第六十六話 クレームと押し問答
「大変結構」
本作戦の最重要課題を担う部分で色よい返事が聖都より来ましたので私ホッとしております。皆さまに誤解して頂きたくないのは私はオークを滅ぼしたい訳ではないと言う事です。
私は生れ変わって頂きたいだけなのです。オークと言う種族の全てに私とお兄さまの血が流れ、オークと言う言葉が交雑種である豚エルフを差す時代になって欲しいただそれだけ。
聖都での策謀はその為の布石でもあります。生物学的には今回の一連の騒動が終れば3世代もあれば純粋なオークは消えるでしょうが、その消えたオークが記録に残っては困る。暇人は何処にでもいるものですからうっかり記録を発見されてはいけません。
この世界での最大種である人間さん、彼らはエルフ帝国無き今、髭を覗けば唯一の歴史を記録する存在です。そんでもって人類の帝国も爆発四散しましたので歴史の記録等と言う生きるには必要ない行為をするのは聖職者だけです。
その聖職者さんがたーくさん集まって、帝国時代から続く歴史の編纂事業を行っている聖都を我々は抑えております。で・す・の・で、我々は好きに歴史を書き換える事ができると言う訳です。
前にも似た様な事いったとおもいますが、歴史とは自分達のこれまでの歩みの覚書です。我々エルフと違い、ひじょーに忘れっぽい人間さんたちは、こまめにこの覚書を使用しないとあっと言う間に自分達が何者であるか忘れてしまいます。
それを自由に書き換え真実を嘘に虚構を真にできる訳です。オークと言う種族に対する人間さんの理解もそう、ゆっくりで良いのです、少しづつオークと言う種族は我々との混血に入れ替わり、元の姿を知る者がいなくなった時、真実を知るすべを消してしまえればそれでOK。
緑の肌に突き出た牙、筋骨逞しい肉体を持つ種族なんて鼻からいないの事にしましょう。いるのは桃色の肌を持つ、女はムッチリ安産体型、男はどっしり益荒男型の種族だけです。彼ら彼女らこそがオークであり、それ以外の存在など元から居なかった。それが唯一の真実となります。
オホホッ完璧!…暴走特急の我が息子がどうにかなればですが…冬が物理的に迫って来ているというのに止まりゃしねぇ…仲間増やした所で食い扶持が増えるだけじゃないですか…貴方達が海に辿り着いた頃には皆逃げてるから、耕作できる土地手に入れてもノウハウ持った者は居ないし、皆で飢え死によ?なにしたいの?大人しく絶望の未来を察してバラバラなりなさいよ。
絶対ロキの奴が入れ知恵してるな?なに考えてる?分からん!良いや!もう寝る!お休み!息子が回れ右して凍土引っ張り隊を迎撃の構えに出たら起こして!
あり?目を覚ますと言うか何とも言えないフワフワした感覚。何時もの不思議空間であるこの場所は…
「お前と同じ考えだ蒟蒻花」
横たわっている私を見下ろす見たくない顔が見えます…また夢枕か…何よ!もう言う事なんて無いでしょ!自分の尻に火が付いたらクレームって恰好悪いんだよ!
