外伝2「密着レポーター天霧、がんばりますっ!」⑥
「あの演習って、永友提督が意図的に、旧式装備に拘る娘達を最新鋭装備の潜行艦と戦わせる事で、意識改革をさせたかったって話も聞いてるのよね。要するにヤラセ……あの人って意外と策士……なのかもね」
さすが、マスメディア関係者。
これは、私も初耳なんですけど……。
ああ、でも、そう考えると、数々の実戦で揉まれてて、最新機材も潤沢に提供されてるはずの、永友艦隊の雷電姉妹があっさり負けたのも頷けるのかも。
あの二人は私達吹雪型のDNAとも言える対艦火力偏重の傾向があるし、割と突撃番長だったらしいから……。
対潜や対空戦闘はあの初霜がいるからって、完全お任せで、自分達は突撃アタッカー専門で、対潜は軽視してたとか……そんなんだったのかも……。
で、教訓として、厳しい現実を思い知らされたと……。
あの娘達も、私にとっては身内みたいなもんだから、その辺手に取るように解っちゃうんですよね……。
うん、解る……むしろ、とっても解ります。
私も、蹂躙突撃とか全火力一斉投射とか、大好きですから。
「ああ、なんか解りますね……それ。でも、ああも露骨に差が出たもんで、皆危機感抱きましたからね。太平洋戦争で潜水艦にやられた記憶持ってる娘も多いですから……」
「そうなんだ……やっぱ、潜水艦や飛行機は苦手な子って多いの?」
「そうですね。私達みたいな特型駆逐艦は、元々がそうだったせいか、対艦戦闘を重視する傾向がありますから、得手不得手から言うと、対潜や対空戦闘は不得手と言えます……。もっとも、対空戦闘については、砲も機銃ももはや従来のものとは比較になりませんし、数もそれなりにそろえています。あの時と同じ様にしょぼい弾幕しか張れなくて、一方的にやられるなんてことはありえませんね」
「確かに、ごっつい機銃がやたらと並んでるけど、これってどんだけ積んでるの? それに、どれくらい役に立つのかしら?」
「そうですね……25mm単装機銃ならざっと20門くらいですけど、どれも電磁投射タイプですからね。本来は銃撃手が必要なんですけど、反動とか一切考慮してないので、もはや、人間が操作できるものではありませんね」
「確かに、電磁投射砲って反動が凄いから、イナーシャルキャンセラー必須って聞いた事あるわ」
「イナーシャルキャンセラーはあれはあれで、速射性能が失われますからね。私達の場合は、遠隔操作アクチュエーターと光学照準システムを各銃に内蔵してるんで、機銃側のみでの独立制御する方式にしてます。当然ながら、頭脳体による統制射撃による弾幕射撃も可能です。日本軍艦艇は、どれも対空兵器が少なくて、太平洋戦争時は航空機にやられる例が続出してましたからね……。対空戦闘を軽視するような子はさすがにもういないですね」
「そうよね……エーテル空間じゃ、お空を飛ぶ飛翔体って厄介な相手だと思うわ。すんごいすばしっこいのよね」
「そうですね……連中、航空力学とかも割と無視しますからね。でも、対空戦闘ドライバの性能も、今や楼蘭側と遜色なくなりつつあるので、初期の頃ほどは対空戦闘で苦戦もしなくなってきてます。皆、一人頭のノルマ二桁超えないと脅威じゃないって言ってるくらいですから」
これは、相手も数で押す傾向が強くなってきてるってのもあるんですけどね。
軽空母相当のネストガーディアン級ですら、100機単位の共生飛翔体を放ってくるような有様ですから。
かつては、3-40機程度だったことを考えると倍以上……。
黒船側も進化してるんです……ホント、厄介な相手です。
「戦闘記録を見てると、初期の段階の永友艦隊なんかの対空戦闘と今の対空戦闘って、規模が違うみたいなのよね。……兵器の進化に終わりはないって奴ね……。頼もしいと見るべきか、物騒な話と見るべきか……永遠の課題かしらね」
「私達は兵器ですからね。戦闘の様式が変わるのであれば、それに合わせなければならないですし、黒船もドンドン進化してますからね……我々も進化の手を休めるような事はいたしません」
そう言って、話を締めくくり今度は、第一機関室へ。
位置的には、二本ある煙突の下に、第一と第二と二箇所に分けて配置してあります。
ちなみに、煙突は……飾りですかね。
「えーと、ここが当艦の全電力を賄う常温核融合発電室……通称機関ボイラー室ですね。室温は20度、放射線数値も外界数値と変わらず、ユレさんの方でも数値チェックしていただいて結構ですよ」
