三人目の魔法少女。
「ここが、三人目の魔法少女の家……」
「そうみたいですね。私も初めてですが……」
春秋さんから貰った地図を頼りに、瑠那と二人で住宅街を歩く。瑠那は当然俺の右腕に抱きついている。何度抱きつかれても慣れない柔らかさと温もりが心地良すぎてこのままデートに行きたいくらいだが、春秋さんからの頼み事を放り投げるわけにはいかない。
目的地――エルル・ナナクスロイさんへの家には地図のおかげで迷わず到着出来た。
春秋さんの家と同じ、何の変哲も無い二階建ての一軒家。
表札には何も名前が書かれていない。
まあ、《来訪者》なら名前を書かない人も多い――というか、表札に名前を書くってのも知らない人も多いから、しょうがないか。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
「出るのは魔法少女だと思います」
「それならいいんだけどな……」
何しろ春秋さんや四ノ月さんでは門前払いを喰らうほどだ。何が起きたって不思議ではない。
ましてや相手は三人目の「魔法少女」。瑠那が警戒はしてくれているし、いきなり戦うとかはあり得ないと思うが……用心するに越したことはない。
恐る恐るチャイムを押すと、無機質な音が聞こえてきた。
インターホンから声が聞こえてくるかと身構えていたら、ガチャ、と音が聞こえてくる。玄関の扉を開いて姿を見せてきたのは、薄い青髪の女性――とてもとても幻想的で、まるで人間ではない――そんな、見目麗しい女性。
「アンタだれ?」
「あ、あの……四ノ月春秋さんの依頼で、この手紙を持ってきました」
「《管理者》からの依頼? ふーん……」
女性がじろじろと俺と瑠那を見てくる――いや、観察している。
瑠那は俺の背中に隠れながら女性を伺っている。なにか思うことがあるのだろうか。
「後ろの女の子は魔法少女よね?」
「は、はい! エルルちゃんとは、一度だけ共闘させていただきましたっ」
「ふーん……で、アンタは?」
興味なさげに俺たちを観察する女性は、次に俺に質問を投げてきた。
何だろう。凄い試されている気がする。ここで返事を間違えたら、その場で扉を閉められてしまいそうな……。
「俺は、瑠那の彼氏です!」
「先輩!?」
「やましいことは一切ありません。俺は瑠那の恋人の大空浩輝と申します!」
「ふーん。ふーん……。まあ、あいつと違って無害そうね。いいわ、入りなさい」
……え。
なんかよくわからないけど正解を導き出せたらしい。
綺麗な女性はそのまま家の中に姿を消し、俺と瑠那は開きっぱなしの玄関を通らせて貰う。
魔法少女との対面だ。果たして俺は、無事に依頼を完遂できるのか……!
「先輩、こんな街中で恥ずかしいことを言わないでくださいっ」
「えっ。だってこんな可愛い瑠那を独り占め出来てるって事くらいしっかり主張した方がいいと思ったんだが」
「あーもー。嬉しいですけど恥ずかしいです……っ」
俺の彼女が可愛すぎる件について。
「……何やってるのよ。早く入りなさい。それとも締め出されたいの?」
「すいませんっ!」
改めて失礼させて貰う。家の中は少し薄暗く、人が生活している様子はあまり感じられない。
玄関を通ってそのまま直進すると、リビングへと通された。リビングにリビングからキッチンが覗ける構造となっており、そこには黒髪の男性がエプロンを着けて調理をしていた。
「おやセルシウス。お客様ですか? 連絡は貰ってないと思いますが」
「《管理者》からの使いだそうよ。適当に飲み物でも出しなさいよ、バハムート」
黒髪の男性――バハムートさんが柔和な微笑みを浮かべてテキパキとお茶を用意してくれる。俺と瑠那は促されるがままに椅子に座り、対面に女性――セルシウスさんが座った。
「それで、《管理者》からの手紙は?」
「あ、これです」
手紙を差し出すと、バハムートさんが受け取った。封も切らずにポケットに仕舞ってしまう。
あれ、中身を見ないのか? それなら俺たちにわざわざ飲み物を用意してくれたのはどうして……?
