第三話「艦隊編成」③
「ええ……まぁ。あそこのプロデューサーに個人的なツテがあって、何かとご協力いただいてます。あなた方の動向は敵も注目してますから。今回の演習も精鋭艦隊同士の好カードって事で、別の意味で派手に注目されちゃってるようでして……ブックメーカーとかも動いて、凄いことになってるそうですよ。もっとも、実際は667の方々のでっち上げたVR戦場を生中継して嘘っぱちの中継番組をやる……そう言う話なんですよ」
いつぞやかの独占密着レポート。
あれはとんだ騒ぎになっちゃったけど、ユレさんって、ああ見えてチャンネル667の結構な大物プロデューサーだから、今回の嘘っぱち演習実況中継番組の話も、二つ返事で引き受けてくれた。
……持つべきものはお友達ってヤツだよね。
「……ヒデェなコレ。ネットじゃ誰が真っ先に沈むかとか、一番多く沈めるのは誰か? なんてのが賭けの対象になってやがるみてぇで、勝手に盛り上がってるみたいだぜ……。うちの下馬評はちょっと微妙みてぇだな……。まぁ、毎回損害出してるから、永友艦隊の連中とマジでやりあったら、確かにキツイっちゃキツイんだろうが、何とも複雑だな」
「攻撃特化型のうちと、防御巧者揃いの永友艦隊だと、いい勝負だと思うんですがね。けどオッズ、私が一番人気じゃないですか……。実力的には、むしろ、ダントツで初霜だと思いますよ。こないだも初霜のシミュレーションデータ相手にやっぱり勝てなかったし……。天津もなんで、あんなの相手に勝てたんだか……」
島風の話を聞いて、天霧が目を丸くしている。
彼女も初霜データ相手に勝ててないクチだけに、その話は衝撃的らしかった。
当の初霜は、そんな事言われても……みたいな感じで、オタオタしてるのだけど……。
彼女の実力は、アタシも良く知るところだ。
確かに、シミュレーション上とは言え、アレを倒すって、普通にすごい話……。
アタシも試しに、VRフルダイブして天霧と同等スペックの仮想駆逐艦を我が身として、実際にアレの戦闘データとやりあったことあるけど……。
……あれはもう色々おかしかった。
結果……開始、17秒で撃沈判定……初霜をターゲットサイトに、視認することすらままならなかった。
アタシは、戦闘艦艇頭脳体でもなんでもないとは言え、一応21世紀の無人戦闘艦艇へソウルダイブして、戦争やってた経験もあるから、少しはやれると思ってたんだけど……。
それがもう、全然お話にならなかった。
結局、天霧達相手のVR演習でも、全く勝負にならなかったから、もう最前線での戦いは、謹んでお任せしたい所存。
餅は餅屋ですってば! 人間様がコイツら相手に互角の条件で勝負なんて、普通に無理ゲーです。
天霧達ってどうも意識を分裂させて、一人何十役での並列処理……みたいな感じにして、艦の武装や装備を細々と操ってる感じなんだよなぁ……。
イメージ的には、ちっちゃい天霧が艦の到るところに配置されて、それぞれが一つの意識を共有してるように統一されて、一斉に操作してるような感じ。
文字通り、自分の身体を動かすように、艦を自在に操る事を可能にしている。
こっちは、一つの意識だけでアレやコレもってやるから、ある程度はドライバプログラムに丸投げて……とかやってるから、はっきり言ってまるで駄目。
アタシの頃の無人戦闘艦は、いわばピラミッド式の命令系統システムだったんだけど、天霧達はインターネット式とでも言うべき、命令系統を持っている。
末端ノードの一つ一つに至るまでが、頂点であり末端でもある。
認識系と判断系、実行系が一斉に同時処理するようなもん……それらを順次処理を行うピラミッド式と比べたら、効率が桁違いだから、勝てる訳がないのも道理だった。
「初霜は……情報統制の関係で、民間人の間では地味な護衛艦って扱いなんだよ。天津風ってグエン艦隊の新入りの子だっけ? 前髪で目元覆った……なんか愛玩犬とか彷彿するような感じで、そこまで強そうには見えなかったんけど……。戦闘シミュレーションデータとは言え、初霜に勝つなんて相当なんじゃないのかな? うちの駆逐艦達も初霜データにはやられっぱなしらしいんだけど……」
永友提督も驚いたようだった。
「……天津は強いですよ。とにかく、戦闘になるとやたらと消極的なんだけど、艦艇機動と長距離砲戦の名人で射程ギリギリの位置でウロウロして、付かず離れずって感じで戦うもんで……。追えば一目散に逃げる。距離を離して、安心してるといつのまにか、射程内に忍び寄って、死角から不意打ちかけてきたりと、相手する側にとっては、物凄くやりにくいんですよ。けど、はっきり言って強いですよ? 突撃ばっかりのうちのメンツでは、これまで居なかった後方支援系スナイパー! おまけに私と趣味が合って、思わず意気投合! いやぁ、提督……いい娘、拾ってくれましたね! 最高ですよ! きっと今回の戦いでも役に立ちますから、期待していいですよ」
……逃げ撃ちスナイパー?
