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第六話「斑鳩よりの来訪者達」①

「前方、300000……シュバルツとセカンド、両軍の戦闘開始より20分が経過しました。そろそろ、状況が動くと思われます。すでにレナ達も所定の配置に付きました。柏木様、ご指示を願います」


 戦闘艦利根の示現体が、俺にその一言を告げる。

 

 指揮デスクの上に両足を投げていた俺も、制帽を被り直すと姿勢を正す。

 どうやら、こちらも動く時が来たようだ。

 

 先の戦いで、降伏し虜囚の身となったウラルの特務艦隊、重巡クロンシュタット艦長のセルゲイ艦長によると、彼らはシュバルツの実行しようとしていた大艦隊によるセカンド侵略軍の別働隊として、行動していたと言う話だった。

 

 セカンドと俺達の世界の繋がりは、極めて複雑なものとなっており、双方のエーテル空間上の相対座標や位置関係関係なしに繋がるケースが大半だった。


 極端な話、俺達の世界では、数km程度しか離れていないゲートを潜った結果、セカンドでは一方は中心流域、もう一方は訳の解らない外周部へ繋がる……なんて事も起こりうる。

 

 だからこそ、双方の世界のエーテル空間を経由することで、思いもよらぬ場所へ転移することが可能となる。


 それを利用した超空間転移による奇襲戦術……そんなものが研究されていると聞いてはいたが。

 シュバルツやウラルは、セカンドへと進出し、そんな複雑な繋がりをデータベース化し、セカンドと戦うための戦術として、確立するところまで行っていた。

 

 確かに、この戦術に初見で対応するのは不可能だろう……。


 どこに出てくるか解らない神出鬼没、それも艦隊規模での奇襲……これを迎撃するとなると、困難を極めるのは言うまでもない。

 

 そして、極めて有効なこの戦術を用いた上で、シュバルツは保有する艦隊戦力の大半を投入し、セカンドの軍勢に決定的な打撃を与え、一気呵成に攻勢に出てセカンド側の領土拡大に打って出る……そんな作戦計画らしかった。

 

 だが……一言で言って、なんとも、雑。

 全軍をそんな投機性の高い作戦に投入すると言うのは、いささか希望的観測が過ぎるのではないか?

 

 搦手や慎重な回りくどい戦略を得意とするシュバルツにしては、ここに来て、随分と雑な作戦に打って出てきたと言う印象は否めなかった。

 

 そもそも、一気呵成に攻勢に打って出るのはいい……では、何を目的に、どこまで戦うのか?

 言わば、戦略性と言うべきものが全く見えてこないのだ。

 

 セルゲイ艦長いわく「俺が知るかよ、こっちが聞きてぇ」……なんて言ってる有様で、俺達もいろいろ考えては見たものの、セカンドの艦隊戦力に打撃を与えて、それから?

 

 そこから、先が全然読めないのだ……仮に奇襲でセカンドの艦隊との戦いに勝ったとしても、それが何だというのだ。


 そのまま、セカンド相手の総力戦になんてなった日には、純粋な国力勝負となるのは目に見えている。

 そんなもん、シュバルツどころか、こっちの全勢力の全戦力を掻き集めたって、勝てるかどうか怪しい……。


 ひょっとしたら、深慮遠謀に基づいた戦略目標があるのかもしれないが。

 長期的な目で見るとなると、どう考えても勝ち目はない。

 

 その辺りの作戦戦略目標は、同盟軍のウラルにも詳しくは伝わっていないようで、ウラルもシュヴァルツへの不信感を感じ、今回のシュバルツの大規模攻勢にも、半ば義理と言う事で、主力艦隊は出さずに、セルゲイ達特務艦隊を送り出した程度に留めたと言う話だった。

 

 ともかく、セルゲイ艦長達は、そんな作戦の別働隊として、その侵攻ルートの経由地となる斑鳩流域にたどり着き、別件でブリタニアから依頼されていたルクシオン陛下の生死確認をかねて、現場の下見をしていた所で、俺達と遭遇し、交戦、拿捕されるに至ったのだった。

 

 連中の不運はさておき、であれば、それを逆手に取って、シュバルツとセカンドの戦闘に介入すべき、俺達の意見はそんな方向でまとまった。

 

