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第六話「斑鳩よりの来訪者達」②

 セカンドのエーテル空間軍事力についても、戦闘艦艇総数は1000を超えるほどだと言うのだから、これもまた途方もなかった。

 

 小型の補助艦艇や警備艦まで加えると、恐らく万単位。

 

 セルゲイ達、ウラル連邦や、その同盟国たるシュバルツは、無謀にもこの大勢力に戦いを挑み、その領土を略奪する……そんな方針なのだという。

 

 だが、驚くべきことに、奴らはそのお得意の絡め手を駆使し、その侵略行為は順調に進んでいるようで、いよいよセカンドの軍勢に決戦を挑む……そんな段階まで、奴らの計画は進んでいるのだという。

 

 要約すると、これがこれまでの流れだった。

 しかしながら、その流れは断ち切らねばなるまい。

 

 何故か? 大正義陛下はこう仰られた。


「それは紛れもなく悪の所業である」


 かくして、我ら、大正義の剣たる騎士として、もはやその方針は確定している。

 

 大正義の名の下に、悪を斬る!

 

 それが今、俺達がここにいるたった一つのシンプルな理由だった。

 

 今回、俺達にとっても、初の艦隊規模での次元転移ではあったのだけど、そこら辺は上手く行った。

 

 ひとまず、セルゲイ達の転移先と、シュバルツの作戦実施予定流域はすでに解っていたので、空間転移後はコリドールの隅っこで、斑鳩技術陣がアマゾンの持つ高度隠蔽システムを参考にすることで、完成させた最新鋭隠蔽システムで隠れ潜みつつ、これまで情報収集に徹して、じっとその状況を見守っていたのだ。

 

 とにかく、セカンド側の情報に関しては、俺達はセルゲイ達からのまた聞き情報と言えるものばかりで、生の情報というものを持ち合わせていない。

 

 奴が何処まで本当のことを言っているかは、何とも言えない部分なので、その答え合わせというのあって、我々はこれまで情報収集に努めていた。


 まず、言語やら通信周波数などは、驚くほど似通っていた。

 

 青島に言わせると、近似並行異世界……パラレルワールドと呼ばれる世界で、トカゲ人間やアメーバ状の知的生命体の支配する世界ではなく、何処か歴史の分岐点で違う歴史を歩むことになった世界という話ではあったのだが。

 

 この辺りはセルゲイ情報でも、明らかだったのだが、そこは正しかった。

 

 なんと、この世界ではエーテル空間内にあちこちに電波中継ブイが浮かんでいて、エーテル空間内でTV放送すらも見ることが出来たのだ。

 

 おかげで、この世界の情勢や文化、政治形態なども良く解った。

 

 いはやは、なんと言うか……メシも美味そうだったし、女の子達も可愛い。

 フリフリの衣装を着た女の子がスカートの中身をチラチラと見せながら、可憐なダンスを踊っているところなど、年甲斐もなく鼻の下を伸ばしてしまって、利根や大正義陛下に怒られたりもしたものだ。

 

 ……その影響だかなんだかしらんが、利根……やけにスカートの裾が短くなった。

 

 俺も健康な男子故に、そのスラリと伸びる太ももにチラリくらいの視線をおくってしまったのだが、それに気付いた利根は超ご機嫌。

 

 ……だからと言って、堂々とガン見するとジロジロ見るなと怒られる。

 女心ってのは、良く解らん。

 

 お硬い政治プロパガンダが中心の桜蘭の公共放送と違って、こちらの世界のTV番組は、娯楽番組やらアニメーション、果やお笑い番組と、何とも呑気で、本当にセカンドがインセクターやシュバルツの脅威に晒されているのか、疑わしいくらいだった。

 

 と言うか、ビックリするくらい戦争の話が出て来ない。

 情報統制の上で、一般市民は経済活動に専念させて、戦場で戦うのは軍人の役目と割り切って居るのかもしれないが、それらは見ていて、実に楽しかった。

 

 もちろん、俺達は仕事……情報収集のために、セカンドのTV放送を見ていたのであって、アニメやドラマの続きが気になってたりとか、そんな事は断じてない。

 

 利根とかもまた来週ここに来ましょうとか、誰かTV放送の中継役置いていって、向こうで、こっちのTV見れるようにしよう……なんて言ってたりもするけど。

 

 否っ! 俺達は至って、大真面目なのだッ!

