外伝2「第431独立駆逐隊の愉快な仲間たち」②
「あら、沙霧ちゃんもそんな風にすると割と可愛いのね。白兎隊の娘達って皆可愛くて素敵! そう言えば、他の二人はどうしちゃったの? アイリッシュちゃんと一緒じゃなかったの?」
「そう言えば、途中からどっか行っちゃいましたね」
「朝霧と夕霧の二人なら、哨戒行動に出したよ。上流域で黒船相手の捕物やってて、アタシらにも予備待機の要請が出てたからね。念のための先回りとして、二人を哨戒名目で、先行させといた。天霧にも警報行ってなかった? それと一応、機関をアイドルに回しといてよ」
遥提督に言われて、システムログを確認。
ありました。
30分ほど前……ちょうどユレさんを艦内案内してる時ですね。
同時に、朝霧と夕霧にも出動がかかって、出港していたようです。
システム上では、優先度低と判断、提督命令も無かったから、どちらも取るに足らない情報と判定したようで、意識上に上がらず処理されたようです。
「……来てました。ただ優先順位が低かった上に、提督命令もありませんでしたから、無視してました」
現状、私の最優先任務は、密着レポーターとして、チャンネル667に協力する広報ミッションとなってます。
どのみち、現段階では戦闘域といってもはるか上流、警報ではなく、注意報レベル。
この程度で休暇上陸中の艦隊に予備待機もですが……哨戒出動とは、少々大げさな気もします。
けど、遥提督のこの念の為ってのが、また侮れないんですよね……。
動物的な直感……歴戦の者だけが持つ戦機を読む超常的な力とでも言うのでしょうか?
そう言う事なら、私も念のために、艦体側を待機メンテナンスモードから、ホットアイドリングモードに移行。
蓄電素子の平均充填率65%……核融合炉の出力をスリープの5%からアイドルの30%へ移行。
休眠状態の予備の蓄電素子にも充電開始、充電率平常時の120%を目標値に充電開始。
光学観測システムによる全周警戒……登録外飛翔体確認されず。
アルパーニア周辺流域の上空に浮かぶ、光学監視バルーン、対潜ソノブイの各種情報を提督権限を拝借して割り込みで収集。
現時点では脅威なし、哨戒中の朝霧、夕霧からは、現時点では異常なしの報告受領。
上流では、何やら追撃戦が行われているようではありますが、まだまだ十分な距離があるので、コードイエローは妥当と言えば妥当。
この程度は、外縁部では日常茶飯事ではあるんですけどねー。
「んで、天霧は現状をどう判断する? アタシはコードオレンジ発令の上で、迎撃体制に移行すべきだと、判断し、総司令部に上申してる。どうせ上の判断なんて、いつも手遅れになるからね。早めにせっついとけば、ちょうどいい感じになる。とりあえず、先遣隊として朝霧と夕霧を出したけど、タイミングとしては少し遅かったくらいかもしれないな」
「こちらも、艦をホットアイドルに移行させました。では、私なりに状況を判断せよと言うことですね? かしこまりました……これより、情報分析を開始します」
総司令部へデータリンク、上流域で行われている戦闘の推移を確認。
RN嚮導駆逐艦ケンペンフェルト率いるC級駆逐艦五隻による軽巡、駆逐二匹の黒船の小規模艦隊と戦闘中。
ケンペンフェルトの僚艦は、クレセント、クルセーダー、コメット、シグニットの4隻。
常に五隻一セットで行動するカナダ系ルーツの星間企業、ウッドリッジ社のお抱え護衛艦隊でしたっけ。
輸送船団の護衛任務として、航路哨戒活動中に、黒船と遭遇……緒戦で、駆逐艦二隻を撃沈後、敵艦隊は敗走……現在、残敵を追跡中。
なるほど、一戦交えて、こっちに逃げてるのを追っかけてる感じなんですね。
でも、距離はまだまだ300kmくらいは離れてるので、流れに乗って下流側にと言っても、黒船の速力なんて、せいぜい35相対ノット程度。
どんなに急いでも4時間位はかかる計算だし、高速性を売りにする駆逐艦なら追撃戦はお手の物。
C級駆逐艦なら、速力は36相対ノット……10ノットの流速なら、40ノット以上は出るでしょうから、余裕でしょうね。
それに、ケンペンフェルトは知ってる娘です。
いつぞやか、巡察中に補給ステーションでご一緒して、お茶会に招いてくれた娘です。
RNの駆逐艦達は、守りに長けた護衛戦闘を得意とする娘が多いので、本来対艦戦闘はあまり強くないのですが。
ケンペンフェルトは嚮導艦という事もあって、本来C級は4.7インチ……120mm砲搭載艦にも関わらず、例外的に50口径130mm砲と言う少し強力な火砲を搭載しており、本人も火力信奉者……つまり、私のご同類なんですね。
