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外伝2「BASTARD!!」②

「た、対駆逐艦用決戦兵器? となると、拠点攻撃なんて、とても使えそうもないですよね? なんでそんなものをこんなところで……て、敵の意図がサッパリわからないんですけど……」


「敵の戦略目標が初めから、アルパーニアじゃなかったとしたら? 入念に偽装した上で奇襲して、消し去りたい邪魔者がいたのだとすれば……どうだい? つまり、要人暗殺ってことさ」


 こんな超兵器をぶつけてでも消したい邪魔者って……ますます解らないんですけど……。

 

 まさか、遥提督? いやいや、遥提督って本来、味方にも名前を知られてなかったような、どマイナー再現体提督。


 10代の女子高生って話だけが独り歩きしてて、良いところプロパガンダ要員とか、マスコットくらいにしか、思われてないはずなんで……狙われる理由なんか無いと思います。


「……私、提督が何をいいたいのかサッパリ解りません! 暗殺って、一体誰を? この近くには私達しかいないじゃないですか……まさか、提督が狙われてるのでは?」


「アタシ? ああ、確かに可能性はあるけど、それは無いと思うよ。鈍いねぇ……いるじゃないか……。再現体提督の中でも、幾多の名だたる戦場で勝利して、向こう側の世界との架け橋ともなっている超重要人物が……。けど、それには、最強と謳われ、君達駆逐艦のドクトリンすら変えたような恐るべき駆逐艦と、その頭脳体が護衛として常に張り付いてる。それと戦い力づくで排除することを想定した兵器がアレ……だとしたら? そう考えると割と辻褄が合ってしまうんだよ」


「まさか、あれは……駆逐艦初霜と戦い撃破する事を目指した超兵器って事……ですか? いくらなんでもその考察は、無理があるのでは? たった一人を暗殺、たった一隻の駆逐艦を沈めるために、そこまでする理由が解りません」


「……試験航行中の永友艦隊が、たまたま近くに居るこのタイミングで、黒船に偽装した未知の人類製の新兵器が出てくるなんて、そんな偶然が起きる確率は? 永友提督達だって、ここらが辺境流域では珍しく、コード・ブルーが保たれている安全な流域だって、知ってたから、試験航行の流域に選んだんだと思う。多分、永友提督は自分が狙われてるなんて、夢にも思っちゃいないよ……。けど、そこが狙い目。敵も永友提督がアルパーニアを守るために、必ず動くって、想定してるはずだ。なかなかに深い読みだ……実に周到な敵だと言えるだろう」


「敵は、周到な計画と入念な準備の上でコトに及んでいる……そう言うことですか?」


「そう言う事だね。念入りに情報を掻き集めて、人と金を盛大に使って準備を重ね、明確な目的意識を持ってコトに及んだ……こりゃ、かなり大掛かりな敵だろうね。そんな狡猾な敵の戦略目標がアルパーニアの襲撃なんて、ケチなモノであるはずがない。第一、何の得があるんだい? 非武装平和主義の港湾施設の一般市民の殺傷や港湾施設の破壊なんて、余計な恨みを買って敵を増やすだけで、戦略的な意義なんてほとんどない」


「……確かに、そうなるとアルパーニアを襲撃するは理由はありませんね。しかしながら、敵はあくまで、我々を突破する事を目指している……敵は、我々をただの障害物扱いしていた。我々の背後にいるのは、永友艦隊……。た、確かにあの装甲艦……我々の駆逐艦の火力ではその正面装甲を破壊できませんでした……特攻自爆も想定していたとなると敵の戦略目標は、軽空母祥鳳の撃沈……そう言うことになりますね」


 ……言われたように、順番に考えていくと、私も遥提督と同じ結論に達する。

 確かに、タイミングが良すぎる……私はたまたま永友艦隊があそこにいたと思ってたんだけど。


 そうじゃない……守りの固い母港からノコノコと出てきて、艦載機も護衛も最低限。

 暗殺対象の提督も座乗中……敵から見れば、暗殺するには、絶好の機会だろう。


「……順当に判断材料を積み重ねていくと、やっぱそうなるよね。あの芋虫でノンストップで祥鳳に体当たりして、吹っ飛ばす。多分、これが当初のプラン。ただご覧のように硬い、足が速い意外には何の取り柄もないのでは、話にならなかった。実際、機雷に取り囲まれて包囲されたら、それだけで詰んだ。まぁ、これだけなら、どって事ない相手だっただろう」


