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竜⑤

「良かったのですか? 吸血鬼であるルシュフを入れてしまって……」


「勿論だ。そもそもあのままでは少々心苦しい」


 荷物の様にすっぽりと白い布に覆われているルシュフを指して、竜から人の姿に変わったペテルギウスは言った。

 確かに、疲れた人物が寝る場所としては最悪の場所だろう。ただ、引き篭もりの吸血鬼はどこでも気にせず寝ていた。


 ペテルギウスの声を聞いてそろりそろりと人影が増えていく。

 その中から、ペテルギウスと同じくらい豪華な服を着た、水色の髪の青年が現れた。その後ろから、同じく、と言うにはあまりにも着崩して、豊かな胸を大胆に見せつけた白金髪の女性が続いた。

 彼らも背が高い。


「佳唯様ですか? 私は六王が一席、シリウス。名は『秋風の吹く、雲一つない空色』。この度はお越し頂きありがとうございます」


「丁寧にありがとうございます。シリウス。私は佳唯」


「あれ? 英語? えっと、私は六王プロキオン。名は、『春を告げる、菜の花の黄色』です。お会い出来て光栄です」


「不便をかけます。プロキオン」


「大丈夫! まかせて!」


「プロキオン!」


「無理せず竜になっても良いのだぞ」


 へらり、と笑って佳唯の手を握りしめながらプロキオンが言うと、シリウスは強めに叱った。いつもの事、とばかりに肩をすくめてペテルギウスが提案する。



「嫌よ。確かに竜体なら念話が出来るけど、今日は皆いるんでしょ? それに、会議室に入らないじゃない」


「そういえば、至急の用とは何だったのですか?」


「……それは円卓で話しましょう。シリウス。あそこの彼を運んでくれ」


「あそこの……彼?」


 シリウスは軒先のに置かれた傘の下の白い布袋を軽く横抱きにして持ち上げた。

 佳唯が近付いて傘を仕舞いながら心配そうに見つめる。


「その中は、吸血鬼だ」


「げ!」


「あ!」


 事も無げに言われたペテルギウスの言葉に反応して、シリウスは思わず布袋を落とした。

 響いた鈍い音に佳唯は、慌ててルシュフを確認するが、本人は気にする様子もなく眠ったままだった。


「……良かった」


「失礼しました」


 シリウスは抱え直して、何事も無かったように歩き出した。

 佳唯は少し不満気にその後を追いかけた。


「アドニスも。おいで」


 アドニスは名前を呼ばれてようやく、自分もここにいたのだと思い出した。

 まるで豪華な演劇の舞台でも見ている気分でいた。









「六王が一席、デネブ。名は『雪に耐える、針葉樹の緑』」


「六王が一席、アルタイル。名は『月の無い、星の眠る夜の黒』」


「六王が一席、ベガ。名は『弱き命を紡いだ絹の白』」



「ここに、六元素の竜王の名が揃った。仙女よ、どうか我らの願いと決断を聞いて欲しい」




 広い広い円卓に7人が座っている。

 人型になっても身体の大きな竜族に合わせた家具は、人間の13歳の少女の体格しかない佳唯にはとても大きい。

 しかし、先程までの旅の簡易な服装の違い、膝裏まである長い髪を艷やかに流し、古代中国の袖の長い、布をふんだんに使った衣装を着た佳唯は、誰の目にも天上人として映った。

 六体の竜が、彼女が部屋に入るなり起立し、促されるまで直立したままだったのが、その証拠といえる。

 アドニスはそんな仙女の後ろに騎士の鎧を着けて立っていた。

 この神に等しき者達と同じ席に着こうなどと欠片ほども思わなかった。 




 言葉を紡いだ紅竜ペテルギウスを大きな黒い瞳が見据える。



「我ら竜族は、世界を渡り、別次元へ旅立とうと思っている」



 仙女の黒い瞳は僅かに揺れ、そして静かに伏せられた。



 竜族は人間との戦争などでその数を減らしていた。種族として維持するには限界なほどに。

 今までひっそりと幻影や次元を重ねて隠れる事で生きながらえてきたが、(ゲート)もついに残り2つになった。

 新しい陣をひとに見つからない様に張るのは難しい。



 竜は人との共存を諦めた。




「願いとはもしや、渡る先を(うらな)う事ですか?」


「いや、確かに佳唯に()てもらえるならば、そんなに頼しい事はない。しかし、そうではない。願いとは里に住む、半人半竜の者の事だ」


 半人半竜、という言葉にアドニスは反応した。竜と人間のハーフがいるのか。


「彼らは竜族と違い、完全な竜体になる事もできない。代を重ねる毎に短命になり、今では人間より少し丈夫で長生きな程度……。それでは世界渡りは出来ない。だからと言ってただ置いていくのでは、きっと奴隷としておとされてしまうだろう」


「なるほど。では、人の目に触れず、しかし人と交流の出来る。そんな場所を探しましょう。私の役目はこの世界に残る者達を見守れば良いのですね」



 共に生きると望んだ人間が居てくれた。


 その思い出だけをもって、竜は旅立つと決めた。


 そうしてこの世界からまた一つ、神話が消える。




「化け物の時代は終わる……」


 佳唯は、ルシュフに言った言葉を、今度は自分に紡いだ。

 


この小説の竜は6色だけです。紅竜のお母さんは虹竜にしてありますが、白色です。

名前は『嬉しさで流す人魚の涙の真珠色』です!一生懸命考えました!´∀`*)b(押し付け)


ドラゴンはまだ準備もあるので引っ越しませんが竜の話はこれにておしまい。

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