41 生産品プレゼント
「と、いうことで今回からはコレを装備してください」
昨日の大量生産により作られた高品質アイテムをアルナスルとリリィに押し付ける。
アルナスルに渡したアクセサリーはクリティカル率と命中率がアップするもの。リリィに渡したのは回避率と防御力をアップするものだ。
今回は調子が良かったらしく、高品質よりもさらに上の最高品質まで作ることができたので、ルチアは非常に上機嫌だ。
もちろん、自分自身の装備もぬかりなくレベルアップさせている。以前よりも詠唱速度・回避率・防御力がかなりアップしていた。更に回復魔法使い専用アクセサリーの高品質も作ることができた。これで今以上にヒールの回復量が増えて、パーティの壁として役に立てる。
今日は壁役をやりながら攻撃にも参加してみるつもりだ。
「あのう…ルチアさん、これ高品質品、ですよね?」
「俺の方は一つ、最高品質が紛れているが…」
「はい、そうですよー。昨日頑張りました!」
グッと親指を立てていい笑顔をして見せるが、二人の表情は困惑から動かない。何故だろうと不思議に思っていると、リリィがため息を吐きながら教えてくれた。
「あの、ですね。
まず、確認ですが、こちらのアクセサリーは貸出ですか? それとも…」
「えっ? あげるつもりだったけど?」
いちいち貸し借りするのはめんどくさい。
アルナスルに渡した命中率・クリティカルアップのアクセサリーは回復術使いであるルチアやリリィにはあまり意味のないアイテムだ。よほど魔法の扱いが下手でない限り命中はするし、魔法はクリティカル判定が非常に厳しい。このアクセサリーがあっても、術師にとっては宝の持ち腐れである。
対してリリィに渡したアクセサリーだが、これもルチアが持っていても意味はない。最高品質品は自分が身に着けているからだ。したがってリリィに渡したものはワンランク落ちるもの。もしかしてそれが不満なのだろうがとオロオロするルチアに、リリィが困った表情を浮かべる。
それを受け取ったアルナスルが、大きなため息をついた。
「…相場の概念はわかるか?」
「えーと…なんとなく?
価値があるものは高い値段になったり、価値が低いものは低い値段になったり…」
「じゃあ価値とは何で決まる?」
「手に入りにくいとか、品質が良いとか…ですかね?」
「で? このアクセサリーの材料は?」
「ほぼダンジョンからドロップしたもので…あー……。
このアクセサリーが高いってことですか?」
やっと二人が複雑な顔をしていることがわかったルチア。
しかし、ルチアにとっては些細なことだった。
「経費ですね、それは」
「いや、経費って言われても…」
「まず、リリィさんに万が一のことがあっては、ダンジョンの探索という一番の目的が達成されませんよね?
なので、回避と防御をあげるのは当然ですよね?
しかも、大変申し訳ないんですけど私が死ぬとパーティが壊滅するので一番いい品質のものではありません」
「いや、まぁ…そうですけどぉ」
「で、アルナスルさんの方。
アルナスルさんの火力が今以上に上がれば、殲滅が早くなります。結果何度でも周回できますよね? あと命中やクリティカルがアップすればそれだけ銃弾も節約できます。
これは先行投資ってやつなんです」
「……」
ルチアの熱弁に、アルナスルは押され、リリィも押され気味だ。
「しかもですよ?
