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第二章:偽りのぬくもりと錆びた心臓 第15話:深淵の時空機構と、ひし形の記憶

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ 前話(第14話)のあらすじ

地下三階に雪崩れ込んできた無数の蜘蛛型ドローン。虫嫌いでパニックになるエリスでしたが、カズを守るためにオメガの力を制御した「最強のメイド」として覚醒。プラズマサーベルを展開したミオドロイド、そしてアリスとの白銀コンビの共闘により、一気に敵を殲滅しました。(直後に蜘蛛の足が動いて再び泣き叫ぶエリスのギャップも……笑)

そして、ミオドロイドの口から語られたクローン計画の真実。それは、世界征服のような野望ではなく、「ただ家族の顔が見たかった」という、忙しすぎる父親のあまりにも悲しい愛情が生み出した暴走でした。

――今回は、その続きとなる第15話。

父の悲しい真実を知ったカズたちは、ミオドロイドの案内で、ついに誰も知らない施設の最下層『極秘エリア』へと足を踏み入れます。

底すら見えない縦穴を降下する未知の浮遊エレベーターと、巨大な時空転送装置。そして、その冷たい機械の部屋でエリスが見つけた「ある物」が、白銀の姉妹の頬を涙で濡らします……。


「ココデス。コノ操作盤ニ、カズ様ノ血液ヲ一滴、認証シテクダサイ」


蜘蛛型攻撃ドローンの残骸が散乱する地下三階を抜け、さらに下層へと続く厳重なセキュリティゲートをいくつも突破した先。ミオ・アンドロイドが案内したのは、冷たい金属の壁に囲まれた、行き止まりの空間だった。


「俺の血が、鍵……?」


「ハイ。この極秘エリアヘノ侵入ハ、マスター・一ノ瀬拓也ト、ソノ直系ノ遺伝子情報ヲ持ツ者ニシカ許可サレテイマセン」


抑揚のないミオドロイドの声が、静まり返った空間に響く。

カズは一つ頷くと、腰のホルスターからサバイバルナイフを引き抜いた。迷うことなく自身の左手の人差し指に刃を当て、シュッと薄く皮膚を切り裂く。

ぷっくりと膨らんだ赤い鮮血の雫を、壁面にせり出した黒い操作盤の凹みへと静かに垂らした。


『――血液サンプルヲ採取。DNAシークエンス、照合完了。マスター・カズ、極秘エリア『アビス』ヘノアクセスヲ許可シマス』


無機質なシステム音声が鳴り響いた直後だった。

ズゴゴゴゴ……ッ!!と、腹の底を揺らすような重低音が地下施設全体を震わせた。

カズたちが立っていた行き止まりの空間の中央、その巨大な円形の床面が、周囲の床から完全に切り離されたのだ。


「……ッ、何だ!?」


アダムが咄嗟に身構えるが、床の崩落ではない。

その円形の巨大な台座は、ワイヤーで吊られることもなく、壁面のレールに沿うこともなく、完全に「虚空に浮遊」したまま、底すら見えない巨大な縦穴シャフトの奥深くへと、音もなく降下し始めたのだ。


「……信じられないわ。軍の特務機関でさえ、これほどの技術が使われた施設なんて見たことも聞いたこともない」


軍服姿のアリスが、降下していくエレベーターの縁から下を覗き込み、驚愕に青い瞳を見開いた。

最先端の軍事技術を知り尽くしている特殊部隊の幹部である彼女が知らないのだ。アダムやエリスに知る術などない。反重力か、超伝導リニアの究極系か。いずれにせよ、ここは世界中の誰も知らない『禁忌の領域』だ。


