42 作戦会議
いつものメンバーとともに、周回効率をあげて午前中はかなり多くのダンジョンを周回した。そして昨日は誘えなかったランチに二人を誘うことに成功。
ランチタイムはいつのまにか三人の作戦会議になった。
「調査で一番時間がかかるのはモンスターのモーションの精査か」
「そうですね。モーションを一通り調べるまではお二人に攻撃してもらうことはできませんし。同じモンスターが二体以上いる場合は減らしてしまっても構わないんですが」
「いっそモーションなしってことにはできないのかな?
物理攻撃か魔法攻撃かわかればよくない?」
「いや、それでも特殊な行動は十分脅威になりうる。危険を避けるためにもある程度確認は必要だろう」
今日はアルナスルが気に入って通っているという桟橋屋という定食屋でお昼だ。この世界では珍しく和食っぽい料理がメインのため、ルチアは密かに感激していた。
(豚汁とごはんが食べられると思ってなかったよー! 元々そんなに和食が好きなわけじゃなかったのに、こんなにも懐かしいって思うなんて…。
やっぱり魂は日本人だったのね。お宿のごはんも美味しいんだけど、ほぼ洋食だったからなおのこと嬉しい)
メニューは豚汁とごはん、それに魚の焼き物だ。中央都市エイリスの周辺には海が全くないため、この魚はドロップ品か商業都市からの輸入だろう。このあたりでは貴重な品なのか、他のメニューよりも少々お高かった。それでも、日本食の誘惑に抗うことは難しかったのである。生活に困っていないからこそ出来るささやかな贅沢だ。
美味しい和食にご機嫌になりつつも、ダンジョン周回の相談に手を抜くつもりはない。三人で気づいたことを言い合って、より効率的にダンジョン探索をしなければならないのだ。
市長が情報を公開すると言った月末は、もう目前なのである。
「現在調査が終了しているのは20レベルのダンジョンの半分までです。
あともう半分は一度行っただけのもが2つ、手付かずのものが3つです。
正直、今のペースですと午前中だけ周回してもレベル25のダンジョンに行くのは難しいかと思います…」
色々話し合ったが、これが三人の共通認識だ。
現在のレベルはルチアが28、アルナスルが31、リリィが20だ。そして、中央都市エイリス周辺で手に入るダンジョンの鍵の最高レベルは30である。
しかしながら、30レベルのダンジョンの鍵は30レベル以上のモンスターからドロップされる。最近はずっとダンジョンに籠りっぱなしのため、新しい鍵は手に入っていなかった。
「妥当な線じゃないのか?
正直なところリリィがレベル20になったばかりなのに25レベルのダンジョンに行くのはためらわれる」
「確かにそうなんですけど…」
「今までに10レベル、15レベル、20レベルのダンジョンを調べて大体の傾向はわかったし、あとは高レベルの冒険者に任せてもいいんじゃないかな?
それに市長やギルドの偉い人たちが相談して、ダンジョンの規定もほぼできたんでしょ?」
「はい、それはもう。
今までの探索結果を踏まえて希望者には事前情報を開示しますし、回数制限の話もきちんとできています…。
だからこそ、今のうちにペースをあげたいなぁ…なんて」
大体を食べ終え、食後のお茶を楽しむ。お姉様が淹れてくれたお茶には劣るが、それでも十分に美味しい。
ルチアが食事を堪能していると、リリィがもう一度同じ台詞を呟いた。
「今のうちに、もう少し、ペースをあげたいなぁ…」
「はぁ…つまり、ダンジョンの回数制限が正式に発表される前に調査の名目で周回回数を増やしたいということか?」
あえてお茶を飲みながら聞き流していた話題を、アルナスルがご丁寧に拾い上げてしまう。
「お二人が大丈夫であれば、是非そうしたいなって」
「私はいいけど…二人とも本業は?」
ギルドの仕事も、町の警備も重要な仕事だ。
観光目的のぐうたら冒険者とは違うのである。
「えへへ、私はギルドでもダンジョン担当になりましたので、レアドロップの目録を作ること、もとい、ダンジョンの全てを記録するのが今のお仕事なのでぇ」
リリィがいい笑顔で話しだす。ダンジョン探索は、ある意味では彼女にとって天職だったのかもしれない。
「…警護、と言っても名ばかりだからな。この中央都市では」
「あーうん、まぁ平和ですからね…。
んーでもなぁ」
「アルナスルさんだってこう言ってくれてるのに何が問題なんです?」
レアアイテムへの意気込みが半端ないリリィ。制限されるまえに少しでも多くのレアアイテムに触れておきたいようだ。
だが、その彼女の意気込みが、ルチアにとっての懸念材料でもある。
「…ところでリリィさん、本日の睡眠時間はどれほどですか?」
「うぇっ!? えっとー…そのー…」
「…まさか」
「はい、同性の目は誤魔化せませんよ。リリィさん、また最近クマができはじめてますね? 鑑定が楽しくて寝ていませんね?」
そうなのだ。
リリィの目の下には、出会った当初ほどではないもののクマがある。それを化粧で誤魔化しているのだ。お姉様に化粧の話をふったところ、もちろんクマ隠し用の化粧品、コンシーラーがあることも確認した。あまり流通はしていないので希少な品らしいが、美意識の高い人たちは使っているらしい。リリィはそれを使って、最近また現れ始めたクマを隠していたのだ。
「おっしゃるとおりですぅ…」
そこまで見破られてはリリィも降伏するしかない。
「一番レベルの低いパーティーメンバーの状態がそれじゃ、ペースを早くしたり周回回数を増やすのはできんな」
アルナスルが意地悪くニヤリと笑う。表情は完全に楽しんでいるが、言っていることは当然のことだ。睡眠不足は万が一の怪我に繋がる。
「ですよね。ということでリリィさん諦めてくだs」
「今日はもう帰って寝ますからぁ! 仕事ほっぽって12時間ぐらいぐっすり寝ますから何卒明日以降は周回増やしてくださいいいいい」
正直なところ、ギルドからも市長からも探索成果はあがっていると認めてもらっている。もちろんこれ以上情報があるなら嬉しいが、無理はしなくてもいいというスタンスだ。
必要最低限の情報は揃えたし、制度も整えたのだから、あとはダンジョンへ潜る人間の自己責任ということだ。なので、ルチアたちはこれ以上ダンジョン周回を続けても続けなくても構わない。
ただ、リリィはまだまだダンジョンのレアドロップに出会いたいだけで。
なので、必死に食い下がっている。
「仕事ほっぽるのはダメじゃない?」
「いや、リリィは仕事をしているにはしてるんだが、レアドロップを必要以上に細かく調べている時間の方が長いそうだぞ。仕事に関してはきちんと終わらせているらしいからその点は問題ない」
「そうですよぉ、ちゃんと仕事はしてますぅ!」
「探索用臨時パーティの冒険者とはいえ、冒険者は体調を整えるのもお仕事なんですけどー」
「大変申し訳ございませんでした」
体も精神もコンディションを整えるのは非常に大事なことだ。そうじゃないと、ふとした瞬間に「あ、今電車に飛び込めば楽になれる」とか思いかねない。
「というわけで、リリィさんがきっちり体調を整えてくれるのであれば、私もダンジョンの周回は賛成ですよ」
にっこり笑いながら釘をさす。だが、実際ルチアとしてもパーティを組めるうちに大量のレアドロップは手に入れておきたいのだ。いつまたパーティが組めるのかわからないのだから。
(市長からの正式発表があったら、この臨時パーティも解散かな? ちょっと名残惜しいかも)
その日はもう目前まで迫っていた。
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