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第一話「彼女の軌跡」①

「提督、各艦隊……所定の配置に着きました。まもなく、最終ブリーフィングの予定時刻です。当艦頭脳体、天霧……頭脳体共鳴通信による相互接続状態に入ります……最終接続許可を願います。……というか、いい加減起きてくださいよ」


 駆逐艦天霧の提督席でアタシは、天霧に揺り起こされる。

 

 ……ちょっとした夢を見ていた。

 

 一言でいえば、昔の夢だ。

 もはや600年も昔、21世紀の後半のころ……アタシが普通とは言い難い女子高生とかやってた頃の夢。

 

 あの頃と、この27世紀の世界……本当に繋がりがあるのかすら疑わしい程の、長い長い年月の隔たりがあった。

 私の知る人や懐かしき風景……そんなモノは、もはやデータベースの記録の中にしか存在しない。

 

 600年もの年月の中で、変わらないのは、夜空の星々の瞬きのみ……いや、その星の光の速さすら、この時代の人々は軽く飛び越えていく。

 

 ここは、あまねく星空の彼方。

 遠い銀河の星々を接続するエーテルロードと呼ばれる……銀河の裏側の世界。

 

 ……そして、アタシはこの環状世界の守護者と言える存在だった。


 それにしても、そんな遥か遠い未来の世界で、気が遠くなるほど遠くに来たと言うのに、あの頃の夢を見るとは……。

 ……まったくもって未練がましい話だった。


「ああ、すまない。いつの間にか居眠りしてたよ。どれくらい眠ってた? と言うか、顔っ! 近いっ!」


 目を開けると、真っ黒のブレザーを着込んだ灰色のセミロングの眠そうなタレ目の女の子が、文字通り目の前にいて、覆いかぶさるように覗き込んでいる所だった。

 

 彼女は……エーテル空間戦闘艦、駆逐艦天霧の全システムを司るヒューマノイド・インターフェースユニット「天霧」

 

 通称、戦闘艦艇頭脳体とも呼ばれるアタシのこの世界に来てからの相方とも言える存在。

 彼女と共に駆け抜けた幾多もの戦場……この世界での思い出なんて、それが全てと言っても過言ではなかった。


「そうですね。ざっと一時間くらいですかね……。提督のご判断が必要な状況もなかったので、敢えて放置してましたが、やっぱり、起こした方がよかったですか? 近いのは仕方ありませんよ……このCICも、なかなかに手狭になってしまっているもので……」


 ……四畳半程度のスペースにコンソールやら、操艦ユニット、提督席やらとどう見ても詰め込みすぎたった。

 空間投影モニターは別に場所を食わないのが、その最大の利点なのだけど、非常用のシールドユニットだのかさばるものが色々多過ぎる……。

 

 おかげで、トイレや食事で、CICから出入りするのにも一苦労するようになっている、これ……一度見直しをしないと、駄目かもしれない。

 

 なにせ、眠くなっても床に寝ると言う贅沢すら許されない上に、たまにCICの中で、二人ですれ違おうとして、揃ってお尻同士が引っかかる……なんて事もある。

 

 別に天霧は悪くない……天霧は中学生くらいのコンパクトボディに、絶壁胸のスットン体型。

 引っかかるような部分なんて無い。

 

 ……アタシのお尻が無駄にデカイからだ。

 太ってる訳じゃない……いわゆる、尻デカ安産体型なんだよ……こんちくしょう。

 基本細めなので、腰やお腹はキュッと括れてる……なお、胸も無駄にデカい。

 

 背丈は、そこまでデカくもないので、所謂トランジスタグラマー。

 ロリ巨乳とはちょっと違うぞ。


「いや、気遣いありがとう。まったく、柄にもなく熱心に作戦立案やら情報見分とかやってて、延々72時間は起きてたからねぇ……。おかげでちょっとはすっきりしたよ。まったく、どうせ電脳チップのバイオサイボーグ体にするんだったら、ついでに睡眠とか必要ない仕様にして欲しかったって……たまにそんな事を思うよ」


「睡眠……最小稼働状態での定期システムメンテナンスは、私達頭脳体でも必要不可欠ですからね。再現体でも連続稼働時間が48時間を超えた辺りから、反応速度低下や思考能力の低下と言った軽微な障害が起きますからね。短時間でも、休める時に休むのが戦士の嗜み……提督もよく言ってるじゃないですか」


「そういやそうだね……。まぁ、その辺はお互い様ってところかな。そう言えば……気になったんだけど、君らって夢とか見るの?」


 ちょっとしたいたずら心で、天霧にそんなことを聞いてみる。

 

 再現体に使われている人工脳は、その本体は5cm四方程度のチップサイズながら、人間の脳を完全にエミュレートしてるから、人間の生理現象やら欲求も全部再現されてる。

 

 ロボットの身体のようで、そうでもない……人間やってた身としては、ほぼ違和感を感じない理由のひとつだった。

 よく出来てるんだ、実際。

 

 汗もかけば、血も涙も流す……お腹も空くし、トイレにだって行きたくなる。

 なにもそこまでって言いたくなるくらい、人間の生理機能を再現しつくしている。


 まぁ、アタシらは一応、エーテル空間なんて過酷な戦場で、戦闘する事を想定されてるから、生身の人間よりは遥かにしぶといし、それなりにハイスペックな強化チューニングが施されてるんだけどね。