「失礼。こちらの手紙は私たちの主……エルル様でないと開封出来ませんので、あまり不快に思わないでください」
「あ、そうなんですね。すいません」
「いえ、構いませんよ。少しだけですがお二人のお話を聞かせて貰えませんか。セルシウスが通した人間に興味が湧いたのですが」
「自己紹介で惚気る変人だから害はないと判断しただけよ?」
「それでも、です。セルシウスの観察眼は信用してますが、私とてエルル様に仕える身です。害があるかないかは私も判断する必要がありますよ?」
「……それもそうね」
……なんだか穏やかじゃない空気な気がする。セルシウスさんもバハムートさんも表情は笑ってるけど目が笑ってない。
でも、わかることはある。
「……お二人とも、その、ナナクスロイさんのことが大好きなんですね」
「おや」
「当たり前じゃない。エルルは私たちにとって大切な家族よ」
「……セルシウス」
意外そうな表情をしたバハムートさんが、すぐに表情を苦くする。
セルシウスさんが失言をしてしまった――そう解釈するべきだろう。
「悪かったわよ。でも良いのよ。こいつはエルルに直截な危害は加えないわ。隣に魔法少女を侍らせておいてエルルに手を出すような奴ならもう凍らせてるわ」
「……そうですね。魔力も保有していない方のようですし、危害はない……と判断できますね」
「どちらかというとそっちの小さな女の子の方が危ないわよ。私が少しこいつに敵意を向けようとするだけで私に敵意をぶつけてくるわ」
「それは私たちとエルル様の関係と似たようなものと判断できますので」
「ふしゃー……っ」
隣の瑠那を見てみれば俺の腕に抱きついて確かに警戒していた。というか威嚇してた。
そんな瑠那も可愛いなぁと思っていると、セルシウスさんがため息を吐いた。
「どうするのバハムート。エルルを呼ぶ?」
「いえ、エルル様は今は就寝されております。手紙は預かりましたし、お二人の名前も覚えました。今日は帰って貰った方がよろしいでしょう」
「……そうですね。こちらとしても手紙さえ渡せればそれで完了だとは思いますので」
春秋さんからは手紙を渡してくれとだけ頼まれていたしな。ナナクスロイさんの顔を見てこいとまでは言われてない……よな?
だからこれで俺の仕事は終了だ。無事に春秋さんから報酬を受け取れるだろう。
……というかあれ? まだ夕方にもなってないよな? なんで寝てるんだ……?
「……おや」
「あら。珍しい。トイレかしら」
「このタイミングだったらアクシデントの方が可能性は高いです」
ドンドンドンと激しく階段を降りてくる音が聞こえてくる。音のする方へ視線を向ければ、廊下の脇に階段が見える。
「ハムちゃーーーーーんっ! ペンちゃんの腕が取れちゃったよーーーーー!」
「っ!!!!??!?!?」
階段をもの凄い勢いで駆け下りてきたのは、画面越しに見かけた緑髪の少女。琥珀色の瞳から涙を流しながら、ぷらんとヒレの取れかけたペンギンのぬいぐるみを抱きしめていた。
……と、いうか!
下着! 下着! 下着!!?!???
なんでシャツとパンツだけなのこの子!?
「せ、先輩見ちゃダメですぅーーーーーーー!」
瑠那! 何も見えない。見えないぞーーーーー!?
いや瑠那以外のを無理に見ようとは思わないが。というか瑠那の下着の方が可愛いから見――――。
「残念だけどエルルの下着だけは見させないわ特に男には!」
「そうですねとりあえず記憶をどうにか吹き飛ばしましょう」
なんて物騒な!?
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