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外伝2「コードレッドの宇宙(そら)の下で」②


「責任重大と言っても、その責任はだれのせいでもない。これはもう、我々全体の対黒船の基本戦略すら見直さねばならない事態だからね。ただし、悪いことにアルパーニアは、例のお花畑ババァのせいで非武装中継港……対空機銃の一つすら置いてない! まさに裸でブリザードの中へ出かけるごとき、愚行だ。状況は控えめに言っても、危機的状況と言える。まったく、こうなったら、あのババァに全責任ひっかぶらせてやる」


 ……お花畑ババァ……これはまた、酷い言い草ですけど、無理ありません。

 ここに着た初日に、提督がお花畑ババァ様こと星系府長のセツコ・バンリュー……さんでしたっけ?


 その人に、ご挨拶しに行った時に、思い切り口論になっちゃったんですよね。

 

 向こうは、野蛮な小娘とか戦争狂ウォーモンガーとか、初めから小馬鹿にしてたみたいだし、提督も提督でバンリュー府長の事をお花畑脳呼ばわりだし。

 

 彼女の唱える非武装平和主義……一応、主張としては、解らなくもないんですけど……。

 それが黒船に通じるってのは、さすがにぶっ飛び過ぎです。


 猛り狂う野生動物を目の前にして、丸腰で怖くないってやれば、気持ちが通じて襲われないとか、そう言うレベルの発想。


 ……ああ言うのって、実際にパクっとやられないと解らないんでしょうね。


 とはいえ、今回の騒ぎがどう落ち着くかは解りませんし……一人に責任を押し付けるのは、酷な話だとは思いますけど……一つの星系の治世を司るような人がそんな夢物語を真剣に語ってちゃダメでしょ。


 敢えて、非武装に徹して、駐留艦隊も置かずおく。


 エーテルロードが安全な空間でなくなって、久しいのですが。

 終りが見えない戦いに厭戦ムードも少なからず、存在します。

 

 そんな中に台頭してきたのが、この非武装非戦主義。

 

 武装をするから、黒船も人類を脅威とみなして戦いを挑んできている。

 であれば、人が戦う意志を捨てて見せれば、黒船にもそれが通じて、平和的に共存できる……とまぁ、こんな感じの考え方です。


 ……もう何処からツッコんでいいか解りませんよね?


 黒船は武装、非武装の区別なんてしませんし、黒船相手に話し合いも何も……。

 人間相手だって、非武装平和主義が通じた試しなんてないのに……ですよね。


 いずれにせよ、私達にとっては、正気を疑うような主張ではあるのですが。


 話だけ聞くぶんには夢いっぱいで、民衆受けも良い話ではあるので、それなりに支持を受けてしまって、こんな風に星系府の長とか、星間企業の重役とか、相応の立場にのし上がって来ちゃうのが、実際に出てきちゃってるんですよね……。


 私がこう言うのもなんですけど……人間って、なんで愚かな選択を平然と選ぶのでしょう?


 さて……周辺の味方。

 ……ケンペンフェルト艦隊以外となると、更にその上流500kmほどの流域にニューオーリンズ級重巡アストリアに率いられたUSN系巡察艦隊がいるようですが……。

 

 総計12隻の大規模艦隊で、戦力的にも十分ではあるのですが。

 随伴している鈍足護衛空母が足を引っ張ってるようで、一応救援に向かって来てはくれてるようですが。

 あと、10時間ほどかかるとか……こりゃ当てには出来ませんね。

 

 でも、朗報もありました。

 最外縁ストリームの下流方面から、高速化改装後の試験航行中だった軽空母祥鳳、護衛艦初霜、疾風が反転遡上中の様子。

 

 これは悪くないニュースですね。

 ちょうど良いタイミングで、軽空母祥鳳から支援及び情報連結要請……さすが歴戦の空母、解ってらっしゃる!

 

「提督、たった今……下流の永友艦隊から、支援の申し出がありました。どうやら、ちょうど下流方面で試験航行中だったようですね。受諾いたしますか? 永友艦隊は、すでに反転遡上中……こちらへの増援として向かっているとの事です。なお、全戦力ではなく、祥鳳とその護衛艦疾風と初霜のみの編成とのことですが、初霜がいるとなると非常に心強い援軍です!」


 初霜……文字通り、一騎当千の強者。

 あれが参戦してくれたら、こころ強いなんてもんじゃないです。


「へぇ、それは本当かい? 永友艦隊なんて、最高クラスの援軍じゃないか……。この位置関係だと、到着予定は2-3時間後だけど、すでに航空戦力が展開中……さすが、手際がいい。そうなると、空からの援軍くらいは期待できそうだね。ここは、アタシが直接話すよ。永友提督との直接通話回線を開いて」


 祥鳳へ支援および情報連結受諾の返信と、永友提督との直接通話リクエスト送信。

 先方受諾……通信回線が開かれて、少し小太り気味の温厚そうな中年おじさんの姿が表示される。

  

「えっと、直接会うのは初めてだと思います……。私、「白兎隊」指揮官の天風遥中佐です」


 ……提督が敬語とか珍しい……それにわたくしとか、なにそれ?

