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第一話「彼女の軌跡」②

 ちなみに、現存する同一人物のコピー再現に関しては、成功した試しが無いという話だった。


 なので、再現体ってのは、基本的にオンリーワン。

 この時代の技術者も何故か理由が解らない……なんて話をしてたけど、アタシに言わせれば、当たり前の話だった。

 

 魂がコピーできない以上、どんなに正確な人格再現やコピーを行ったとしても、それはロボットや人工知性体の域を出ることは決して無い。

 

 であるからこそ、アタシはこの再現体の体に宿り、この世界を認識している今のアタシこそが、アタシなのだと確信していた。


 つまり、アタシは……600年の時を超えて、未来世界に降り立った電子世界の戦闘狂ウォーモンガー……戦争請負人、天風遥に他ならない。


 やれやれ、生まれ変わったつもりになっても、結局、あの頃とやってることは変わりなかった。

 まったくもって、因果な話だった。

 

「夢……ですか? 二次大戦の駆逐艦だった頃の記憶とか、TVとか記録映像に入り込んだような感じのとか……人間でいうところの夢みたいなのは見ますね」


 そんなことを考えていると天霧の声で我に返る。

 おう、質問して投げっぱなしで考え事とか……やっぱ、頭が半分、寝てるな。


 いい加減、目を覚まそう……そんな事を思っていると、天霧がCIC備え付けの冷蔵庫から、冷たいおしぼりを差し出してくれる。


 まったく、実に気の利く相方だった。


 おしぼりで顔を拭いて、首筋を拭く……何ともオッサンみたいだけど、寝汗でベタついて気持ち悪い。

 時間があったら、シャワー位浴びたいけど、そんな時間は無さそうだった。


 胸元をはだけて、ゴシゴシと汗を拭いていると、さすがに天霧がジト目で見てくる。


 はしたないですよ……と言いたげなその視線に慌てて、胸元のボタンを嵌めて、首元の飾りリボンを締め直す。

 天霧って、上陸オフの日なんかに、下着姿で艦内ウロついてても何も言わないのに、CICに居る時は、やたら服装やらにうるさいんだよね。

 

 まぁ、いきなり他所から、通信……とかも、よくあるから、そんな時にこんな風に、ぽろりと胸はだけてたりなんかしたら、相手も困る……。


 頭脳体は、女の子ばっかだけと、女性提督ってのは、割とレアキャラな上に、立場上対外交渉の機会も多いんだから、そこら辺は気を使わないいけない……正直、めんどくさい。


「おしぼりありがとう。うん、気が利くね……。冷蔵庫欲しいって言ってたけど、こう言う利用方法もあるってことか。おかげで、スッキリ目も覚めた。けど、寝ても覚めても戦争なんて、そんなじゃ気の休まる時がないんじゃないか……。いっそ、機能オフにとかって出来ないもんなのかね」


 おしぼりは……。

 まぁ、こんな風に数日、お風呂サボったりする事も多いので、その間身体を拭くくらい出来るようにって事なんだろう。

 あとで、せめて下着くらい変えとこうっと……さすがに、ちょっと臭うような気がする。

 

 まったく、体臭とか要らんものまでしっかり再現とかやめて欲しい……アタシも女子なんだから、そりゃそう言うのはちょっとは気にする。


「いえ、むしろ海の上をゆったーり、まったりーと航行したり、海のど真ん中で水平線に囲まれてるのをぼーっと眺めてるって、そんな感じの夢をよく見ますね。実際、海の上なんて航行したことはないんですが……あれは、なかなか、気持ちいいものですねー。なんでも、記憶データの整理、調整過程で、過去の記憶の追体験みたいな現象が起きるんだとか……セルフプロデュースな暇潰しVR体験みたいなもんですかね。あれはあれで、悪くないので、オフにするってのは、ちょっともったいないですね」


 ……艦の見る夢が……海を往く夢とか、なんだそれって思うけど。

 アタシはアタシなりに、彼女達頭脳体は戦闘艦の魂が具現化した存在なのだと推測していた。

 

 そもそも、魂とは何なのか?