「あのね…幾ら神であっても対戦相手の頭をそう度々覗くのはルール違反ですよ?それと私は白・百・合!臭くない!」
「黙れドクニンジン。ルール違反と言うなら盤外からイカサマばかりしているお前はなんなんだ?少しは正々堂々と戦え。これでは試練にならないんだよ」
「それじゃ負けるじゃん!家の子たちバタバタ死ぬじゃん!白百合ってぇ~お姫様だから~そう言う血生臭いの嫌い~」
煽ってやる。訥々に現れやがり下さって歓迎して貰えると思うなバ~カ!どうせ又出まかせ吹き込む積りなんでしょ。
「ラタトスクの親戚が姫な訳がないだろう。お前のやり口は俺も良くやった手だ。だがな、最後は人任せにできないぞ。今日はそれを伝えに態々来たのだ」
「へっ!私に化けて男に媚びてるのが良く言うわ!や~い負け犬!大人し降参して息子返せ!どうやったってそっちはジリ貧なんだよ!誰が真面にやってやる物か!そう言うマッチョイズムは今時流行らないの!」
「ふん!相変わらず減らず口だな。だが神の前で悪口を並べてるなら少しは内心の恐怖を隠せ。恐れを知らぬ事を誇るのは馬鹿だが、臆病に過ぎる者は何も手に入らんぞ。失う事を恐れると言うのは老いた者のやる事だ。特に、お前たちエルフの様に死は終わりではないと知っている者が持ち合わせても、良い結果は得られないぞ」
「それが貴方様の嫌いな現代的な感性って奴なんですよ。ハイリスクハイリターンで結果を出すなんてのは只の幸運頼みなの」
「その割にお前は何時も綱渡りしかしてないようだが?お前の主人も呆れているぞ?」
「はいはい。お説教どうも。詐欺師の神様らしいお言葉ですね。私の命は軽くても子供達の命は軽くないの。それを易々と天秤に乗せられる訳ないのは当たり前!」
そう言うのは割り切れる物じゃないんですよ…臆病になるのも当然でしょ。
「そう考えるならもう少し他人に慈悲を掛けたらどうだ?俺も呆れるお前の悪辣さで死んだオークや人間がその言い様で納得するのか?」
「何が言いたいんですか?本題に入って下さい。睡眠時間を削るのは美容に悪いんですから」
「どう気遣った所で、その腐った魂まではどうこうは…」
「早く!!!!」
「分かった、分かった。お前がこれ以上、盤外戦術を取り続けるなら、俺も同じ事をする。お前ばかりズルいだろそれは」
「は~?神様がそう言う事いっちゃう?」
「言っちゃうね。お前がこの世界の人間ならば知らぬ事だが、お前が俺たちが去った後の世界の知識を使うなら別なんだよ」
「ミサイルだした訳じゃない!核使ってない!貴方さま先に素手で巨人引き裂けるベーさん擬き投入した!それも私の息子を使って!」
「知識は兵器も同然なんだよ。世界を壊しかねない生物兵器を使おうなんて平然と考えるのは逸脱が過ぎる。知恵を使って戦うってのはズルし続けろって意味では無いぞ。分かってるのか?」
「分からない!資本家は何時もそうだ!したり顔で労働者から搾取する!弱い者には団結する権利がある!ストとデモは我々の武器だ!冷笑すれば賢いと思うな!我々は断固闘争を継続する!」
「茶化してどうにもならんぞ。これは決定だ。文句があるならお前の主人に言え。兎も角、お前がそう言う態度でいるなら、俺はオーク共を連れてこの地を出る。試練は英雄を倒す事だから、お前は俺たちを追って来るのだな。放って置いても良いぞ?その場合、俺はお前の息子を真の英雄に育てて、お前がペテンで作り出した物を破壊して回ってやる」
ぐぬぬぬ…なによそれ!考えろ…考えろ私!なんかいい手は…
「そうだ。やっと試練らしくなった。では、確かに伝えたぞ。決戦を楽しみにしている。さらば…」
「わーーーーー!!!!!!待って!!待って!!!お願いします!!!この矮小なる長耳にお時間を!!!ね?ね?ね?今の貴方様は片目のエラ~イお方を打ち倒して次の世界を御創りになる主神さまではないですか?私は虫!虫でございます!潰す価値もございません!そんなのに本気にならないで!ね?ね?」
「はぁ~、これだ。ハエトリ草よ」
「はい!ハエトリ草でございます!私は男と言うハエを食って生きる食虫植物!否!その様な高等な生き物ではございません!貴方様に比べればモウセンゴケでございます!いえアオミドロ!ミトコンドリア!」