FPSなんかでも、地味に厄介なヤツだ……それ。
遠くからいきなり撃ってきて、一発撃った時点で追い撃ちもせず、一目散にスタコラサッサと逃げていく。
こっちが追いかけても、射程に入る頃には、もう影も形もない。
そして、忘れた頃になってから、こっそり戻ってきてまたスナイピング。
敵に回ると超厄介なストレス源……こう言う奴らがいるとチャットも怨嗟の声で溢れかえって、もれなく荒れる。
スナイパーは捕虜にされると、惨殺されることが多かったって言うけど、アレ納得。
けどまぁ、そう言う事なら、味方なら頼もしい限りだ。
突撃艦の性格の強い陽炎や不知火の同型艦なのに、性格や個性に応じた最適化戦術を発展させて姉妹艦にも関わらず、まるで別物になる……頭脳体ってのも色々面白いな。
「……戦闘になると逃げてばっかりで全然使えねぇから、引き取ってちょっと鍛え直してやってくれって、押し付けられたんだがな……。どうも、今頃になって駆逐艦共の間で、有名になってるらしいじゃねぇか。もう絶対返さねぇけどな! 押し付けた野郎にも、天津は、もううちの子ですって言い切ってやったよ! はははっ!」
「そりゃいいな。グエン提督のところも色々あったみたいだね。うちも新顔が増えて、賑やかになってるよ。しかし、このオッズとかってのは、さすがに不謹慎だって思うよ……人を賭けの対象にするなんて」
「まぁ、ブックメーカーは何でも賭けにしますからね。とにかく、敵も味方も耳目はあっちに集中してますからね。おかげで、こっちは気兼ねなく動けるってもんじゃないですか」
「確かに……。これじゃ敵も、まさか我々がこんな所にいるなんて、思っても居ないだろうさ。けど、マスコミまで使うってのは、尋常じゃないね……。これじゃ、ニュース番組なんて、もう全然信用できなくなりそうだ……」
「情報戦にマスコミを動員するのは、むしろ当然ですよ……。マスコミってのは、要はプロパガンダ機関ですからね。本来は情報戦や大衆誘導など、お手の物なんですよ。おまけに、667は真実の追求やらマスコミの使命、そんな高尚な精神なんてこれっぽっちも持ち合わせてない。とにかく、面白いかどうかとか、視聴率が大事ってTV局なんで、今後も局ぐるみで乗ってくそうです」
「……どうなんだろ……それって……。むしろ、オオカミ少年になってしまわないか? そんな派手な嘘番組流したら、誰も667の事を信用しなくなるんじゃないかな?」
「まぁ、あの局がやらせとか、嘘番組作るのは、今に始まったことじゃないんで、嘘番組でTV局としての信頼が下がるとかこれっぽっちも気にしてないそうです。なにせ現場からの生中継とは一言も言ってないみたいですから、あくまで「スタジオからの」生中継……酷い方便もあったもんです。ちなみに、見返りとして、作戦成功の暁には、ネタバラシした上で、独占レポートを受けつけるって事で話付けてるんで、そこんとこよろしくです。それにこの作戦上手く行ったら、手柄はあなた方二人のものとなりますんで……悪い話じゃないですよね」
「……我々は、実弾演習の帰り道で、救難信号を受信。救難信号を追って、クリーヴァの実効支配領域に出向いた所で、決死の覚悟で脱出してきた人質の乗った輸送船を保護、追手のセカンド艦艇群と交戦……それを撃退。勝つ前提だとは思うんだけど、そんなシナリオが用意されてるんだっけ? ……まったく、至れり尽くせりだね。怖くなってくるくらいだ」
「そう言うなよ、永友ちゃん。大義名分の名のもとに、スカッとひと暴れ出来るって訳だろ? そう言うシナリオなら、俺達は紛れもなく正義の味方だな! 銀河連合のお偉いさんは青くなるだろうけど、んなもん知るかってのっ! で、これが敵の陣容か? 空母ジョッフル、防空巡洋艦ド・グラース……。それに、ル・ファンタスカと、ル・トリオンファン……おいおい、こいつらもう四回くらい沈めてないか? まったく性懲りもねぇ奴らだな」
「そ、そんなに沈めてるんですか? 一応、シュバルツとの交戦は、不許可って話じゃなかったんですか?」
「なにせ、うちのマランとデリブルは、こいつら目の敵にしてやがってな。あいつら平時だろうがお構い無しで、見かけ次第ぶっ放してなぁ……。こないだも無断出撃して、軽く仕留めてきたって、ドヤ顔して戻ってきやがってな。実に困った奴らだ。あんまりにも困ったもんで、頭なでてやったよ!」
いわゆる同位体……異なる世界の同一艦同士は、すごく仲良くなるか、めちゃくちゃお互い毛嫌いするかと言う2パターンに別れるらしい。
あの桜蘭の伊400のイオンと、こっちの第9艦隊のヨーコ辺りは、意気投合しちゃったクチ。
話によると、あのイオンは第9艦隊に人材交換プログラムによる派遣艦として、レンタル移籍中だと言う話を聞いていた。
こっちのル・ファンタスカ系に限らず、フランス系艦艇群は連合軍として、第二次世界大戦を戦い抜いた関係で、ナチスドイツへの敵愾心が凄いと言う話を聞いてはいたけど、こりゃかなりの物らしい。
だからこそ、ナチスドイツの軍門に下り、誇らしげにハーケンクロイツを掲げる同位体の存在は、許容できない……多分、そう言う理屈なのだろう。
「ははっ……それはそれで、いいんじゃないですかね。連中、IFFマーカー切ってるから、いきなり撃たれたって文句なんて言えませんからね。表向き、和平結んで、裏でコソコソ戦う道を選んだのはあいつらですから、裏の流儀で相手したって何の問題もないでしょう。それとあとは同じくフランスのブーラスク級駆逐艦「ミストラル」「トーネード」の二隻と、ブーゲンヴィル級通報艦が4隻ほど。通報艦と言っても、駆逐艦並みの武装を持つ拠点防衛用ガンシップのようなものなので、侮れないかと思います。とは言え、いずれも通常火砲式なので、さしたる脅威ではないでしょうけどね」
シュバルツの艦艇も、レールガンは普及してるようなのだけど。
実は、色々問題があって、むしろ退化している部分が大きくなっている。