「行こう。……父さんが禁忌を犯してまで何を造りたかったのか。ここで何らかの真実が浮き彫になるかもしれない」


カズの言葉に、エリスが静かに頷き、カズの背中を守るように双剣を握り直す。


エレベーターの降下は、恐ろしく長く感じられた。

光の届かない縦穴の底へ向かうにつれ、肌を刺すような冷気が一行を包み込む。周囲の壁には継ぎ目一つなく、ただひたすらに滑らかな漆黒が続いている。


「……なぁ」

重苦しい静寂に耐えかねたのか、アダムが肩をすくめて冗談混じりに口を開いた。

「このまま一番下に着いて、扉を開けたらヤバいバケモンが口を開けて待ってるとか……そういうオチじゃないだろうな? この厳重さ、普通じゃないぜ」


「よしてくれよ。……でも、さっきの蜘蛛ドローンの異常な数を見たら、何がいても不思議じゃないな」


それを聞いていたエリスがビクリと身震いをするように震えながらボソッと呟く

「あんなのと戦うくらいなら死んだ方がマシです!」


カズは苦笑しながら、掌の中で黄金の魔力【アルファ】を微かに明滅させた。冗談めかしてはいるが、誰もが武器のグリップから手を離せないでいた。


父が遺したミオ・アンドロイド。精霊の魔力を利用したクローン実験の噂。そして、自分を刺した透明な影。

この深淵には、世界をひっくり返すほどの「何か」が確実に眠っている。


やがて、フワリと内臓が浮き上がるような感覚と共に、円形エレベーターの降下が停止した。

最下層。

だが、そこは先ほどの行き止まり以上に「何もない」漆黒の空間だった。照明すらなく、足元の台座が放つ微かな光だけが周囲を照らしている。


「ココデス。カズ様、正面ノ壁ニ、手ヲ翳シテクダサイ」

ミオドロイドが暗闇の一点を指差した。


カズは促されるままに、何もない漆黒の壁へと歩み寄り、そっと右手を翳す。


その瞬間――カズの内に眠る黄金の魔力が、壁の奥の「何か」と強烈に共鳴した。


『――魔力波長【アルファ】ヲ検知。封印プロトコルヲ解除シマス』


ズァァァァッ!!と。

今までただの闇だった壁面が、いきなり眩い金色の光を放ち始めた。

光は幾何学的な『象形文字』を形作り、まるで意思を持っているかのように壁を這い回る。それらの文字は、誘導されるかのように突き当たりの壁の中央へと集束し、やがて巨大な『扉の輪郭』を光で描き出したのだ。


「……アダム。さっきのフラグ、回収するなよ」

カズは深く息を吐き出すと、黄金の模様が浮かび上がったその巨大な扉に両手をかけ、ゆっくりと力を込めた。


プシューッ……!!


おおよそ1.5メートルはありそうな、分厚く重厚な扉。密閉されていた空間から、古いオゾンの匂いと冷気が白煙となって吹き出してくる。


扉が開かれた先。そこに広がっていた光景に、全員が言葉を失った。


部屋の中央に鎮座していたのは、圧倒的な質量を誇る『巨大な円形のリング状の人工構造物』。


天井まで届きそうなその巨大なリングには、脈打つ血管のように太いケーブルが無数に接続されており、微かな鼓動のような重低音を響かせている。空間そのものを歪ませるような、未知のエネルギーの奔流。


――時空転送装置。


誰に教えられたわけでもないが、カズの直感がそれが何を成すための機械なのかを理解していた。


「なんだ、あれは……まるで、神の門じゃないか……」


アダムが呆然と呟く。

巨大なコントロールパネルの台座がリングを取り囲み、無数のモニターが待機状態の緑色の光を明滅させている。

だが、エリスの視線は、その神のごとき機械の威容ではなく、別のものに釘付けになっていた。


コントロールパネルの傍ら。そこだけ時間が止まったかのように、このオーバーテクノロジーの空間にはあまりにも不釣り合いな『古い木製の作業用テーブル』が、ポツンと置かれていたのだ。


