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54 新装備の威力


「道中の敵はかなり楽だな」


「装備のランク上げてレベルも適正より上だからねぇ」


 魔女からセット装備を交換して貰い、装備を一新した二人。その時点でかなり時間がたっており、その日は一度ドルマスへと戻ることになった。地獄の周回はするが、ルチアにオーバーワークをするつもりはこれっぽっちもない。

 日を改めて、二人は転職するためのダンジョンがあるノズミズ砂丘へ向かっていた。

 まだルチアのレベルが上がりきっていないため、転職自体は不可能だ。今回の目的は現地の下見である。


「正直なところ、ノズミズ砂丘自体もそこまで要求されるレベルが高いわけじゃないので…。

 サソリ駆除いけないかなぁ、と」


「まぁいずれ行かねばならんところではあるしな」


「でもなんで一番近い都市であるドルマスから駆除する人でないんでしょう?

 初期のエイリスほどじゃないですけど、ギルドの依頼かなり放置されてましたよね」


 今朝ドルマスを出てくる時に、ドルマスのギルドにも顔を出した。

 流石に初期のエイリスのように、たった一人の職員とおびただしい量の依頼書、とまでは行かないがかなりの量の依頼があった。

 今回通るエリアの分の依頼は出来るだけ受けている。活動するのに十分な援助はエイリスより受けているが、冒険者とは本来ギルドの依頼をバンバンこなして困っている人を助けるものだ、とルチアは思っているからだ。


