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第五話「Operation Bite The Dust」②

「ねぇ……言わせてもらっていいかな? 君ら、揃いも揃って馬鹿ばっかりだ……。アタシに付き合ったって、地獄への進軍になるのが関の山だって言ってるのが、解らないかな? グエン提督も、聞いてるんでしょ? 提督の性格はよく解ってるけど、この戦いは負ける……。アタシは失敗したんだ……早く島風達に命じてやってくれ、さっさと逃げろって!」


 この通信を聞いているであろうグエン提督に呼びかける。

 島風達はアタシの言うことを聞く気なんてサラサラ無いようだった。

 

 けど、グエン提督なら……或いは……。


「……わりぃな、そいつは聞けない頼みだな。まぁ、若いもんの失敗をフォローするのが、年長者の役割ってもんだからな。一回や二回の失敗が何だってんだ? 誰だって、間違いはある。そもそも、こんな状況誰も予測できるわけがねぇよ。初霜ちゃんも俺と同じ考えなんだろ? なかなか解ってるじゃねぇか。どうよ、この戦いが終わったら、いっそうちに来ねぇか? 歓迎するぜ」


「あはは……わたしは、永友提督の所有物なので、折角のお誘いですが、お断りさせていただきますね」


「わーおっ! 俺だって、こいつらにそこまでは言えねぇよ。永友ちゃんもなかなかどうして、隅に置けないねぇ」


「え、えっと……。今のは、わたしが勝手にそう思ってるだけでして……」


 モジモジとノロケだす初霜に、口笛を吹いて囃し立てるグエン提督。


 こいつらっ! 危機感ってもんがないのかよっ!


「いや、だからさ……アンタ達、聞けよっ! 人の話っ!」


 さすがに、アタシもキレる。

 勝手に盛り上がって、勝手に自殺同然の道を選ぶとか、そんなもん、アタシらだって望んでないっ!

 

 いいかげんにしやがれっつーのっ!


「あーあー、聞こえねぇなぁ。まぁ、そんだけ見事な覚悟決めてるようなヤツを、見捨てて逃げるような奴がいたら、俺が背中からブチ込めって命令するところだな。ましてや、俺が遥ちゃんを見捨てるなんて、ありえねぇよな。なぁ、島風……勝率はどんなもんだ?」


「そうですね。前例……桜蘭の侵攻軍のケースや、いつぞやかの追撃戦の連中の艦隊規模からすると、三桁とか行くかも知れませんね。桜蘭情報では、人工的な超空間ゲートってのは、地上世界への往還用と一緒で、莫大なエネルギーを消費するので、ずっと開いたままには出来ないそうです。この戦術を用いる以上、必然的に退路は諦める事になりますから、半端な戦力って事はありえないでしょう。カイオスのやり口を考えると、使えるありったけの戦力を全てつぎ込む……きっとそんなところでしょう。ここは弾切れの心配をするべきですが、幸いこちらはまだ一発も撃ってないので、なんとかなるでしょう。……最悪想定での勝率聞きたいですか? きっと聞くんじゃなかったって後悔しますよ」


「別に、一桁パーセントでも驚かねぇんだが、そんなもん最初から期待してねぇよ。……逆境、絶望? それがどうした……そんなもん上等だ! 俺たちゃ、いつだってそんな調子だろ。何度だって、立ち向かってやるさ! おもしれぇ……かかってきやがれッ! 一度、あのクソガキは徹底的にブチのめしてやりたいって思ってたからな! いつぞやの意趣返しのいい機会じゃねぇか」


「ふふ、私も同感です……珍しく意見が一致しましたね。さて、遥提督……うちの提督はご覧のようにやる気満々、私もここで逃げるのは無いって思うし、我が艦隊はもちろん、永友艦隊の他のメンツも同意してますよ。今ここに展開してる全戦力かき集めれば、総計25隻の大艦隊……いずれも名のある精鋭揃い。敵が100隻来ても、一人4隻も沈めればオッケー。なぁに、この豪華メンバーならきっと勝てますよ。黒船相手にそれくらいの兵力差……セカンドでは珍しくもないらしいですよ」


「そうですね。いつぞやの楼蘭帝国軍なんて、無人爆雷を山盛りで送り込んできましたからね。ビッグクローラーと戦った時だって、空が見えない程の敵機とか、もう笑うしかありませんでしたよ。わたし達って、有利な状況で戦えた事の方が少ないような気がしますね。あ、弾の方はご心配なく……永友提督が山盛り持ってきてるので、皆さん、今のうちに積めるだけ積んじゃいましょう。レールガン弾頭なら誘爆の危険も低いので、通路とかに居住ブロックに詰め込んどけば、駆逐艦でもかなりの量を積めると思いますよ」


 初霜も島風も……傍目にも余裕と言った調子だった。

 どんなにヤバくても、最前線で一歩も引かず……アタシもこいつらの戦闘記録を何度も見たから、その辺は良く解る。


 何より、この死地に彼女達をいざなったのは、他ならぬこのアタシなのだ。

 彼女たちは、敵がいかに強大とても、絶対に退かない筋金入りの勇者揃い……ならば、こっちも覚悟を決めるべきだった。


 プライマリーコードは預かってるから、強制的に撤退させるって手もあるけど……。

 そんなの無粋ってモンだろう……地獄へ共にって事なら、上等っ!