「確かに、永友艦隊ならたった三隻でも、あの程度の相手……なんとでもしていたでしょうね。データによると、祥鳳も単独行動のリスクは承知の上だったのようで、しっかり艦載機を満載……おまけに初霜まで連れて行く用心深さ。用意周到……慎重さに定評ある空母と聞いてますが、さすがです」


「まぁ、敵もすんなり祥鳳を沈められるなんて、思ってないだろうさ。アレの用心深さは、思われてる以上だよ……まさに忠臣の鑑だね。おそらく、この超兵器……これが本来、敵の切り札だったんだろうね……。でも、恐らくアタシらがちょっと頑張りすぎたんだろうね。本当だったら、アタシらなんか歯牙にも掛けず、強行突破して抜くつもりが、まんまと足止め、包囲されてしまった。敵もこのまま、鹵獲されるくらいならって、やけっぱちで本命を出してきた。そんなところだろう……。この時点で敵のプランはもう崩壊している。つまり、我々は戦略的にはすでに勝利している。あとは仕上げあるのみってとこさ」


「となると、こちらに向かっている永友提督や初霜には、今すぐUターンして退避してもらった方が良いんじゃないですか? 敵の思惑に乗る必要なんて、ないんじゃないですかね」


「その必要はないし、言って聞くような連中じゃないだろ。まぁ、そう言う事なら、あたしらが、ここでアレを倒してしまって、構わないんじゃないかな? 敵としては、初霜の戦闘データを研究して、真っ向からぶつける気だったのに、アタシらみたいな訳の解らない艦隊を相手する羽目になって、上手く戦略が噛み合ってないはずだ。天霧も一発直撃を受けたとは言え、致命傷には程遠い……まだまだやれるだろ? アタシは別に問題ない……逃げるなら、今のうちだと思うけど。敵の射程がどの程度か解らないのに、背中を向けるのは、あまりお勧めできないな」


 この人……今、軽く死にかけたって解ってるのかなぁ……。


 けど、遥提督はそう言う人……銃弾飛び交う最前線であっても、平常運転。

 勇敢とかそう言うのとは、ちょっと違う……戦場で、弾の方から、避けていくとかそんな風に確信している、一種の狂気。


 けれど、戦場ってのは、ビビったヤツから先に死んでいく……艦に乗ってた古参兵がそんな事を新兵に説いてたけど、あれは紛れもない事実。


 私は、過去の戦場でそんな光景を何度も見てきた……もちろん、そんな言葉を口にしながら、真っ先に死んでしまう古参兵も居るけれど、不思議と敵機の銃弾は、恐怖に泣き叫ぶ新兵を撃ち抜き、歴戦の古参はいつも涼しい顔で当然のように生き残る。


 戦場というのは、いつもそんなものなのだ。


「確かに、敵の攻撃能力からすると、今、下がるのは下策。ここはあくまで、正面から戦うべき局面。ですが、こちらも有効な対抗手段がありません。あんなのどうやって倒せばいいんでしょう? それにこの距離での敵の観測手段は? ……我々の戦闘ドクトリンは、囮と機雷原で足止めした上で、欺瞞を駆使した上で、相手に気付かれる前にアウトレンジで沈める……正直、相性がいいなんてとても思えません」


「そうかな? 勝ち目はあると思うよ。索敵手段については……確かに、敵は視認範囲外から、正確にこの天霧を狙ってきた。位置情報のみならず、この艦が艦隊の中枢艦だと見抜かれていると見ていいだろう。けれど、デコイにはあっさり騙された。解っているのはこの程度……この判断材料から、天霧……君はどう推測する?」


「電磁手段での索敵は、本艦のECMは強力ですし、ミラージュフォグの散布濃度も十分ですから、現状はまず不可能でしょうね。デコイに騙されたことから、光学索敵を主としていると考えます。でも、旗艦だってバレたのはなんででしょう?」


「……超空間通信のトラフィック濃度……かな? 敵がこちらの人類の裏切り者って事なら、通信傍受やこっちの戦術ネットワーク情報を掠め取ってる可能性も考えられる。色々と搦手に通じてる相手のようだから、それくらいやってくるだろう。索敵手段としては、単純に小型ステルスドローンや観測プローブの類が、この流域にばら撒かれているのかもしれないね」