「…あそこにいる冒険者はほぼ商人に雇われている。

 雇い主がやれと言わないことを率先してはやらないだろうな」


「あ、そうか。護衛とかが主な仕事で、狩りはほとんどないのか」


「そういうことだ。

 あの町にいる冒険者というのは、ほとんどギルドには立ち寄っていないだろう」


「というかその状況なら、単純にドルマスのギルドに依頼を出す人が少ないってことも考えられるかも。

 ギルドに依頼するよりお抱えの冒険者に特別報酬でも支払ってやらせた方が早いですもんね」


 ちまちまギルドを介すより、その方がよっぽど早い。

 そうして優秀な冒険者ほど大商家に抱えられて、冒険者本来の仕事が滞っていく。


「事実、ドロップ品の調達はそのようにして行われているようだな」


「…だからモンスターの異常繁殖が」


 あー、と納得して遠い目をしてしまう。

 間引く人間がいなかったのだ。


「だとしても、自然に異常繁殖は起きるモノだろうか」


「というと?」


 問い返すと、アルは少し黙ってしまった。どうも何か考え込んでいるらしい。

 考え込んでいても、向かってくる敵は容赦なく撃ち落としているのは流石、といったところか。

 ほとんどのモンスターが一撃なため、ルチアは念のためバリアを双方に張るだけの簡単なお仕事と、依頼の確認くらいしかしていない。

 少しの沈黙のあと、アルが再び口を開いた。


「お前が来るまでエイリス周辺も似たような状況だっただろう?」


「え、でもそれをさせないためにアルたちが頑張ってたんじゃ…」


「周辺の草原エリアなんかはそうだな。巡回はしていた。

 しかし数エリア離れた場所…例えば洞窟エリアなんかは行っていないな。お前はあそこも通ったらしいが、異常な繁殖はしていたか?」


「…してない、ね。

 えっどゆこと?」


「…そこまでは知らん。だが、正直自然発生とはあまり考えにくい。

 侵略者が来る前にもこの大地にはモンスターはいた。それでも、うまく共存していたはずだ。

 必要な時に狩り、必要以上は狩らない、そんな風に」


「…なんらかの意図が働いてるかもってことか…。

 あ、ハニービー終わりですー。このエリアの討伐は全部終わりかな」


「わかった」


 話しながらもきちんと討伐や採集は続けていた。一応二人で討伐数や採集数を確認して、次のエリアとの継ぎ目に向かう。


「ここから先が、その大繁殖エリア、ですね」


「そうだな、いくか」


「あ、ちょっと待って!」


 意気込むアルを一度止める。

 ここから先は未知のエリアで、しかも危険と言われている。ルチアのゲームでの知識もどこまであてになるかはわからない。

 だから、ここは最大限慎重に行くべきだ。


「大繁殖してるってことは、いつものエリアのように継ぎ目にいても安全とは限らない、と思う。

 最悪を想定して私が先行しますね」


「そうか。五秒後くらいに合流でいいか?」


「はい。もし、継ぎ目部分でどうしようもないくらいサソリが繁殖していたら直ぐに撤退して」


「了解した」


 いつだって作戦は「いのちだいじに」だ。

 何事も命あっての物種であり、撤退は何の恥でもない。

 大繁殖がどの程度かはわからないが、警戒はしてもしすぎることはないのだ。


 一つ深呼吸をしてから、自分とアルナスルにバリアをかける。そのバリアの効果が切れないうちに、ルチアは新しいエリアへと足を踏み入れた。


 ゲームではいつでも細かな砂が大気を舞っているエリアだった。

 それは、現実でも違いはなかった。油断をすれば、口や鼻にも砂が舞い込んでくる。

 ただ、それは些細なことだ。

 一番の違いは…


「はぁ!?」


 なにこれふざけんな!と口にする暇もない。呪文を詠唱しなければやられてしまう。

 地面全てを覆い尽くすほどの巨大サソリがそこにはいた。

 地面に足をつけられず、他のサソリの上に乗っかるようにしているものすら見受けられる。ハッキリいって気色が悪い。

 しかし、そんなことを考えている暇もなくバリアを張らなければならない。でなければ、死ぬ。


(むりむりむりかたつむり~とか考えてる場合じゃない五秒って長い!!)


 五秒後にアルナスルがこの地獄のような場所に来る。

 彼がこのエリアに足を踏み入れ、撤退するまでルチアは踏ん張らなければならない。そうじゃないと、防御手段がない彼が死んでしまうからだ。

 バリアは張った端から直ぐに壊されるため、連打出来るヒールに切り替える。あちこちから血を流し、それらを直ぐに修復する。

 ほんの五秒のことだが、ものすごく長い。

 ヒヤリと死の気配を感じる。


「なっ…撤退する!」


 永遠と錯覚しそうな五秒を耐えていると、アルナスルの声が聞こえた。エリアに入って直ぐに、この異常な状況を理解してくれたらしい。ルチアに一声かけたあと、ウエストあたりにアルナスルの腕が回った。

 引っ張られる。

 それでも後ろを振り返ることすら危険に感じてしまい、気配で察する他ない。多分、一緒に撤退しようと試みてくれているのだ。

 何度も攻撃を受け痛みを感じながら、抱えられて砂丘エリアを脱出する。

 ほんの数歩の距離のはずが、とても遠い。

 それでもどうにか継ぎ目にたどり着けたようで、フワリと浮遊するような、エリア移動独特の感覚が感じられた。


「大丈夫か!?」


 アルナスルに抱きしめられたまま、二人でズルズルとその場に座り込む。無事脱出したという実感がジワジワ湧いてくると同時に、死の恐怖で手が震えた。


「あ、ありがとう…」


 どうにか返事をしながらヒールを自分にかけ続ける。

 全身が痛い。おそらく毒も回っているのだろう。状態異常回復の魔法も同時にかけると、どっと脱力してしまった。暫く立てないかもしれない。


「なに、あれ…」


「よく五秒も持ってくれた…」


「装備新調したお陰、かも」


 ルチアのセット装備の効果は、魔法効果アップ。つまり、回復の効果がかなりアップされていたのだ。それがなければ、回復が間に合わず死んでいただろう。

 その事実に思い至ってしまい、手の震えが収まらない。そんなルチアの手をアルナスルが握ってくれる。その温かさに、涙がこぼれ落ちそうになった。

 



閲覧ありがとうございます。

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