 

 思わず、指さして笑いそうになってしまいました……いえ、実際プークックック……なんてやって、睨まれてるんですけどね。

 いやはや、さすが武勇誉れ高い永友提督の前では、傍若無人で鳴る遥提督も型なしですねっ!


 一方こっちは祥鳳と電子的コミュニケーション、及び情報交換を実施。

 向こうはそれなりに心配してくれてるようで、なんか励ましの言葉みたいなのを頂いちゃいました。

 

 今回は、雷電姉妹は一緒じゃないのが……ちょっと残念。

 

 あの子達に、この私がアイドルデビューなんて話したら、きっと目をキラキラさせて「天霧おねーさま素敵っ!」とか言ってくれちゃったりすると思います。

 

「はじめまして、天風遥中佐! お会いできて、こちらこそ光栄だ。そうだね……君と直接話すのは初めてだけど、噂はかねがね聞いてるよ。特殊戦の名手『見えざる(ハンドレット)神の手(ハンドラー)』天風提督を知らないような再現体提督の方が少ないだろうさ。うん、若い女の子だって話は聞いてたけど、思ったより美少女なんだね! いやぁ、実に素晴らしいねっ! けど、その服装はなんだい? いつもそんなカッコを? いや、別に悪くはないんだけどね」


 ……良かったですね。

 メイクとか服装そのままで……。

 

 いつものこ汚いジャージだったら、ドン引きされてたでしょうね。


 今の提督は……テレビに出てるような女子高生アイドルみたいなキラキラな衣装とパッチリメイク。

 なんか、永友提督もデレデレな感じです。

 

 もっとも、遥提督も遥提督で、結構ミーハーなところがあるので、永友提督は割とお気に入りなんだとか。


 遥提督って、男性恐怖症なんですけど、この手の温厚そうな人なら、平気らしいんですよね。

 なんでも、年の離れたお兄さんが永友提督みたいな感じだったそうで、割とツボなんだとか。

  

「そ、そんな……永友提督……! 美少女とか……変なふうに褒めないでくださいよ! 私、て、照れちゃいますよ……」


 ……んなっ! ちょっと褒められて、真っ赤になって俯くとか……どんだけ、チョロいんですか貴女はっ!

 

「あ、あの……提督、状況説明とかは、私が祥鳳あてにデータ化して送ってますから、ここは挨拶程度で、あんまり無理しなくていいですよ?」


 「い、いや、大丈夫! む、無理なんてしてねぇっつーの! じゃない……別に無理なんてしてませんよ? 天霧、少し黙っててくれないかしら?」


 ……所詮、付け焼き刃のにわか美少女。

 こうやって見ると、色白の薄幸系美少女風に見えて、世の男性の保護欲を絶妙に刺激するような感じなんだけど……。


 その実情は、ガサツで言葉使いも乱暴、おまけにだらしがないと、三拍子そろった残念ガールなんだから、無理しちゃ駄目だと思うんだけどなー。


 返事代わりに、おざなりな感じの敬礼。


「と、とにかくですね! 永友提督……貴官の支援の申し出に感謝します。ひとまず当方の防衛作戦案は祥鳳宛で、すでに送付してますが、どうでしょう? 我々としては、正体不明の高速艦……それも新種と言うことで、網を張って罠にかけた上での火力集中で、一撃で仕留める方針を立てているのですが……」


「うん、なかなかいい作戦だと思うよ。初霜や祥鳳も考えうる限り、最善の案だって言ってるよ。最前線での作戦指揮の巧みさと、直感的判断力……戦術家として、右に出る者なし! なんて言われてるだけのことはあるね。一応こっちは初霜が最大戦速で急行中……そっちは間に合わないかも知れないけど。祥鳳からも、現在出せるだけの艦載機をアルパーニア周辺の警戒に回しているところだ。せめて、航空優勢くらいは確保させてもらうとしよう」


「流石に対応が早いですね……。大変心強く感じます。ありがとうございます!」


「なぁに、礼には及ばないよ。私もこれでも今や将官の端くれだからね。君の戦歴だって知ってるよ? これまで、何度と無く我々の戦いを影で支えてくれてたんだってね。そう言う事なら、少しくらいは借りを返したい。我々で支援できそうなことがあるようなら、何でも言ってくれ」


 遥提督が面食らったような顔をしてる。

 