 

 ……ならば、アタシもご一緒しようじゃないかっ!


「ああ、もう……解ったよ。こっちももう、止めない。こうなったら、少しでも有利にするべく、今のうちに全力で足掻く。君らも一緒に考えてくれ! とにかく、目の前に転移されて乱戦になる事だけは避けないと……」


「……ははっ、やっと素直になったのね。困ってるなら、素直に頼ってくれればいいのよ……この意地っ張り。それにプライマリーコードなんて、無粋なものを使わないって所も気に入ったわ。私達をご指名してくれたのも、実力を評価してくれてのことなんでしょ? なら、その篤い信頼には応えないとね」


「悪いね……これから始まるのは、ちょっとした地獄ってとこだ。君ら以外のメンツだったら、軽く絶望するところだけど……。ひょっとすると君達なら、やってくれるかもしれない……そう思い始めてるよ」


「任せなさいよ。けど、実際問題……目の前にゲート開かれて、際限なく敵が沸いてくる……なんてなると、確かにちょっと厳しい。何か対策とかないの? 要はゲートを作られなきゃいいなら、いっそ施設を壊しちゃえばいいんじゃない? それこそ、信濃のプラズマバンカーバスターでも叩き込めば、こんな施設、一発じゃない」


「……マイクロブラックホールジェネレーターなんて、うかつに破壊すると、暴走してここにマイクロブラックホールが出来ちゃうし、無制限爆縮による大規模重力震で全滅するのが関の山だよ……まぁ、大惨事になるね。人質がここに収監されていたのは、そう言う力技をやらせない為って、意味もあったんだろうさ。奴らもよく考えてるよ……囮と盾のまさに一石二鳥、人質の使い方としては、理想的と言える。もちろん、時間をかければ安全に機能停止させることや、コントロールを奪取する事も出来るだろうけど、そんな時間を与えてくれるとはとても思えない」


「じゃあ、その呼び水になるマイクロブラックホールの発生場所に条件ってないの? あれって、真空中でないと危ないとかそんな話聞いたんだけど。エーテル空間って空気もあるし、本来重力兵器も危なっかしくて使えないって話だし、ゲートステーションもわざわざ真空ドックなんて、作ってるくらいなんだから、やっぱどこでも好きな場所にって訳にはいかないんじゃないの?」


「確かに、ある程度の条件はあるはず……。特異点の生成の為には、発生座標に干渉する物体が存在しないに越したことはない。特異点と原子が重なったりすると、核融合爆発が起こりかねないから……最低限、デブリなんかが無い事を確認したうえでってなると思うんだ。電磁場密度が高いようなポイントも候補から外れるね。それに座標がエーテル流体面下にずれたりしたら、転移する側にエーテル流体が流れ込んで、侵攻どころじゃなくなるから、波が荒れるような流域も除外。必然的に、安全な場所にゲートを作るには、何らかの観測手段と向こう側への連絡手段が必要不可欠って訳なんだけど……」


 ……エーテル大気中の分子間距離なんてのは、割とスッカスカなので、真空中でなくとも、多少のリスクを許容すれば特異点生成は可能ではある……。

 

 通常空間への往還ゲートを生成する際は、向こう側は真空だし、こっち側もゲート周辺を真空にする事でリスクを最低限に留めているからに他ならない。

 

 ここのジェネレータの推定出力から推察するに、結構広い範囲に特異点生成が出来るようだった。

 天霧が試算してくれた上で、提示してくれるけど、大雑把に見ても200km四方……候補ポイントは軽く3桁超。

 

「ありがとう、天霧。……少しは絞り込めたけど、さすがにこれでは、話にならないな……。見ての通り、範囲も広いし、近くだけでも10箇所はある……これを全てマークするとなるとさすがに厳しいな……」


「提督、万が一核融合爆発が起こったら、向こうにも重力震と言う形で洒落にならない被害が出ると思います。である以上、リアルタイムでの環境情報が必須であると考えます……こうなると敵の観測手段を推測するべきではないでしょうか?」


 天霧の推測。

 なるほど、確かに……敵の観測手段が解れば、対応が出来る。

 

 ……桜蘭戦でも、本格的な艦隊転移の前に、伊400系の先行偵察が入り込んでいたと言う話は聞いている。

 戦場に予め、情報収集専門の斥候を送り込んでおくのは、理にかなったやり方ではあるのだけど。

 

 その斥候に、敵情視察以上の意味があった可能性は十分考えられた。


「……そうなると……観測手がどこかに隠れてるって事じゃないの? なら、それを見つけて始末しちゃえば、ゲートなんか作れなくなるんじゃないの?」


 島風の至ってシンプルな答え。

 けれど、そのシンプルな中に回答はあった。

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