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博麗霊斗~その参~





 二人は殴り合う。

 相手を自らの拳で制圧するのだと、お互いに拳を振るう。

 だが、そこは技術の差があった。


「おらああああ!!」


 霊斗の拳が、零の顔に突き刺さる。

 吹き飛ばされた零が顔を上げる間もなく、霊斗の膝が零の顎を捉えていた。


 零は思う。ああ、此奴はやっぱり強い、あの次元妖怪含めて、経験の差というのは恐ろしいと。

 剣を使えばまだしも、どうせ俺は喧嘩殺法しか使えないのだし。と、彼は吹き飛んだ空中でそう思った。

 そして、自分の腹部に迫る拳を見ながら覚悟を決めた。


 



 霊斗はその裏技小細工のてんこ盛り具合こそあいつらしいと思った。

 腹部の痛みを感じながら、霊斗は目の前で体制を整えた零をみた。


「さっきのは痛かった」


「そうか。俺もさっきまで痛かったよ」


 零に幾つもの人影が重なって見えにくくなっていた。


「色彩の力か」


 霊斗は目を細めた。

 体術、その技術の差を埋めるために、零は根源からその知識を引き出してきたのだった。

 あの男には必殺を選び、この男には適応を選んだ、この差は彼等の性格の違いを考慮してのことだった。

 次元妖怪は相手を読み、攻撃を知り防御を知り、周囲を守って打ち倒す。守護者としての性質がある。

 そして、零の眼の前にいる男は自らの力を極限まで使って、相手の防御も攻撃も知るかと新たな敵を打ち倒す。勇者、いや、救世主の性質の持ち主だった。

 知られれば終わり相手には初見で終わらせられる一撃を、それを知らぬと言うならそれに合わせる適応を。


「本当に厄介なやつだな」


「褒め言葉だね。ありがとう」


『じゃあ続きだ』


 二人はもう一度駆け出す。

 二人の動きと顔は鏡に写したのではと思うほどにそっくりだった。




      ****



 相手の体へと、渾身で拳を振り抜く。

 自分の技術を総動員して、蹴り上げる。

 あの鬼神は『博麗闘術』を学んでいたのを知っている。

 あの九尾は俺の使う術を全て真似して見せた。

 あの天魔は鍛え上げた経験を塗りつぶすほどの技の精度を持っていた。

 そして、それらを超える男がいた。

 世界は広い。上を知ったからこそ、俺はあらゆるものを学び、磨いたのだ。



 相手の拳は俺の腕の骨を容易く折った。

 振り抜く足に、俺は頭から吹っ飛んでいった。

 あの男の今までの人生を知っている。

 立ちはだかった数々の強敵を知っている。

 降り掛かった幾多の苦しみと悲しみを知っている。

 そしてそれを越えて、お前が此処まで来たのを知っている。

 世界は狭い、限られた世界の中で、期待を寄せる人物として、お前は数少ない期待に沿うものだった。




 拳が俺の腹部を突き上げる吹き上げる嘔吐感に嗚咽する。

 強烈な蹴りは俺の体を、骨を、容易く砕いた。



 拳を腹部へとめり込ませる。

 そのまま左足で、防いだやつの腕を骨ごとぶっ飛ばした。





 だから、コレが最後だから、俺は友人(お前)に勝ちたい。

 最後だからこそ、仲間(お前)に勝ちたい。

 俺という人物の最後を、『神谷零(好敵手)に勝利した』という最上の言葉で飾りたいのだ。


 だから、コレが最後というから、俺は友人(お前)の上を行く。

 最後というからこそ、仲間(お前)の上を行く。

 お前の最後の一行に『博麗霊斗(好敵手)は敗北した』という文言を付けて、この褪せない世界を続けさせるのだ。



『だから……!』



 二人はお互いを睨んで手を振り上げた。



「『世界創世剣』」


《■■■■    》



 すべてを掛けた救世主の最後の武器を呼ぶ声に合わせるように、外側の支配者は何かを発した(発さなかった)

 救世主が、その手に呼び出された極大の剣を振り抜く。

 合わせるように支配者が呼び出していない(呼び出した)何もない(何か)振り抜く(振らない)



