第三話「艦隊編成」④
どうも、シュバルツはその開発力の多くの部分をカイオス達……つまり、ナイアーくんに頼っていた部分が多かったようなのだ。
具体的には、こっちの世界のエーテル大気に最適化された特殊弾頭、レールガンの構造体、放熱機構やらも、向こうのをそのまま持ってくると、エーテル空間の環境差異で色々問題が起きる。
こっちの世界の技術協力があれば、その辺りはクリアー出来る問題なのだけど、その道が絶たれると一気に怪しくなる……桜蘭は、その辺りかなり周到で、こそこそとこちらの世界に赴いてはテストを重ね、問題点を一つ一つクリアーしていったようなのだけど、シュバルツはそこら辺の準備を怠っていたようで、大慌てで泥縄対応の真っ最中。
どうも、シュバルツもその辺りの技術ノウハウが欲しくて、カドワキ氏を人質にしてる部分もあるみたいなんだけど、あの人はあの人で、素直にそんな技術情報を敵に漏らすような人な訳がない。
案の定、連中がカドワキ氏の助言を受けて作ったレールガンは、命中率が話にならなかったり、暴発して自爆するような欠陥品を濫造中……その他の装備についても、順調に迷走してるらしい。
……ちょっと前に、やる気満々で完全独自制作のレールガン搭載艦を繰り出してきたんけど、天霧達は鼻で笑って、あっさり返り討ちにしてた。
荷電粒子砲なども、以前出くわしたびっくりメカに積んでたのは、なかなかの完成度だったけど、艦艇流用に関しては、実用レベルのものが作れないでいる。
結局、シュバルツもウラルも、こちらの世界へ最適化された装備と言う点では、完全に退行しており、信頼性の高いむしろ原始的とも言える各艦の従来装備……火薬式砲やら、ガソリンでエンジン回して飛ぶレシプロ機などに頼らざるを得なくなっている。
スポンサーのシュバルツがそんな調子なので、当然ながらロストナンバーズも装備品は、むしろシュバルツ準拠にダウングレードしている。
一部の独自装備は、頭脳体管轄のオリジナルなので、その辺は問題ないようだけど、艦砲や対空砲ともなると、そうは行かない……弾だって、シュバルツからの低グレード品を調達するしかない。
銀河連合製のハイグレード品に頼るって手もあるんだろうけど……まぁ、普通に考えて敵地で敵の装備や弾薬に頼る。
それがどんなにアホな行為なのかなんて、ちょっと考えれば解る。
アタシらがナイアーくんを分捕った事……やはり、これが地味に効いている。
ちなみに、ナイアーくんの作り上げた兵器リストには、あのびっくりメカによく似た兵器があったので、どうもあの兵器……ナイアーくんプロデュースだったという事も判明している。
ナイアーくんの話だと、実証試験段階の代物をカイオス達が永友提督の暗殺ミッションに実戦投入したという話だった。
まぁ……結果は、ご存知の通り。
ナイアーくんいわく、とても世に出せるような代物じゃなかったらしく、向こう側の視点で記録していた当時の戦闘記録を見ると、戦いの最中にすでにアチコチ壊れかけていたような有様で、放っといても自滅していた可能性が高かったようだ。
とはいえ、まともな完成品を送り込まれていたら、相当苦戦したはずだった……いずれにせよ、ナイアーくんが、説得だけで、こちらの味方に付いてくれたのは、極めて大きかった。
……アタシってば、やるぅっ!
反面、カイオスやシュバルツ、ウラルについては……まぁ、ご愁傷様。
技術なんてのは盗んだり、パクったりで、一足飛び狙いで……なんてやっても、まともに身につくようなもんじゃない。
シュバルツの母体のドイツやウラルのロシアは、そこら辺……意外と真面目なんだけど。
アタシの予想だと、多分カイオスの意向が方向性を変えちゃったんだと思う。
大方、自分たちの技術があれば、最適化なんて楽勝、余計な開発リソースの投入なんて、無駄なことは必要ない……とでも、言い切ったんだろう。
ヤツの言葉は、特にシュヴァルツでは絶対に近い……けど、それは単なる驕りだった。
本来、高度な技術を投入した先進兵器を量産するには、高度な技術を扱えるだけの高度な設備を持った生産開発拠点が必須となる。
その高度な生産拠点を作るためには、更に広い範囲で国家レベルでの平均的に高度な技術が必要。
ちょっと素材が安普請だったり、微妙に加工精度が足りないだけで、兵器なんてのはあっさり欠陥品に成り下がる……多分、カドワキさんが向こうでやらかしてるのは、そんな調子なんだろう。
これくらいやってのけろとか言って、その実、単なる無茶振り……それを確信犯でやらかして、向こうの技術者を振り回す……容易に想像できる。
Aの技術の為には、BとCの技術が必要。
BにはD、E、Fの技術、Cには、E、G、Hが必要で……とまぁ、一つの技術を取っても、その背景には、複雑に絡み合ったバッググラウンドってもんがある。
技術開発ってのは、万事が万事こんな調子で、高度な技術ってのは、広大なバッググラウンド……幾多もの技術の積み重ねに支えられて、始めてモノになる……そんなもんなのだ。
銀河連合の技術者達ってのは、その点総じてなかなかに堅実で、初霜のようにやたらと先を行った先進技術満載のサンプルがあっても、それに使われている技術の基礎研究をじっくり行って、自分達との差異を理解した上で、出来る範囲での模倣と試作を重ね、自分達の技術背景を強化。