「ミラージュフォグは、流体面近くに滞留するから、空中からの索敵には弱いはずですからね……となると、出歯亀ドローン? あれが相手となると……ちょっと厄介ですね。あれ社会問題になったりした位には、見つけにくいですからね。けど、このまま一方的に狙い撃たれると、被弾は避けられないかと……最悪のケースを想定して、ユレさん共々脱出の準備をしていただけませんか?」


「まぁ、待てって……とにかく、攻略法自体は、もう見えてきたんじゃないかな? 強電磁界フィールドって、展開中は自分の弾も明後日の方向に飛んでいくはずだろ? でも、実際にはそうはなってない。おそらく、荷電粒子砲を撃つ瞬間にフィールドを切ってるか……砲撃時にフィールドの隙間を狙って撃ってるか。そのどちらかだろうね。フィールドさえ抜ければ、あの安普請な作りからすると、多分一発で勝負が決まるさ」


「……つまり、攻撃の瞬間に隙があると?」


「そう言うことだね。前者なら、撃ってくる瞬間での火力集中で押し切れると思うけど……。あれって、そんな瞬間的にオンオフ出来るような代物じゃないから、後者の可能性が高そうだ」


「……相手の撃ってくる瞬間を見切って、撃たれる直前に先読みカウンターで当てろと? 相当無茶ですよ……それ。初霜じゃあるまいし、私……そんなの無理です」


「そうだね……けど、荷電粒子砲とレールガンじゃ弾速が桁違いだ。敵は後出しで撃っても間に合ってしまう……おそらく、狙えるとすれば、敵の攻撃タイミングを読み切った上でのカウンターの一撃。そして、それが狙えるのは、直接狙われてるこの天霧だけだ。荷電粒子砲の発射タイミングとその予兆を捉えることが出来れば、勝機はあるってことさ! 天霧……とにかく、時間を稼ごう。まずは相手の電子機器を撹乱する! 外部の索敵機との連携を断てば、その戦闘力も半減するだろう。飛翔魚雷、弾種はチャフグレネード……うちの特製のヤツを、通常弾も混ぜ込んで思い切りブチ込んでやれ! ここは出し惜しみはなしで、全弾撃ってしまって構わない……やってくれ」


 さすが、遥提督。

 確実に解っている情報の組み合わせだけで、冷静に敵の弱点を見抜き、攻略法を見出してしまった。


 なんとなく、負ける気がしなくなってきた……これが我らが天霧遥の凄さなんですよっ!


 ……ホント、提督が大艦隊でも率いてくれたら、どうなっちゃうんでしょうね。

 

 この天霧……痺れました!

 もう、提督にずっと着いていく所存ですよっ!


「了解しました! ではVLS、1番から6番にチャフグレネード弾頭を装填。7番から12番までは、フォグ弾。残りは通常弾、爆散弾、コミコミで全弾まとめて投射します!」


 1番から24番で、トップアタック狙い。

 残りはトップアタックを誤魔化すためのランダム射線、時間差を付けての飽和攻撃……さぁ、どう出る?

 

「飛翔魚雷……全弾投射! まとめて、全部! もってけーっ!」

 

 いつもながら、全弾投射の瞬間って……キュンキュンします。

 このズドドドとお腹に響く発射音……たまりませんねー。

 

 ……さしもの高機動艦と言えど、72連の飛翔魚雷の集中飽和攻撃から、機動力だけでは逃れられないと悟ったらしく、上空への荷電粒子砲の連続射撃で対応するつもりのようです。

 

 出力を絞れば、継続発射も出来るらしく、扇状なぎ払い射撃で、飛翔魚雷が次々迎撃されていく。


 おまけに、近距離用のレーザーでも装備してるらしく、直撃コースや至近弾までも……全て撃ち落とされていく。


 なるほど……対空防御もなかなかのもの。

 

 純粋な人類側の最新鋭技術と戦闘AIの組み合わせ……宇宙空間戦闘で磨かれた光学レーザーによる近接対空射撃。

 かつては、100%近い命中率で、宇宙戦闘機や小型艦を駆逐したほどの高精度攻撃。

 