「くらええええええ!!!」


 救世主は叫ぶ。


《■■「終わ   》り■■」  だ》


 支配者は発する(発しない)



 救世主の打ち出した力が、支配者へと向かう。

 支配者の打ち出した(打ち出さなかった)|それが、救世主へと向かわない(向かう)




 救世主の力がそれにぶつかった。

 それが、力にぶつかった。


 支配者と救世主はこの戦いの最後の勝利を懸けて己を削っていく。

 肉体、記憶、歴史、想いを燃やし尽くしていく。


 そこで違ったのは、支配者に燃やせないものがあったことだ。

 ただ一人の、その人間への想いを。彼は燃やせなかった。

 コレは手を付けられない、付けたくない、今であろうと何であろうと、宇宙より世界より自分の全てよりなにより彼はそれを優先する。

 だから、彼は自分をもう一人燃やすことにした。

 支配者の影から、剣が現れ、砕けた。

 彼の作った伝説の中の名前を冠する剣。そこには彼の中に灯る彼女の仕掛けがあった。

 支配者の全てが、復活する。そして、彼はもう一度それを燃やした。



 救世主は自分の衣が崩れたのを見た。そして、まだ自分が残っているのを自覚した。

 そして、目の前の支配者のそれがまだ残っているのを見た。

 だから、彼はもう一度自分を燃やす。いくらでも、終わらせると。

 


 四本あった剣は、全て砕けてしまった。そして最後の自分もほとんど燃やし尽くしてしまった。

 そして、もう一人も、ほぼ全てを燃やし尽くしてしまった。


 霊斗は雄叫びを上げる。

 零も声を上げる(声を出さない)


 すべての先で残ったのは、想いが一つだけ。

 そこには、零も霊斗も、もういなかった。

 誰も残っていなかった。

 勝者もない、敗者もない、どちらかが倒れる前に、二人は燃え尽きた。




 彼女は、彼がいつも使っていたお茶碗が縦に割れるのを見た。

 今日来ていたはずの彼が送ってくれたお酒が何もなかったかのように消えるのを見た。

 そして、二人の記憶が消えかかったのを感じた。

 それで全てを察し、扉を開き、彼女は駆け出した。


「零くん!」


 愛する男とそれに挑んだ男を起こすために。



         ****



 兄さんがやっと目を覚ましたのは。

 私が二人を再生して一年八ヶ月二十三日十一時間四十七秒後のことでした。


「おはようございます。兄さん」


「ああ、おはよう。姫ちゃん」


 その目は長く眠っていたとは思えないほどしっかりと私を見つめて、貫いて……久しぶりすぎて鼓動が凄いです。

 そんな私を知ってか知らずか、兄さんは私を押し倒して……あ、ダメ兄さん、全然だったから溜まってて、爆発してしまいますっ!