 我らが大正義ルクシオン様は、あくまで大正義をその信条とする偉大なるお方なので、侵略される側を味方し、侵略者共を打ち倒す、それこそ正義の行いだと命じられた訳なのだ。

 

 まさに、大正義! 誰にも恥じることなき、真っ当なる行い。

 

 俺達なりにも、まずはセカンドの奴らに、こちらの武力を見せつけた上で恩を売る……続いて、交渉と言うのは悪くない展開だと理解し、その考えに全面的に賛同することにした。

 

 武力ってのは、言ってみれば交渉カードのひとつだからな。

 何も相手にそれを振るう必要はない……共通の敵を粉砕することで、間接的にこちらの力を見せつける。

 当然、それは交渉に際しては有利なカードとなる。

 

 シュバルツ自体には、別に恨みもないのだけど、連中と国境を接していた頃は、領域侵犯が日常茶飯事。

 コソコソと絡め手で、工作員やら諜報員を送り込んでは、あの手この手で桜蘭麾下の星系の恭順工作やら反乱扇動やらを仕掛けてくる、素晴らしくウザい奴らだった。

 

 インセクターの襲来で、分断された結果、奴らとは国境を接することもなくなり、そんな迷惑なお付き合いも絶えて久しいのではあるのだが、奴らの蛮行やその残虐行為は、歴史の教科書に載る程度には、俺たち桜蘭の国民の記憶に深く焼き付けられていた。

 

 如何せん、ウラルと並んで、600年来の仇敵とも言える関係。

 共存共栄なんぞ、とうてい無理な相手だと言えた。


 セカンドの奴らと、シュバルツの奴らではその利用価値は、比べるまでも無い。

 

 何より、大正義ルクシオン様は、今や命を狙われ、故国を追われつつある身。

 ブリタニアの内乱も、セルゲイの話を聞く限りでは、奴らが暗躍した結果の可能性が高いと見ていた。

 

 であるからこそ、奴らは明確な敵として認定してよかった。 

 なによりも、大義は常にルクシオン様と共にある……大正義美少女は伊達じゃない。

 

 大正義は、我と共にあらんっ! 大正義バンザイっ!

 

 ……正直に言おう。

 

 今の俺は、大正義陛下の信奉者でもある……。


 ブリタニア名誉少将の称号と、騎士の名誉を与えられるのみならず、陛下とも色々あって、彼女の信頼を得て、その内面に触れるうちに、俺は一つの確信を抱いたのだ。

 

 彼女こそ、この混沌とした宇宙に安寧をもたらすべく、神が地上へ遣わした女神の化身なのだと!

 

 大正義、それは陛下とともにあり……我らを導き、栄光へと誘う至高の星。

 

 我ら、偉大なる大正義のためにっ!!

 

 ……俺は、そんな考えに至ったのだ。

 その大正義は、思いつきやその場の感情任せでは決して無い、深慮遠謀に基づいた大いなる宇宙の意志と言えるものなのだ。

 

 素晴らしきかな、大正義! 嗚呼、大正義、万歳っ!

 

 そんな訳で、大正義の名の下に、とりあえず利根とレナウン、有明と夕暮、ブリタニアの駆逐艦アマゾン、アローというメンツでセカンド側へ威力偵察へ出撃……と相成った。

 

 そして、状況次第ではセカンドへの加勢……シュヴァルツへの宣戦布告をも選択肢に入れる……そのような手はずだった。

 

 帰り道についても、頃合いを見て、俺達の側のゲートシップでもって、ゲートを向こう側から開いて貰う手はずだ。

 

 異世界間の通信手段も、示現体共鳴通信を応用することで、なんとでもなってしまう事がセルゲイ達の情報で判明していたのだが、実際なんの問題なく斑鳩で留守番部隊を率いている由良達と通信できている。

 

 そりゃ、確かに例えエーテル流体の奥底からでも、瞬時にタイムラグなしで交信できるってのは知ってたけど。

 まさか、世界の壁すらも飛び越えるような代物だとは思ってもいなかった。

 

 あの時、これが解っていたら、初霜をセカンドへ送り出したまま、ズコズコと引き下がるような事にならなかったかもしれなかったが……過ぎたことを今更悔やんでも仕方がなかった。

 

 セルゲイの恭順により、我々にもたらされた数々の情報はまさに値千金とでも言うべきものだった。

 

 何より、奴もまた……大正義たるあのお方に忠義を誓うと約束した女王陛下の騎士の一人でもある。

 

 今はまだ、観察期間ということで不自由な生活を余儀なくさせているが、ヤツの情報の裏付けが取れて、クロンシュタットの修復が完了次第、奴も我らの戦列に加わる事になっていた。

 

 あの御方の大正義たる思いに魅了された男は、俺一人じゃなかったのだ!

