第四章:神滅の聖域と、金色の反逆者 第43話:蒼穹の死闘と、天空の門
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▼ 前話(第42話)のあらすじ
世界のリーダー、ジャック大佐やカトリーヌとの通信により、魔術教団の本拠地「聖域」が高度3万メートルの成層圏に浮遊していることが判明。サクラが持つ「鍵」を手に、カズたちは改造SUV『アーク・ウイング』で決死の垂直上昇を開始しました。地上にはアダムと二人のミオが残り、全力のバックアップ体制を敷きます。
――そして今回の第43話。
大気を切り裂き、宇宙の入り口を目指すカズたちの前に、教団の天空防衛網『セラフィム級』が立ちはだかります。高度数万メートルで繰り広げられる、空を燃やすようなドッグファイト。
そしてついに、禁忌の「聖域」のベールが剥がされる時が来ます。
十九回目のループ、最後の一回を賭けた空の決戦、スタートです!
――キィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!
鼓膜を突き破らんばかりの高周波音が、漆黒の装甲SUV『アーク・ウイング』の車内に鳴り響いていた。
車体後部に増設されたリニア・ブースターが、2100年の東京の空を真っ二つに切り裂き、垂直に立ち昇る一筋の「白い線」を描き出している。
「くっッ!!」
ステアリングを握るカズの両腕に、凄まじい重力(G)がのしかかる。
視界の端で、網膜投影された高度計が狂ったような速度で跳ね上がっていく。1,000……5,000……10,000メートル。
足元に広がる東京の摩天楼は瞬く間に点になり、世界は真っ青な蒼穹に支配されていった。
「先輩、しっかり!! 身体の保護魔法、最大出力で維持します!!」
助手席のエリスが、必死にカズの肩に手を添えていた。彼女の身体から溢れる魔力が、カズの血管が重力で破裂するのを防ぐ「防護殻」となって車内を満たしている。
『――カズ! 聞こえるか!? 地上からのテレメトリ、同期完了だ!』
通信ウィンドウに、司令塔となったアダムの顔が映し出された。彼はマザータワーの最上階で、無数のホログラムパネルを高速で操作している。
『ブースターの熱量が限界近いが、そのまま押し切れ! 予測ポイントまであと……』
『――データ補正、完了。お兄ちゃん! 10時方向から未確認の飛行物体が接近中だよ! 気をつけて!』
ウィンドウの隅で、本物のミオが必死にレーダーを監視して叫ぶ。そのすぐ隣では、ミオドロイドが無機質な声で補足を加えた。
『個体名:ミオの報告を裏付けます。熱源パターン、教団の飛行型兵器「セラフィム級」。総数12。迎撃シークエンスを推奨します』
『もう! ミオの方が先に気付いたんだからね!』
「二人とも、今は喧嘩してる場合じゃない!! 座標をこっちに送れ!!」
カズが叫んだ瞬間、フロントガラスの視界がバグのように歪んだ。
雲海を突き抜けた先。薄い大気の向こう側から、光学迷彩を解いた教団の刺客たちが姿を現したのだ。
セラフィム級。
背中に三対の機械的な翼を持ち、全身を純白の装甲で固めた天使のような姿の飛行クローン兵。その手には、空気を焼き切る高出力の魔導レーザーライフルが握られている。
『――ターゲット、確認。聖域への接近を阻止せよ』
無機質な意思共有が宇宙に近い静寂を震わせ、一斉に青白い閃光がSUVへと放たれた。
「ちっ……! チョコマカと!!」
カズは操縦桿を強引に引き倒し、SUVをバレルロール(回転回避)させた。車体のすぐ横をレーザーが掠め、高熱で大気が爆ぜる。
高度2万メートル。空気が薄くなり、空は深い藍色へと色を変え始めている。
「……目障りね。羽虫は私が叩き落とすわ」
後部座席で静かに目を閉じていたアリスが、ゆっくりと目を開けた。
彼女は窓を数センチだけ開ける。そこから吹き込む極寒の暴風が、彼女の銀髪を激しく乱した。
アリスが刀を抜くことはない。彼女は鞘に溜まった莫大な電磁魔力を、SUVの装甲そのものへと伝播させた。
「――雷よ、我らが翼の盾となれ」
バチバチィィィィィッ!!!!!
SUVの車体表面に、紫色の稲妻の網が展開された。
接近しようとしたセラフィム級がその雷撃の触肢に触れた瞬間、機械の翼がショートして爆散し、成層圏へと虚しく墜落していく。
「お見事です、お姉ちゃん!」
「油断しないで。本番はここからよ、サクラ様……準備を」
アリスの視線の先。高度はついに3万メートルに到達しようとしていた。
そこには、今まで誰も見たことのない光景があった。
太陽の光を不自然に屈折させ、空間そのものが幾何学的な模様を描いて歪んでいるエリア。
教団の「聖域」を守る絶対不可視の魔術障壁――【アイギス】だ。
『――カズ! マズいぞ!! 地上からのスキャンが弾かれた! 奴ら、障壁の出力を最大に上げやがった!! このまま突っ込めば、原子レベルで分解されるぞ!!』
アダムの焦燥に満ちた声が響く。
「サクラ姉さん!!」
カズが叫ぶと、後部座席の中央に座っていたサクラが、静かに身を乗り出した。
彼女はかつてマザーサーバーのコアだった頃の、あの深い「接続」の記憶の感覚を呼び覚ましていた。
彼女の長い黒髪が、内側から溢れ出す純白の光によって美しく輝き始める。
「……大丈夫よ、カズ。ワタシが『道』を拓くわ。……ワタシの魂の中に残る、あの男の認証を使って」
サクラが窓ガラスにそっと手を触れた。
その瞬間、SUVから放たれる魔力波形が激変した。教団の防衛システムに対し、「我は味方なり」という偽りの認証データを叩き込む。
「……っ……ぁ……あぁぁッ!!!」
サクラの鼻から一筋の血が流れる。教団のサーバーからの凄まじいバックファイアが、彼女の脳髄を直接焼きにかかる。
「姉さん!!」
「離さないで、カズ! ……今よ!! ゲートを強制同期させるわ!!」
サクラの絶叫と共に、目の前の「虚無」の空間が、ガラスが砕け散るように大きく割れた。
歪んだ空間の向こう側に、白銀に輝く巨大な浮遊島――「聖域」がその全貌を現した。
だが、同時に敵も黙ってはいなかった。
残ったセラフィム級の編隊が、SUVのブースターを狙って特攻を仕掛けてくる。
ドドォォォォォンッ!!