「あっ……兄さんっ、そこ……」


「ここ?」


「ああっ、兄さん!」


 私を知り尽くしてる兄さんに抵抗できるはずもない。

 私は直ぐに気をやって兄さんにすがりつこうとして……


「遅kぶべらっ!!!」


 音速の早着替えの後、突然入ってきた声の主を殴り飛ばしていた。


「何なんですか霊斗さん!?」


「何なんですかって起きて早々に致してるお前らがおかしいんだぞ普通は!?」


「うるさいですね! そもそも遅かったって言ったって霊斗さんも起きたのは……えと、その……ほら、兄さんよりちょっと前でしょう!! 代わりませんよ!」


「貴女今オレが起きた時間忘れてたよね!? 大体一時間くらい前だったけど忘れたの!? 酷くない!?」


「兄さんのほうが大切なんです!」


「正直だねぇ~~~~!!!」


 そうやって言い争う私の後ろから、王子様の声が掛かりました。


「姫ちゃん」


「はい、兄さん。お呼びですか?」


「ご飯できる?」


 兄さんの問いかけに私は大きく頷く。


「はい! 今からご用意します!」


「この対応の差よ……」


 もう、仕方ないですね。邪魔したのは許してあげます。


「霊斗さんも、テーブルに座ってて下さい」


「やったー。許されたー」


「じゃあ、俺も待ってるよ」


 手を振って、霊斗さんと出て行く兄さんに私は見とれながら手を振り返した。

 さっきの熱が少し残っている。私は深呼吸をして、それを冷ました。

 私のことは後で構いません。後でにしましょう。兄さんのご飯を作らなければ。




「うん。美味しい」


「ああ、染み渡る……」


「ありがとうございます」


 笑顔で食べる二人を見ながら、私は同時並行で二人を調べていた。

 そして、確信する。当初予想されていた不具合は何もない、あの子に頼み、あの大嫌いな元上司に頼みに行ったかいがあったというところだ。

 気づかれないようにしながら安心したと息を吐き、目の前で言葉をかわす二人に目を向ける。


「だーかーらー。最後のに残るもん残ってたんだから俺が勝ったんだって」


「いやいや、最終的に俺が先に目覚めたんだし俺が勝利で決定だろ」


「いやいや、いやいや、それはお前の崩壊した分全部一から用意できたからひっつけたりの作業がなかった分の得だろうよー」


「いやいや、いやいや、いやいや、そしたらお前残ってたぶんあってサルベージしやすいのになんで俺より遅いんだよってなるんじゃないの?」


「えー?」

「あー?」


『もう一回やるかぁ?』


「引き分けです」


 私は少し声を落としてそう断言した。

 二人の声がピッタリと止む。


「私が行かなければおふたりともそのままです」


「お、おう」


「ありがとう。姫ちゃん」


 兄さんがお礼を言いながら私の頭をなでた。

 気持ちが良くて、私はしばらくうっとりして、その手を堪能し、そして、目を開いた。


「さて、そろそろいい時間ですね」


 窓の外はもう夕日が空を真っ赤に照らしていて、それを見た霊斗さんは大きく頷いた。


「そうだな。そろそろ帰るか」


「そうか。また来いよ」


 兄さんが手を振りながらそういう。

 それに、霊斗さんは大きく振り返して、答えた。


「おう! また来る!」


 そして、彼は自分で用意した世界の扉の向こうへ、飛び込んでいった。









「さて、最後の一時は、満足でしたか? 霊斗さん」


「ああ、これでいい。俺はこれで満足だ」


「そうですか」


 抜けた先で待っていた私は霊斗さんの言葉を聞いて頷いた。

 霊斗さんの体は少しずつだが、確実に崩れていっていた。


「違和感はあったから覚悟はしてたが、その通りだったんだな」


「ええ、私や、その他貴方に関する記憶を失わなかった人達の記憶を核に、貴方をもう一度作り上げました。ただ、貴方自身が由来のものでないこと、記憶が曖昧なものであることで、貴方の体は目覚めてから二時間程度で崩れる予測でした」


「起きてから今が?」


「三時間と十五分三十二秒です」


「やっぱり数えてたんじゃないか」


「さあ、何のことでしょう? でも、此処まで保っていたのは予想外でした。流石は幻想の勇者と捉えるべきですね」


「褒めてくれてありがとう。さて、そろそろ自我が消えるな、色々今まで聞きたかった質問があるんだ。してもいいかな?」


「いいですよ。答えられる範囲であれば」


「お前たちは、俺みたいに同一の自分はいるのか?」

「居ません私たちは、今、無限の未来に分裂し、今、一つの自分に収束するものです」


「零は消えるか?」

「消えません。兄さん自身のものを核に再生しました。そしてあれは、ゆるぎません」


「勝負の最後は引き分けでいいんだな」

「はい。あのまま私がこなければどちらにせよお互いの結末は消滅でした」


「そうか。ならいいんだ」


 そう言って、霊斗さんは満足そうに目をつぶって……消えた。



     ****


「兄さん、お茶です」


「ああ、ありがとう姫ちゃん」


 うん。美味しいと、兄さんは頷いた。

 たぶん、兄さんは彼が消えたことを知っている。

 そして、もう今の彼がこないということも知っている。


「また、次が楽しみですね」


「ああ、次が楽しみだ」


 それでも、兄さんはその場で言った『また』という言葉を信じている。

 それは、どこにでもあるささやかな兄さんの希望の言葉だった。


「さ、ベットは用意できましたよ」


「待ってましたー」


 いつになるかわわからないけれど、彼がまた来たときには今度はあの秘伝のふりかけでも振る舞うことにしましょう。



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