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外伝2「コードレッドの宇宙(そら)の下で」④

 夕霧、前方10m程度の距離に着弾。

 被害は軽微……艦首がエーテル流体をひっかぶった程度。

 

「近弾10mなら騒ぐようなものではありませんね。夕霧、進路そのまま……ここで、下手に舵を切るとかえって減速します。ここは構わず、前進あるのみ! こちらも緻密な計算のもと、全ての機雷を直接制御してるので、イレギュラーな動きは控えてください」


「ふ、ふぁいっ! ううっ、いつもながら囮役って辛いよぉーっ!」


 そう言いながらも、巧みな之字運動で精度を増した砲撃を回避していく。

 夕霧はいまいち、気弱なんだけど……その実、回避が抜群に上手いんですよね……。

 

 ヘタレに限って、逃げ足早いし、しぶとい。

 しぶとい奴は、相応に生き残って、やがてチャンスをモノにして、勝利を得る。

 

 特型だと、潮や響あたりが良い例ですね。

 あの二人ははっきり言って、チキンなんだけど……粘り強い戦いぶりに定評があります。

 

 と言うか、終戦生き残り組って、皆そんな感じ……。

 初霜も本質的には、好戦的な突貫系と言うより、受け身の護衛屋タイプ。

 

 私もショボ霧時代は、内気なヘタレっ子の典型みたいな感じでしたからね。

 

 だからこそ、このキラキラアイドルの要素を取り込んだネオ天霧にもはや死角なし!

 イケイケでーすっ!

 

「提督……敵艦隊、機雷原に入りました。そろそろ仕掛けます? レールガンの超長射程モードなら、十分射程内です」


「もうちょっと引き込みたいなぁ……。沙霧、そっちの射程には入ってるかい?」


「十分に観測情報が揃ってるから、レールガンなら行けるけど、飛翔魚雷は延伸ブースーターで盛らないとキツイね。ただ、敵艦の足止めしてもらわないと、命中率はあまり期待できないよ?」


「敵艦進行方向の機雷密度はどんなもんだい? 天霧」


「やはり事前の出現位置が解っていたのが大きいですね。予測ルートもかなり絞り込めた上に、敵艦の進路も夕霧が上手く誘導してくれました。おかげで、機雷もかなりの密度で集まっています。……300秒後には敵艦は一番密度の濃い所に突入します。タイミングとしては、悪くないですね」


「それは実に良い知らせだ……となると、そろそろ仕上げにかかろうか」


「仕上げって……皆して、逃げ回ってるだけで、まだ一発も当ててないんじゃないの?」


 私達の話をそれまで黙って聞いていた、ユレさんが不思議そうに口を挟む。

 まぁ、たしかに解りにくいですよね……こう言う、まともに銃火を交わさない戦いってのは。


「ユレさん、これが遥提督のやり方なんですよ。砲を撃つ前に、すでに終わってるんですよ。提督、仕込みは十分ですね!」

 

「上々だね……では始めようか。沙霧……飛翔魚雷、敵艦隊周辺500mの範囲に全弾集中投射! 続いて、最寄りの機雷からミラージュフォグを最大濃度で散布。重音響爆雷も同時起爆する……まずは、初手で敵の目と耳を潰す。次に飛翔魚雷の着弾に合わせて、全艦レールガンの十字砲火で一挙に殲滅せよっ!」


 ……提督の号令に合わせて、沙霧がVLSランチャーから全弾144発の飛翔魚雷を投射。

 

 入念の準備の上で、敵を死地に引きずり込み、然るべき後に最大火力の投入の上で、敵を殲滅する。

 提督のいつもやり方です。


 続けて、重音響爆雷が猛烈な衝撃波と凄まじい爆音を放つ。

 更に、機雷群から10m先も見えないほどの濃密なプラズマの霧が敵艦の視界を塞ぐのに合わせて、電磁機雷から指向性の強力な電磁波を投射。

 

 敵艦隊が急制動をかけ、ぱっと散開する。

 一瞬で視界も耳も奪われたんですから、当たり前ですよね。

 

 けど、ここに来て今更、散開の上で警戒陣形に移行なんて、賢明とは言えるけど、足を止めたのは大間違い。

 

 そんな中に沙霧の放った飛翔魚雷が一斉に着弾!

 たちまち辺りは、沸騰したようにエーテルの柱と爆煙渦巻く地獄絵図と化す。

 

 普通に考えて、この時点で、勝敗なんて決してます。

 

 陣形変更中に駆逐艦の一隻が触雷し、真っ二つになって一瞬で消滅。

 あらあら、あっけない事で……。

 

 そして、もう一隻に朝霧の砲撃が当たり、火を噴く。

 スマート機雷は、索敵装置も兼ねているので、ミラージュフォグで視界がゼロに近くても、こちらは敵の位置情報、動向が手に取るように解りますからね。

 

 更に沙霧の飛翔魚雷が至近距離で炸裂し、その触覚のような触砲がへし折れ、ダイエットしたフナムシのような艦体がひっくり返る。

 

 その裏側のキモさに思わず、反射的に放ってしまった天霧わたしの砲弾が突き刺さって、木っ端微塵に吹っ飛ぶ。

 

 続いて、沙霧の観測射が新型軽巡級を夾叉する。

 観測データを沙霧に送信、続けて沙霧の効力射が飛来し、今度は直撃!