「自尊心は無いのかお前は…」
「ありません!この身は鴻毛の軽さ!塵と灰から出来た泥人形…なのでお慈悲を」
ねぇよ、そんなの。負けたら終わりじゃ。私は兎も角、家の子供やお兄さまが生き残る為ならなんでもするのが、せめて母がする勤めなんですよ。
「その執着を何故、もっと他の者に分けられないのだ?良い機会だ。一度聞いて見たかったのだが、お前は何を目指している?何をこの世界に齎す心算だ?」
「言ったら手心加えてもらえます?」
「考えてやる」
ひひひ。押し返した。
「返してない」
はい。
「では。人であったならば不敬も不敬なので塩の柱にされても文句は言えませんが、私思うのです。この世界は何故完璧に作られているのに態々それをぶっ壊す必要があるのかと」
「それがお前の主人の意志だからだ。親は子供を作り、その独り立ちを待って席を譲る。不完全であればこそ、その穴を埋めようと努力し何時かは俺たちを理解できる者になる。お前に難しい事を言っても分からんだろうが、それが親で神と言う物だ。俺たちも、そしてお前の主人もそれを望んでいるだけだ」
「それですよそれ。私はね。それがオカシイと思うの!重いの皆さま方!特に我がご主人!人間さんへの、生命への期待が重い!」
「何が重い?親が子を思う事の何が問題なんだ?子が親に並ぶ日を求めて何が悪い?」
「はい。なる程、神の頂きに手を掛けられる資格とその為の自由意志は破格でしょう。但し永遠たる皆様から見たらです。なぜ人は針の穴にラクダが通れるかどうかの可能性の為に徒労しなければいけないのですか?何故に終わらない空腹と欠乏に悩まされ星々に手を伸ばさなければいけないのですか?親に並ぶ?それ何時よ?宇宙の終わりを乗り越えろとかでしょ、その期待!」
「前例は幾つもある。可能性はあるんだよ」
「だから!それ永遠から見てでしょ!10の37澗乗分の1とかのレベルの確率でしょ!実質不可能なの!なんで貴方様方はそう過干渉で自分本位な親なのよ!今ここにゴールがある!永遠を手にするためなら此処で良いではないですか!荒野で生きてこそ?それは獅子に頭から食われないから言えるセリフです!不敬を承知で言わせて頂きます!膨れ上がった死体の何処に自由がある!腐り果てる定めの何処に期待を求めろと?我々も人間さんも此処で良い筈です!」
「本音は?」
「働きとう無い!消えとう無い!永遠にニートしたい!それを許さないと言うなら断固して逆らう!親が無限に金持って死なないのなら寄生し続けてやる!エデンから出る位なら私はアダムをイブから寝取って蛇も巻き込む!お父ちゃん!私たちを永遠に養って!」
ああ言いたい事言ってやった。エルフと言う半神は永遠を一日として生きられる様作られているのです。そしてこの世界のリソースは無限。発展など要らない!進歩などクソ食らえ!我が血族はこの世界を楽園に変えそこに居座る!滅びよ人類!コンニチワニューヒューマン!お前たちもえ・い・え・んに付き合うんだ!それが私の家族になるお前たちの幸せだ!断言して言う!
「人の欲望とは…呆れて物も言えんな」
「私はエルフ!前にお話しました!」
「永遠に生きる奴は持ち合わせている物にそこまで執着しないんだよ普通。まあ良い、本音を吐いたのだからな。お前の主人も聞いて苦笑してるぞ」
「へ?聞いてたの?嘘!今の無し!当方に叛意はありません!弓引き奉る事など有り得べからず!
お仕置き止めて!」
「だから苦笑してるとさ。お優しいね」
「許された?」
「それは知らん。神の意図をお前が理解できる訳もないだろ。まっ全ては俺の試練を乗り越えてからだ」
「あのお約束…」
「考えて置くと言った筈だ。これに懲りて神を試す真似は慎む事だな」
「?。止めろでは無く?」
「人間が止めてろと言って止めた事が一度でもあるか?」
「ないっすね」
「そう言う事だ。では、逃げるなよ?何度も言うが試練なのだからな」
「へへぇ」
そこまで言うと。ロキは消えました。あ~疲れた。寝てるのに疲れって何?




