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異世界に来ちゃった一匹狼くん  作者: 矮 英知
第二章 “新たに始まる” 編
9/9

9話目「始まりの始まり」

「…ここは?」


 目が覚めると、周りは果てしない白に覆われていた。

 召喚された時の真っ白な部屋・・を思い出したが、それとは全く違う全方位先の見えない真っ白な空間・・だった。足元には影すらなく、立っている感覚はあるのに床は見えず果てしない白一色。

 

「ああ、俺死んだのか…」


 意識を手放す前に、円卓の騎士ランスロットが剣を薙ぎはらおうとしていたのを思い出した俺は、この状況をそう結論づけた。


『生きてるよ?』

「っ!?」


 突然背後から声を掛けられたことに驚きつつ振り向く。そこには人型のが存在していた。


『時空の歪みに割り込めて良かった、まぁ姿はぼかしてるけどね』


 中性的な声で人型の光はそういうて肩をすくめる。


『…それで説明するけど、君はミラというコの放った空間破壊魔法の重複余波により生じた歪みに巻き込まれたってところかな』

「てことは俺はまだ生きてるのか…ならここはその歪みの中か?」

『ん~半分正解かな、時空の歪みに乗じて私の力で干渉したから…歪みの中に一時的に私の領域をつくったというところだな』


 そういって周りを見渡す素振りをみせる人型の光に、草薙は問う。


「あんたは一体…」

『…神とかではないよ?一応ね』


 人型の光の表情は分からないがその様子から、聞いても有耶無耶にされそうなので草薙はそれ以上の追及はしなかった。


「それで、何で俺を?」

『君にはによく似たソウルエネルギーを感じる…血筋なのかどうかは知らないけど、そんな君にならこの世界を変えることができそうな気がしたから、を渡そうと思った…んだけど』


 人型の光の曖昧な返答にどこを問うか戸惑う。


「…だけど?」

『ここは歪み、だから私のを渡すのはできそうにないんだよね…だから君にはが使っていた物を渡すための魔方陣を付けることにするよ!』


 そういって人型の光は片手を霧散させる。霧散した光の粒子は草薙の両手の平に魔方陣を刻んだ。


『両手の平を合わせて、それに魔力を込めて「我ここに喚ばん応え我が下に現れよ神器“ ガラクスィアス ”」…と言えばいいよ!』


 人型の光は残った片腕でサムズアップする。


「なんていうか…ありがとな」

『ふっ、質問責めにしたいだろうに…代わりに一つ良いことを教えてあげるよ』


 人型の光は嬉しそうな雰囲気を醸し出したが、すぐに真剣な雰囲気に変わる。


『今人類が仲間割れしているのに魔賊まぞく…今は魔族まぞくというのかな、が攻めてこない理由を教えてあげる』


 草薙はその言葉に片眉をピクリと反応した。そうミラたちの教えてくれることは、魔族は侵略者、今は大戦での消耗から攻めてこないと言われたが、草薙は納得できなかった。…明らかに魔族は好機なのだから。


『簡潔に言うと…人類と同じ状況なのさ』

「ふむ…」


 確かに簡潔、そこから予想するのは容易だった。


『魔族は、現在人類支配領域のこの大陸の西寄りの北と南に拠点がある。まず北は、四つの魔国を一つに纏め上げた魔帝が治める帝国がある。だが異次元レイダーゲートによって意図・・せず丁度半分に分かれた為に、こちらに進出した反帝国派と向こう側の帝国派とで内戦状態さ…。で、南には十二の魔国があり、どの国もこの世界の利権を求めている為に大戦争…つまりどこもかしこも戦争状態ってことさ』


 人型の光は呆れたようにため息を漏らす。


「なるほどな…」


 草薙も内心呆れていた。異次元だろうが異種族だろうがすることに変わりは無いのだなと。そう思っていた草薙は、自身の姿が薄くなり消えていくのに気が付いた。


『時間…のようだね』

「ああ、いろいろとありがとうな」


残念そうな声色の人型の光に再度礼をする。そしてふと思い出した草薙は人型の光に問いかけた。


「そういえば俺に似てるっていうの_」



草薙は質問を言い終わる前にその空間から消えたのであった。







 ここは大聖国家アラギの王宮の一室、先日軍議を行った場所である。


 ただし机の前に座っているのは三名のみ、しかもいずれも王族である。


「アレス兄様、何故“使徒”様をあの征伐に呼んだのですか!?」


 最初に声を荒げながら口を開いたのは、紺色のコートを身に纏い、艶やかな金髪を肩まで伸ばした美女、第一王女であり近衛部隊“十戒”隊長のミラ・アインス・ユダ。


「何故?俺の特殊能力“未来視”は知っているだろうミラ姫?…必要だからしたまでだ」


 そう硬く答えたのは、黒い軍服を身に纏い、金色の短髪に片目に縦筋の傷跡がある美青年、アレス・ツヴァイ・ユダ…彼は近衛部隊“十戒”の監督・・を兼ねた副隊長であり、次期国王である。


