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第一話「彼女の軌跡」⑥

 シュバルツは、その軍勢は大した事はないし、技術力も潜行艦のような一部を除いて、決して高いとは言えないのだけど、とかく情報戦や搦手に長けているし、BDS残党と言う銀河連合の裏に通じている奴らと組むことで、やりたい放題……と行きたかったんだろうけれど、そうは問屋が卸さなかった。


 BDSも相応の人材、ノウハウも揃ってたみたいだけど、銀河連合の後ろ盾なしで、独力でもやっていける……ってのは、さすがに思い上がりだった。

 

 結果だけ言うと、水面下のBDS残党との暗闘は、すでにアタシら「裏門集」の完全勝利に終わっている。


 奴らは、その後方支援網をあらかた失い、銀河連合内に散らばり、様々な手段で銀河連合の転覆を画策していたBDSの元幹部達は、その大半がすでにこの世にはいない。


 これら一連の暗闘は、すべてこのアタシが指揮を執り、電子空間戦闘……ハッキングに関してはアタシ自らやってのけた。


 かなり、徹底してやったので、BDS残党は、もはやその実働部隊ロストナンバーズとその首魁カイオス・ハイデマンを残すのみ。

 

 シュバルツという信奉者達の支援を得て、まだまだやる気みたいだけど、確実に追い詰めつつある。

 ……けれど、情けも容赦もしなければ、慈悲もくれてやらない。


 BDSの上層部の奴らについても、PMCやら非合法武装組織と言った連中を隠れ蓑にしていたり、輸送業者に紛れ込んだり、政治家や企業に取り入るなど、銀河連合の様々な分野の到るところに潜伏し、それぞれがシロアリのように銀河連合の屋台骨を食い荒らそうとしていたようだったけれど。


 荒事専門の下位組織を動かしたり、ギャングやマフィア地味た奴らを動かして、その組織や協力者諸共、潰したり、時にアタシ自らの手で輸送艦ごと人知れず沈めたり、直接目の前に乗り込んだりと、BDSの幹部たちを一人一人確実に追い詰め、片っ端から始末してやった。


 降伏したり、恭順を願い出る奴らも居たが、ほぼ例外なく始末……まさに外道っ!

 ……けれど、これがアタシのやり方なのだ。


 慈悲がないにもほどがある……そんな自覚は大いにある。

 ……もはや、連中は、人材、情報、資材、資金……あらゆる面で、息してないくらいの致命的なダメージを受けている筈だった。


 けれども、戦いなんて、相手を丸裸にして、餓死しかけて、勝手に刀折れ矢尽きるってなったとこで、トドメを刺すに限る。

 もしくは、不意打ちドカンで一発でケリをつける……まさに、ベストオブベスト対応。


 だからこそ、アタシらには大仰な戦艦やら空母なんて、必要ない。

 足が速くて重火力の駆逐艦で、十分だった。


 何故、そこまで圧倒できたのか? 奴らだって、シュバルツと組んだ上で、これまで相当巧妙に立ち回っていたし、諜報組織としての実力も相当高いレベルにあった。


 そりゃもう、こっちはホーム、奴らにとっては、アウェーだったから?

 

 連中はその上層部諸共、組織ぐるみで裏切って、今までどおり、自分達の拠点や装備のつもりで、「BDS」管轄の施設や機材を好き勝手に使いまくってたけど、それを管理してるのは、基本的にAIだって事を忘れてたようだった。

 

 管理しているAI連中と直に話し合って、こちらが正規の権限を持つ後継者だと認めさせれば、あっさり手の平を返す……そう言うもんだろうと当たりを付けてたんだけど、やっぱりそんなだった。

 

 AIってのは、義理とか人情はさっぱり理解しない代わりに、論理的に正しいかどうかとか、筋が通ってるかどうかが、ものすごく重要なので、ロストナンバースのちょっと頭のおかしい頭脳体連中と違って、普通にお話し合いが通じた。

 

 このAIの意識体と言える存在にダイレクトアクセスし、直にコミュニケーションするなんてのは、この世界でも半ば忘れかけられた、失われた技術だったのらしいのだけど……アタシは、かつて対AI交渉人みたいな事もやってたから、いわば専門家。


 日本国国家公認、S級電子戦術諜報エージェント……それが21世紀末の頃のアタシの肩書だ。

 

 歴史データベースに記録されていない裏の歴史。

 当時身につけたスキルや勘は、再現体となっても、未だ鈍ってなかった……そんなのを敵に回した時点で、BDSの奴らの運命は決まっていたようなものだった。

 

