第四章:神滅の聖域と、金色の反逆者 第45話:虚無(ヴォイド)の終焉と、始まりの光
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▼ 前話(第44話)のあらすじ
自分と同じ顔を持つ金髪の総帥の圧倒的な魔力、そして十九回の「失敗の記憶」による精神攻撃に追い詰められたカズ。しかし、エリスの献身的な叫びがカズの絶望を「愛の記憶」へと反転させました。覚醒したカズの黄金の光『アルファ』が、ついに総帥の突きつける死の刃を弾き飛ばします。
――そして今回の第45話。
すべてを無に帰す総帥の真の力『ヴォイド(虚無)』と、カズの『アルファ』が真っ向から激突します。
崩壊を始める聖域、明かされる総帥の正体、そして父が遺した最後の希望。
第四章、ついに決着の時。
魂の叫びが響く最終局面、ぜひ最後までお楽しみください!
高度三万メートルの「聖域」が、断末魔のような悲鳴を上げていた。
カズが放った覚醒のオーラと、総帥が身に纏う不気味な気配。二つの巨大な魔力が激突し、周囲の空間は鏡のようにひび割れ、真っ白な百合の花園は粒子となって消え去っていく。
『……ハハハ、面白い。因果を、思い出という不確かなもので書き換えたというのか』
総帥が、地面に転がった漆黒の剣を見下ろし、狂気的な笑みを浮かべた。
彼の金髪が逆立ち、その瞳の奥にある漆黒の闇が、ドロドロとした黒い泥のように溢れ出して全身を包み込んでいく。
『だが、それもここまでだ。……全てを消し去ってあげよう。君の思い出も、君が愛するその女の魂も、この世界の理さえも。……顕現せよ、我らが神の裁き。――【ヴォイド(虚無)】!!』
瞬間、総帥を中心に、半径数百メートルにおよぶ『漆黒の球体』が展開された。
それは爆発ではない。その領域に触れた全ての物質が、音もなく、光すらも残さず、文字通り「無」へと消えていく。
「なっ……魔力が、消える……!?」
カズがアルファ・レオンを構えるが、銃口から漏れる黄金の光さえも、その黒い領域に吸い込まれて消滅してしまう。
「先輩、危ないッ!!」
エリスが割って入り、聖剣を掲げて防御障壁を張るが、最強の盾であるはずの【光盾】さえも、ヴォイドに触れた端から『存在しなかったこと』として消去されていく。
『無駄だよ。ヴォイドは破壊ではない。存在の否定だ。……十九回の失敗を糧にして、僕は世界の余白(無)を手に入れた。君たちがどれだけ熱を上げようと、虚無の前では全ての熱量はゼロになる』
「……勝手なことを、言うな」
カズが、震える足で一歩前へ踏み出した。
ヴォイドの闇が、カズの右腕の皮膚を、髪を、少しずつ削り取っていく。
だが、カズの黄金の瞳は、一点の曇りもなく総帥を見据えていた。
「お前は、自分が完成形だと言ったな。……でも違う。お前はただ、俺が捨てたかった『弱さ』と『後悔』を寄せ集めただけの、抜け殻だ」
『何だと……?』
「俺は十九回死んだ。……でも、そのたびに誰かの想いを受け取ってきたんだ。姉さんの祈り、ミオの笑顔、アダムの信頼、アリスの覚悟……そして、エリスの愛を!」
カズが、アルファ・レオンを空へと放り投げた。
そして、空中で静止した銃身に、自分の胸元――心臓の奥にある「アルファ」の核を直接、魔力のラインで接続する。
「お前のヴォイドが全てを消すというなら、俺のアルファは……消された全てを『繋ぎ直す』!! ――【極点開放・ノヴァ】!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
カズの全身から放たれたのは、破壊の光ではなかった。
それは、過去の十九回のループで関わった全ての人々の「絆」を光の糸として具現化し、ヴォイドの闇を内側から縫い合わせ、強引に繋ぎ止める『因果の光』。
『バカな……消えない!? 僕のヴォイドが、なぜ……ッ!!』
「お前には分からないだろうな。……無という孤独より、有という痛みを伴う絆の方が、ずっと強いんだよ!!」
黄金の光の糸が、総帥の身体を縛り上げる。
その光の奔流の中で、総帥の仮面のような端正な顔が、苦悶に歪んだ。
『ぐ、あぁぁぁぁぁッ!! やめろ……! 流れ込んでくる……僕が消し去ったはずの、汚らわしい「感情」が……!!』
「これがお前の正体だ。……お前は、父さんが時空実験の過程で切り離した、カズ(俺)の『絶望の残滓』。教団に拾われ、悪意を詰め込まれただけの、哀れな亡霊なんだよ!!」
カズが叫びと共に、右拳を限界まで引き絞った。
背後に浮かび上がる十九人の自分たちの幻影。彼らの想いが、現在のカズの拳へと収束していく。
「――消えろ、亡霊。……そして、俺の一部に戻れ!!」
カズの拳が、総帥の胸中央――ヴォイドの核へとめり込んだ。
バキィィィィィィィィンッ!!!!!