 これは確かに優秀だと、認めざるをえませんね。

 

 ……でも、迎撃されるのは、こちらも最初から織り込み済み。

 それに、光学レーザーなんてエーテル空間じゃ有効射程もたかが知れてますからね。

 

 迎撃されるのは、せいぜい2-300mの範囲に入り込んだケースに限るようです。

 それ以上離れると、当たっても効いちゃいません。


 おまけに、ミラージュフォグ弾も混ぜているので、レーザーが拡散……迎撃効率はかろうじて、直撃を避けれている程度。

 

 直撃を防ぐって言う意味なら、確かに有効なんでしょうけど……その程度の射程じゃ、対空兵器としては微妙ですね。


 と言うか、私達の独自装備……ミラージュフォグとの相性が悪いようですね。

 確かにこれは、私達が相手するのが一番みたいです! 


 本命のチャフグレネード弾が真上のかなり高い位置……光学レーザーの射程外で爆散。

 強力な電磁波を発し、発光するナノマシンと、帯電した金属片が派手にばら撒かれる。

 

 金属片は真っ直ぐ落ちるわけではなく、帯電しつつナノマシン共々、螺旋状に敵艦周辺を回りだす。


 観測結果を共有していた駆逐艦初霜から、電磁フィールドの可視化モデルが転送されてくる。

 こちらも演算リソースを分析に回すほどの余力がないから、助かります。


 謝意を示すと、ウィンクする顔を模した顔文字が短く返ってくる。

 こっちも、土下座を示す顔文字を送信……ちょっと楽しい。

 

 さて状況っ!

 敵艦の周辺には、竜巻のように一定方向へ回転するような指向性電磁場がかなり広い範囲で展開されているようです。

 

 それは、上空から見ると数字の8が多数、複雑に組み合わさったような形に見える。

 花びらとか、扇風機の羽のような形の防御フィールドと言えば、解りやすいですね。

 

 山と谷、厚い部分と薄い部分が折り重なって、それが高速回転していると。

 なるほどですね……こうやって全周防御を実現している訳ですか。


 粒子加速器の周辺にある回転するリング状のパーツ……なるほど、あれが強電磁界フィールド発生器ですね。

 そのリングもいくつも折り重なっていて、多重フィールドを発生させている訳です。


 その隙もこうやって、3D解析モデルを見ると良く解る……要するに花びらの隙間が弱点。


 ……相手には、薄い部分がいつ来るかなんて、当然解るので、タイミングを合わせて、薄い部分が砲の正面に来た瞬間に、隙間から抜くように撃つことで、弾道への影響を最小限にしているって訳です。

 

 要するに、グルグル回る銃眼みたいになってるって事ですねー。


 そして、防御の時はこの銃眼の回転速度を上げることで、隙を少なくし、鉄壁の守りとし……攻撃する時は、回転数を落として、隙間を大きくして、狙い撃つようにしているってことです。


 狙い所は、この回転を落とした瞬間……攻撃モードになった瞬間を狙う!

 それはまさに、敵が撃ってくる直前でもある……そこを狙って、射抜けば一撃必殺!

 

 ……さすが、遥提督です!

 私達が、敵の防御フィールドを観測することで見出した弱点を、ほんの僅かな交戦だけで推測してしまうなんて……。


 私達なんて、提督の仮説を後追いする形で、その弱点を見出したに過ぎませんからね……。


 要するに、扇風機の真横から銃弾撃ち込んで、羽に当てず、軸の部分を撃ち抜く……そう言うことですか。


 敵艦は、装甲どころが粒子加速器むき出し状態。

 ……下手すれば機銃弾の一発で吹っ飛ぶんじゃないですかね……これ。


 ……なんだ、超兵器どころか、雑魚じゃないですか! これっ!

 見た感じも如何にもやっつけ仕事風……こんなんに、ビビって損しました。


「そうと決まれば、やっちゃいますよーっ! Destroy Them ALL!!」


敵艦のイメージとして近いのは「バクテリオファージ」と言う細菌に寄生するウイルスの姿に近いです。

画像検索すりゃ解りますけど、ウイルスというより、SF兵器みたいなフォルムです。(笑)

高校の生物の授業で習ってるはずだから、多分大抵の人が知ってるはず。



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