外伝2「BASTARD!!」③
思わず、ナメプ宣言しそうになりましたけど。
ここから先は、詰将棋……打ち手を間違えなければ、私達が勝ちます。
まずは、朝霧達に支援砲撃要請。
フィールドの視覚化モデルから、影響範囲を特定、弾道の修正値を算出……この辺はもう各艦におまかせ!
沙霧、夕霧の砲撃……敵艦が大きく回避……避けられましたね。
弾道予測アルゴリズムは悪くないようですね……もしかして、初霜辺りの戦闘シミュレーションデータ相手に、猛烈な回数のシミュレートを重ねたとかそんなのなんでしょうかね。
あのエゲツない狙撃……意味の解らない超回避! アレを相手に……その労苦がどれほどのものか。
敵ながら……どこか、忍びないものがあります。
けれど、次の瞬間!
敵艦の動きが大きく乱れる……どうやら、朝霧の放った一弾が至近距離に着弾したらしい。
至近距離の榴散弾の断片で、敵艦は下部のホバー部分……軟構造体に損害を被った模様。
……ガクッとスピードが落ち、航跡がめちゃくちゃに乱れる。
「朝霧! 惜しいっ! もしかして、敵の機動予測に成功したんですか?」
「いやぁ、ははは……まぐれ当たり……かなぁ? あんまりにも当たらないから、ワザとFCSの予測数値を無視して、ヤマカンで狙ってみたら、いい感じにひん曲がって、良いとこ行ったよ! 皆! 一気に畳み掛けようっ!」
可もなく不可もない。
特徴がないのが特徴……そんな朝霧だけど、妙にツイてる時があって、こんな風に流れを変えるラッキーショットを当てたりするんですよねー。
けど、これで敵艦は足が死んだってことです。
ホバークラフトなんて、所詮そんなもんなんですよね……。
たった一発の銃弾……ほんの僅かな断片が当たっただけで、こうなる。
最初は無敵の超兵器……みたいな感じでしたけど、そろそろ化けの皮が剥がれてきたかも知れません。
「ヤマカンって……当たるもんなのかね。そんなの」
「たまにありますからね。朝霧のスーパーショット……後で分析したら面白いかもしれませんね。それにチャフグレネードが効いた可能性もありますね。不可視の電磁フィールドが見え見えになってるのも大きいですね」
「なるほど、チャフグレの電磁撹乱効果で敵の強電磁界フィールドにほころびが出来た……そう言うことか。強電磁界フィールド対策を見つけてしまったかも知れないね。これは」
「私、電子戦とか、荷電粒子砲搭載艦とか、ガチでやり合うの始めてなんですけどねっ! なんかもう、緊張感ハンパないです! 変な汗いっぱいっ! そうなると、敵もそろそろ刀折れ矢尽き……私のターンってことですね! ユレさん、クライマックスですよ! ちゃんと撮ってますか?」
うん、未知の敵の秘密のベールをひとつひとつ剥がしていって、仲間達の支援、指揮官の冴え、そんな感じので強敵を圧倒していく……何という王道展開っ! ここは、決戦のテーマとかかかっちゃうとこですよねー。
これを撮らずに何が戦場カメラマンですかっ!
「えっと……ユレさん、さっきの回避機動でレッドアウトしちゃったみたい……。さすがにあんな殺人ブレーキ、カマされたら、普通は持たないよ……まぁ、別に文句は言わせないけどね」
見ると、シートベルトに身体を預けたまま、鼻血を吹いて、白目を剥いてぐったりと脱力してるユレさんの姿がっ!
バイタル反応は……意識消失中ながら、正常値範囲内。
体内ナノマシンによる応急措置が行われているようなので、多分大丈夫……?
「ユ、ユレさーん! で、でも戦闘シーンなんて、私達の映像データを提供すれば済みますよね? サ、サービスくらいしますよ! 被弾したら、脱ぐのがお約束なんでしたっけ? こうなったら、私脱ぎますっ!」
「言ってる場合かっ! 天霧、この感じっ! そろそろ次の砲撃が来るよっ! デコイとフレア、ECMバラージフルパワー! 回避行動っ!」
甲板に人がいたら、レンジでチン状態になるくらいの高出力ECMを無差別に放射!
もし、出歯亀ドローンがいたとしても、今のでチンされちゃってると思います!