 アタシの知る限り、「それ」は、いかなる方法でも観測出来ていない。

 

 有史以来、もっともその禁忌の領域に近づいたであろう21世紀末の天才科学者達と、当時最高クラスの超AI群の叡智を持ってしても、その存在は理論上あると結論付けられていたけれど、その観測には成功していない。

 

 データ上でも、魂の乗っている電子意識体と、それをダイレクトコピーした電子意識体を比較ベリファイしても、その差分は誤差レベルに留まる。

 

 けれど、その誤差レベルのノイズ。

 いかなる方法を用いても、決してゼロになる事がないそれが、いわゆる魂のデータではないかと、言われてはいた。

 

 結局、仮説のみで、証明はされず終いだったのだけど、とにかく、魂の実存はあの時点でほぼ立証されていた。


 そして、魂は人や動物と言った有機知性体のみに宿るものではない……そんな仮説も唱えられていたし、あの時代に突如現れた超AIも、同一コピー体が作れないと言う同じ特徴を有していた。


 何より、超AI達への「結局、お前たちは何者なのだ?」……そんな研究者の質問への答えがこれだった。

 

「我は我である」

 

 ……あれは、実に傑作だった。

 今のアタシだからこそ言えるのだけど、そう断言できる時点で、もうあれらは、魂を持つ存在だったと言える。

 

 多分同じ質問を、天霧達にしてみたら、同じような答えが返ってくるのだろう。

 実際、同じ質問を投げかけてみたこともある。


「天霧は天霧なんですが、それが何か?」


 当たり前にように、そう返してきて、ああやっぱりと思ったものだ。


 まぁ、だからと言って何だって話ではあるのだけど。

 過去の戦闘艦の再現体でもある天霧達も、やはり同一存在たる同型艦は作れないでいた。

 

 実際、彼女達過去の戦闘艦の再現艦のコピー量産型の生産も試みられたようなのだけど、どうやってもその性能はオリジナルには遠く及ばない……単なるAI無人艦と同等レベルの代物に成り下がってしまうのだ。

 

 そう考えてみれば、彼女達はこの世界の宇宙の海……鈍色のエーテルの海しか知らないにも関わらず、海を征っていた頃の記憶を覚えているのも、当たり前なのかもしれない。


 アタシもそうなのだけど、アタシら再現体と言うのは、明らかに歴史データベースに記録されていない生前の記憶というものを持ち合わせている。

 

 天霧達、戦闘艦もやはり当時、その場にいない限り、知りえないような戦場の詳細な状況描写、乗員達の会話の一つ一つ……そんなものまで記憶していて、これまでも色々語って聞かせてくれていた。


 そして、彼女達が経験した苛烈な戦闘の記憶……それらは、確実に彼女達の戦闘力に多大な影響を与えていた。

 

 このエーテルの海を往く全ての艦の故郷……地球の海。

 彼女達、古き戦争の時代の戦闘艦はそこで生まれ、戦い、散っていった。

 

 彼女達にとっては、このはるか未来世界の戦いも、一種の延長戦のようなものなのだろう。

 それに故に、その魂の故郷たる海に、並々ならぬ郷愁を抱いているのもむしろ、当然と言えるのかもしれない。

 

「……ははっ、そのうちどこかのリゾート惑星の天然の海にでも行くかい? アタシは水着を着て、海で泳ぐとか遠慮しとくけどね」


 かつて、小中高と水泳の授業は、サボり倒したくらいだからね!

 この時代、息しなくとも体内への酸素供給が可能なナノマシンもあると言うし、別に泳げなくたって何とかなる。


 そもそも、このエーテルの海は、落ちたら最後。

 泳げる泳げないなんて、関係なしで、ゲームオーバー!


