53 交換装備
「だから何度も言ってる通り、アルの装備充実させたほうが全体的な効率があがるんだってば!」
「しかしお前の防御面があがるのであれば、そちらのほうが生存確率があがるじゃないか」
「今までまっっっったくピンチに陥ってないでしょう!?
道中のパターン情報も収集済みで不意打ちを受ける要素もない!
あとは完全に作業ゲーなのにどうしてそこで防御力が必要になるんですか!」
普段は静かなはずの魔女の小屋の中で、二人の人間が言い合いをしている。ルチアとアルナスルだ。
この小屋の主である魔女はドン引き状態である。
せめて外でやってほしいが、外はアクティブモンスターがわんさかいる。流石に追い出すのは忍びない。
「なんでもいいけど…喧嘩はよそでやっとくれ。というか、これ以上騒ぐつもりならアンタらと交換しないよ」
「「それは困る」」
息ぴったりにハモる姿に、魔女はもう一度ため息を落とす。
「じゃあちったぁ静かにおし。
ちなみに、一度交換したものは返品不可だよ。あと他の人間におさがりなんかも出来ないねぇ」
「そうなのか?」
初耳だ、という風にアルが聞き返す。
この世界では装備品のシェアやおさがりは日常的に行われていることのようだ。特に都市の警備についていたアルナスルにとって、装備のお下がりは日常茶飯事だった。
「あぁ、魔女の特製装備だから当然だろう?
一度身に着けると、装備者の身体的特徴に合わせてフィットするんだ。
…体格が全く一緒の双子で試したことはないがね」
「おさがりが出来ないっていうデメリットはあるけど、こちらの装備が優秀なのはガチです! ガチガチです!
セットで装備することによって防御力・攻撃力だけでなく、攻撃スピードとかクリティカル率まであがるんですから!」
「おや? アンタはお得意さんかい?
そもそもこの場所のことを知っている時点で相当情報通なんだろうけどさ」
「あはは、まぁそんなとこです。
とにかく、装備することで殲滅力があがる方が、私としても楽なんです。周回効率もあがっていいことずくめじゃないですか」
まさかゲームの知識ですと言うことはできないのは、いつものこと。流石に慣れてきたルチアはさらりと流す。
「そこまであがるのか?」
それならばルチアの主張を聞いても良いと思ったのだろう。
多少疑わしげな目線ではあるが、今までのような頑なさはなりをひそめた。今がチャンスとばかりにルチアはたたみかける。
「正確な数字は私もわからないですけど…銃弾の持ち替えをせずに、無属性で一確できる可能性はかなり上がります。それに一確できなくても、銃の連射スピードも上がるから殲滅スピードは絶対にあがります!
あとは…レベル次第?」
「はぁ…わかった。
殲滅力が上がった方がお前が安全というのはわかっているからな。
しかし、レベルが低い方や盾役にいい装備を渡すのが普通だろう…」
「それはそうなんですけどね。
ペアパーティの場合はそうとも限らないんです」
しぶしぶながらもアルナスルが折れてくれたため、ようやく言い合いの決着がついた。
「というわけで、これと交換してくださいな」
「はいよ…って、ガンナー装備一揃い分かい!?」
今まで集めてきたローヤルゼリーをポーチからどんどん出していく。すると、魔女が驚きと呆れの中間くらいの表情を浮かべた。
そうやって話している間にもどんどこ積み上がっていくローヤルゼリー。かなりの量だが、魔女はこれを何に使うのだろう、という疑問がわいてくる。
「そうだが、足りないか?」
「…ピッタリある。
そうじゃなくて、かかった時間の話さね…。いや、いいよ。今更ここにくるような子たちが普通であるはずないよ」
「あー……」
「そうなのか?」
ゲームで経験のあるルチアは覚えがあるように虚空を見上げ、廃人ルチアのペースに慣らされているアルナスルは不思議そうに首をかしげる。
(やばい。このままだと廃人二号を作ってしまうことに…?