 

 元々は、医療技術から発展した技術らしいのだけど、全く科学の発展って言っても、限度ってもんがあるだろう。


 と言うか、今のアタシは、過去に存在した人物を再現した言わば、有機アンドロイド。


 要するに、アタシは過去に生きていた「天風遥」……ではなく、彼女同様の記憶、スキルを持つ「天風遥」と思い込んでいるロボットのようなものだ。

 

 けれど、アタシはこの再現体とやらは、「魂」の領域に踏み込んだ技術なのだと感じているのだけどね。

 

 アタシは、21世紀末の頃に、当時の最新技術だった電子意識体への魂の転写……と言うべき技術の被験体をやってたから、そう言うのを感覚的に理解している。

 

 どんな形にせよ自分自身のコピーが作れてしまうとスワンプマン問題というものが発生する。

 簡単に言うとそれは、自分のコピーが可能だとして、コピー元とコピー先、果たして、どちらの自分が正規の自分なのかという哲学的な問題だ。


 けど、アタシはその答えを知っている。

 魂が宿る側……そんな漠然とした答えになるのだけど、それがこの問題の答えだ。

 

 魂が宿った側には、その主観と記憶が連続するだけでなく、誰に言われるまでもなく、一種の確信が得られるのだ。

 

 アタシはアタシであると。

 

「我思う故に我あり」……17世紀の哲学者、ルネ=デカルトの言葉だ。

 この言葉こそが、まさに真理を突いているのだと……アタシは断言する。


 魂は複製が出来ない……多分、これはどれだけ時間が過ぎて、科学が進歩しても不変の事実だろう。

 

 もっとも、複製……コピーが出来ないというだけの話で、魂の電子データ化は不可能ではない。

 そして、移動……つまり、カットアンドペースト方式であれば、電子データ化の上での転送が可能となる。

 

 つまり、電子データ化した上での長期間保存やデジタルデータとして、ネットワーク転送をかけたり、記録媒体経由で移送させる事は、容易に出来るのだ。

 

 なお、魂の担い手は、必ずしも人体と言うハードウェアに依存しない。

 仮想電子世界のVR体であろうが、メカメカしいロボットだろうが、その受け入れ先にはなり得る。


 実際、アタシはそれらを自らの身体とした経験がある。

 それどころか、戦車や戦闘機と言った兵器そのものを自らの身体として、苛烈な実戦を戦い抜いた経験すらある。

 

 もちろん、最初は違和感はある……人体にあるべき機能がなく、出来ないはずのことが出来る。

 視界、聴覚、世界の認識そのものが、別物になると言うのは、並の人間では正気を保つことすら難しい。

 

 けれども、アタシを含めたある種の人間は、その差異を平然と受け入れることが出来る。

 両腕の代わりに鋼鉄の翼で空を舞い……殺意を弾丸と化して敵を屠る……そう言う芸当がごく自然に出来る……アドバンスド・ヒューマンと呼ばれた人間達。


 けれど、それはそう特殊なものでもなく、多くの人も、単純に時間の問題で慣れる。

 

 ……そう言うものなのだ。 

 魂というものは、その担い手によって、自由自在に適応する……そんな性質がある。

 

 それ故に、魂は場所、時には時間ですら軽く飛び越える事が可能なのだ。

 

 この事実自体は、21世紀の後半に起こったAIとVRの劇的進化の過程で、実証されていたはずのだけど、この600年後の世界ではある種のロストテクノロジー化しているようだった。

 

 アタシも、ちょっと調べてみたけど「禁忌指定」とかそんなキーワードが出てきた。

 まぁ、この600年の間に、何かヤバイ事件でもあったんだろう……。

 

 21世紀の人類には、明らかにアレは早過ぎた技術だったのだけど、この様子だとその危険性に気づいた賢明な誰かがいたのだろう。

 故に、表向きには存在しない……そんな風に扱われているようだった。

 

 少なくとも、アタシのような再現体は、あくまで過去の人間の人格データを電子的に補完、近似存在として再現した高度人工知性体……そんな建前なのだ。

 

 とは言っても、再現体は普通の人間同様、人権は認められているし、死んでもいくらでも再生可能……という訳でもない。

 

 本人が望まないなら、バックアップからの復活もないし、ある程度戦ったら、引退して普通の人間として生活すると言う選択肢もあるらしい。

 

 もっとも、そんな平穏無事な選択が出来たような再現体は、ほとんど居ないそうなのだけど。

連載、再開ッ!

今回の主人公は、前回外伝に出ていた特務艦隊の司令、天風遥ちゃんです。


ちなみに、この娘……外見は、清楚で病弱美少女風なんだけど、言葉使いは乱雑で、

自称「悪を駆逐する悪」なんて言ってる厨ニ全開の娘です。


なんだけど、意外と涙脆かったり、やたら惚れっぽかったりと作者もびっくりするほど、女の子女の子してるキャラになりました。


そのうち、キャラ絵とか描きたいなぁとか思ってたり。

なお、巨乳デカ尻なんて言うグラマー系。

ちょっと今までにないタイプのヒロインですね。


今回は、オールスター揃い踏みの大戦争っ!


それでは、またしばらく宜しくお願いします。

ストックは軽く15万くらいあるので、当分続くよ?(笑)

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