 

 と言いたいところなのだが、いやぁ……人生には、娯楽が必要だって痛感したよ。

 

 利根にも司令部要員を10人ほど、乗せてきてたんだけど、俺達司令部連中の共通の話題は、すっかりセカンドのテレビの話が中心になってる。

 

 女性士官もあの服が可愛いとか、あのアクセサリーが気になったとか、あの化粧品欲しいーとか、あのお菓子食べてみたいっ!

 なんて調子で、物欲刺激されまくってるようだったし、男性陣もアイドルやらドラマの女優の話で盛り上がったり、一部ではアニメのこれまでのあらすじや続きが気になる……とか言い合ってたり。


 そりゃそうだ……続き物の娯楽作品で、途中だけ見せられるとか、なかなか辛いものがある。

 それが面白かったりしたら、なおさらだ。

 

 実際、俺が見た映画……マッチョな筋肉兵士が虜囚の身から大脱出する戦場モノ映画。

「ラントン3自由への脱出」


 3ってなんなんだよっ! 1と2は一体どんな内容なんだよっ! すっげー気になるっ!

 

 とまぁ……何だか俺達も、意図せず順調に色々、変な影響受けまくってる気がするのだが、俺は部下達を非難する気にはとてもなれなかった。


 残念ながら、ここ数年の斑鳩には、そう言う娯楽文化を楽しむような余裕なんて無かった。

 昔は、慰問船が来たりなんかしてたけど、もう何年もご無沙汰……間違いなく、みんな、そう言うのに飢えている。

 

 誰もが、過酷な明日をも知れない毎日を生きるのに必死だったのだ。

 俺達にとっては、慰問船の中は非日常だったけど、セカンドではそれが日常らしい。


 いや違う……たぶん、本来あれが人類の日常ってヤツなのかもしれない。

 なんか、俺達の世界って、すっげぇバカばっかなんじゃないかって気がしてきてるんだ……。


 そして、そんな俺達が望んでも得られなかった平和な日常が当たり前のセカンド。

 その日常を守る為の戦い……それは紛れもなく、正義の行いなんだと、俺は思う。


 ……大正義陛下は、正しかった。


 けど……さすがに、実弾演習中継なんてのまで、やってるのは驚いた。

 この世界では、軍隊の実弾演習すら、娯楽にしてしまうらしい。

 

 もっとも、青島達によると、どうも仮想現実シミュレーション……VRを使ったヤラセ演習の中継らしかった。

 

 この世界の奴らの考えることは、イマイチよく解らんが、銀河レベルの共用ネットワークすら存在しているような雰囲気で、それに侵入でも出来れば、莫大な情報を入手できそうだった。

 

 しかしながら、異世界がそこまで似通ったものだとは、さすがに疑わしかったのだが、セルゲイは嘘は言っていなかった。

 

 まったく、これだけでも、危険を冒して、異世界まで出向いた甲斐はあったという物だった。

 

 もっとも、ここは割と交通の要所と言った様子で、やたらと民間船がウロウロしてはいたが、民間船のセンサー程度ではこちらの隠蔽は見破られることもなかった。

 

 けれど、それらの運行が唐突に止まったと思ったら、戦闘艦隊が集結。

 

 観察した限りでは、その戦闘艦艇群は驚くほど、こちらの物と似通っていて、旧日本海軍の艦艇を模した艦艇が主力だと言うことまでは解った。

 

