魔導士ギルドの計画
「魔導士ギルド……か。昨日はあまり気にしなかったけれど、落ち着いた状態で見まわしてみると、私たちの時代とはまた異なる魔法体形が生まれてるんだね……」
魔導士ギルドでの一夜が明け、ここはギルド内の会議室。
座り心地の良いソファ、部屋の各所に生けられた草木。
背後の壁際には書籍がこれでもかと詰められた本棚が置かれ、目の前のテーブルの片隅には、ふよふよと宙に浮かぶボールのようなオブジェがある。
魔力を活用して、このような物を作ったのだろう。
見つけた時は疑問符しか頭に浮かばなかったが、一定周期で上下に動いている様子を見続けていると、不思議と緊張感が薄れていく。
魔力によって動かし続けられているだけでなく、鎮静作用をもたらす魔法をかけられているのかもしれない。
気になるところを見回しながらしばしの時を過ごしていると、部屋と廊下を繋ぐ扉が叩かれる音が。
ソファから立ち上がり、扉が開かれるのを見守っていると、昨日出会ったマギアちゃんと高価なローブを身に纏った女性、そしてオリハルコンが封入されていると思われる、大きな箱が室内に入ってきた。
「ふふ、この街であなたに会うことになるとはね。地底大陸ぶりだね、ラクリマちゃん」
私に声をかけてきたローブを身に纏った人物は、ソラ君のお嫁さん、ナナちゃんだった。
大魔導士に就任したという話は聞いていたが、その立場で活動をしている姿を見たことはなかったので、新鮮な気分だ。
ソファに座るように勧められる形で再度席に着き、テーブルの上に箱が置かれるのを見守る。
蓋が取り外されると、箱の中には青白く光り続ける美しい鉱石が。
間違いない。これがイラさんの言っていた、オリハルコンだ。
「綺麗ね……。自ら光り続ける鉱石なんて見たことがないから、見惚れちゃった。マギアちゃん、あなたがこの鉱石を買い取ったって話で良かったよね?」
「はい! 魔導士ギルドに、魔法技術の発展、ひいてはお姉さまへの贈り物として購入を決定したのですが、神族の方々に関わる物だったとは……。私に先見の眼があったということですね!」
ナナちゃんからの質問に対し、勝手に興奮していくマギアちゃん。
ナナちゃんのことをお姉さまと呼ぶように、並々ならぬ感情を彼女は抱いている様子。
そのおかげでオリハルコンと巡り会えたと考えると、少々複雑な気分だ。
「この鉱石――オリハルコン、だっけ? これがあれば、魔法技術は大きく発展するだろうね。私たちが進めている計画も、一気に進歩するかもしれない」
「魔導士の方々の計画……。良かったら、教えて欲しいんだけど……。もちろん、秘匿されるべき計画だというのなら、聞かなかったことにさせてもらうよ」
「ありがとう。でも私たちが立てた計画は、天災に関わるものだから。むしろ、ラクリマちゃんには聞いておいて欲しいかな」
天災に関わる計画と聞き、緊張が走ると同時に身が引き締まる。
過去に天災と戦った人物として、新たに対策を講じようとしている人々の話は聞かなければならない。
以前の自分では足りなかった部分、これから求めるべきは何かを探ることができるので、むしろ聞かせて欲しいくらいだ。
「過去の時代では、スターシーカー――英雄の剣に神族の方々の魔力を集め、それを放出する形で破壊しようとしてたんだよね? 私たちの計画もそれと大きくは変わらないんだけど……。私たちは加速機構を加えようと思っているの」
「加速機構……。魔力の勢いを大きく引き上げて、天災にぶつけるってことだね?」
天災の破壊は、それに攻撃を当てること自体も難しいが、攻撃を加えた後にも厄介な問題が発生する。
それが大きく砕けたことにより、大小さまざまな破片となったものが大地に降り注ぐため、被害がより広い範囲に拡大する可能性があるのだ。
前回、私が立ち向かった際は、そのせいで地表が大きく傷つき、繁栄した文明が衰退せざるを得なくなってしまった。
魔力を大きく加速すれば、有効射程がそれだけ伸びることになり、遠方で天災を破壊することが可能になるので、大地に大きな影響を与えにくくもなるはずだ。