出歯亀ドローン対策なんて、こんなもんで十分っ!
……そのまま艦首を敵艦へ指向!
第一射……並走するデコイを直撃!
第二射……至近! うねったエーテル流体面に当たって消失。
当たらなきゃどってことないのですが、10m離れてないのはさすがに危ないです。
艦体が帯電するも抗電ナノマシン正常に稼働中! 同じ手は食いませーん! 残念っ!
敵艦との距離はまだ60000程度の距離があるのですが……こちらも相手を視認。
どうやら、荷電粒子砲の影響でプラズマ雲が消し飛ばされて、視程がクリアになったみたいです。
メインカメラがやられてなければ、もっと鮮明なのに……でも、夕霧からの映像情報で補正が入って、鮮明化していく。
あ……なんか、敵と目があったような気が……。
こっちが見えているって事は相手も見えてるって事なので……多分、気の所為じゃないです!
となると、こっから先はクイックドロウッ!
殺られる前に殺る! 早撃ち勝負!
……ならば、狙うは今っ! 127mmレールガンをフルパワーで投射!
FCSの数値もガン無視……もはや、直感のみで砲弾を放つ!
電磁界フィールドのシミュレーションとか、色々やらないといけないこともありましたけど……。
……気が付いたら、なんか撃ってました……。
でも、私には、ある種の確信があった。
「あ、今のトリガー引いた瞬間のカチッとハマったような感触……これは、もしかしたら、もしかしますと……ですっ!」
……なんとも不思議な感触でしたけど、この感触は以前にも経験があります……、
それは、必中必殺の冴え渡る一撃ッ! 針の穴をも穿つ、奇跡の一撃!
「ファイナル・シュートぉおおおおっ!」
ここはテレビ映えするように、人差し指と親指を立てて指でっぽうを構える仕草をする。
まぁ、結果はもう解ってるんですけどね。
敵艦の粒子加速器が臨界の光を放つ……ッ!
けど、その瞬間、ボフンと前後から穿たれたように、火を吹くっ!
タイミングとしては、完璧……臨界の瞬間の直撃弾っ!
それに合わせて、肘を曲げて拳銃を撃つようなアクション!
「終わりです……」
一撃必中……勝者は多くを語らないのですよ。
……ワンテンポ置いて、大穴が空いた粒子加速器が盛大に爆発ッ!
後はもう、あっという間に至るところで、爆発、爆発、爆発の連鎖!
最後に融合炉が誘爆したらしく、一際盛大な爆発。
「……おおおっ! すごいっ! なんだその、神ががったようなショット! 天霧、やるぅーっ! でも、その無駄に芝居がかったアクションはなんなの?」
「す、すんごいわーっ! 天霧ちゃん! うんうん、カメラ映えとか演出とか考えてくれたんでしょ? いい感じだったわよっ! もうハラハラドキドキだったけど……さっすが! 最高よぉーっ!」
両手を叩いて、喜色満面と言った様子の遥提督とユレさん。
どうやら、ユレさんも気がついたらしい……顔中血塗れなんですが、気にも止めてないらしい。
色んな意味でタフな人らしい……大したもんだと思います。
いやはや、余裕かましてるように見えますけど、実際は瀬戸際の勝利でした。
以前の私……ショボ霧だったら、あんなギリギリの瀬戸際ピンホールショット。
一瞬ためらって、先に撃たれてたかもしれません。
さすが、私! ネオ天霧……ああ、早速一つ伝説を作ってしまいましたね。
もう通信回線も私を称える声で埋まってます。
あの初霜さんからも「お見事」の一言……でも、貴女の無言のアシスト、天霧は忘れませんよ!
目の前にいたら、ギューしていい子、いい子で愛でまくりです!
ユレさんがカメラを向けてくれたので、メットを脱いで髪をかきあげながら、最高の笑顔を浮かべて、Vサインからのキラッのポーズ!
黒船に偽装した謎の高機動荷電粒子砲艦。
攻防一体の恐るべき敵でしたが……。
ちょっと本気出しちゃったネオ天霧の活躍で、爆散、粉砕! 天誅ですっ!
もしかして、私……最強の道を歩み始めたのかもしれませんね!
最強銀河アイドル! ここに爆誕ッ! うぇーいっ!
かくして、銀河の片隅の小さな戦争が終わったのでしたー。
めでたし、めでたしー。