第一話「彼女の軌跡」③
……体型くらい選択の余地くらいあって欲しかった。
どうも、この身体は15歳くらいの頃のアタシで、恐らく女子高生やってた時の身体っぽかった。
若干、背丈も小さいし、これでも色々控えめにはなってる。
高校入学時の健康診断の時の身体データでも残ってたのだろうか?
なにも、そんなもん使わなくてもいいだろうに……。
でもまぁ、20代になる頃には、生身の身体なんて、ほぼ捨ててたから、全うな身体データの公式記録なんて、それくらいしかなかったんだろうな。
それはそんなどうでもいいことは、ともかく、今回の作戦について。
一言でいえば、最近調子に乗っている異世界からの侵略者共の手先、悪徳星間企業、クリーヴァ社が不法に拘束しているアドモス、エスクロンの両社の重要人物達を奪回救出する作戦だった。
L5732中継ステーション。
クリーヴァ社保有の武装ステーションの一つなのだけど。
この施設に、カドワキ氏達人質が移送されたという情報をアタシらは入手し、独自に奪回作戦を立案していたのだ。
クリーヴァの連中に言わせると、人質達は本人達の意思で自分達に協力するために、進んで残留しており、賓客として厚遇、技術提供など自主的に協力してくれている……なんて言ってるけど、重要拠点やら自分達の重要人物の行く先々に連れ立ったりとか、やらせてる事は人間の盾以外の何物でもない。
銀河連合や各社は、再三の返還要求をしているのだけど、一向に応じる気配もない。
アドモスの方々の話だと、莫大な身代金を提示した上で、水面下で交渉しているらしいのだけど、向こうとしては、そう言う事なら……とちょっとはグラついてるみたいなんだけど、もっと上の方から、絶対返すな……みたいな圧力がかかってるらしく、難航しているらしかった。
アドモス社に至っては、社長とそのお付の幹部やトップエンジニアを人質に取られている関係で、武力奪回も辞さないと警告してるのだけど、如何せん人質を取られてる関係上、どうしても強く出れないでいるようだった。
……と言うか、割と銀河連合でもアドモスに代表される武闘派企業の幹部やら、タカ派として知られる政治家とかが軒並み人質にされているってのが、もろに銀河連合の情勢に悪影響を与えていた。
たぶん、コレが狙いなんだろう……多分、返還に応じないように指示を出しているのは、あのクソ野郎。
シュバルツやウラルの連中は、割合現金なところがあって、お金をチラつかせるだけで、交渉に応じる姿勢くらいは見せてくるのだけど、野郎はクールだ。
目的のためには手段を選ばない……蛮族の方がまだ可愛げがある。
アタシらとしても、銀河連合のタカ派の巻き返しの為にも、まずはこの人質を奪還することが最優先だと判断し、武力奪還作戦を立案、諜報戦の末に人質の護送先を特定、戦力を集めて急襲……と相成った。
この作戦は、単なる人質救出に留まらない……この作戦が成功すれば、今の情勢を軽くひっくり返すほどの効果が見込まれている。
……静かなる決戦の舞台と言っても過言じゃなかった。
もっとも、この施設……クリーヴァ社にとっても重要拠点のようで、相応の戦力を集めて、厳重に警備していて、さすがに正面からでは、アタシらのような駆逐艦4隻程度の小艦隊では、歯が立たちそうもなかった。
本来ならば、アタシら単独で秘密裏に人質を救出したかったのだけど、敵も自分達の勢力範囲内とは言え、人質の重要性は解っているらしく、相応の警備体制を強いていた。
その戦力は約10隻……軽く一個艦隊。
……陸戦隊も一個中隊はいると見てよかった。
敵地奥深くの中継ステーションの警備にしては、大げさ過ぎる……どうも、こちらが救出に動いている事がバレているフシがあった。
……罠の可能性、それも十分考えられた。
