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産むし 増えるし 地に満ちる 私がママになるんだよ!!  作者: ボンジャー


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外伝 現代日本編 耳長様と因習村1

 時は2008年後半、未曾有の経済不況が日本を襲う中、サービスの始まった新時代のSNS上に一つの言葉が現れた。正確には発見されたが正しい。「耳長様」と言う言葉は、物好きなネット民には見慣れた物であったからだ。


 「耳長様」


 廃墟探索が趣味のオタクが「耳長さまに攫われる」と言う書き込みを残して行方が分からなくなったと言うフォークロアが発端のこの名前は、所謂インターネット怪談の黎明の頃から存在していた。


 曰く、山中で遭難した人間は、後の人生を山の近くで暮らす事を耳長様に誓えば必ず助かる。しかし、誓いを破ったならば連れて行かれる。曰く、廃村だと思った村に人が居たら、彼らがどんなに親切であっても長く留まってはいけないし、彼らの言葉を信じてはいけない。彼らは耳長様の使いで貴方は狙われている。


 その様な話が既に存在しており、SNSはそれらの噂を増幅し、尾ひれも背びれも付けて元来ネットと縁が無かった人々の間でも広まっただけである。その結果、「耳長様」の伝説は更に拡大し「耳長様を祭る日本国の法が及ばない村が存在する」「現代の姥捨て山と、子捨て山が存在して、介護老人と引きこもりは耳長様の生贄に捧げられる」「パラダイスみてぇな村があったが逃げて来た」


 等などの胡乱な話が出ては消え、証拠とされる画像なども出て来るに至り、インターネット上には日本国の何処かに「外界から隔絶された悍ましき風習の今なお行われる村」が存在すると言う「因習村伝説」が実しやかに語られる様になっていた。


 そして暗くなって行く世相から逃れる様に、若者たちは幻想の世界に夢中になって行く。折しもツチノコの実在と現物の捕獲が重なり、因習村探しはある種の世代のブームとなったのだ。



 「そう言う話を信じて遭難されたと?若いのう」


 「お前、全部話すんじゃねぇよ。恥ずかしいだろうが」


 「俺らがバカみたいじゃねぇかよ」


 「バカだろうが実際!ここ見つからなかったら死んでたぞ!」


 「ほんに若いのう。ひっひっひっ」


 そのブームに乗った三匹のバカ。荒波しかない絶望の社会人生活から目を背け、大学生活最後の年を冒険の旅に出かけて山深い中を車で走り回り、ガス欠→パンク→遭難未遂のバカフルコンボをキメ、夕暮れ近くに這う這うの体で林道を辿って辿り着いた村の旅館に転がり込んだ探索者たちの口論とそれを楽し気に見る女の声がする。


 「近ごろ良く来るんじゃ、お前さん方みたいない若いの。お陰で儲けさせてもらっとる」


 「ほら、俺たちだけじゃないんだよ」

 

 「バカには変わりねぇだろうが!」


 「あれ絶対熊だよ。車どうする?取りに戻るの嫌だよ俺」


 女。宿の女将の言葉を聞くと余計に惨めになって来る。学生の身分とは言え、とうに成人を迎えた男たちが後先考えずその場のノリで行動した結果がこれだ。途中クマらしき獣に追い掛け回され、レンタカーの行方が分からないのが財布の中的にも不安である。


 「まぁまぁ、車は村の若いのが見つけるで安心してくんろ。パラダイスとはいかんが、ここには温泉も湧いとるで心配せんとゆっくり待っとればええよ」


 その不安を多少なりとも和らげるのは女将の声であった。その年より染みた喋り方に似合わず鈴を転がす様な声が心地良い。


 「ありがとうございます。あの…女将さん…なんでそんな喋り方なんですか?」


 「では改めて…謎の因習村を求めて人が来ていますから、合わせて見たんですが変でした?いやぁ、この村ね、売り物が温泉しかないんですよ。なんでブームに乗って因習村で売り出そうかな~って、思ってましてね…ああ村長がです」


 「いや女将さん俺らより年下でしょ?年寄り言葉は…」


 「似合ってないよね。それになぁ」


 「日本語お上手ですね」


 であるが声と話し方はちぐはぐであった。お年寄り…それも演技丸出しの老婆の様な言葉がその小さな口から出るのは違和感しかない。何より女将は一般的な日本人からかけ離れた容姿をしていた。


 「よく言われます。ほら技能うんたらってあるでしょ?この村そう言うの受け入れて長いんですよ。だから山奥にしては若いのが多いでしょう?私なんて子どもの頃に此処に来たもんで、こんなナリしてますが日本語しか喋れません」


 「ああ…だから。そう言えば仲居さんも若かったな」


 「さっきタバコ買いに行った時見たコンビニの店員も若かったな」


 「なんだよコンビニのある因習村って…てかあるのかコンビニ…誘えよ」


 「疲れて寝てたから起こすの悪いかなって」


 「ふふ、山向こうの町にあるローカルチェーンですよ。向こう、製薬会社があるんで儲けてまして、無理を言って出店して貰ってます。コンビニ位ないと税金の支払いとか不便でしょ?」