そうやって、きっちり自分達のものに出来てから、ようやっと実用化にこぎ着ける……割とそんな感じで、堅実に段階という物を踏んでいた。
なので、一足飛びに進歩とは行かないのだけど、そこら辺は開発リソースも相応にデカいので、時間をかけて順当に進化させていた。
シュバルツの技術者達は、ナイアーくんと言う銀河連合でも、独自の技術開発情報を持った開発拠点とそれの提供する高度技術を流用して、自分達のモノにしたつもりで、その積み重ねを疎かにしていたのだろう。
要するに、地味な努力をサボって、サボりぐせが付いた。
トップが音頭を取っていたなら、尚更だろう。
結果、それを失ったら、イチからこちらのエーテルロードに最適化された技術を開発し直し……みたいになって、実用レベルとなると、完全に時代遅れのような技術を使うしかなくなってしまった……そう言うこと。
訳の解らない技術を、ガワだけ真似したって、ロクな事にならない……訳の解らないのを無理に扱わずに、よく調べて訳の解る技術にして、始めて実戦で使えるようになる……。
カドワキさんがよく言ってた言葉だけど、頷ける話だった。
とにかく、情報網を潰されて、技術を奪われ、人質も奪われ、最後にその武力であるシュバルツとロストナンバーズの艦隊戦力を潰せば、いよいよカイオスも終わりの時が近いだろう。
この外堀を埋めるように、着々と敵を追い詰める……なかなかに酷い話ではあるのだけどね。
悪党どもには情けなど無用。
じっくりゆっくり、己が所業を後悔しながら滅ぶがいいさ。
「合わせて10隻程度……思ったより、少ないな。そうなると戦力比は、こっちが倍以上優勢……これなら、わざわざ包囲や陽動なんかせずに、力攻めで押し勝てると思うんだが……どうだろう、戦いは拙速を尊ぶ……なんて言葉もある。一斉に懐に飛び込んで一気に勝負を付けるのも手じゃないかな?」
永友提督……まぁ、力攻めも確かに悪くない選択肢じゃある。
むしろ、正攻法とも言う。
単純に敵艦隊を正面から粉砕するなら、技術力が優越してる現状からすると、その戦術がベストだと言えるのだけど……。
「そうですね。敵の戦力が、これしか居なくて、かつ今回の作戦目標が敵艦隊の殲滅なら、それが最善の方法です。電撃速攻で増援要請の連絡もさせず、正攻法で一気に叩き潰す……まさに王道。ですが、シュバルツの対人類戦戦略として、伏兵の多用……光学迷彩隠蔽艦や潜行艦の奇襲が常套手段なので、同数規模の伏兵が居ると見ていいでしょう。それにこちらの情報でも、推定戦力はこの倍と見積もってるので……。まぁ、今見えてるのは、ただの見せ札ってところですね」
「……つまり、見えない敵が多数いると?」
「はい……光学迷彩使用時に発生するオゾンガスが、祥鳳のいる地点でもすでに確認されてますし、上流から流している偵察プローブからの情報でも、下流側のあちこちに不自然な帯電現象などが確認されており、もうバレバレ。居場所としては、銀河連合との接続流域下流側、永友提督艦隊の正面に分散配置されていると考えています。事前情報によると、セカンドより高速戦艦ダンケルクと重巡シュフラン、軽巡グロワール、ブーラスク級駆逐艦シロッコにトロンベ、シュルクーフ級駆逐艦のシュヴァリエ・ポールとデストレー……この7隻の砲雷撃戦艦隊がこの流域に侵入してるはずなのですが……施設付近に見当たらない様子から、消去法でこいつらが伏兵ってところじゃないですかね……」
「……おいおい、戦艦が伏兵って……。要するに、敵は手ぐすね引いて待ち伏せてるってことか。なるほど、俺達を使うほどだから、相当な敵だとは思ってたが……。こりゃ、セカンドのナチスフランス艦隊の主力揃い踏みじゃねぇか……コイツはいいね」
まぁ、実際総勢20隻近い戦力的にもかなり有力な艦隊なんだけど……さすが、グエン提督。
臆するどころか、目がギラギラしてきてる……獲物を目にした肉食動物みたい。
まさに、肉食系男子。
こう言うのって、女の子にはモテるんだよね……。
ちょっと、目が合って、一瞬カッコいいって、思っちゃった。
ドキドキ……顔、赤くなったりとかしてないよね。
「せ、戦艦ダンケルクなんて、主力も主力じゃないか! そ、そりゃあ大変だっ! そうだ! なら、思い切って、全戦力を見せて、包囲して降伏を迫るって手もあるんじゃないかな? しかも、我々の正面に戦艦が待ち伏せてるなんて……。こっちは空母と駆逐艦主体だから、さすがにちょっと厳しい相手なんじゃ……」
対照的に、永友提督はヘタレだった。
うーん、消極的な味方ってのは、なかなかに面倒くさいね。
と言うか、ここでいきなり泡食ってヘタレるとは……。
実際問題、そんなに大した相手じゃないと思うんだけどなぁ……。
永友艦隊って、もっと圧倒的多数の相手に勝ったりしてるんだから、もうちょっと強気でいて欲しかった。
……まぁ、作戦能力は皆無って知ってるけど、さすがにこれはないなぁ……アタシの中で、永友提督の株価が暴落する音が聞こえた気がした。
……じ、人選誤ったかな? いっそスツーカ大佐でも声掛けすればよかったかな。
でも、あの人……誰の命令も聞かないし、基本猪突猛進だから、特殊戦向きじゃないんだよなぁ……。
渋カッコいいおじ様で好みのタイプじゃあるんだけど。
んーっ! でもまだまだっ! 底割れまで入ってないっ!
ここは、ファンの女の子が見てるんだから、ちょっと気張って、男気ってもんを見せて欲しいなっ!