「単純に威力も大きくなるから、天災の破壊しやすさも上がると思うんだ。まだ机上の空論で、計算すらまともにできてない状態ではあるけど……。来る災いを前に、何もしないで待っているなんてできないからね」
「うん、いろんな人たちが天災に向けて行動してくれるの、とっても嬉しいよ。先んじて確保してくれたお礼もしたいから、オリハルコンを使いたいというのなら、ぜひとも分けたいんだけど……」
イラさんであれば確実に分けると言い出すはずだが、私が勝手に決めていいことではない。
魔導士ギルドも必要としていることを彼女に相談し、計画について話し合いをしてからの方が良いだろう。
「うん、私も同じ考えだよ。彼らには色々とお世話になっているのに、不義理を働くわけにはいかないからね。危うく、勝手に使っちゃうところだったけど……」
「過去の遺物を探る時は注意しなければなりませんね……。神族の方々が現代に蘇ったことは嬉しい話ですが、知らず知らずの内に、彼らが大切にしているものを利用してしまう可能性が出てきたわけですから」
私たちが使っていた物が発掘されても、現代の技術が発達するのであればと考えれば、調査しても構わないと思うけど、恥ずかしさがないとは言えない。
気付かないうちにこっそりやって欲しいという感情がありつつ、天災に関わる何かを見つけたのであれば教えて欲しいという気持ちもあり、どうしたものやら。
「ま、まあ、その辺りは可能な限り尊重させてもらうね。それじゃあ、オリハルコンはラクリマちゃんに返すってことでいいかな?」
「う~ん、それでもいいんだけど……。しばらく、預かってもらえないかな? 私が持ち帰り、イラさんに事情を説明するには時間がそれなりにかかるし、その間に専門の組織で解析等をしてもらった方が有意義なはずだから」
「よろしいのですか? では、損傷等を起こさないように注意をしつつ、調査をさせていただきますね」
オリハルコンが入っていた箱に再び蓋が置かれ、厳重に封がされていく。
後はこのまま会議が終了になると思われるが、何か話しておくべきことはあっただろうか。
「あ、そうだ。オリハルコンのことを報告するついでに、魔導士ギルドが神族の方々と会談を希望していたと伝えてくれる? さっき説明した計画の詳細を、共有しておきたいから」
「うん、分かった。忘れずに伝えておくね」
会議はこれにて終了となり、ナナちゃんたちからの要望をメモに記し終えた後、会議室の外へと出る。
旅の様子を聞かれ、ギルドでのお仕事を聞きながら廊下を進んでいくと、一つの扉の前にたどり着く。
この部屋は魔導士たちの研究結果を発表する場らしいが、いまばかりは別のことが行われている。
あまり大きな音を立てないよう、ゆっくりと扉を開くと。
「次の演目は、ルトちゃんとの共同ジャグリングです! ぜひ皆さんも、参加してくださいね!」
前方のステージでは、様々な色を有したボールを持つバスカー君と、彼と共に演技をするルトちゃんの姿が。
どうやら、大道芸を披露している最中だったようだ。
「多くの人は、天災が襲来することすら知らない。何の憂いもなく、長き月日を穏やかに過ごせるようにするのが私たちの役目だけど……」
「いずれの話ではありますが、天災に関わる情報はまず間違いなく世界を巡ることになるでしょうね。その時に、大きな問題が起きなければ良いのですが……」
バスラ―君たちも、演技を見ている魔導士たちも、皆一様に楽しそうだ。
あの表情が曇らず、娯楽を楽しめない状態にはしたくないが。
「私は一人で天災と戦おうとしたから、天災を打ち払いきれなかった。もし、世界中の人々が天災に立ち向かおうとしてくれれば、どんな困難でも乗り越えられる気がするけど……」
「そう簡単にはいかない話、なのでしょうね……。組織内でもいさかいが起きることはあるというのに、世界中が一つに纏まって協力となると……」
「まずは地盤を固めよう。確実にできることを増やしておけば、問題が起きても対処ができるからね」
大道芸を遠方から見つめながら、私たちは小さくうなずく。
天災への用意は、まだまだ始まったばかりだ。