であるならば、たとえ罠であろうと、それを力づくで食い破れるであろう猛者を助っ人として、当てることで対抗する。
その点に関しては、永友、グエンの両艦隊は適任だと言えよう。
この二艦隊は、これまで黒船との戦いや桜蘭との戦いでも、常に最前線に位置する場所で重要な役目を果たしてきていた。
……明らかに、なにかを持ってる連中だった。
この重要な戦いの勝利を託すに足りる……それは断言して良いだろう。
なお、現時点では、アタシら第431独立駆逐隊「白兎隊」は、銀河連合からの正式な指揮系統下にない。
「裏門集」……そんな風に呼ばれる銀河連合の裏稼業を秘密裏に執行する隠密組織の一員ってのが、今のアタシらの立場だった。
ちなみに、この「裏門集」……なかなかに因果な組織で、元々はあの侵略者共の首魁カイオス=ハイデマン率いる銀河連合の不正規戦専門の裏組織だったのだ……当時は、そのままアルファベッドの略称で「BDS」……なんて味気ない名前で呼ばれていた。
もっとも、その「BDS」は、その所属艦艇群「ロストナンバーズ」がすべて行方不明となり、その指揮官カイオス・ハイデマンはもちろん、主要幹部は全員、裏切ったり、逃亡、変死を遂げたりして、既に誰一人として残っていない。
そして、奴らが引き起こした「クリーヴァ動乱」と呼ばれる一連の事件。
アレ以来、この銀河系は混迷としている。
もう一つの銀河系……セカンドから流入、武力介入してきたドイツ、ロシア系の艦隊は、続々とその勢力範囲を広げつつあり、それに協力するカイオス達ロストナンバーズの連中と、その手足にして隠れ蓑たるクリーヴァ社。
こいつらが好き放題やってるという状況が続いている。
もっとも、その大本になったカイオス達の起こした内乱自体は、現時点では表向き収束している。
プロクスター港で奴らが起こした大規模テロ。
アドモスとエスクロン社との話し合いの場でのロストナンバースによる襲撃と、その場に居た要人の不法拘束。
そして、それに続く、エーテルロードの不法占拠行為や海賊行為の数々。
クリーヴァとその協力者達は、軽く一線を越えてしまったと言う事で、銀河連合上層部の思考停止のどさくさの中、銀河連合軍の有志により立ち上げられた義勇軍と、クリーヴァ社、シュバルツハーケン、ウラルの連合……二つの世界の全面武力衝突まで行ったのだけど。
タイミング悪く発生した黒船の同時多発大規模襲撃で、こっち側の世界も割とガチで危うい状況になってしまったのだ。
そんな折に、クリーヴァ社側から銀河連合への停戦と共闘の申し出があって、ヌルさに定評がある上に、自分達の意に反して義勇軍等という武装勢力の台頭を、なし崩し的に認めさせられていた銀河連合のお花畑上層部は、その甘言に現場の反対を押し切る形で、嬉々として飛びついてしまった。
手の平を返したようなセカンドの連中の協力や、楼蘭帝国からの義勇軍派遣、銀河連合軍の切り札たる中央軍艦隊の正式出動などもあって、この大規模襲撃自体は、なんとか撃退に成功したのだけど。
それでも、初動対応の遅れから、いくつもの辺境警備艦隊が壊滅し、多くの再現体提督がエーテルロードの露と消え、数多くの中継ステーションが陥落し、数十箇所に及ぶ連絡途絶星系が発生……。
控えめに言っても、大損害を受けて、現在、その被害の復興に全力を挙げていると言うのが実情だった。
それに加え、クリーヴァ社やセカンドの連中に、エーテルロード外縁部の正規航路の1/3を抑えられているという状況に変わりはなく……。
情勢が落ち着いてみたら、かえって状況が悪化していたという始末。
もはや、この銀河のエーテルロードに、別の独立勢力が作られてしまったようなもので、平面環状構造と言うエーテルロードの構造上、はっきり言って大問題になっているのだけど。