「大丈夫、アタシらはちゃんとエーテル空間に適応出来るように、ナノマシン措置を受けてるから、多少放射線とか浴びたって、全然平気よ。と言うか、ボイラー室って書いてある割に静かだし、蒸し暑くもないのね。平然と入っていくからびっくりしたわ」
「今は停泊中で、スタンバイモードですからね。戦闘モードに移行したらこうは行きません。フル稼働させるとバッテリーとかリアクターユニットとか、色々発熱しまくるので、普通にサウナみたいになりますよ」
「それにしても、東亜ファクトリー社製のパラジウムリアクターなんて、意外と大人しいの使ってるのね。これ民生用でビルとか大型車両なんかで使ってるような奴じゃないの? 動力自体は核融合炉とボイラーの組み合わせって聞いてたけど、宇宙戦艦用の反応炉だとばかり思ってたわ」
この駆逐艦天霧の動力源は、4基のパラジウムリアクターと呼ばれる発電ユニットなんですよね。
たぶん、それ……戦艦クラスとかの大型艦の話。
当艦搭載のパラジウムリアクターの大きさは……大きめの業務用冷蔵庫とか、パーソナルカーなんて言われる一人か二人を乗せる用の小型自動車くらいの大きさ。
特殊合金に重水素を馴染ませた重水素ペレットから、重水素を取り出して、パラジウムを主成分とした特殊合金触媒と接触させると触媒中で水素原子が高密度になり、それが核融合反応が起こるレベルにまで至り、大量の熱が発生します。
簡単に言うと、それが常温核融合反応と呼ばれるもので、この世界の主流のエネルギー源となっています。
発電用タービンなんかも一体化され、燃料ペレットも乾電池のおばけみたいな感じで、自動交換される仕組みなので、やたらお手軽なんです。
恒星や水爆に代表される熱核融合反応と違って、取扱も簡単で放射能も出さず、核融合反応の副産物のヘリウムガスが発生するだけとクリーンな代物。
ヘリウムも宇宙ではありふれた物質だけど、立派な資源なので、ボンベに圧縮して溜め込んでおけば、買い取ってもらえたりします。
とっても、お得なんですねー。
リアクターも民生用のコンパクトなものながら、これ一個でオフィスビルやコンビニの電力くらいなら賄えるくらいの出力はありますからね。
これをそれぞれ二台づつ、二箇所の機関室に設置。
常時並列発電し、大容量の蓄電池に充電することで、緊急時の電力を確保。
戦艦クラスや荷電粒子砲艦にもなると、こんなのではとても賄いきれませんけど、駆逐艦程度ならこんなもので済んでしまうんです。
「熱核融合炉は……あれは確かに高出力なんですけど、色々嵩張るし、被弾して暴走したら最後、大爆発したり、どうしてもある程度の放射能が発生しますからね。宇宙なら気にせずともいい問題も、エーテル空間では問題になりますからね。その点、このパラジウム触媒を使った常温核融合炉なら、安全かつクリーンですから。民生用核融合炉と言っても、出力を上げれば、重油ボイラーなんかより余程ハイパワーですからね。むしろ、蓄電ユニットとかそっちに重量やスペースを割り振ってますね」
ちなみに、推進力は昔ながらのスクリュー式。
これを大型の超電導モーター直結でぶん回すんですね。
もちろん、スクリューの素材は耐エーテル素材で、自己修復ナノマシン処理、可変形状ペラとか数々の最新技術が盛り込まれていますけどね。
推進システム自体は……良く言えば、熟れた枯れた技術。
悪く言えば旧態依然、500年間進化の止まったままの化石のような技術。
技術的には、さほど進歩していない上に、エーテル流体って海水よりも重たいので、速力については太平洋戦争時と大差ないんですよねー。
この天霧も38相対ノットは何とか出せるようになりましたが……それ以上はなかなか厳しいです。
もっと早くならないかしら? って思うんですけど、造波抵抗とか、流体抵抗とか色々あって、船首形状とか艦底形状や、素材の最適化なんて課題もあって……。
それに戦闘中に各種装備の発生させる熱の問題もあります……エーテル流体って、海水ほどには冷却効率が高くないので、放熱時にはエーテル流体中に放熱フィンを展開させるって方式を採用してるんですが。
これがまた、抵抗になってしまったり、旋回性能に悪影響が出たりと、色々問題があるんです。
中には、甲板上に放熱板を並べたりって方式も試されてるんですが……トップヘビー気味になるので、これもやっぱり試行錯誤中。
いずれにせよ、まだまだ進化の途上なんです。