激しい衝撃が車体を揺らし、左側の『アーク・ウイング』が炎を上げて大破した。
「操舵不能……っ! クソッ、このままじゃ弾かれる!!」
カズが必死に操縦桿を抑えるが、姿勢制御が効かない。SUVは門の入り口で、絶望的な錐揉み回転を始めた。
「――離しません!!」
その時、エリスがカズの右手に、自分の小さな手を重ねた。
彼女の瞳は、今や黄金の雷光を宿し、カズの【アルファ】の力と完全に共鳴していた。
「私たちが、新しい歴史を創るんです!! 行きましょう、先輩!!」
二人の力が一つになった瞬間。
大破したブースターの代わりに、SUVの両翼から『黄金の光の翼』が具現化した。
重力を、風を、物理法則をすべて上書きする、究極の意思の翼。
「うおおおおおおおおおおッ!!!」
カズの咆哮と共に、漆黒の車両は黄金の彗星と化して、閉ざされようとしていた魔術障壁の「裂け目」へと突っ込んだ。
視界が、白銀の閃光に塗りつぶされる。
凄まじい轟音が止み、一瞬の静寂ののち――。
フワリと、SUVが柔らかな地面に着地する感覚があった。
「……はぁっ、はぁっ、……助かった……のか?」
カズが荒い息を吐きながら、フロントガラスを拭う。
そこには、高度3万メートルの成層圏とは思えない、あまりにも美しく、そして不気味な景色が広がっていた。
見渡す限りの、真っ白な百合の花。
どこまでも澄み切った、淡い光が差し込む空。
風は穏やかで、花の香りが鼻をくすぐる。そこは、地上の喧騒やクローンの醜悪さとは無縁の、偽りの「神の箱庭」だった。
SUVのドアを蹴り開け、カズ、エリス、サクラ、アリスの4人が外へ出た。
足元の百合の花が、カズの革靴に踏まれて静かに散る。
「……何よ、ここ。気持ち悪いほど綺麗」
アリスが愛刀の柄を握り締め、眉をひそめる。
その時だった。
庭園の奥、そびえ立つ白亜の宮殿へと続く広場に、無数の「黄金の光」が灯った。
ザッ、ザッ、ザッ……。
一分の狂いもない足並みで、通路を埋め尽くしたのは、全身を黄金の装甲で包んだ教団の親衛隊たちだった。その数は数千。全員が仮面を被り、感情の欠片もない瞳でカズたちを見据えている。
『――ようこそ、罪深き器たちよ。僕の庭へ』
空から降ってきたのは、カズ自身の声を少しだけ高く、そして傲慢にしたような、聞き覚えのある声だった。
宮殿のバルコニーを見上げると、そこには豪華な白い法衣を纏った「金髪の男」が、不敵な笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
「……ニセモノ。ついに見つけたぞ」
カズがアルファ・レオンを構え、総帥を指差す。
『ニセモノ? 心外だな。僕こそが、君たちが捨て去った十九回のループの「記憶」と「絶望」をすべて受け継いだ、完成形なんだよ』
総帥が優雅に手を広げると、彼を護るように数千の黄金兵が一斉に武器を構えた。
『さあ、始めよう。この世界を救うのは君の「優しさ」か、それとも僕の「選別」か。最後の審判の時間だ』
神の領域。高度3万メートルの聖域で。
一ノ瀬 和の、自分自身を懸けた最後の戦いが幕を開けた。
第四章 第44話へとつづく
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。
今回は、地上を離れ成層圏へと突き抜ける怒涛のアクション回でした!
地上で喧嘩しながらも完璧にナビゲートするアダムと二人のミオ。そして空で翼を護るアリスと、道を切り拓くサクラ姉さん。そしてカズとエリスの合体した「光の翼」。全員の力が一つになって、ついに「聖域」へと上陸しました!
ラストに登場した金髪の総帥の、あの傲慢な言い草……。カズと同じ顔をしている理由のヒントも少しだけ散りばめてみました。
▼ 次回予告:第44話
聖域を埋め尽くす数千の黄金親衛隊!
絶望的な戦力差の中、カズたちは総帥の元へ辿り着けるのか!?
さらに、地上でもオブシディアンの総攻撃が始まり、アダムたちにも危機が迫ります。
空と地上、二つの戦場でクライマックスが加速します!
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