ガラスが粉々に砕けるような音が響き、聖域を覆っていた漆黒の闇が、一気に黄金の光によって浄化されていく。
総帥の金髪は黒へと戻り、その瞳に宿っていた邪悪な光が、絶望に震える「一人の少年」の眼差しへと変わった。
『……あぁ、……温かい……な……』
総帥――カズの影だった男が、ポツリと呟いた。
彼の身体は光の粒子となって崩れ、カズの胸の中へと吸い込まれていく。
十九回分の絶望と、一回分の希望が、今、一つの魂として統合された。
「……終わったよ。もう一人の、俺」
カズが空を見上げると、聖域の浮遊島は自壊を始め、崩落した地面が成層圏の雲海へと吸い込まれていった。
*
「カズ!! エリスちゃん!!」
崩壊する宮殿の残骸の中で、サクラとアリスが駆け寄ってきた。
「二人とも無事ね!? ……もうすぐここが完全に崩壊するわ! 地上のアダムたちに、転送の準備をさせなきゃ……」
アリスが通信デバイスに手を伸ばそうとした、その時だった。
『――よくやった。カズ、そしてエリスちゃん。……私の誇りだ』
空から降ってきたのは、懐かしい、けれどもう二度と聞くことはできないはずの、父・一ノ瀬 拓也の声だった。
「父さん……!? どこにいるんだ!」
崩れゆく聖域の中央。かつて総帥がいた場所に、一つの古いホログラム端末が浮かび上がっていた。
そこには、疲れ果てた、けれど穏やかな表情をした拓也の姿が映し出されている。
『このメッセージが再生されているということは、お前たちは「ヴォイド」を克服し、因果を一つにまとめたということだろう。……教団に利用され、絶望の器となった「もう一人のカズ」を救えるのは、今を生きるお前しかいなかったんだ』
拓也のホログラムが、カズへと手を差し伸べる。
『聖域の崩壊と共に、教団のシステムは一度リセットされる。……だが、戦いはまだ終わらない。オブシディアンの背後には、まだ真の『審判者』が潜んでいる。……カズ。お前のアルファの光は、単なる武器ではない。それは、未来(2102年)を繋ぐための「架け橋」なんだ』
拓也の言葉が、カズの脳裏に明日香の姿を想起させた。
『……あとのことは、お前の「本当の仲間」に任せてある。……カズ、サクラ、ミオ。……愛しているよ』
その言葉を最後に、拓也のホログラムは静かに消滅した。
同時に、聖域の地面が完全に消失し、カズたちは高度三万メートルから、真っ逆さまに重力の底へと投げ出された。
「きゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
「エリス、離すな!!」
猛烈な風圧の中、カズはエリスを強く抱き寄せた。
だが、落下する彼らの眼下、雲海の中から――。
ドドォォォォォォンッ!!!!!
一筋の雷光を纏った漆黒の影が、猛スピードで上昇してきた。
『――待たせたな、相棒!! ……迎えに来たぜ!!』
アダムが操縦し、本物のミオとミオドロイドが必死に姿勢制御をサポートする、満身創痍のSUV『アーク・ウイング』。
車両のリアハッチが開き、カズたちは吸い込まれるように、空中での奇跡的な救出を成功させた。
*
数時間後。東京、アーク・セクター00。
激闘の汚れを落とし、傷を癒したカズは、一人ラウンジのバルコニーに立っていた。
目の前には、戦いを終えた平和な夜の東京が広がっている。
「……先輩」
背後から、青いリボンを揺らしたエリスが歩み寄ってきた。
彼女は何も言わず、カズの隣に並び、その右手をそっと握りしめた。
「……エリス。俺、やっと分かった気がするよ。……父さんが俺にアルファを託した理由も、十九回もやり直した意味も」
「……はい」
「俺たちは、一人じゃない。……何があっても、みんなで乗り越えていける。……たとえ、この先にどんな絶望が待っていようとね」
カズがそう呟いた、その時だった。
カズの網膜に、一通のノイズ混じりの「未来からの通信」が届いた。
『――聞こえる? カズ……。私よ、明日香』
懐かしい声。
2102年の未来で戦い続けているはずの、あの少女の声。
『……ありがとう。あなたが聖域を壊してくれたおかげで、こちらの未来でも、僅かな「希望の光」が見え始めたわ。……でも、気をつけて。……本当の地獄は、ここからよ』
「……明日香」
『オブシディアンの本部……ネオ・ニューヨークへ向かって。……そこに、全ての答えがある。……待ってるからね、カズ』
通信はそこで途切れた。
東京奪還。そして聖域の崩壊。
十九回のループを越えた物語は、今、東京という枠を飛び出し、世界、そして未来を救うための最終章へと加速していく。
カズはエリスの手を強く握り返し、昇り始めた月を睨みつ けた。
「行こう、エリス。……ネオ・ニューヨークへ」
「はい。どこまでも、ご一緒いたします。……カズ様」
『神滅の聖域と、金色の反逆者』。
その夜明けは、すぐそこまで来ていた。
(第四章・完)
第五章『終焉の都、ネオ・ニューヨーク編』へとつづく
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!作者のくろねこパパです。
これにて少し短いですが、第四章『神滅の聖域と、金色の反逆者』、完結となります!!
カズの「アルファ」と、総帥の「ヴォイド(虚無)」。
自分自身の絶望という最大の敵と向き合い、それさえも抱きしめて一つになったカズ。十九回の死が無駄ではなかったと証明するあの瞬間の熱量、皆様に届いていれば幸いです。
そして父・拓也との再会と別れ、空中でのSUVによる救出劇……。家族と仲間が全員揃って夜明けを迎えるシーンはを書き上げました。
ですが、物語はここで終わりではありません。
未来から届いた明日香の声。そして次なる舞台は、オブシディアンの本拠地、海の向こうの『ネオ・ニューヨーク』へ!
▼ 次回予告:第五章 開幕!
東京を奪還し、聖域を崩壊させたカズたち。
しかし、明日香が告げた「本当の地獄」とは何なのか?
世界の中心で待ち構えるオブシディアンの真の総帥、そして「審判者」の正体とは。
物語はついに、世界を賭けた本当の最終章へと突入します。