「エーテル空間ってある意味、地上世界同様の閉鎖空間なのよね。何でもやりすぎると環境問題になっちゃう……。戦争で、そんな事言ってられないって思うんだけど、あなた達もそれなりに気を使ってるのね」
「そうですね。それに私達って、放射能浴びすぎると日焼けみたいになっちゃうんですよ。ガングロとか嫌です! エーテル空間も場所によっては、高濃度放射線流域なんてのもあるから、そう言う所では艦内に引きこもるか、ナノマシンシールドクリーム塗りたくったりしますね」
「あははっ! それいいわっ! そうね。日焼けなんてお肌の大敵だものね! 解る! 解る!」
そう言って豪快に笑うユレさん。
まぁ、クリーンなのはいいことですよねー。
そんな話をしていると、ユレさんの個人端末が呼び出し音を鳴らします。
なんとも可愛らしいピコピコとした「森のくまさん」のメロディーで、ちょっと笑っちゃいます。
「あらごめんなさい。ちょっとまってね! あら、アイリッシュちゃん……そう、解ったわ。すぐにお出迎えに行くわ」
「アイリッシュさんからですか? 提督の支度が済んだって事ですか?」
「そそ、ちょっと手こずったみたいだけど、ばっちりみたいよ」
「あの提督がどこまで化けたか、見ものですね。そうだ! せっかくだから、天霧の甲板上でインタビューって感じにしませんか?」
「それいいわね! ナイスアイデアッ! せっかくだから、オシャレな白い甲板でオシャレなテーブルでとか、そんな感じにしてはどうかしら?」
「実は、ティータイム用のオシャレなテーブルがあるんですよ! ちょっと待っててくださいね」
そう言って、甲板に出ると、普段甲板の片隅に置いてある折りたたみ式のイングリッシュガーデンテーブルセットを引っ張り出します。
以前、英国のRN駆逐艦に遊びに行った時に、甲板にそんなものが常備されていて、美味しい紅茶を御馳走になったんですね。
……ちょっと良いなぁって思ったので、上陸した際に同じようなものを買っておいたのです。
もっとも、エーテル空間航行中に、そんな余裕かましてられるほど、楽な任務なんてあんまりないし、提督は付き合ってくれないしで、ホコリを被ってたんですね。
せっかくだから、この辺りで使わないといけません。
「あら、これ良いじゃない。せっかくだから、お茶とケーキとか囲みながらってどう? ついでに、お花や観葉植物とかも並べて、オシャレな女子会って感じで……ちょっと外で待機してるADに言って色々買いに行かせるわね!」
ちょっと、想像してみる。
白だけど、無骨な装備だらけで、オシャレには程遠い我が天霧の甲板。
おしゃれなテーブルと色とりどりの花と緑……シュミレーション映像化し、網膜投影。
うん、ボタニカルな感じで素敵かも! 白い甲板に緑の鮮やかさ……いいですね! 実にっ!
「おおっ! なんか素敵な感じです。やりましょう是非っ!」
いろんな裏話や、この世界のエーテル空間艦船の技術的な解説が続いてますが。
いや、まぁ、一応SFですから! この作品! 技術解説回、重要なんです!
ちなみに、常温核融合って眉唾って言われてますけど。
日本では、結構ガチな感じで研究してて、常温核融合反応自体も実際に成功していて、着々と研究が進んで何気に世界トップクラスで研究進めてるんですね。
研究室レベルでは、普通に実現出来てて、エネルギー効率の改善や高出力化とかそんな段階だったりします!
原理も天霧ちゃんが解説してる原理であってます。
パラジウムには、水素を貯め込む性質があるんだけど、割と限度無く溜め込んで、最終的に核融合が起こるまで凝縮しちゃうんですね。
それがいわゆる常温核融合。
この動力が扱われてるSF作品では「フルメタル・パニック」が挙げられますね。
あの世界のASは核融合発電機と大容量バッテリーで動いてます。
潜水母艦のトゥアハー・デ・ダナンなんかも、常温核融合とスクリューで動いてますんで、
天霧もアレと同じ感じで動いてます……。
この世界では、リアクターユニットは、完全にパッケージ化されてるので、要するに凄い電池みたいな認識です。
ASがやられても、ザクみたいに大爆発しないのも、そう言うことだったりする。
実は、結構細かい設定があるんですよね……アレ。
ちなみに、吹雪型の連中はほとんど例外なく、突撃大好き火力信奉者だったりします。(笑)
例外的に、潮とか響みたいな終戦生き残り組は、慎重派な上にしぶとさに定評あります。
後の連中は天霧含めて、トリガーハッピー!
この辺はどうしても、艦○れとカブっちゃいますね。