でもなぁ、強くなることは悪いことじゃないし、祈りの布教するにあたって他の都市に行けるくらい強くならなきゃだしなぁ)
最近はテルースと寝る前に定期連絡というなのお茶会をするようになった。アルナスルとパーティを組むようになったので、そのあたりでしか時間がとれなくなってしまったからだ。
そして、テルースが言うには都市一個分に近い祈りが届けられるようになり、この世界の存続が夢物語ではなくなるかもしれない、とのことだ。現状、中央都市は祈る人が増えた。であれば、今度は他の都市でも祈りが有用であると認めてもらうのが良いだろう。そのためにも、ほかの都市に行くために強くならねばならない。
「もともとここは魔女の森と言われて商業都市の連中からは禁忌のように扱われていた土地さ。だから、もともとここに来るような変わり者は好奇心の強い冒険者くらい。
でも数年前からぱったりと来なくなってね。あぁ、冒険者っていう人種はいなくなったんだと思ってたんだが…」
この世界で長い時間を生きている魔女はため息をついた。
彼女にとって冒険者は外界との唯一のつながりだったのかもしれない。
「まぁいいさ。たくさん来たら来たで厄介だからね、冒険者ってのは。
アンタたちもおおっぴらに宣伝なんかするんじゃないよ!」
最後の一言は半ば意地のようなものだったのかもしれない。ルチアには知るよしもないが。
ゲームで作られた設定とはいえ、この世界の人間にとってはここが現実であり、生きてきた歴史は変わらないのだ。
「了解です、宣伝は信用出来る人のみにしますね。
じゃあ、周回再開しましょうか」
「試し撃ちだな。行こう」
「…休憩はいれなよ」
ルチアとアルの鬼周回ペースに口を挟むのを諦めたように魔女は苦笑した。
既に勝手知ったるといった具合のダンジョンの内部に入っていく。
中に入って確認するべきはまず、入り口の部屋の広さだ。これが毎回微妙に違う。そこから巡回している敵の数と、二人が進むべき巡回ルートを割り出していく。
「CかDパターンで」
「最初の通路に敵がいるかいないかだな」
アルナスルの装備を全て交換出来るくらいに周回したのだ。パターンの特徴は二人とも全て頭の中に入っている。
一応二人でパターンを確認することによって、間違えるリスクを減らしているのだ。ちなみにだが、パターンの名前は適当に二人でつけたものである。
「モンスター確認、Cパターン!
釣ってきまーす」
「了解」
まずはルチアがバリアをかけて通路にでる。入り口の小部屋を出た途端戦闘になったこともなくはないからだ。
部屋をでてすぐの通路から、それなりに遠い場所にモンスターの存在を確認。すぐにアルナスルに報告をして、走り出す。
相変わらず触ればべとべとしそうな壁の通路を駆けながら群れのボスの弱点にあたる攻撃魔法を詠唱。ボスに魔法が命中したのを見届けてから、アルナスルの方へと走り出す。
後ろからは、元の世界では考えたくもなかった大きさの虫の羽音。ルチアの身長よりも少し小さい程度の蜂が追いかけてきているのがわかる。
そうしてルチアが走っている間に、モンスターがアルナスルの射撃範囲内に入った。アルナスルの放った銃弾がルチアの横を通り抜けていく。不思議と自分が撃たれるという恐怖はなかった。
そのまま、ダンジョン内にテンポよく銃声が響く。
今までの周回と違うのは響く回数だ。今までは一匹に二発必要だった銃弾が一発ですむことの方が多くなっている。
音の感じからして、ほとんどの攻撃がクリティカルになっているのではないだろうか。おかげで、ルチアはバリアをかけ直すことなく、戦闘を終えられた。
「ほらやっぱりアルナスルさんの装備を先に交換しておいて正解でしたね」
「…そうだな」
とても悔しそうだが、アルナスルは結果は結果として認めてくれる。
正当な主張をしているのにわめき立てて解決しようとしていた昔の取引先とは大違いだ。
(いや、ああいった手合いと比べるのは失礼だってわかっていますけどね?
ていうか私も間違ってたらちゃんと認めて謝罪できる人間にならないと…人の振り見て我が振り直せってやつだよね)
「周回効率は確かにあがったな。なら、お前の装備もさっさと集めてしまおう」
「ほぼ一撃ってことはかなり効率化できそう…。
サソリ駆除も夢ではないかも…?」
「またお前はそうやって面倒なことを…」
「だってー、サソリ駆除はマジでこれからの課題ですよ。私らにとっても後続の冒険者にとってもー」
無駄話に花を咲かせつつも、二人は索敵や道中現れるモンスターの殲滅に余念がない。それくらいこのダンジョンに慣れたのだ。
結局その日のうちにほとんどのローヤルゼリーを集めきってしまい、魔女をおおいに呆れさせることとなった。
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