 

 奴と俺は、酒を飲み交わし、腹を割って本音で話し合い……大正義への思いと忠節を誓いあった戦友と言える間柄だった。

  

 全く、実に……実に素晴らしき話だった。


 大正義よ! 永遠なれっ! 大正義、バンザイッ!

 

 なお、超空間ゲートの安全性についても、問題はない。

 

 ゲートを開く条件として、ゲートを開く先に、デブリなどの障害物がないことや、偏在する重力波の凪の瞬間を狙う……など色々条件があるのだけど、その辺はセルゲイ達が色々と実験データを持っていた上に、こっちも色々と研究を重ねていた事で、すでにノウハウが確立されていた。

 

 何よりも利根達の持つ未来予測システム……これを応用することで、今開くと失敗するとか、そう言うのすらも予め分かるので、もはや成功率はファイブナインの確度にまで高められていた。


 いつぞやかの初霜のときのような失敗は、もうありえなかった。

 

 我々は、もう孤立した引きこもり武装集団ではない!

 大正義の名の下に、この混沌とした二つの宇宙に真の平和をもたらす、人々の希望の軍勢となろうではないか!

 

 セカンドと自在に行き来する手段を得た以上、まずは我々もセカンドへ進出!

 その上で、セカンドへ取り入る事が第一……流れとしてはそれが当然の選択と言えた。

 

 セルゲイ達から得られたセカンドの情報。

 それにより、セカンドの国力についても俺達は知ることになったのだが……それはもう、途方も無いほどに強大だと判明している。

 

 人口比の時点でその差は歴然で、セカンド全勢力、全人口を足しても、なお10倍もの格差があり、経済力はさらに数十倍もの差があると試算されていた。

 

 これは、向こう側ではかなり早い段階で、全人類が銀河連合と言う統一政府により、一致団結し、戦争も無く銀河全域で繁栄を極めた結果らしい。

 

 反面、俺達の宇宙は四大勢力に分かれたまま、飽きること無く数百年にも及ぶ戦争三昧……。


 繰り返された戦争の結果、軍事関連の科学技術の発展などは、セカンドよりも進んでいるようではあるのだが、文化、経済面ではお粗末なものだった。

 

 いかんせん、どこも軍事力が最優先……なんて調子になってしまっている上に、かつて4大国の間で締結された「無人兵器制限条約」……この条約の存在のせいで、脆弱な人間が過酷なエーテル空間での戦いに駆り出され、幾多の戦闘で失われた人命は、もはや途方もない数字となっていた。


「コリードールは、幾億、幾万もの戦士の血肉で満たされた地獄の道である」


 こんな言葉があるくらいには、もはや天文学的な数字の人死が出ていた。

 

 この条約自体は、かつて無人兵器群が引き起こした大規模反乱の結果、無人兵器の危険性が問題しされた事と、戦争のハードルは低くなってしまった事で、締結されたのだが……。

 

 果たして、それが正しかったのかどうかは、甚だ疑問だった。

 

 それに加えて、インセクターの侵攻による各勢力の分断、それに伴ういくつもの孤立星域の発生……これもまた、俺達の世界の力を大きく削いでいた。


 奴らとの戦いで、民間人や軍人も、もうどれだけ死んだか想像も付かないほどだった。


 そう……俺達は、セカンドと比べると、あまりにも疲弊していた。

 そもそも、比べ物にならない……それが動かしようのない現実だった。

ここからはちょっとの間、利根編の斑鳩勢の話になります。

柏木艦長については、外伝1と利根編に出て来てますが。


まぁ、すっかりロリ陛下に心酔しちゃって、大変なことに……。

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