クリーヴァやセカンドの連中の協力の見返りに、銀河連合のお花畑将軍やら政治家が、不法占拠状態にあったエーテルロード外縁部の一部を、正式に連中の領土として、その進出を認めてしまったので、もはやなし崩し的に……と言うやつだった。
上層部の連中のありがたきお言葉。
「黒船との戦いに疲弊し、新天地を求めてきた難民同然の人々に門戸を開き、友愛精神に基づき、同胞として、暖かく迎え入れようでないか」
……そんなお花畑な綺麗事を並べた挙げ句、連中との抗争を固く禁ずるとのお達し。
思いっきり、侵略されているのに、そんな美辞麗句を並べる辺り、もはや正気を疑いたくなるようなお話ではあるのだけど、連中はいたって正気だった。
何よりも、黒船の大規模襲撃の際に、もっとも激しく戦い辺境星系を命がけで守った辺境警備艦隊も、大きな被害を受けており、侵略者達の蛮行にとても対抗出来ないと言うのが現実だった。
セカンドから押し掛けてきた奴らも、艦隊同伴で大量の銃火器で武装した難民とは、とても言い難い奴らだった。
と言うか、どこからどうみても軍隊。
恐喝同然に、各地のステーションに勝手に駐留し、開発中の有人惑星から住民を武力で脅し追い払うと、自国民を入植し、我が物顔で領土主張を始める。
資源開発星系の中継ステーションを占拠して、採掘業者を脅して、タダ同然で水素資源やら金属資源を略奪だの……もうやりたい放題。
難民どころか、明らかな侵略行為。
辺境でそんな事が起きているのも、全く解ろうともしないお花畑共は、自らの言葉と行為に酔いしれて、敵の謝辞や、何も知らない市民達の賛辞の言葉を聞いて、悦に浸る……これがこの世界の中枢を占める指導者達だと言うのだから、もはやあきれてものも言えない。
連中も調子に乗って、隙さえあれば、銀河連合の領域にちょっかいを出してきて、たびたび小競り合いを起こしながら着々と勢力を拡大しつつある。
蛮族共は、限度ってものを知らない。
……そこに進出できる余地があるから……そんな理由で侵略の手を次々と広げる。
直接被害を被る辺境星系国家や星間企業の中には、独自に独立艦隊を雇い入れたり、無人艦隊による独自武装化を始め、頻繁に小競り合いは起こっていた。
そんな風に、各地の勢力が独自に武装化すると、今度はちょっとした利害の不一致で内輪もめが始まる。
もはや、辺境は無法地帯のようなものだった。
中央の語る「平和」「友愛」「友好」……その耳聞こえのいい言葉と、麗しき理念の果てがこの有様。
既に辺境外縁部は中央の統制を離れつつあり、長年の外敵の不在と言う平和の中で、緩やかに纏まっていただけの銀河連合は、その根本的な脆さを完全に露呈し、空中分解の兆しすらも見せつつあった。
それに加え、黒船の大規模襲撃も一回派手にやりあってからは、嘘みたいに沈静化していた。
本来の敵……黒船が出て来ないまま、人間同士の争いが続く……そんな状況では、天霧達のような戦闘艦群は、とても使えず、彼女達も歯痒く思いながらも、この状況を黙ってみているしかなかった。
アタシは、あの大規模襲撃自体が、セカンドの連中プロデュースの自作自演なんじゃないかって見てるんだけど、実際、その可能性は否定できなかった。
実際、あの襲撃がきっかけで、おかしな流れが出来てしまった。
それに、奴らの出現ポイントも、こちらがノーマークだった手薄なところを狙ったかのように、大挙して現れた。
あまりに不自然、かつ作為的だと指摘する者も大勢居た。
そして、この銀河連合の瓦解へ向かわせるプロセスも……ものの見事に中央と辺境を心理的に分断した上で、巧妙なプロパガンダとの組み合わせて、的確に銀河連合のウィークポイントを突いてきていた。
これら総てが偶然の積み重ねなのだとしたら、あまりに出来すぎだった。