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第三話「艦隊編成」⑦

 ……まぁ、あまり言いたくないけど。

 祥鳳や信濃、それに島風も……この辺は、実は直接人間と戦い、意図して殺害した事がないってアタシは知ってる。

 

 例のプロクスターの攻防戦の最終局面でも、信濃は桜蘭の富嶽が有人機だと知って、完全にその手を止めてしまって、撃墜のチャンスがあったにもかかわらず、それが出来ずに、重力爆弾による特攻を許してしまっていた。

 

 彼女達は、明確な命令無く人を殺傷できないように、心理プロテクトがかかってるので、それも当然の話だった。

 要するに、これをやったら人が死ぬ……そう彼女達が意識すると、半ば自動的に手が止まる……ある種のマインドコントロール的な安全装置リミッターだ。

 

 実際問題、彼女たちの持つパワーは、戦車と力比べが出来るほど……明らかにオーバースペックなのだけど、その戦闘力となると一人で歩兵一個中隊にも匹敵するだろう。

 

 まっとうな人間相手だと、目の前で軽く手を振るだけで、その衝撃波ソニックブームだけで人間なんてあっさり死ぬ。

 銃弾どころか、携行ブラスターガン、対戦車プラズマバズーカですら、そのパーソナルシールドを打ち破る事は出来ない。

 

 そんなものをエーテル空間限定とはいえ、人間社会に置くのだから、安全措置をかけておくのは、この世界の人間達の怯懦とは言い難いと言える。

 

 けれど、プライマリーコード。

 上位指揮官として登録された人間からの明確な絶対命令権。

 

 これは、その心理プロテクトすらも凌駕する強制命令なのだ。

 つまり、今の時点で、それを掌握するアタシが殺せと命じれば、彼女達は一切の躊躇いもなく人間を容赦なく殺せる。

 

 普段の天霧は、普通に善良な人間の女の子と大差ないメンタリティなのだけど、プライマリーコードによる命令が発令されると、文字通り、スイッチが切り替わるのだ。

 

 実際、天霧達は……アタシの命令で、これまで幾多の敵兵を直接葬ってきた。

 

 連中は、それがこちらの頭脳体の弱点だとでも思ってるらしく、何かと言うと人質作戦やら、堂々と顔を見せて、ヘラヘラと逃げおおせようとしたり、時には自爆攻撃すら仕掛けてくる。

 

 そんなゲスな連中を相手取るのに、殺しちゃ駄目だの言ってたら、話にならない。

 だからこそ、天霧達には作戦行動に入る時点で、敵は皆殺しにしろとプライマリーコードによる命令を出している。

 

 それ故に、彼女達は、奴らとの戦いでは、純粋な戦闘マシーンと化す。

 

 けど、それは、明確なアタシ自身の殺意によるもの。

 すでに、アタシはこの「裏門集」の実戦部隊指揮官として、クリーヴァの工作員やセカンドの戦闘員を何人も葬ってきた。

 

 こっちの世界では、人間を戦闘員に使うという発想自体がない。

 地上戦となるとアンドロイド……合成人間や無人機械を使うのが当たり前。

 

 この辺は、21世紀後半の時点で、無人戦闘機械群による軍隊の戦闘力が、人間の軍人を集めた軍隊よりも遥かに凌駕するようになってしまった事で、もう完全にそう言う流れになってしまっていたのだけど。

 その風潮がこの時代になっても変わりなかった……そう言うことらしい。

 

 反面、セカンドでは、戦争は、あくまで人間が戦うという発想が根強いらしく、生身の人間の戦闘員なんてのが当たり前にいる。

 向こうでも、無人兵器技術は相応に発展したようなのだけど、あくまで人間の補助と言った位置づけで、こっちの世界みたいに主力にはならなかったらしい。


 そのうえ、アタシらの敵となってるのは、ナチスドイツの狂信者染みた連中で、薬で恐怖心がぶっ壊れたような奴らも平気で混ざっている。

 

 だからと言って、殺していいとは思いたくはないのだけど、そんなの相手に情け容赦をかけていたら、こっちがやられる。

 

 だから、アタシはそれと直接相対する天霧達には、敵は殺せと明確な命令を出していた。

 

 そして、天霧達はその命令を忠実に実行してきた……かくして、積み上げられた屍の山はもはや100では効かない。

 アタシらは、すでに屍の山の上に立っている……まさに、血塗られた道だ。

 

 けど……許しは請わない。

 

 ……それがアタシに課せられた役割であり、そう言うゲス共を相手取るとすれば、アタシこそが適任だった。


 誰かやらないといけない汚れ役なら、それはアタシの仕事だ。

 誰かに押し付ける気なんて毛頭なかった。

 

 今回も収監施設での屋内地上戦となると、凄惨な自爆特攻兵やら、武器を捨てて降伏したふりをしての騙し討とかいつも通りのオンパレードだろう。

 

 それも織り込み済み……だから、地上戦には天霧達だけを投入する。

 この決意は、決して揺るがない。

 

「上陸戦か……。そう言う事なら、白兵戦の名手の初霜をそっちに回してるからな。初霜、ちゃんと役に立つんだぞ! お前なら、白兵戦なんて余裕だろ?」


「はいっ! 心得ています! 遥提督、地上戦ではわたしが先陣を切りますから、おまかせを!」


 ……連中との白兵戦の事情を知らないであろう提督が、気楽な様子で初霜へエールを送っていた。

 

 と言うか、白兵戦……相手の見える距離での殺し合いがどんなものなのか、解っているのだろうか?