表面には無数の傷がつき、コーヒーの染みすら残っている、人間臭いテーブル。

エリスは何かに導かれるように歩み寄り、その作業用テーブルの古びた引き出しに手をかけ、そっと引き出した。


「……あっ」


中に入っていたのは、手のひらサイズの『ひし形のキューブ』だった。


2090年代頃に世間で流行り出した、誕生日に相手に贈るための、少し古い型のホログラム記録装置。


エリスの脳裏に、すっかり忘れていたはずの、温かい記憶が鮮明に蘇る。

まだ、自分が日本へ越してくるずっと前。あの凄惨な悲劇が起きる前の、遠い記憶。


(これ……私とお姉ちゃんが、十歳の時に……お父さんの誕生日にプレゼントした……)


ホコリを被ったキューブ。エリスが震える手でそれを手に取った瞬間、微かな手の体温を感知して、ピピッ、と短い起動音が鳴った。


キューブの頂点から、淡い光が空中に投影される。

『せーのっ! お父さん、お誕生日おめでとう!!』

ノイズ混じりの空中に浮かび上がったのは、満面の笑みを浮かべる十歳のエリスとアリスの姿だった。


無邪気で、幸せに満ちていて、残酷な運命など何も知らなかった頃の二人。


「お仕事がんばってね!」「早く帰ってきてね!」と、カメラの向こう側にいるはずの大好きだった父へ向けて、愛にあふれた笑顔で手を振っている。


「……お父、さん……っ」


エリスの美しい青い瞳から、堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちた。

両手でキューブを包み込み、声を殺して泣き崩れるエリス。


その後ろで、アリスもまた、口元を両手で覆い、肩を震わせて静かに涙を流している。


最強の刃として洗脳されていた姉も、冷徹な暗殺者としてカズを守ってきた妹も、この瞬間だけは、ただ父親を愛していた十歳の少女に戻っていた。


カズは何も言えず、ただ痛む胸を押さえて二人の姿を見守ることしかできなかった。

狂気の実験施設。その最奥に遺されていたのは、あまりにも優しくて、哀しい家族の記録だった。

やがて、十歳の二人のメッセージが終わり、ホログラムの映像がスッと空中に溶けるように消えた。


…だが、キューブは再び小さな電子音を鳴らし、空中に無機質な『システム文字』を浮かび上がらせたのだ。



【 新規メッセージが1件あります。 再生しますか? 】

【 (YES) / (NO) 】



「……新規、メッセージ?」


涙で濡れた頬を拭い、エリスは不思議そうにその文字を見つめた。

十歳の頃の自分たちが遺したメッセージの「後」に、一体誰が記録を追加したというのか。


エリスは吸い寄せられるように、空中に浮かぶ(YES)のホログラムボタンに、そっと指を伸ばした――。


第二章第16話へとつづく

いつも『19回目の殺意を紅茶に添えて』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回は、SF感満載の未知のテクノロジー(浮遊エレベーターや巨大リング)の圧倒的なスケールと、そこにポツンと残された古い作業台という、冷たさと温かさのコントラストを描いてみました。

10歳の頃の無邪気な自分たちと、大好きな父親の笑顔。これまで冷徹な暗殺者や最強の刃として戦ってきたエリスとアリスが、普通の「お父さんっ子」の少女に戻って涙を流すシーン、胸が締め付けられました。

▼ 次回予告:第16話

「新規メッセージが1件あります。(YES) / (NO)」

エリスが震える指で(YES)を押した時、そこに映し出されたのは、あの第一章の「悲劇の夜」の直前に録画された、二人の父親からの切羽詰まったメッセージでした。

そして突如、轟音と共に巨大な時空転送装置が起動!

バチバチと空間が歪む中、光の輪から実体化したのは……なんとARとSMGで武装した「二人の女子高生」!?

しかも、そのうちの一人の女の子は、カズの小学生時代の幼馴染……!?

エリスの「ヒロインのライバル登場か!?」

次回!!

怒涛のSF展開と新キャラ登場をお見逃しなく!

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