「おおっ! 海ですか! いいですねー! 島風達から海で遊んだって話聞いて、すっごく羨ましくて……。皆でいつか行ってみたいってお話してたんですよ! 是非、ご一考お願いします!」


「ああ、そんな暇があるかはともかく、たまには何処かでゆっくりする機会も欲しいよね……今度、爺さん達と掛け合ってみるよ」


「はぁ、そうなんですよね……。私達がのんびりできるような平和な時代なんて、ホントに来るんですかね? っと、最終ブリーフィングのお知らせの途中でした! 失敬、失敬! 報告しますっ! 先方はすでに、回線接続待機状態でお待ちです。でも、その前に、身嗜みくらい整えましょうね。髪の毛ボッサボサだし、制服もたまにはちゃんと着てください」


 言いながら、天霧が櫛を手渡してくれると、椅子にかけてた提督服を着せてくれる。


「べ、別にこれくらいなら、通信回線越しなら解らないと思うよ……。それにこれくらい一人で出来るよ!」


「……駄目です! 提督にまかせておくと、どうせチャッチャと軽く梳いただけで、おしまいとかなるんですから……この天霧にお任せです!」


 まぁ、それくらい自分でもやれるんだけど、天霧も妙に世話好きなところがあるので、ここは敢えて身を任せる。


 天霧がスッスッと髪を梳いていくと、艶もなくくすんで絡み合ってた黒髪が、見る間にまっすぐまとまって、艶を取り戻していく。


 悔しいけど、こう言うのは天霧のほうが手慣れてる。

 アタシが自分でやると、櫛が引っかかって、ブチブチ言ったり、途中でどうでもよくなって、天霧の言う通り、軽くサッサと梳かして、終わりにしたりする。


 天霧の世話焼きは、着替えや髪の手入れに留まらず、お料理に洗濯、お掃除……黙ってると、お風呂にまでやってきて、背中を流そうとしてくれたりとかまでする。

 

 さすがに、お風呂くらい一人でゆっくりしたいのだけど、忙しいとついついサボりがちになって、強制連行されて、無理矢理、裸にひん剥かれるハメになる。

 

 ……まぁ、全面的にアタシが悪いような気もするけど。

 さすがにアレは、恥ずい……体くらい自分で洗えるっっての。

 

 けど、なんだっけこれ……「嫁」ってヤツ?

 寝てると、アタシの布団に潜り込んでくることもあるし……。

 アタシ、そっちのケはないけど、事実婚と言うヤツなのではなかろうか……?


「提督、ちょっと失礼しますよ。よいしょっと」


 ……うん、狭いもんで思い切り背伸びしつつ、髪を梳かそうとしてくれてるんだけど、なんか、おっぱいとか顔にグイグイ押し付けられてる……。


 この子らって、あんまそう言うの気にしないと言う、困った欠点もある。


 同業者の男性提督さん達も、日々こう言う刺激的なコトされて、大丈夫なのかね?

 ……他人事ながら、ちょっと心配になる。


 でも、同性にそんなのやられても、全然嬉しくないし、天霧の胸なんてかぎりなく平面……どう言う絵面なんだこれ? 誰得なんだ?

 

「あ、天霧……胸が当たってる。さすがにこれは嬉しくないから、どけろ」


 フヨフヨとか柔らかい感触はしない。

 むしろ、硬い……痛いぞ?


「す、すみません。私、背も高くないので、反対側を梳かそうとすると、どうしても……当たっちゃいます。私も提督みたいなマシュマロヤワヤワおっぱいだったら、良かったんですけどね……ホント、羨ましいですよ」


 ……言いながら、アタシのおっぱいがツンツンと小突かれる。

 うん、持たざる者ってのは、どう言う訳か持つものに対して、必要以上のコンプレックスを抱くものらしい。

 

 無駄にデカいのを持ってるアタシに言わせると、こんなもん……邪魔くさいデッドウェイトに他ならないのだけど、天霧の前では、そんな事は口が裂けても言えない……。

 

 実際、何の役に立つかって聞かれたら……うーん? 胸部強打の際のクラッシャブルゾーン?