このアクセサリーは今は貴重と言われているダンジョン産のものですが、これからたくさんの冒険者がくるようになれば大幅に値下がりするのはほぼ確定です。
なので、現時点では確かに高いかもしれませんが、必要経費であり将来的に値下がりするので気にすることはないと思います」
確かにルチアに分配されたドロップ品を使っての大量生産なので、パッと見ルチアだけが損しているようにも見えるかもしれない。
しかしながら、臨時とは言えパーティを組んでいる身だ。メンバーの戦力アップに協力するのは当然だろう。
「それと、ですね。
何より死んでしまっては元も子もないです。このパーティの場合、誰かが負傷しただけで簡単に瓦解してしまいます。
それを回避するためなら安いもんですよ」
「はぁ…わかった」
「えっちょっ…アルナスルさぁん!」
味方がいなくなったリリィが悲壮な表情を浮かべる。アルナスルは諦めたように首をふって見せた。
「言い分は理解した。
しかし、貰いっぱなしもあまり気分が良いものではない。今回の報酬はルチアの分を多めにしよう」
「あ、それなら了解です」
正直いらないんだけどなぁ、という言葉をすんでのところで飲み込む。
実はルチアは中央都市エイリスの都市経営アドバイザーとかいうよくわからない役職についているのだ。今回のダンジョン探索を請け負ったり、子供達の戦いぶりを指導したりなどが今のところの仕事だ。正直言って働いている実感がない。しかしながら、市役所の業務を外部から手伝っているということで、それなりのお手当てを毎月もらうことになっている。その月給は10,000sで、1ヶ月間なにもしなくても慎ましくなら暮らしていける金額だ。
(ゲーム時代は装備を整えるためにスカンピンだったのになぁ)
なんて思いを馳せてしまう。
装備をダンジョンに潜ってある程度揃えられている現在、お金に関してはあまり困っていないのだ。もちろんレベルが上がるにつれて必要な経費も増えていくのだが。
「それから…今後二人にも武器を作ってくるとしよう。
ルチアは短剣だな?」
「え、あ、はい! でも詠唱速度があがるなら割となんでもいいです!」
思ってもいなかった申し出に少々動揺してしまうルチア。まさかアルナスルの方から提案してくれるとは。
そのうち折を見て頼んでみるつもりだったのだが、予定よりも早まった。
「詠唱速度か…正直魔法使い用の装備はよくわからんが、今度工房で相談してみる。リリィは杖でいいんだな?」
「そうですねぇ。正直今でも魔法を使うことに慣れないので、スタンダードなものがいいです」
「うまくいけば今日のダンジョン探索で新しい生産図がドロップするかもしれませんし、頑張りましょうね」
レア図からは同じレベル帯の標準装備よりも強い装備が手に入る。そういったものは今後の探索の助けになってくれるはずだ。
「新しいドロップ…楽しみですね!」
ドロップ品の話になるとリリィはわかりやすく上機嫌になる。意欲があるのは悪いことではないのでいいか。
「今日はどのくらい探索するつもりだ?」
「周回の早さにもよりますけど、お昼前には終わらせましょう。ダラダラ長くやっても集中力を欠いて思わぬ事故に繋がりかねませんし、お二人は他の仕事もあるでしょう?」
基本的にダンジョン探索は午前中だけ。しかし、回数制限はかけない。つまり早く調査が終わればそれだけ多くのダンジョンに回れるというわけだ。
「10レベルのダンジョンはあらかた回りましたよね」
「そうなんだけど、まだドロップしていない品もあるかもしれない、とは思うのよね。こればっかりは運だからどうしようもないけど」
「まだ見ぬドロップ品があるんですか!?」
今まで周回したのは多くて10周程度。それだけでレアがドロップするならゲーマーは苦労しないのだ。
「あるかもしれないし、ないかもしれない。
ただ、そういうレアの確率が高いのは宝箱とボスモンスターだから、今回はボス直でいきましょう」
「ぼすちょく…?」
「あ、えーと、最短ルートでボス部屋までいって、最短ルートで出てくるってことです」
「道中の雑魚は無視ってことですね。了解です。であれば私がナビゲートします」
伊達に今まで記録係を勤めていたわけではない。リリィの脳内にはすでに効率のよい最短ルートが構築されているようだ。ちなみに、ルチアも同じことはできるがここはリリィの顔をたてておくことにする。万が一があったら補助する気満々だが。
「あ、これたまにお祭り開催するのも楽しいかもしれませんね。
ボスを倒して戻ってくるまでの時間を競うとか…商品はそのダンジョンのレアドロップなりお金なりにして」
「…ルチアの高品質アクセサリーもありかもしれないぞ」
「えっ私の?」
「どうせ午後からまた量産するんだろう?」
「まぁ…はい」
「いいですね! 女神の加護つき高品質アクセサリー!
これは帰ったら早速市長にも相談しなければです!」
いつのまにか話が大きくなってしまった。ちなみにこの日は雑談する余裕もありつつ、調子よく周回をこなした。そのお陰でまた新しいレアをドロップし、リリィが狂喜乱舞することとなる。
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(7/11)誤字指摘ありがとうございます。
今回指摘していただいている防御→防護ですが、個人的に防御でいいかな?と考えているので文章はそのままにさせていただきます。
防御と防護の明確な違いや誤用の説明などしていただけたら嬉しいです。




