第五章:終焉の都、ネオ・ニューヨーク編 第46話:鋼鉄の翼と、決意の航路
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▼ 前話(第45話)のあらすじ
自分自身の絶望の具現である「金髪の総帥」を統合し、ついに聖域を崩壊させたカズ。父・拓也が遺したメッセージ、そして未来の明日香から届いた救済の要請。すべては北米、ネオ・ニューヨークに聳え立つ時空干渉塔へと繋がっていました。
――そして今回の第46話。
物語はついに最終章『終焉の都、ネオ・ニューヨーク編』へと突入します。
激闘を終えた東京を離れ、世界を、そして未来を救うための「最後の一歩」を踏み出すカズたち。
しかし、カズの脳裏には十九回のループで刻まれた「自害」の感触が、鋭いナイフのように突き刺さっていました。
鋼鉄の巨鳥『アトラス』が羽ばたく時、物語は真の「真実」へと加速し始めます。
西暦2100年、二月
かつて絶望の象徴だった東京マザーサーバーが陥落し、高度三万メートルの聖域が灰燼に帰してから、数日が経過した。
二月の乾いた朝の空気が、カズの肺を刺すように冷やす。
再建の槌音が響き始めた『アーク・セクター00』のテラスで、カズは一人、朝日を浴びる東京の街を見下ろしていた。
「……ハァッ……ハァッ……」
あの日から不意に押し寄せる十九回と言う死の記憶……
喉の奥が焼けるような錯覚に襲われる。
十九回のループ。
自分が自分を殺し続けてきた、あの絶望の感触。
ある時は、エリスが返り血を浴びないようにとって、彼女が銃を俺に向ける前に自ら喉を切り裂き。
ある時は、彼女を殺人者にしないため、彼女の目の前でビルから身を投げた。
そのたびに味わった「死の瞬間」が、聖域で金髪の総帥を統合した今、かつてないほど鮮明な痛みとして全身の神経を逆なでしていた。
「……先輩?」
背後から、静かな、けれど温かな声が届く。
振り返ると、そこには湯気の立つカップを手にしたエリスが立っていた。彼女の漆黒のメイド服が、朝日に照らされて柔らかい輪郭を帯びている。
「顔色が真っ青です。……また、悪い夢でも見ましたか?」
エリスがカズの顔色を心配そうな眼差しで見つめながら問い掛ける。
「……あぁ。いや、大丈夫だ。エリスが淹れてくれた紅茶を飲めば、すぐに治るよ」
カズは震える手を隠すように、エリスから差し出されたアールグレイのカップを受け取った。
彼女は何も知らない。
エリスがカズを殺そうとしていたことも、そうさせないために、カズが自ら十九回も命を絶ってきたことも。
すべて、エリスが未来で苦しまないように、笑っていられるように。
(お前の手を、人殺しの汚れた手にさせない……。それだけが、俺の十九回の答えだったんだ)
カズは胸の内でそう独白し、苦い想いと共に紅茶を飲み下した。
*
「――解析結果が出たわ。カズ、みんな、集まって」
ラウンジへ戻ると、サクラがモニターを指し示しながら、鋭い表情で一同を迎えた。
横にはアダム、そして本物のミオとミオドロイドが並んでいる。
「明日香が送ってきた、ネオ・ニューヨークの巨大な塔『エクリプス・ニードル』の設計図……。その正体は、単なる時空干渉機じゃなかった。あれは、現生人類の魂を強制的にデジタル化し、2102年の『壊れた未来』へと送り込む……巨大な『魂の収穫機』よ」
「魂の、収穫……!?」
アリスが愛刀の柄を鳴らし、嫌悪感を剥き出しにする。
「ええ。肉体を捨て、純粋なエネルギーとなった人類を未来へ送り、オブシディアンが計画する『究極の統合兵器』の動力源にする……。それが明日香の言う『本当の地獄』の正体だわ」
『……なんとも合理的で、美しい計画じゃな』
カズの傍らに、いつの間にか黄金の光を纏った少女――シフティが浮遊していた。
彼女はどこか遠くを見るような、冷徹な「観測者」の瞳でエクリプス・ニードルの図面を見つめている。
『カズよ、急ぐのじゃ。お主の魂が、そしてアルファが完全に成熟した時……この塔は最高の舞台となる。お主が真の救世主として完成すれば、世界は救われる……我がそう導いてやるのじゃ』
「シフティ……。お前、何か楽しんでないか?」
カズが低く問う。
五年前、凍てつく一月の夜。家族を失い、絶望のリビングに立っていたカズに「死に戻り」という呪縛の力を与えたのは、シフティだ。
シフティはカズを励ますように微笑んでいるが、その笑顔の奥に、何か巨大な「実験」を成功させようとする者のような、背筋が凍る冷酷さが一瞬だけ透けて見えた気がした。