 つい先程まで、初歩的な光学隠蔽システムで艦影を隠した上で、じっと待機していたようだったが、唐突に隠蔽を解除して、下流方面へ展開。

 

 何やら、派手にエーテル流体をかき回し、対潜攻撃を始めたと思ったら、隊伍を組んで迎撃体制を整え、弾薬補給やら、機動機雷を散布したりと色々忙しそうにしていたが、唐突に静かになると、しばし凪のような時間を迎えた。

 

 程なくして、超空間ゲートが生成され、凄まじいほどの数のシュバルツの艦隊が出現、奴らも隊列を組むと一斉にセカンド艦隊へと突撃していき、戦闘が始まった。

 

 俺達の視点からは、セカンドの軍勢が何をしたかったのかはさっぱり解らなかったが、どうもあのセカンド艦隊は、当初の時点で、シュヴァルツの攻勢を予期していて、待ち伏せしようとしていたようだった。

 

 けれど、先程まで目の前に展開していたセカンドの艦隊は、有利なはずの隠蔽態勢を解除して、エーテル流の合流点へ集結、反転し機雷原などを形成した上で、上流からの迎撃体制を取る構えへと転じていた。

 

 ……利根達から見ても、その一連の行動は不可解な行動だったようだが、その理由はすぐに解った。


 シュバルツのゲート生成座標はセカンドの艦隊が布陣していた場所の至近距離だったのだ。

 あのまま、あの場で待機していたら、もれなく乱戦……あの艦隊も全滅は免れなかっただろう。

 

 それを事前に察知して、迷わず艦隊を退かせて、敵の転移座標を読んだ上で、万全の迎撃態勢を構築した敵の指揮官は、相当キレるか、恐ろしく勘のいいやつだ。

 

 次元転移攻撃の転送座標を事前に察するなんて芸当、普通に考えて出来るようなものではない。

 

 前兆と言っても、転移先には小型の重力爆弾のひとつでもあれば、十分事足りるし、それなりの出力のジェネレーターがあれば、100kmくらい離れた場所に重力子集中による特異点を形成することだって可能だ。

 

 次元穿孔近くと言う条件ならば、次元間の境目も薄っぺらいものなので、多少の転送先座標の誤差を気にしないのであれば、転移先に何の準備もなくゲート生成させる事も、不可能ではない。

 

 もっとも、その場合は転移する側の方でも座標予測不可能となる上に、ゲート自体が極めて短時間で崩壊するので、これは通常はまず使われない。

 

 にも関わらず、あの段階でゲートの出現座標を特定し、絶妙な位置に戦列を引き、ご丁寧に機雷原まで構築する手際の良さ。

 

 ……利根達はこの一連の艦隊行動の意味するところは、イマイチ解っていないようだったが、俺は同業者として、あの艦隊の指揮官の凄さがよく解る。

 

 いずれにせよ、並大抵の指揮官ではなかった……予知能力の類でもあるのではないかと思わせるほどだ。

 いったい、どんな修羅場を潜ったら、そんな勘が身につくんだか……とんでもねぇ指揮官だ。

 

 こちらの隠蔽システムには、青島も相当自信を持っていたようだったが、正直、紙一重だと俺は感じていた。

 

 利根達のような人間の能力を遥かに超える者達が戦場に立ち、兵器技術がどんなに進んでも、戦場を統括する指揮官の優劣ってのは、勝敗を決する重要な要素なのは間違いない。

 

 その点で言うと、セカンドの指揮官にも相当な奴が居る……全くもって、侮れない。

 

 超自然レベルの戦場の勘を持つ手練の指揮官……戦争がない世界で、そんなヤツがどうやったら、生まれるのか解らないが……とにかく、ヤバいヤツがいるって事だけは俺にもわかった。

 

 いずれにせよ、混沌とした状況に飛び込んでいくとなると、色々情勢を見定める必要がある。


 要するに……だ。

 やっぱ、正義の味方ってのは登場のタイミングが重要だと俺は思う!

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