エピローグ
十二月になって、一段と寒くなってきた。
これからの時期、愛理や小春などの長距離種目でない陸上部員たちは、練習が自由参加となる。
しかし、自由といっても実際は、よっぽどの事がない限りは参加しないといけないという強制的なものであった。
「メグチン。今日、部活行く?」
放課後の教室で、愛理に小春が尋ねる。
「そうね、月初めくらいは行こうかな、と思ってたけど……」
愛理は完全に帰り支度を始めながら答える。
「今日は、バイトも実践初日だし、そっちを優先するわ」
そう言って、席から立ち上がる愛理。
「ヒキョーだぞ! そんな理由で抜けるなんて!」
「自由参加だからいいのよ」
「うぅ~! メグチンが空気を読まない~!」
なにやら唸り声を上げる小春を無視して、
「じゃあね。あなたは部活を頑張ってね」
「裏切り者~!」
小春の叫びがこだました。
校門前では、青井原が掃き掃除をしていた。
「あれ? 藤堂、もう帰んの?」
愛理に気付いて、声をかけてくる。
「帰るっていうか、バイトに行くのよ。今日が実践初日よ」
小春にも言ったことを繰り返す。
「マジかよ!? 頑張れよ! 失敗しても、くじけんな!」
「……何か、失敗することが前提みたいに聞こえるわよ」
愛理が睨みつけると、
「冗談だよ、冗談! マジ、頑張れよ~!」
と、笑いながら、激励しなおす青井原。
「分かってるわ。あなたも掃除当番、頑張ってね」
そう言って、愛理は青井原に別れを告げた。
小春もそうだったが、青井原も、愛理が天恵受者になったことを知っても、態度を変えたりせず、今までどおりに接してくれた。愛理は、そのことをとても嬉しく思う。
自然と笑顔になりながら、愛理はバイト先へと向かった。
何度も言うように、今日は、愛理のバイトの実践初日である。
十一月中は、部活が休みのときや、休日に事務所に行って、拓真の事務を手伝いつつ、自身の天恵のコントロールや特徴などを把握し、仕事に必要なことを練習していた。
そして、ようやく形になってきたので、今回から、他のメンバーのアシスタントとして仕事に同行することが決まったのだ。
「こんにちは~」
事務所のドアを開けて、挨拶する。そこには、千風と拓真がいた。
「おぅ」
「こんにちは~」
二人とも返事を返す。そして、デスクに座っていた拓真が、声をかけてきた。
「今日は、千風のアシスタントってことで実践に移ってもらう。なに、簡単な仕事だから、大丈夫だ。千風の言うことを聞いて、しっかりやってくれ」
拓真の愛理に対する口調は、ここにしばらく通っているうちにすっかり砕けたものへと変化していた。千風いわく、部下と認められたから、らしい。
「はい! 了解しました!」
愛理は、元気よく答える。
「その調子だ。千風も、先輩として、馬鹿にされないようにしろよ」
「勿論です!」
千風も元気よく答える。
「よし。依頼内容はここに書いてある。依頼主は、先に目的地に行っているらしいから、そこで詳しいことは聞いてくれ」
「「はい!」」
二人は、拓真から書類を受け取る。
「では!」
「行ってきます!」
そして、気合も十分に、事務所から出て行った。
「子供みたいにはしゃぎやがって……」
拓真は、苦笑しながらも、彼女らが出て行ったドアを、ずっと見つめていた。
これは、後に『壊す者と創る者』という称号で知られることになる、天恵受者差別根絶運動の中心となった二人の少女の、始まりのお話である。
一度完結していた作品を、細かく章分けしただけですが、読んでいただいてありがとうございました。感想お待ちしております。




