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第五話「Operation Bite The Dust」③

「……なるほど、そういう事か! たぶん本来なら、足止めの艦隊が観測手役を果たすはずだったけど、あっという間に全滅してしまって、用をなさなくなった。けれど、奴はそれも織り込み済み……となると、恐らく潜行艦かステルスタイプの観測機! 天霧、直ちに対空及び対潜哨戒を実施っ!」


「祥鳳と情報連結、情報精査中……ジョッフルは撃沈、その頭脳体も完全に無力化済み、敵航空戦力についても完全に殲滅……敵の射出ポイント、航空機の生産施設共にプラズマ爆弾で粉砕してるので、観測機の存在可能性はないと断言します。ナノマシンについても本艦のECMバラージにて、全て焼き払いましたので、その観測能力は微々たるものかと」


「空の観測手段は全部潰した……となると、潜行艦の可能性は? 敵には逆位相音響中和システム艦がある……。奴らは観測手段に観測用Uボートを多用する。ハーモニクスシステムで念入りに探ってみたのか?」


「……お言葉ですが、我々も対潜哨戒をおろそかにはしておりません。すでにグエン艦隊、永友艦隊の駆逐艦と連携して、広範囲で、ハーモニクスシステムでのスキャン実施済みで、結論としてこの流域に、敵の潜行艦は居ないと判断しています」


 ……さすが、対潜哨戒なんて指示するまでもなかったようだ。

 けど……この無性に落ち着かない感覚。

 

 今も何かに見られてるのは間違いない……敵がまだ何処かに潜んでいる。

 単なる直感……なのだけど、アタシは確信していた。

 

 問題は、この直感に説得力……頭脳体達にも理解できる形で敵の存在可能性を示すことだった。

 

 祥鳳が回してきた各種観測データを精査する。

 

 案の定、施設側から頻繁に電波が発信されているのが見て取れた。

 電子戦装備を満載してる天霧が、全周波数帯に広域妨害をかけているから、長距離通信は使い物にならないはずなのだけど……。

 施設からは、超長波帯による強力な電磁波が今も放たれている……スクランブル化された暗号コードは、未だ解析出来ていないのだけど、艦隊戦力が全滅したにもかかわらず、発信が続いているのは、何とも不自然な状況だった。


 この辺で納得してもらえるかな? まぁ、イザとなったら無理やりにでもいう事聞かせるまで!


「まず……向こうの通信システムがしきりに稼働しているのは確かなんだ……データを見てもらえば、すぐ解る。問題は何処の誰が相手なのかって事だ……天霧、推論を述べろ」


「……まぁ、普通に考えて敵……ですよね。けど、ここは途中に残してきたプローブや私のジャミングで長距離通信網は機能してないです……となると、極めて近くに敵がいる……と?」


「そう言うことさ。それになりより、異世界間での通信を可能としているのは、頭脳体共鳴通信のみだ。あれの詳しい原理は解らないが、その為には最低限、中継役の頭脳体が必須……敵艦は全艦沈めているし、敵の頭脳体も全て潰した。であれば、まだ敵の艦艇がどこかに潜んでる……。ハーモニクスで捉えられない……となると、こちらのハーモニクスシステムに対応した新型潜行艦という可能性は否定できない」


「なるほどですね……。提督、ハーマイオニー隊から、流体面下から複数の電波発信を観測したとの報告あり。攻撃の結果、有線式中継プローブの残骸らしきものが浮いてきたとのこと……。こうなってくると、ハーモニクスシステムすら凌駕する新型の潜行艦がいると言う前提で、その対策を考えるべきですね。島風さん、初霜さん、他の艦の知恵とリソースを借りたうえで、緊急で対抗策を考えましょう」


「解りました。そうなると、加速情報連結モード……皆でお茶会とかどうですか?」


「お茶会? ええっと……概要、理解。なるほど、私達ってこんな事も出来るんですね。フル帯域専有モードでの無制限情報連結了解……ルームキーコード受領しました。提督、そんな訳で、私ちょっとしばらく無反応になります。艦は自動航行サブシステムお任せにしておきます。狭霧達は地上戦に専念しててもらいましょう」


「なんだか良く解らないけど、どうもこっからは君らの領分みたいだね。まぁ、そう言う事なら口出しもしない……吉報を期待してるよ」


「心得ております。それでは行ってまいりますっ!」


 ……天霧自身も良く解ってないみたいで、詳しい説明はなし。

 話を聞く限りだと、お互いを無制限情報連結したうえで、演算力を集中運用して、問題解決とかそんな感じらしい。

 

 確かに、21世紀の超AIもそんな感じの事をやって、演算力爆上げとかやってたからなぁ。

 アレと似たような事をやるって事なんだろう。

 

 とりあえず、ここは信じて待つの一手……。

 

 天霧の全システムがいったんスリープモードになって、照明も薄暗くなる。

 天霧もCICの隅っこの方で体育座りしながら、顔を膝に埋めて微動だにしなくなる。

 

 頭脳体の活動演算リソースも含めて、全リソースを投入、艦の電力やらも根こそぎ総動員してるらしい……。

 詳しい説明もロクになかったから、物凄く不安になるけど……ホントに大丈夫なのかな? これ。

 