 「税金って…ますます因習村から遠いような…」

 

 「良いの、良いの。便利!お手軽!速惨劇!今日着いて明日生贄!それが現代の因習村ってもんです。そうでもしないと人こないでしょ?」


 「良いのかそれ…」


 「それが村長の…いえ副村長の方針でして。ではごゆっくり」

 

 そう言って赤に近い褐色の肌と黄金の髪を持つ、何人とも言えぬ美しい顔を持った女将はコロコロと嗤い去って行った。


 「だとよ。夢ねぇな…どうすんべ」


 「取り敢えず風呂だな。んでメシ。それで寝ようや。疲れたよ俺」


 「賛成。明日だ明日」





 一夜明け

 

 「若いのだからこれ位は食べないと!」


  と昨日出された夕食に劣らぬ肉…妙に柔らかい女将の言うには猪肉…を中心とした豪勢な朝食をたらふく胃袋に詰め込まれた探索者たちは


 「車を探すのには時間が掛かりますので、村の中でも回って来て下さいな。な~んにも無い所ですがね」


 と宿を追い出され、暇に任せて村を散策していていた。確かに何も無い村であった…コンビニはあるが…だが、そこは何とも郷愁を…三人とも実家は都会で田舎に親戚など居ないと言うのに…感じる場所だった。


 野良仕事をしている人々、恐ろしく澄んだ小川に遊ぶ子供達、庭先で話しながら手仕事をしている女たち、故郷と言う物があったのならこう言う場所だと思える何かが。だから違和感に気づけなかった。今の時代一切の機械を使わず働く村民は皆若々しく、辺鄙な村と女将は言ったがそれにしては子供が多すぎるのだ。


 この村には過疎の村に付き物の老人がいない。筋肉質で溌剌とした若者とこの世の幸せを嚙みしめる子供しかいない…そも学校はどうした?何よりオカシイのは女将の結い上げた黄金の髪から僅かに覗いた長い耳が、村民には存在した。探索者たちは気付いてしかるべきだったのに気づけなかった。


 いや何処かに引っ掛かる物はあったのだろう。だから村に一軒だけある駄菓子屋兼のベンチに座り、彼らは何処かホッとした様子で冷えたラムネを飲んでいた。見上げれば空は青くそして高く、耳を澄まさずとも蝉の声が聞こえる。はて?今何月なのだ?


 「良い所だな」


 「ああ。確かになんにも無いけど」


 「のんびりはできるよね」


 「そんな顔しとると耳長さまに連れて行かれるよあんちゃんたち」


 何ともしっくりこない、上の空の会話。そこに割り込んだのは駄菓子屋の店主だ。


 「その設定。本当にやってるんだ」


 「因習村で売り出すのは無理だと思うんだけどなぁ」

 

 「お姉さんの歳で兄ちゃんは無理ありません?もっとこう小さい子が言うのがセオリーでは?」


 「そっだら事言っても、オレから見れば兄ちゃんたちはそんぐらいの歳だからなぁ」


 探索者たちのツッコミに店主は首を傾げた。彼女はこの村でようやくであった違和感を感じない…探索者たちには分からない事であるが長い耳も赤銅の肌も持たない…「人間」だ。


 「その調子だと、年寄りいねぇから不思議に思っとる様だね?昼間、村ん中で働いとるのは若ぇのだけだ。後は山向こうのか、山ん中の施設で働いとるよ」


 「へぇ、普通は逆でしょう?」


 「あの人らは町が好かねぇからな、家の人見てぇに出稼ぎ行ってるのは別だがけんども、後は山仕事か野良にでとるだよ。兄ちゃんら見ない顔だけんども旅行で此処に来なさったんだろ?ウメェ肉あの人ら取って来るで楽しみにしてなせぇよ」


 「いや朝から結構いただきました。まだ腹重い」


 「猟師さん多いんですか?」


 「猟師っりゅうより趣味だなぁありは。お陰で畑さ荒らす獣は居なくなって助かってるだよ」


 「猟師じゃないとすると罠猟かなにかで?」


 「いんやそんなまどろっこしい事ようせん。あの人らは槍やら鉈だぁ。こう…投げて獲るだ」


 「ワイルドだなここの人…」


 「腕は良いだよ。この前なんざ、こげな大きなクマ獲ってきた。まんず楽しみにしてくだせぇ…たらふく食って精付けた方が長耳さまも喜ぶでなぁ」


 「まだ続くんだ因習村設定…」

 

 「堂々とお前たち生贄だって言っちゃったよ」


 「こりが売りだかんなぁ……本当に食われるとも知らんで呑気なこって…」


 「え?」


 「不穏さの演出だぁ。気にすんな。さっ買ってくんろ」


 「なら、イカちゃん下さい」


 「すげぇニッキ棒売ってるよ」


 「え?その枝食えるの?」


 一抹の不穏さを醸す一言を終えた店主はガラリと表情を変え商売を始める。これも演出と納得した探索者たちは、しばし駄菓子を貪りながら、暇に任せた店主との会話が続く。そこで語られたのは因習村云々はにブームに乗った物だが、長耳さまにまつわる伝説…と言うか事件は確かにあったのだと言う。