 なにせ、私達は本来裏方専門……特殊戦隊ですからね……。

 

 今回は、珍しく矢面に立ってますけど。

 本来は、華々しく活躍する前線部隊を尻目に、退路確保や側面支援と言った地味な仕事を黙々とこなして、作戦が終われば、名も告げずに去るってのが基本。

 

 遥提督自体が割と引っ込み思案なので、幾多の戦場に顔を出していた割には、再現体提督たちと直接話をする機会もこれまで、まったくありませんでしたからね。

 

「ありがとうございます! あ、あの……なんか死亡フラグっぽくてアレなんですけど、この戦いが終わったら、少しお時間をいただけませんか? ちょ、直接会って、お話とか……あ、握手とか! してもらえませんか? 勇名で鳴る提督に色々話を聞きたいですし……えっと、他にも色々噂は聞いております! あ、とっても美味しい手料理やスイーツをお作りになられるんですよね!」


 ……うわぁ……遥提督、とってもこじらせてますね。


 まぁ、面白いからほっときますか。

 

 ユレさんも、すごく温かい目で見守ってます。

 

 人の恋路とか、傍から見てるぶんにはドラマの視聴者気分ですから。

 

 わーい、がんばれーっ!


「はははっ! 私もそんな事で勇名になってるんだ。けど、この戦いが終わったらって……うん、思い切り死亡フラグだね。それ……。でもまぁ、初霜の分析だと敵艦の性能が、現時点で得られてるデータ通りなら、ほぼ負けはないみたいだし、君が前線指揮官という事なら、多少のイレギュラーがあってもなんとかなるんじゃないかな? なんか、マスコミの人乗せてたりしてるみたいだけど、天霧も不沈艦なんて言われるほどの腕利きみたいだから、心配は無用かな? でも、とにかく、無理は禁物だよ? それに油断もしちゃダメだ……どんな勇者でも油断と慢心は大敵だからね」


「そうですね。この程度の戦、窮地とも言えませんから、心配は御無用と言いたいところですが。おっしゃるとおり、油断と慢心は大敵ですからね。そうだ、天霧も何か問題あるかい?」


「……はいっ! 私、絶対負けませんからっ! それと初霜に伝えといてください! この戦いが終わったら、一本手合わせ願いますと!」

 

「……君ら、死亡フラグ大好きだね。でも、現状アルパーニアの守りは君達の手にかかってるんだ。君達の実力が折り紙付きだってことは判ってるけど、油断せず、全力でかかってくれ! 我々は君達の背中を守らせてもらう。仮に抜かれるような事態になっても、時間を稼いでくれれば、初霜が居る。君たち単独じゃないって思えば、少しは気楽だろう?」


「そうですね。お気遣いに感謝を! それでは、また後ほど」


「ああ、後ほど君と会えることを楽しみにしている。では、武運を祈るよ」


 そう締めくくって、永友提督からの通信が終了する。

 

 遥提督は……なんか、傍目にも解るくらい上機嫌。

 なんかもう、デレデレしちゃって、ニヤニヤしててとってもキモいです。


 ホント、こう言う浮わついた話なんて、ひとつも無かったから、こう言うのって、珍しい……。

 なんだか、我が事のように嬉しくなってしまいます。


 それに永友提督と言えば、スイーツ提督としても有名ですからね。

 提督の艦隊では、戦いが終わった時の定番として、慰労のスイーツや美味しいご飯が振る舞われるって言う話です。


 私もちょっとした楽しみが出来て、俄然テンションアップです!


「うしっ! なんかテンション上がってきたっ! やっぱ、男はああ言うナイスミドルに限る! よーっしっ! 白兎隊全艦に告げる、間もなく敵が視認距離に入る……総員戦闘準備!」


 ……いつもは、事前に細かく準備した上で、戦闘が始まると淡々と戦術指示を送る程度なんだけど。

 今回は気合入ってますねー。

 

 じゃあ、遥提督のためにもここはひとつ、がんばりますかね!

頭のおかしい平和主義。

実は、この時点の未来世界では、エーテル空間戦闘艦艇が黒船襲来の原因だと、まことしやかに語られていたりなんかします。


黒船は、あくまで兵器を敵と認識し、狙ってくるのであって、中継港は巻き込まれているに過ぎない! なんて、言われてますが……。

思いっきり、順番が逆なんですよね……。


もっとも、表面的にはそう言う見方も出来なくもないんで、それなりの説得力と共に、この平和主義が広まりつつあったりします。


……まぁ、良くあるプロパガンダ戦なんですけどね……これ。


綺麗事を並べて、希望や願望を事実のように語る……。

聞く側もそうであって欲しいと言う願望があるので、筋が通ってるように聞こえるだけで、コロッと騙されるんですよね……。

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