『……ふふ、お主の気のせいじゃよ。さあ、鋼鉄の翼が待っておるぞ』
*
東京湾、特設ドック。
そこには、人類が残した最後にして最大の「希望」がその巨躯を横たえていた。
超大型戦略輸送機『アトラス(Atlas)』。
鈍い銀色の重装甲に覆われたその翼は、太平洋を埋め尽くす敵軍を蹂躙し、天を支える巨人の如くそびえ立っている。
「――よぉ、東京の英雄。ツラを洗って出直してきたか?」
タラップの上で、ジャック大佐が鋼鉄の義手を鳴らして不敵に笑った。
彼の背後には、欧州軍のカトリーヌ、そして数えきれないほどの物資と兵器が積み込まれていく。
「大佐。この『アトラス』、本当に飛べるのか?」
「舐めるなよ。こいつには俺たちの部下の命、そして世界の未来が乗っているんだ。成層圏を音速の四倍で突き抜けてやるさ。……死ぬんじゃねえぞ、一ノ瀬の小僧」
「……あぁ、分かっている」
カズが機内へ足を踏み出そうとした時、裾を強く引かれた。
振り返ると、涙を必死に堪えたミオがそこにいた。
「お兄ちゃん!! 絶対……絶対、帰ってきてね! 約束だよ!!」
「ミオ……」
「大丈夫デス、マスター」
ミオドロイドが、その冷たい瞳に僅かな光を宿し、ミオの肩に手を置いた。
「地上の防衛、およびマザーサーバーの維持は私が担保します。……マスター・カズ。あなたは『器』を完成させてください。それこそが、生存率を100%に引き上げる唯一の解です」
「……東京を頼むぞアダム!そしてミオを頼んだ。」
「おうよ。あとのことは俺たちに任せろ。お前は、お前にしかできない決着をつけてこい」
アダムが、カズの肩を拳で軽く叩く。
十九回のループを共にした唯一無二の相棒の温もり。それが、カズの凍てついた心を少しだけ溶かした。
*
アトラスの六発のエンジンが、大地を揺らす咆哮を上げる。
海水が凄まじい勢いで噴き上がり、鋼鉄の巨鳥がゆっくりと、重力を拒絶するように浮上を開始した。
カズ、エリス、サクラ、アリス。
少数精鋭の四人を乗せた『アトラス』は、凄まじい加速と共に雲海を突き抜け、真っ青な成層圏へと踊り出た。
「……いよいよですね先輩」
無機質なコクピット席。カズの隣に座るエリスが、窓の外に遠ざかっていく日本の大地を見つめて囁いた。
「エリス。……怖くないか?」
「……いいえ。先輩が隣に居てくれるので、全く怖くありません。……それに、約束しましたから」
エリスはカズの右手を、自分の両手でそっと包み込んだ。
彼女の掌は温かい。カズが何度も「自害」して守り抜いてきた、この清らかな温もり。
「ネオ・ニューヨークを落としたら、二人で、どこかゆっくり休める場所でも行こう。そしてエリスが淹れる最高の紅茶でエリスが作るスコーンを食べるんだ。」
「……はい。約束です。……カズ様」
エリスは幸せそうに微笑み、カズの肩にそっと頭を預けた。
だが。
機内の暗がりに浮かぶシフティの瞳は、穏やかに語り合う二人を見つめながら、一瞬だけ、昏い悦びに歪んだ。
『……ふふ。良きかな、良きかな。愛という毒を食らい、絶望を肥やしにするがよい。……十九回の死など、序章に過ぎぬのじゃからな……』
黄金の精霊の囁きは、加速するエンジンの音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
鋼鉄の翼アトラスは、太平洋を埋め尽くす死の影を突き抜けて――。
終焉の都、ネオ・ニューヨークへと向けて、最高速で飛翔する。
第五章 第47話へとつづく
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。
ついに始まりました最終章、第46話!
旅立ちの期待感と共に、カズが独りで抱えてきた「十九回の自害」という重すぎる記憶を描きました。エリスを殺人者にしないために、彼女の手を汚させないために、何度も自ら命を絶ってきたカズの愛。その深さが、これからの戦いにどう影響していくのか……。
また、巨大輸送機『アトラス』の離陸によって、物語の舞台は一気に世界規模へと広がります。
▼ 次回予告:第47話
太平洋を越えるカズたちの前に、オブシディアンの海空連合艦隊が立ちはだかります!
激化する戦闘の中、エリスの「消された記憶」が疼き始め、シフティが不気味な『調整』を開始。
死の海を突破し、北米大陸へ辿り着けるのか!?