 この時代のAIの意識構造も、21世紀後半に自然発生した超AIの流れを組んでたみたいで、セキュリティを力技でこじ開けて、その深層電子意識体にダイレクトアクセスするのも、アタシにとっては、そんなに難しいことじゃなかった。

 

 まぁ、そんな訳で奴らは、支援AI群や、後方支援組織を失い、資金や物資を奪われて、自分達も気付かないうちに敵地に孤立しているような状況に陥り、一人一人確実に追い詰められて、プチプチと殺されていったってのが、これまでのあらすじ。


 相手が悪かったね……実にお気の毒な話。


 もっとも、一連の残党狩りでアタシのチートぶりが、爺様達の間でもちょっとあれはマズイかもって話には、なっちゃったんだけどね。


 それもあって、アタシの存在そのものが銀河連合の再現体提督リストはもちろん、全てのデータベースから抹消される事になった。


 まぁ、どっちかと言うと、アタシのチートのヤバさが公になると、アタシの身に危険が及ぶからって、カタギリの爺様が気を利かせてくれたらしい。

 

 個人IDが抹消されると、死人になったようなもので、あらゆる権利がなくなり、お金を使うことすら出来なくなるのだけど。

 そこら辺は、こちとら銀河連合公認の諜報組織……偽造IDとかも作り放題なんで、別に全然困ってない。


 偽名や偽造IDなんて、二桁くらい余裕であるから、もうやりたい放題。

 銀行強盗や人殺しだって、現行犯で捕まらない限り、どうとでもなってしまう……やらないけど。

 

 なんにせよ、その存在自体が定かじゃない最高機密エージェント……なんかカッコいいよね?


 時代が変わっても、アタシのやってる事は変わりなかった。

 なんと言うか、つくづく因果な話だった。


 とにかく、お世辞にも、クリーンとも正義とも言い難いやり口なのだけど、カタギリの爺様は、アタシとご同類……灰色の正義の実践者だったようで、むしろそのスマートなやり口は高く評価してもらった。


 どおりで一発で、意気投合しちゃったわけだよ。


 爺様はアタシが自由に動けるように地ならしや便宜を図ったり、後方支援を纏め上げる役。

 アタシは、正義の執行者……すっかり、そんな風に役割分担が出来てしまった。


 と言うか、カタギリの爺様……なんかアタシの事、孫みたいに扱って、色々可愛がってくれてる。

 爺様がかつてのツテで引っ張ってきたやっぱり爺様、婆様だらけの「裏門集」の新幹部達からもアタシはモテモテだ。


 なお、その爺様達は、カタギリの爺様の戦友たちや、老人ホームで暇してたような方々ばかりなのだけど、皆、それぞれに怪しげな得意分野を持つ元エンジニアやら、諜報関係者やらで、結構な豪華メンバーらしい。

 

 アタシも元々、両親に早くに死なれて、高校生になる頃までは、田舎の爺ちゃんの所で生活してて、ジッチャンバッチャンっ子だったから、年寄り達ってのは嫌いじゃない。

 

 年長者は敬うもの……これは古今東西、不変の論理だと思うな。

 

 なんでまぁ、その期待に応えるべく頑張って見ることにしたのだね。


 何より、カイオスみたいなクズがのさばって、好き勝手やってるのにいい加減頭に来た。

 

 アタシが個人的に気に入って、目をかけてた永友提督もアイツに暗殺されかけて、バラバラの頭だけの状態にされた。

 それを見て、アタシは絶対、アイツぶち殺すって決めたんだ。

 

 野郎は、アタシを怒らせた……万死に値する。

 

 なんでアタシは、アイツを崇めてるセカンドのナチス共も、この世界で我が物顔ででかい顔してるクリーヴァもまとめて叩き潰すつもり。

 

 アタシは救世主でもなく、英雄でも無い。

 

 言わば、劇薬だって自覚はある。

 たぶん、アタシは灰色どころか、限りなく真っ黒の悪党だ。

 

 悪を殺す為の悪……たぶん、それがアタシと言う存在の本質だ。

 

 悪いけど、アタシは敵を滅ぼす代わりに味方や罪のない民間人だって、必要ならまとめて焼き払う……そう言う手合いだ。


 この戦いは……そんなアタシの揺るぎなき灰色の正義を、この銀河に轟かせるための号砲のようなものなのだ。

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