 待つ事、5分余り……。

 唐突に、全システムが復旧する。

 

 ……こっちは、今敵が来たら……とか、ドキドキものだったけど。

 そんな事もなかった……危うし危うし。

 

「お、おかえり、天霧……どうだった? 何か対策は思いついたのかい?」


「ただいまですっ! 提督っ! いやはや、体感時間で三日三晩くらいは、雁首揃えてあーでもないこーでもないと大論争。けれど、おかげで即席ながら、対抗策が完成しました。あはは……な、なんか、グワングワンしますねーこれ」


 勢いよく立ち上がったのは良いけれど、足元が怪しく、千鳥足で壁にゴツンと頭をぶつける天霧。

 

 ……全然、大丈夫に見えない。


「おぉおおお……。こっちじゃ、5分しか経ってないって……。い、今のあれだよね、VR演習とかでやってる時間加速の要領ってこと? いったい何倍速に設定してた訳? あ、頭がくらくらするぅ……」


 島風から入電。

 向こうも予備知識無しで取り込まれて、天霧と同じ様になっていたらしかった。


「えっと、1000倍くらいでしたが……。おかげでうまく行ったじゃないですか」


 サラッと言う初霜。

 1000倍って……一分経つ間に、17時間くらいが経過する計算になる……無茶するなぁ。

 

 私もVRでの体感時間加速の経験あるけど、あれ現実回帰した時の頭の負荷半端じゃないんだけど……。


 あれって、体の方は普通に時間流れてるだけだから、例えば10倍速に設定してたら、現実に戻った際の同期プロセスで、10倍の時間分の情報が脳に洪水のように流れ込むことになるので、普通に脳が過負荷状態になる。

 

 まぁ、生身の脳だと軽く40度位の熱が出て、目を回すことになるし、今のアタシ……脳チップだったとしても、軽くオーバーヒートでシャットダウンするだろう。

 

 そりゃ、天霧や島風がグデグデになってる訳だよ! 多分、他も全員似たような感じだろう……ムチャするなぁ……。


「ちゃんと説明してからにしてよね! まったくー。って言うか、あのお茶会ルームってなんなの! 似たような部屋がいっぱいあったけど! あんなの私、知らなかったんだけど!」


「わ、わたしも良く解らないんです……。桜蘭の娘達にこんな機能があるって教えてもらって、疾風や祥鳳さんでも事前にルームキーコードを渡しておけば、普通に使えるって知ってたんで、皆さんも問題ないと思ったんですが……。どうも、わたし達頭脳体用の共用電子加速空間みたいな感じらしいんですけど……」


「なにそれ? 要するにセカンドの娘達も使えるって事? なんなのそれ? もうっ! 後で詳しく説明してもらうからねっ! と言うか、アンタ、事前説明が適当すぎっ! てか、1000倍速って馬鹿なんじゃないっ!」


「お、怒らないで下さーい! 説明って言っても、わたしも良く解らないので……。1000倍速は……ごめんなさい、100倍のつもりでした! でもでもっ! 三日三晩もかけちゃったから、結果的には正解だったのでは……」


「なにやらかしてんのよっ! そもそも、そんな得体のしれないものをいきなり使わせないでよっ! ほんとにもーっ! アンタ凄いんだか凄くないんだか、解んないわねっ!」


「あうあうあうーっ!」


 初霜と島風がこっちの通信回線経由でやいのやいのやりだす。

 つか、やかましいぞ、こいつら。


「こらこら、天霧経由で喧嘩なんかしない。で、なんか対抗策が出来たんだろ? 一体、どんな感じなんだい? それが本題……早いところ聞かせて欲しいもんだ」


 こいつら、この調子だと話進まなさそうなので、もうアタシが仕切ることにする。

 と言うか、三日三晩とか言ってたけど、大方仕切り役が居なくて、グダグダになってたんだろう。

 

 島風が妙に疲れた感じなのは、そんな中で懸命に仕切り役をやってたからとか、そんな感じだったのかもしれない。

 心中御察しする。


「そうですね。まずハーモニクスシステムは、二艦がかりで、二か所からほぼ同時タイミングで異なる周波数のピンを連続で放つことで、逆位相音響システムが対応出来ないようにしている訳ですが、敵としては、システムの反応速度の向上やこちらのハーモニクスシステムの解析などにより、こちらの対策に対応してしまった……そう言う事だと仮定。つまり、提督の読みどおりだと考えました」


 天霧が、何故かドヤ顔で胸を張る。


「なら、手っ取り早い方法としては、こちらはより一層の力技でその対応能力を超える。つまり、二隻、二か所なんてケチなこと言わないで、ピンを同時多発で雪崩のように叩き込んで、システムの対応力を飽和させればいい……そういう結論が出たの。つまり数の暴力!」


 ……島風が続ける。

 さすがにちょっと、呆れ返る。

 

 ……なんの事はない単純明快力技だった。

 こいつら、20人も寄り集まって、三日三晩話し合って、結論がそんなかよ。

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