 本来の役割を果たす可能性……あるわけ無いじゃんそんなの。

 

 むしろ、セクハラ視線の的になるとか、肩が凝るとか、歩いてると自然に前かがみになるとか……。

 デメリットしか感じたこと無い……。

 

 いっそ身体改造して、戦闘用のハードスキンで全身覆って、潔く取っ払ってしまってもいいって思ってるくらい。

 

「それにしても、作戦支援艦隊として、永友艦隊とグエン艦隊を指名したら、本当になんとかなってしまったよ。まったく、銀河連合の最高精鋭艦隊を使えるなんて、実に豪勢な話だ……爺様には感謝しないとね」


 おっぱい論争に付き合うと、大抵天霧がエキサイトして収拾がつかなくなるので、ここはもう関係ない話をふって有耶無耶にしてしまうに限る。


「そうですね! 私達も十分精鋭だって自負してますけど、実戦経験と実績に関して言えば、両艦隊は銀河連合軍でもトップクラスの実力派ですからね! いやはや、共に戦うとなると、実に頼もしい限りですよ。あ、こんなもんで、いいですかね? やっぱり、素敵ですね……遥提督っ!」


 天霧が鏡を見せてくれて、なんだか久しぶりに自分の顔を見たような気がする。

 

 本来、腰近くまである長い黒髪は、念入りに櫛を通した上で赤いリボンで一つに束ねられて、前の方に無造作に垂らされている。


 普段は、髪の毛なんて無頓着で絡まり放題でボッサボサなんだけど、ちゃんと櫛を通すと綺麗にまとまって、艶もあって、何とも清楚な薄幸美少女っぽくも見える。

 

 女子高生やってた頃は、そばかす顔だった覚えがあるのだけど、そこら辺は再現されてなく、色白で透き通った肌で、なんか普通に美少女って感じ……割と不健康な生活を送ってるって自覚はあるけど……。

 

 その割には、顔もすっきり細面って感じで、そのやたらと生白い肌色と合わせて、すごく儚さそうな雰囲気に見える。

 

 ややつり上がった目のフチのクマは、いつもの事だけど、照明の関係であんまり目立たない。

 と言うか、これのせいで病弱みたいな感じに見えるっぽい。

 

 うーむ、アタシとしては思いっきり、苛烈な武闘派軍人を自覚してるから、なんか外面と内面のギャップが凄いな。


 言葉遣いも乱暴って、自覚してるし……。 

 いっそ思い切って、髪の毛バッサリ揃って、ボーイッシュにイメチェンでもしてみようかな?

 

 でも、昔からこの長い黒髪には愛着がある。


 まぁ、一見大人しげな清楚な美少女……その実、苛烈な戦闘狂ウォーモンガーってのは、前々からだからね。

 今更、イメチェンとかないだろう……結論、これはこれでよし。

 

 スカートは嫌いなんで、パンツスタイルの黒基調に赤い縁取り入りの士官服も、なかなか渋くてカッコいい。


 余計なジャラジャラした飾りとかもなく、飾緒と呼ばれる飾り紐と、三ツ星の入った肩章と、胸に飾られた千本鳥居を模したような「裏門集」の隊章が飾られているだけだった。


 なお、階級は特務一等武官と称する階級で、大佐相当の権限があるらしい。

 一応、裏門集の最高階位でアタシより上は、もう一番偉い長官しかいない。


 なんか、色調的に悪役って感じにも見えるけど、まぁ、コレはコレで悪くない。


 椅子の端に引っ掛けてあったくすんだ暗い赤色……蘇芳色すおういろのベレー帽をあみだに被ると、なんかどこぞの悪の女幹部って感じもしてくる。


 くわえタバコとかしたら、もう完璧かも……クールッ!

 まぁ、タバコなんて臭いから吸わないけど……同じ口に咥えるなら、お菓子の方がいいなぁ。


 ……けど、悪の女幹部っての、実はそんなに的外れでもない……善にもクリーンにも程遠いからね……アタシって奴は。


 立ち上がると、背丈も160半ばとそれなりにあるから、凛とした武人然とした雰囲気になって、ちょっとカッコいい。

 ……これで、胸やお尻がもうちょっとスマートなら良かったのだけど……。

 

 どっちも無駄にボリュームがあるので、なんだかデブってるような感じもするんだけど、他は細いんで、そこの二つが悪目立ちしている。


 背中を反らして姿勢を正そうとすると、否が応にもその双丘がボヨンと揺れて、要らぬ自己主張を始める。


 ……物凄ーく邪魔なんですけど、コレ。

この子、全く別の作品の主人公キャラだったんで、実はめちゃくちゃ膨大なバッググラウンドがあります。

なので、紹介パートも長いです。(苦笑)

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