 

 店主曰く、この村は終戦後間も無く、戦災孤児を引き取った一組の夫婦により開かれた村で、その後は細々と農林業で生活を立てていたが、暫くして村長の妻が事故で亡くなり、その直後から奇怪な事件が村に起こり始めたのだと言う。


 「どんな事があったんです?」


 この情報に俄然興味を引かれた探索者は尋ねた。


 「そりはなぁ…」


 

 長耳様の祟り


 妻を葬った村長はその晩より凄まじい怪異に襲われた。なんの因果であろうか?それは現れたのだ。


 『この浮気者!私と言う者が居ながら子供こさえて下さりやがってぇぇ!NTR!NTRなんですかぁ!!ああーーーー!脳がぁ脳が破壊されるぅ~!!!PTSD!PTSD!!!性癖を性癖を植え付けられたぁ!瞼に浮かぶはあの日の姿ぁ!それが!それがコブ付きぃ!!嗚呼ぁ戻らないぃ!!戻れないぃ脳が戻らないぃ!オノレオニイサマァ!!!責任を取れぇ!!!責任取って私も孕ませろぉ!!』


 と宣う下におぞましき山の神である。それ以来、村長宅では定期的に叫び声が木霊する様になり、それが収まった所で、村では夫婦中急激な冷え込み、未婚男女の失踪、周辺村落では神隠しが起こる様になったのだと言う。


 「ありぁ大変だった……そうだよ。山向こうから、この村の人間に息子を取られただの嫁を浚われただの言って大勢押しかけて来て、オレも…ごほん、オレのばあ様なんか怖くって家で震えてたぁ」


 「迷惑な怪異だなソイツ」


 「NTR専門怪異ってなんだよ…」


 「この場合WSSなんでは?」


 店主の話を聞いた探索者たちは想像したのとは斜め上に迷惑な祟りに頭が痛くなった。その化け物はなんで見ず知らずの相手にNTR発症して襲い掛かっているのだ。寝てから言えよ。だが続きは気になる。


 

 

 ど迷惑WSSの怪異により、怒りに燃える群集は駐在の止めるのも聞かず、事の原因とされた村長宅を包囲した。ここからが話の真骨頂なのだが、店主が語るにが、家の中で震えていた祖母の話では村中で叫びと何か争う声が聞こえた後、周囲は嘘の様な静けさに包まれたと言う。


 そして一夜明けて見れば、アレだけあれ狂っていた人々は惚けた顔をして山を下りていき、その後は嘘の様に町(当時は村)との関係は良好になったそうだ。

 

 「村長さんも、村のもんも、なんも言わんかったが、ありはやっぱり神さんの仕業じゃかろうかっちゅう事になってなぁ。そんで今でも長耳さまをお祀りりしとるだよ」


 なので謎の因習村設定は根拠の無い物ではない。そう店主は締めくくった。


 「あの…」


 「なんだね?」


 「結局、なんで長耳さまって名づけたんですか?話の中に出てこないんですが?」


 「あ~そりは~…え~…そこまで設定考えてなかった。今度ばあ様と詰なければいけねぇ。ごめんな兄ちゃんたち」


 「設定!設定って言った!やっぱ全部作り話なんじゃないですか!」


 「全部が嘘ではねぇ。ちょくちょくホントもある」


 「どこまで?」


 「村長さんの家が囲まれたのはホントだ。街の連中、テメェらの甲斐性がねぇの棚に上げて怒鳴り込んできただ」


 「それは嘘の方がいいんじゃ…もしかした村長さん殺されちゃったりしたんですか?」


 「いんや。村総出で返り討ちにした。すごかったぞあん時の村長。ばあ様と一緒にちぎっては投げ千切っては投げ、駐在目ぇ回してた…って家の婆さんが言うてただ」


 「いきなりバトル路線になったなおい」


 「因習村は因習村でも謎の拳法を伝承してる方だ」


 「実はここ忍者の隠れ里なんでは?」


 「そんな大したもんでねぇよ。ともかく、そう言うバカみてぇな事があったんで、誇張してやれば売りになるではねぇかって、ばあ様が言ったんで乗っかっとるだけだ。村役場のホームぺージにも乗せとる」


 そこまで聞いて探索者たちは会話を終えた。都合一人800円分の駄菓子で聞いたにしては禄でもない顛末であった。やはり因習村など存在はせず長耳さまは都市伝説の類なのだろう。


 「ありぁ!しまった!祠も作った言うて誘導すんの忘れてたぁ!待ち構えとる若いのに謝らんと…まあええか、どうせ逃げられん。けーたいっちゅうのが出来てからホンに面倒でいかんわ」


 探索者たちを見送った店主が放った言葉が無ければ。


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