 

 もっともその直撃弾は、前面装甲殻に弾かれたようで、行き足を止めるにとどまる。

 さらにもう一撃……やっぱり滑る。


「沙霧、現時点での使用弾種、弾速はどの程度のものですか? 直撃を認むも効果なし! 直撃されど、効果なし!」


「こちら沙霧……拡大映像を確認した。なんだありゃ? 弾が滑ってるじゃないか……何だと思う? あれ」


「こちらも撃ちます。この距離なら曲射じゃなく、水平射でいけます! これならっ!」


 最大加速のレールガン……当たりどころが悪かったのか、これも滑った。

 

 うーん、これはなかなか厄介な装甲殻のようです。

 

 彼我の距離は80000、沙霧に至っては120000の超長距離砲撃。

 着弾時の弾速はさすがに半減してますが、それでも3-4000m/sは出てるはずです。

 

 戦車を前から後ろまで、串刺しにする程度の貫通力はあるんですが……レールガンの直撃食らって、ヒビ一つ入らないとは、恐れ入ります。

 

 これが新型と言う事ならば、護衛艦を片付けた以上、ここからは身も蓋もなく仕留めてしまうのではなく、その戦力評価……極力多くの戦闘データを取る事に専念するとします。

 

 まぁ、未知の新型と言っても、むこうもデビュー戦ですから。

 多くの戦場では、未知の新兵器への対抗手段がない状態で、混乱し蹂躙されたりもする訳ですが。


 私達は、この手の新型との遭遇戦だって、始めてじゃありませんからね。

 冷静に対応すれば、意外とお粗末な弱点が見つかったりするので、案外何とでもなるもんなんです。


 さて、大きさは220mと言ったところ。

 我々駆逐艦の二倍……このサイズだとむしろ重巡?

 

 まぁ……砲口径がショボいので、軽巡扱いですかね。

 

 その形状は……前の方がやたらと大きいアゲハチョウの幼虫が頭をもたげたような感じで、とってもキモいですね。

 

 うーん、なんだろ? 二重構造みたいな装甲?

 葛餅みたいな質感の軟体装甲に、硬そうな芯みたいな感じで剛装甲が組み合わさってるようです。


 先程の直撃時の映像を分析すると、軟体装甲は軽く貫通してるんですけど、弾体がブレブレになってしまって、その状態で装甲に接触、ツルッと行ってしまったような感じです。


 こんな分厚い軟体装甲……対レーザー戦でも意識してるのでしょうか?

 

 これと似たようなコンセプトの装甲としては、ナノスキンシェルって言う使い捨ての避弾経始装甲が近いかも。 

 ナノマシンの配列を調整することで、侵徹した弾体の進行ベクトルをずらして、被害を低減する……。

 ……と言っても、運が良ければ逸らせるとかその程度のものですけど。

 

 とにかく、単純な物理衝力に対する防護は意外と難しいんですよね……。


 実際、レールガンの出現で黒船の大型重装甲種クローラー級クラスは、駆逐艦にすらあっさり沈められるようなただの的に成り下がってますから。

 

 生物学的な進化で、レールガンの弾速と衝撃力に耐えるのは、さすがに無理があるのですよ。

 

 けど、目の前のこれはレールガンの直撃に耐えている。

 

 これは……もう断言していいです。

 黒船に偽装したどこぞの新兵器の実戦テスト艦……ですよねー。

 

 火力は朝霧との砲戦の様子から、従来の黒船と同様、蒸気圧砲程度の代物だと推測されています。

 防御と速力特化? なんとも微妙な艦ですね……これ。

 

「……天霧、どうした? 仕留められないのかい。どうも正面から撃ってもキツイようだね」


「そのようで……一応フルパワーで撃ってるんですけど。効いてませんね。多分、200mmクラスの弾体でもないと抜けそうもないですね。なんか弾が滑ってますよ」


「レールガンの弾速だと、傾斜装甲や軟体ジェル装甲なんて、意味が無いはずなんだけどねぇ……。まさか、あれレールガン対策装甲なんじゃないだろうね?」


「……そのまさかだと思います。一見単純に装甲で滑らせてるように見えますけど。進行方向のエーテル流体が不自然に割れてる様子から斥力フィールドとかも使ってますね。それに軟体ゲル状装甲みたいなのも意外と、効果的のようでして……」


「斥力フィールドにより、弾体を減速、高摩擦ジェルで更に減速。仕上げに円滑化した低摩擦装甲で、弾を逸らす……ね。ああ、カドワキ氏から、回答……どれも既存の技術で研究中のものばかりだってさ。黒船の進化とは明らかに方向性が違うから、人類製の可能性が高いそうだ。こりゃ、あたしらは体のいいモルモットって事かね」


「おそらくそう言うことですね。と言うか、これ……カドワキさん達の仕込みなんて落ちじゃないでしょうね?」


「さすがに、それはないかなー。一応、鹵獲できたらして欲しいってリクエストが来てるけど、どうしようっか? ひとまず、沈めることは可能かな?」


「一応、沈めるだけなら、スマート機雷の一点集中で圧殺すれば、片付くとは思いますけど。それに多分、硬いのは正面だけで、背中や横は脆そうだから、朝霧あたりに背中からズドンってやらせます? それに、もうちょっと待てば、ケンペンフェルトさん達や初霜とかも来ますから、応援を待つって手もありますよ」


「単艦でロクな武装もないとなると、もう死に体だから、沈まない程度に袋叩きにしてってのもありだけど……。なんか嫌な予感がするんだよなぁ……ここは、カドワキさんの意向とかガン無視で、即座に堅実に徹底的に叩き潰そう!」


「了解しました……では、スマート機雷集中の上で、統制射撃でカタを付けましょう。全艦撃ち方よーい!」


 スマート機雷の集中起爆と、全艦統制射撃を行おうとしたその瞬間……。

 

 敵艦に変化が起きた!

クリスタルボーイ? って思った人は正解。(笑)

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