表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/5

プロローグ

作者のぼんやりとした記憶の作品です

五十年ほど前。


この街は、大きな地震に襲われた。


それから長い年月が流れ。


十数年前には、さらに大きな地震と津波が街を襲った。


海沿いの景色は変わり、多くのものが失われた。


その後には大きな台風もやってきた。


川が溢れ、道路が水に沈み、街はまた大きな傷を負った。


それでも。


人は戻り、家が建ち、店が開き、港には船が並んだ。


傷跡がすべて消えたわけではない。


忘れたわけでもない。


それでも人々は、この土地で今日まで暮らしている。


ちなみに、その間にも大きな地震は何度かあった。


震度六くらいの地震なら、


「ああ、そういやそんなのもあったな」


で済ませてしまう。


少なくとも、居酒屋【なみ】の大将は、そんな男だった。


ここは、作者の地元をモチーフにした架空の市。


一応、市である。


一応。


駅はある。


スーパーもある。


コンビニもある。


飲食店だって探せばそれなりにある。


ただし、どこへ行くにもだいたい車がいる。


電車を一本逃せば、次の時間を確認したくなる。


少し道を外れれば田んぼが広がり、さらに走れば山がある。


反対へ向かえば、潮の匂いがしてくる。


港町だから、海がある。


当然、魚は美味い。


季節が変われば、店先に並ぶ魚も変わる。


地元の名前を冠した牛もいる。


野菜も米も作っている。


夏になれば、普段は静かな街に全国から人が集まるほど、大きな祭りも開かれる。


海がある。


山がある。


美味いものもある。


歴史も祭りもある。


あるものは、ちゃんとある。


けれど。


ないものは、何もない。


そんな、辛うじて「市」と呼べるくらいの田舎街だ。


夕方になれば、そんな街にもぽつぽつと灯りがともる。


仕事を終えた人が車で家へ帰り。


スーパーでは夕飯の買い物をする人が行き交い。


少し早い時間から酒を飲み始める人もいる。


大通りから一本入れば、途端に人通りは少なくなる。


そんな道の先に、小さな灯りがある。


居酒屋【なみ】。


決して大きな店ではない。


観光客が行列を作るような有名店でもない。


洒落た料理を小さな皿に載せて出すような店でもない。


その日に入った魚。


旬の野菜。


煮物。


焼き物。


刺身。


酒の肴。


そして、腹が減っているなら飯も出す。


そんな、ごく普通の居酒屋だ。


店を切り盛りするのは、本人曰く「ぽっちゃり」の大将。


そして、その隣にはもう一人。


本人曰く、


「派手な美人というより、親しみやすく整った顔立ち」


の店員がいる。


よく笑い。


よく喋り。


分からないことがあれば、すぐスマホを取り出して調べ始める。


そして、なぜか彼女が出かけようとする日は、よく雨が降る。


本人は断固として偶然だと主張している。


そんな二人の店には、今日も誰かがやってくる。


仕事帰りの常連。


腹を空かせた若者。


一杯だけ飲んで帰る客。


たまたま暖簾を見つけた旅人。


時には、誰も来ない夜だってある。


そこで交わされるのは、大抵くだらない話だ。


今日の仕事。


明日の天気。


最近できた店。


昔なくなった店。


魚の食べ方。


祭りの話。


昔の思い出。


そして、


「今日、何食う?」


そんな話。


この物語で、世界の命運を懸けた戦いが始まることはない。


異世界にも行かない。


奇跡も起きない。


魔法もない。


勇者も魔王も現れない。


あるのは、海と山に挟まれた小さな田舎街。


そこに暮らす人たち。


美味い飯と、酒。


笑い話と、時々ちょっとだけ昔の話。


そして今日も。


居酒屋【なみ】の暖簾が上がる。


これは、そんな店で織りなされる――


大将と店員と、そこへやってくる人たちの、何でもない日常記である。


感想いただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