「ミラよ、余が了承したことじゃ」


 金糸やらで刺繍の施された赤いマントを身に纏い、初老で顎髭を蓄えており短い金髪をオールバックにしている、この威厳溢れし男こそが大聖国家アラギの国王でありかの二人の父親でもある、ソロモン・ユダである。


「父様!?十戒をメラン側に抑止力としてつけたのは、兄様の未来視によるものなのではなかったのですか!?」

「そうだが?」


 ミラの紛糾に対してアレスは冷ややかに応える。


「っ!…ランスロットを一時的でも止められるのは兄様くらいなものです!十戒を抑止力として派遣したり、使徒を呼ぶくらい未来視していたのなら、征伐など行うべきではなかったのではないですかっ!?」


 ミラの悲痛な叫びは、征伐に赴いた兵士のおよそ半数がランスロットに殲滅されたことを阻止できたのでは?という思いから来ている。


「…いや、自国の精鋭で補い、もしもの策は借りた使徒で、これ以上のことは手が足りないのがわからんか?」


 アレスは怪訝げにミラに呟く。一瞬その雰囲気に呑まれかけたミラであったがすぐに気を取り直した。


「もし征伐が必要不可欠なものだとしても…使徒など借りたら何を対価に要求されるか恐ろしくはないのですか!?」

「…そのことについては話がついた上で借り受け取るのじゃよ?」


 ソロモンはミラの懸念を除くために口を挟んだが、ミラの表情は驚愕を示していた。


「何を…何を対価に?」


 恐る恐る父親である王に問う。


「聖獣の召喚じゃよ」


 ミラは王の返答に戸惑いを拭いきれなかった。

 何故なら、そんなことで他国との戦争に関わるとは思わないし、聖獣とて容易に召喚できることではないからだ。

 王の話によると、使徒の一人の騎獣のドラゴンが寿命で死んでしまったために新しい騎獣を探していたらしい。そこでアラギの状況を聞きつけたレウコンの枢機卿が直接の戦闘に一切関与しない!のを条件に、聖獣召喚を対価に使徒を貸し出したのだそうだ。

 使徒本人も特に拒否はしなかったようだ。


 ミラは開いた口が塞がらなかった。

 そんな重大な取引の事を一切・・知らされてなかったということに…


「ともかく、今回は双方に捕虜もないし、レウコンとは取引だから後腐れもない。だからそんなことに問題などあるまい」


 アレスの物言いにミラはこめかみに青筋が浮かぶ。


「死傷者がこれほどに出たのにそんなことですか?…それに勇者から初めて死者が出たのですよ!?勇者たちも混乱しています!このままでは精神状態を維持することはできないでしょう」


 アレスはいかにも話を聞いてるかのように軽く唸る。


「…ドラコには使徒のことすら内心動揺してても冷静に告げたのに、ここではそれほど乱れるとはな…姫の精神状態も維持管理が必要か?」


 ガタッと椅子を弾くとミラは立ち上がりアレスを睨みつけた。アレスは挑発的な発言を続ける。


「確かに双方に捕虜はなし…その勇者とやらは死んだ可能性が高いが、勇者を殺害したのならパイオンから何かしらの動きがあるはず…よって生きてると位置づけ、他の勇者に、救出の為の大義名分を与えて落ち着かせてから精進させればいいだろう…」

「っ!…まるで道具扱いですね…」


 ミラとアレスの視線がぶつかり、空気も澱む。


「ともあれ勇者らのケアは優先事項じゃのう…まぁその消えた勇者はあまり好かれていたものではないようじゃったがな」


 王は髭を弄りながら呟いた。


「…まあ名前を覚えてる者も少なかったようですからね…でも正義感溢れる者は、逆に意志が強くなったようですが」

「ともあれ、この案件はこれでよかろう…ではミラは勇者らを頼むぞ!」


 王の言葉に軽くお辞儀するとミラは退室した。



「…アレスよ、あの準備・・は順調か?」


 ミラがいなくなり、二人っきりとなった部屋で王はアレスに問いかけた。


「えぇ、未来視通りに行ったので…あとは勇者たちを肥えさせれば問題ないでしょう」

「ならばいいが…はっきり言ってお主の未来視が無ければ今頃、反逆者として処罰していたかも知れんな…」


 王は言外に、心から賛同してはいないぞ?とアレスに釘を刺す。


「ふっ、問題はありませんよ陛下の念願は目前です」


 アレスは王からの忠告を軽く流すと静かに退室した。



「ふう…余の復讐を果たすときも近い…か」


 一人になった部屋で背もたれに身を委ねると、王は虚空を見つめ陰湿そうな笑みを浮かべる。

 



 その陰湿そうな笑みを浮かべていた人物が王だけではなかったのだとは、誰も知るよしもなかったが…。

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