小学三年生、春(ソラ)
小さな花を見つけた。
つんでいって、アマネちゃんに見せてあげたかった。
アマネちゃんに、プレゼントしたかった。
手を伸ばして、そっと茎に触れた。
細い、細い茎だった。
僕の小さな手でも、簡単に折れそうなくらい。
弱い、弱い茎だった。
だから、僕は、花を折るのはやめた。
代わりに、アマネちゃんのいるところまで走った。
全力で、走った。
途中で転けちゃったけど、起き上がってまた走った。
すりむいた手と膝が、ズキズキ痛い。でも、走った。
苦しくても、走って、走って。
──アマネちゃん!
「……っ、あ、まね……ちゃ」
ぱちくりと目をまたたかせている、アマネちゃんの右手をつかんで、また、走った。
疲れきって、速くなくても。よれよれでも、走った。
気持ちだけが、先へ先へと駆けていく。
息ができなくて、苦しくて、痛くて、苦しくて、痛い。
それでも、なんとか花の咲く場所まで戻ってきて。
アマネちゃんと、戻ってきて。
もう、声も出せなかったけど、必死に花を指さした。
だって、生きている。
懸命に、生きている。
こんなにも小さくて、こんなにもか弱そうなのに。
強く、生きている。
少しの風に、揺らぐ花。
大地に根を張って、生きている。
だから、見せたかった。
アマネちゃんにも、見せてあげたかった。
アマネちゃんに、プレゼントしてはあげられなかったけど。
アマネちゃんと、見たかった。
風がふわっと吹いて、花を揺らす。
僕の髪を揺らす。
アマネちゃんの髪を、揺らしていく。
僕の、荒く息をする音だけが響く。
アマネちゃんが笑う。
花みたいに、笑う。
それは、僕が見たかった顔で。
アマネちゃんに、お花をプレゼントしたいなって思った理由で。
僕の手の中に、贈るはずだったお花はないけど。
アマネちゃんの、小さな手がある。
柔らかな、手がある。
もっといっぱい。
もっと大きな。
もっともっと、大切なものが、あるって気づいた。
この手の中に。
「ありがとう、ソラ君」
思わず強く握った手を、握り返してくれる強さ。
僕の目の端で、小さな青いお花が風に揺れる。
四月の空みたいな、青い色が、ゆっくりと。
「きれいだね。かわいいねぇ」
にこにこ笑う、アマネちゃんの顔。
繋いだ手が、温かい。
アマネちゃんが笑う。
だから、僕も、笑う。
※この後、一緒にピクニックに来ていた引率者であるアマネちゃんの両親に怒られる
お読みいただき、ありがとうございました。
新しい時代の始まりを、温かな心で迎えられたなら、どれほど素敵なことでしょう。