実は、私達吹雪型の同時期就航の艦で、本来ならばライバル関係にある艦と言えなくもないのです。
お互い指揮艦であることもあって、思わずすっかり意気投合してしまって、未だに時々連絡を取り合う仲なのです。
「現時点情報を精査した限りでは、問題ないかと思います。上流域で黒船と交戦中のケンペンフェルト駆逐艦隊の戦力を考えても、単独撃破するに十分たる戦力かと。朝霧と夕霧が間にいるとなると、現状の対応としては、このアイドルに移行だけでも十分な対応と判断されます」
「そうだね。一応、妥当なところだと思うけど……天霧、セルフメンタルチェックを再度実行」
艦体システムチェックと並行して、再度セルフメンタルチェック……オールグリーン。
「大丈夫、私は問題ないです。直ちに出撃となっても、支障はありません」
「……天霧、普段のお前なら、軍事ミッションを最優先にするはずだろう……。確かにここらじゃコードイエローは珍しくもないけど、普段コードブルーの流域で、イエローが出る時点で、それこそ注意信号じゃないかい? それを無視してたって……ホントに大丈夫なのか? 何か変なプラグイン突っ込んだみたいだけど、どう見てもおかしいぞ? 私が外部からシステムチェックしたほうが、良いんじゃないのか?」
「沙霧、私は問題ありません。今の私は立派なアイドルレポーターとして、その任を全うしたいと考えています! 目指せ、銀河アイドル! 提督も一緒にアイドル道を駆け上がりましょう! この長い上り坂をっ!」
「……沙霧、これ本格的にヤバそうな気が……。でも、こんな面白天霧、超レアだから、これはこれでもう少し様子を見よっか。ユレさんだっけ? ちゃんと録画してる? これ貴重な映像だと思うよ」
面白天霧って……私、普段通りのつもりなのですが……。
「してるわよー! と言うか、この娘ってこんな面白い娘だったのね! アタシ、気に入っちゃったわ!」
「……私は、普段からこんな調子のはずです。面白とかレアとか心外です」
なんだか、好き放題言われて、さすがに温厚な私でも気を悪くします。
失礼な……プンスカッ!
「お前……マジで言ってるのか? それ……。なあ、悪いことは言わない。そのヘンテコプラグイン、今すぐアンインストールしろっ!」
「嫌ですよ……ちょっと楽しくなってきたんですから! こうなったら、沙霧にも強制外部インストールしちゃいます! やれば解りますって!」
「わっ! 馬鹿! やめろ! 何考えてんだっ!」
そう言いながら、沙霧が逃げ出そうとするのを後ろから羽交い締め。
沙霧のヤツ……生意気にも外部リンクを遮断、抗電子システムなんて、起動しているとはなかなかやります。
でも、お肌が直接触れ合った状態なら、電子浸透データリンクが可能となるんですよねー。
お肌のふれあい回線……大容量、高速、安心安全です。
その上こっちには指揮艦権限があるから、各種ポートを強制開放させてやった上で、キャラクタープラグインを強制インストール実施。
「うぉおお……天霧っ! 強制プラグインインストールとか、何してくれてるんだ! や、やめろぉっ! なんだこれは! 私が私でなくなっていくぅっ! アーッ!」
なんか、ビクンビクンしてますけど。
外部強制インストールですから……上位権限での強制ともなれば、沙霧に逆らうすべはありません。
せいぜい、精一杯の無駄な抵抗の表れってところですね。
「沙霧……無駄な抵抗はやめなさい。これはそんな御大層なものじゃありませんよ。あくまで仮想人格プラグインですから、言わば仮面のようなものです! 今の私もれっきとした私! さぁ、新しい沙霧の一面をみせなさいっ!」
……プラグインインストール完了。
沙霧の頭脳体の再起動プロセス突入を確認。
「……沙霧、どうですか? 気分は」
脱力して、クタッとしていた狭霧の身体に力が戻ってくる。
再起動プロセスコンプリート……万が一にも失敗なんてありえませんでしたけど、委細問題なく終了。
頑張った沙霧ちゃんは、ナデナデしてあげるのですよ。
「ん……ああ、悪くない気分だね! 私は沙霧、アイドルユニット、ホワイトラビッツのひとり! 銀河の平和のために歌って踊れるアイドルを目指そうぜ!」
……あれ? なんか、露骨に変な感じになっちゃったような……。
ま、いっか。
めでたく、バグり天霧に仲間が増えたよ!
天霧、抱き付くだけで、人格改造するプラグイン突っ込む鬼機能付き。(笑)
ちなみに、セルフチェックと言っても、あくまで戦闘行動に支障がないかどうかを判定してるだけなので、
人格がバグってても、戦闘向けのメンタルパラメーターが正常値なら、問題なしとなります。