 ご同類との模擬格闘戦や、黒船の陸戦種……その辺と同等とか考えてるような気もする。

 

 よく見れば、初霜も帯刀してるみたいだけど……。

 どうみても、本当の意味での白兵戦慣れしてるようには思えない。

 

 そう言えば、初霜は楼蘭製で、こっちの戦闘艦艇頭脳体とは、根本的に違うんだったな。

 

 カドワキ氏が招待した向こうの技術者に話しを聞いた限りだと、向こうでは頭脳体に心理プロテクトをかけたうえで、人と変わらぬ生活をさせるなんてのは、まるっきり発想の外だったらしい。

 

「兵器が人を殺せない? そんな馬鹿な話あり得ないだろ」


 アタシから心理プロテクトの話を聞いた桜蘭の技術者の言葉……至極ごもっとも話だった。

 

 その代わり、向こうでは頭脳体は徹底して隔離する。

 カプセルに閉じ込めて、艦の制御コンピューターとして使うとか、そんな感じだったらしい。

 

 どこぞの実験部隊の指揮官が、彼女達を人間同様に扱うことで、それなりに上手くやっていたという実績もあり、こちら側との交流の影響もあって、そんな使い方をするより、完全に無人にして、頭脳体に全部丸投げにした方が余程強いって話になって、その辺は少しは改善したらしいけど。

 

 向こうの連中の感覚だと、はっきり言って頭脳体なんて、銃火器と大差ない……。

 

 実際、心理プロテクトがない頭脳体なんて、人をたやすく殺せると言う意味では、安全装置のない銃みたいなもんなのは確かだ。

 

 まったく、永友提督も安全装置のない拳銃を振り回してるようなもんなんだが……。

 ホント、考えてみれば、危なっかしい話だった。

 

 ……どうもこの様子だと上陸白兵戦も想定して、初霜をこっちに回してくれたみたいだけど……。

 正直、不確定要素以外の何物でもない……なので、彼女には悪いけど、上陸戦投入はない。


 まぁ、これを言うのは直前でいいや。

 今から言っても、ややこしくなるだけ。


 殺しなんて、手慣れてる奴らの仕事だ……そういう訳だから、初霜に地上戦はご遠慮いただく。

 

 これは決定事項なんだ……悪いけどね。

 

「……とにかく、作戦の概要については、これで大凡理解できたと思う。もちろん、状況に応じて、随時作戦に修正を加えることは十分あり得るってのは、説明するまでもない。戦ってのはそんなものだよ……あなた方には、皆まで言うまでもないと思うけどね」


「そうだな。結局、実際に現場で何が起こるかなんて、どれだけ入念に準備してても、誰にもわかんねーからな。俺も作戦通りに事が運ぶことなんて、滅多に無いってのはよく解る……そんなもんだ。臨機応変、柔軟性を持って対応する……想定外の難局や予想外のトラブル。プロフェッショナルってのは、そう言う状況ですら、鼻で笑い飛ばせるようでなくちゃな!」


「さすが、グエン提督……よくお解りですね。言いたいことを先に言われてしまった。では、各々方、質問はないかい? なければ、ブリーフィングは終わりだよ。まぁ、細かい部分はデータリンクで各旗艦とデータ共有してるし、各艦の配置やら細かい戦術には口出しもしない。今の時点でアタシから言うことなんて、作戦行動の大方針を示すのみってところだよ」


「うん、私も大丈夫だ……。各艦隊の役割分担がはっきりしてるから、今の段階ではそれで問題ないと思う。以降は、直接通信は封鎖、各艦同士のデータリンクでのやり取りになるんだったかな?」


「そうですね。敵地での戦闘ともなると、さすがにこんな風に悠長に話してる余裕なんて、あまりありません。どうせ、我々指揮官なんて、戦いが始まれば、観戦しつつ、所々でテコ入れするくらいしか出来ることもありませんからね。とは言え迷ったら、色々ご相談するかもしれませんし、逆も結構ですよ」


「ははっ、私はその要所でのテコ入れすら出来てないけどね。とにかく、皆、仕事の時間って事だ。うん、ここはひとつ、歴戦の勇士の戦いぶりってものを見せるとしようじゃないか! 不安になったら相談ってのも構わないよ。そう言うのが本来の私達年長者の役目だろう」


「そうだな。俺達に任せとけ! なぁに、いつもどおり軽く勝ってやるさ!」


 両提督の勇ましい掛け声。

 やっぱ、男ってのは勇ましくなくっちゃね!

 

 そして、イイ女ってのは、そんなカッコいい野郎どもを半歩下がった所で見守りながら、その背中を守り、支えるもんなのだ。

 

 ちらりと、島風や祥鳳達に視線を送ると、気持ちは同じようで無言で頷かれる。

 やれやれ、こいつらも女の子……アタシとご同類って事だった。


 イイ女同士、一緒にがんばろーか。

 エールという意味で、二人に軽く目配せを送ると、向こうも笑みを返してきた。

 

「では、お互いの健闘を祈ります! では後ほど、戦場にて! 勝利を共にっ!」


 そう言って、お互い一斉に敬礼。


 うん、こうでなくちゃね。

 モニターオフ。

 

 これから先、情報のやり取りは各艦の頭脳体の無言の情報リンクにて、行われる。

 そこに人の意思の入る余地は、あまりない。

 

 ……さぁて、いよいよお待ちかね。


 楽しい戦争の時間の始まりだ。

 

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