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40 お姉様と新たなスキルの話


「というわけで、お土産ですお姉様」


「アッラー! アリガト!

 噂には聞いてたケド、今そんなことになっているのネ」


「そうなんです」


 アルナスルたちと別れたあと、ルチアは生産工房に来ていた。

 相変わらず工房の空気は少し張り詰めていて、適度な緊張感を持って作品を作るのにとても向いている気がする。

 今回、ルチアはダンジョンからドロップした生産図を、お姉様にプレゼントしに来たのだ。そのついでに、近況などを報告している。

 お姉様はそんなルチアに香りのいいお茶を煎れてくれた。一口飲むと香ばしい香りが広がる。


(お姉様ってほんと色んな趣味がいいのよねぇ。このお茶も何処で売ってるか帰りに聞こう)


 ルチアがのんきにそんなことを考えている間、お姉様は例の生産図をうっとりと眺めていた。ほう、とため息をつくくらいに見とれている。


「アタシ、この歳になって見たこともない図を発見するとは思わなかったワ…。

 ダンジョンってすごいのネェ」


「これからまだまだ何度も潜るつもりではあります。

 たぶんもっと知らない生産図が手に入ると思いますよ」


 この図はまだまだ序の口というのは事実だ。何せレベル10のダンジョンからドロップしたものである。お姉様の生産レベルと比べればまだまだ低いものだ。

 それでも、職人というものは見たこともない図に対して創作意欲が沸く人種らしい。


「こうしちゃいられないわネ。アタシもアナタに負けないように、生産に取り掛からなくっちゃ。

 アナタどうせ工房にこもるんデショ?

 そこの一室を空けておいたから好きに使っていいワヨ。

 ちょっと狭いけど、それでも集中してやる分には十分だと思うワ」


「ありがとうございます、お姉様」


 お姉様はルチアの特性をとてもよくわかってくれている。一度凝りだしたら最後、とんでもない量を生産してしまうのだ。本来の工房であればあり得ない措置だ。しかし、彫金の生産工房は現在そこまで人口過密状態になっていない。というより、人が少ないからこそ新人に一部屋を与えるといった無茶ができるようだ。

 それじゃあまたあとでね、とお姉様はウキウキした様子で自分専用の工房部屋に向かった。その後ろ姿からも喜んでもらえているのがわかり嬉しくなってしまう。


「今回たくさん生産図が手に入ったからね、じゃんじゃん作らないと…」


 最適な生産環境を与えられたルチアは腕まくりをしながら、さっそく生産の計画に入った。

 今回手に入った生産図は、レアも含めて10種類以上。自分の詠唱速度アップやアルナスルにプレゼントするクリティカルアップ・命中率アップが付与できるアクセサリーは、高品質のものを生産できると今後が楽になる。品質が上がれば上がるほど、このダンジョン調査パーティーの周回が楽になるからだ。


「リリィさんには回避率アップとか待たせられればいいんだけど…。

 まぁそこまで材料が残ってたらチャレンジしてみよう」


 パーティーの装備のレベルが上がれば、より強いダンジョンにも挑戦できる。このダンジョン調査用パーティーで、レベル15やレベル20くらいのダンジョンまでであればクリアできるはずだ。

 少し欲を言うのであれば、アルナスルに強い武器を作って欲しいところではある。しかしお気楽な冒険者のルチアと違って、アルナスルは勤め人だ。市役所に勤めていて、中央都市の警護という重要な仕事がある。そうそう生産にまで割く時間はないだろう。

 ちなみに、ルチアは失念しているが周回の回数が増えれば増えるほど二人の報告任務というのも増えてしまったりする。現在どうにかアルナスルが誘導して、時間を区切って周回をしている状況だ。


 生産の優先順位をつけながら図を並べていると、コンコンとドアがノックされた。


「ルチアちゃん、今大丈夫かしら?」


「お姉様? なんでしょう?」


「集中しているところごめんなさいね。

 あのね、アナタ大分冒険者としてのレベルあがったでしょう? ならそろそろほかの生産スキルも覚えに行くかと思って」


 この世界の生産は、ゲームと違って二種類あるらしい。

 工房の職人として、その生産を極めるお姉様のようなタイプ。そして、ルチアのような冒険業の傍ら冒険に役立つ生産の道を歩むタイプだ。

 前者は一つの生産スキルしか身に着けられない代わりに、様々な種類のものを作ることができる。対して後者は冒険に役立つ付与効果のあるもののみを生産できる代わりに、そのほかの生産スキルも身に着けられる。

 そして、冒険者であるルチアたちはレベルが10あがるごとに新たな生産スキルを身に着けられるのだ。


「あ、そっか。私そういえば、もうレベル20越えてましたものね」


「あ、やっぱり忘れてたワネ。アナタののめり込みっぷりなら他の生産スキルを身につけたとしても十分やっていけると思うワ。兼業なのが惜しいくらいなんだけど、こればっかりはねェ。

 まぁそういうことだから、一段落つけたら他の生産工房にも顔を出してみるといいわよ。で、ついでだからアタシから紹介状を書いてあげようと思って。

 どこの何の生産スキルを身に付けるか決めたら教えてちょうだい」


 確かに、様々な事が起きすぎて失念していた。しかし、ルチアは生産スキルをとる順番を決めていたので、その場で返答する。


「じゃあ、次の生産スキルは裁縫でお願いします」


「そうよね。アナタ魔法使い系だから、自分のお洋服が作れる方がいいわよネェ。

 分かったわ。じゃあこの都市に住む裁縫工房の責任者に話を通しておくから、そのうち顔出しておきなさいね。そうネェ、たぶん明日には話が届いているはずだから…。

 間違っても今日行くんじゃないわよ?」


「え、あ、あはは。了解です!」


 お姉様に釘を刺されなければ、ルチアは今日にでも突撃するところだった。最近は、冒険者があまりいなかったということだから、受け入れる側としても準備が必要かもしれない。

 これから裁縫スキルを習うのだか、あまり悪い印象は持たれたくない。このまま突撃していれば、非常識と思われたかもしれないと考えるとちょっぴり冷や汗が出た。

 今日はおとなしくアクセサリーを量産しよう。そう決めるとルチアの行動は早かった。お姉様にお礼を言って、再度生産準備にとりかかる。今まで大量にドロップした生産素材から、まずは新しくゲットした生産図を片っ端から作りレベルを上げていく。

 ゲームの中のアクセサリー作りなので小難しいことはあまりない。生産図に沿って作り上げていくだけだ。後はタイミングと運で決まる。なので、たくさん量産していれば、いつかは高品質なものが生まれるのだ。下手な鉄砲数うちゃ当たるとはよく言ったものである。

 この話をリリィやアルナスルに言ったところ「そんな数を量産するのはお前だけだ」と言われてしまったが。

 確かにこの量を生産するにはたくさんの材料が必要になる。そしてその材料はたくさんのモンスターを狩って手に入れなければならない。この世界の一般人がやるのであれば、少々辛い作業である。


「いっそ全員が冒険者も兼業しちゃえばいいのに」


 冒険者になれば、自分でモンスターからのドロップ品を得ることができる。しかし、それを実行すると、物の流通がはかどらなくなるかもしれない。冒険者以外の職業の人がいてはじめて冒険者は安心して活動することができるのである。


「世界が冒険者だらけになっても、それはそれで問題かぁ…」


 とりとめもなくそんなことを考えながら、ルチアは最高生産量を更新するのだった。

閲覧ありがとうございます。

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