、こっちにとってもあの姫様は命綱の最重要人物。

 文字通り、俺の命を張ってでも、守り抜かねばならない、この宇宙の命運の鍵を握る……そう言う人物だった。


 と言うか、レナのヤツ……静かでお淑やかなメイドさんって感じだったのに……お前も有明達と同類だったのかっ!

 メイドさんが主君担いで、まっさきに敵陣突っ込むとかってどうなの?

 

 突撃戦艦とか言う突撃する気満々の艦種名を名乗ってる……その時点で気付くべきではあったが、レナさん、あっち側だった!

 

 淑女とか言って、騙しやがって……この女っ!


「柏木卿、レナのことは我々が面倒見ますから、ご安心を……。アマゾン、突撃了解しました。アローは一番後ろから付いてくればいいよ。先陣は、レナとあの蛮族駆逐艦達にでも任せればいい。僕達はみんなをフォローしつつ、残り物でもいただくとしよう」


「わ、私も行きます! た、たまには先陣切ってみせます! でないと、アーデントやアカスタにヘタレとかチキンとかまた言われる……!」


「聞こえたよ、アマゾン! 誰が蛮族だこんにゃろー! 言っとくけど、先陣は誰にも譲らないよっ! 顔も良く知らないお姉様だけど、ここで先頭きって助太刀に行かねば、同じ初春型の姉妹艦の名が泣くのです!」


「そーだ! そーだっ! こちとら身内の危機なんですっ! よってたかって、初霜姉さまをいたぶるなんて許せないですっ! 殺ってやる! 殺ってやるですっ! 皆殺しにしてやるのですぅっ!」


 猟犬共、どいつもこいつもハッスルし過ぎ。

 ……なんで、駆逐艦の示現体ってのは、こんなんばっかなんだか。

 定期的に、突撃させないと死ぬんじゃないのか? こいつら。


 例外的に、アマゾンは割と冷静なようで、目が合うとごめんと言いたげにペコリと頭を下げられる。

 

 アマゾン……君はいい子だな。

 ……この場でおそらく、一番冷静なのは彼女だった。


 ならばお守りは任せるとしよう。

 後で少しは労ってやるとしよう……ただし、利根が見てないところでこっそりと。

 

 このチビスケ……なんかしらんけど、抱き付き癖があって、何かというと人に抱き付いてくる。

 いつも苦労してるからとか、そんな事を平然と言ってのけるのだけど。


 妙な包容力みたいなのがあって、いつぞやかは膝枕なんかさせてもらって、すっかり甘えてしまった。

 

 ぶっちゃけ懐かれてるのも確かで、別に悪い気はしないのだが……。

 利根に見られると焼き餅焼かれて、めんどくさい事になる。


 と言うか、せめて、ここは利根くらいは冷静になってもらわないとな……。

 

「利根、解ってると思うが、お前は一発ブチかましたら、後方警戒しつつ、ここで待機、無鉄砲な猟犬共に傘をさしてやる程度で構わん。いいな? 旗艦ってのは、どっしりと構えて、常に周囲の警戒を怠らない最後の切り札として……やっぱ、そうでないとな」


「わ、解ってますの! では、仰せのままに、まずは初っ端荷電粒子砲、フルファイアーッ! 目標、パチもん! と言うか、蒸発して跡形もなく消えろーっ! ですのーっ!」


 ……全然解ってなかった。

 利根のやつ、俺の命令をどう受け取ったのか、止める暇もなくいきなり、最大火力をぶっ放しやがった!

 

 すでに、利根の主砲……203mm荷電粒子砲は放たれてしまった。


 今見えているのは、プラズマの残留粒子の輝きのみ……。

 

 ちょっと待て……今、撃てなんて言ってねぇっての。

 

 お、俺、指揮官じゃなかったのか?

 結局、誰一人、俺の言うことなんて聞いちゃいないって事に気づいた。

 

 仮にもこれ……異国の地での初交戦なんだがなぁ……。

 

 もっと慎重に……政治的配慮ってもんを考えつつだな……って、もう手遅れか。

 ああ、なんか無性に、酒飲みたくなってきたな。


 上部構造物が消滅した利根モドキの無残な姿を見ながら、こっそり懐に忍ばせていたスキットルから、ウイスキーをくいっとやると、強烈な酒精が喉を焼く。

 

 うめぇ……やっぱシラフじゃ指揮官なんてやってらんねぇ。

 一瞬でアルコールが脳に回って、いい感じに気分が大きくなってきた。

 

「おーおー! なんとも愉快なオブジェになったじゃねぇか! おっしゃ、てめぇら構わんから、突っ込め突っ込め! 派手にぶちかましてやれっての! ヒャッハーッ! ブチ殺せーッ!」

 

 かくして、我軍最初の砲火は、我が旗艦利根の問答無用荷電粒子ファイアーで幕を開けた。

 

 モニター上に映る、利根モドキはあちこち誘爆しつつ、徐々に傾きつつあった。

 ……粒子拡散モードでの一撃必殺……さりげに利根もヤルことがエゲツない。

 

 あれじゃ、乗員がいたとしても一人も助からない。

 

 思わず、瞑目する……総統閣下だかなんだかしらんが、もし本当に乗ってたのだとすれば、お気の毒な話だった。

 お、俺、知らねーぞ! ちっくしょーっ!

 

「大正義……っ! バンザイッ!」

 

 瞑目しつつ、万感の思いを込めて、一言。

 

 ああ、とりあえずこれ言っときゃいいって、すっげぇ気楽!

 これが偉大なる主君に仕えるって事なのだな……悪くないな。これ。

 

「さて、諸君、見ての通り、我らが大正義の象徴たる紅蓮の嚆矢は放たれた! 双方の宇宙、共通の悪がひとつ消えたのだ。……かくなる上は、全艦、突撃ッ! なぁに、どうせありゃシュヴァルツの馬鹿共だ、異世界まで乗り込んで、悪巧みに非道三昧……何年経ってもやってる事は変わらんだろう。構うな、蹴散らせ! 正義は我にあり! 大正義ルクシオン陛下バンザイッ!」


 なんだかんだで、カッコよく右手を振り下ろしつつ、御大層な演説と共に突撃の号令を下す俺。

 

 ……流された。

 ものの見事に場の空気ってのに流された。

 

 なんか、最近さ。

 俺って、考えてることと違うこと言ってたり、行動してたりするんだよな。

 

 まぁ、楼蘭の指揮官としての訓練や教育ってのは、そう言う理想の指揮官とされる人物像の鋳型にはめ込む……そんななんだがね。

 

 理想の指揮官としての俺、本来のヘタレでだらしな中年の俺。

 そんなのがまるで二重人格者のように、代わる代わるに顔を出すってのが最近の俺だ。

 

 まぁ、この蛮行が吉と出るか凶と出るか……それは、神のみぞ知るってな。

 

 つーか、宇宙の命運とか気負ってるのが、なんかアホらしくなってきた。

 

 もう、出たとこ勝負でいいわ。

 大体、こんな状況で先頭切って突撃するような姫さんを担ぐと決めた時点で、スマートになんて行きっこなかった。

 

 ……これって、諦観……って奴かな?

 まぁ、悪い気分じゃなかった……不思議と。

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