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カエルレウスの魔女  作者: イヲ
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-3-

 太陽が真上にあがったころ、ヘカテーは(カステッルム)を出た。

 一晩眠れば、だいぶ体も楽になる。レトは城門前で、ふかく頭をたれた。


「ほんとうに、ありがとうございました。ヘカテーさま。あなたさまがいなかったら、わたくしたちはどうなっていたことか……」

「いや。あの女はわたしを狙っていた。だから、謝罪を述べなければならないね。悪かった」

「そんな。ヘカテーさま……」


 ヘカテーがそっと頭をさげると、あわててレトがそれを制す。

 ――われら魔女の敵は、『あの女』ではないのだ、ということを暗にしめしていた。


「わたくしたち魔女の敵は、あの人ではありませんのよ」

「ああ、……ああ、そうだったね」


 われら魔女の敵は、どこまでも「(デウス)」そのものなのだ。神、そしてその使いである天使(アンゲルス)


「そうだった。わたしたちの敵はあの女じゃない。わすれるところだったよ。ありがとう、レト」

「いやですわ。お礼なんて」

「じゃあ、わたしたちはこれで失礼するよ。また、夜会があれば呼んでおくれ」

「もちろんです。われらが母」


 レトは手を振り、そして城門がおもたげな音をたてて閉じられる。そばに控えていた金鵄は、そっと息を吐き出す。その表情はどこか、疲れているようだった。


「なんだか、すごい疲れる夜会でしたね。こんなこと、初めてでしょう? ヘカテーさま。けどなんであの女、いきなり現れたんでしょう」

「どうせあの女のことだから、ただの気まぐれだろうよ。だから、理由なんてないのさ」


 城を出て、林のなかを歩いていると、すぐに丘の上の家が見えてくる。この道は魔女の血を持つもの、あるいはその使い魔にしか開かれない、特殊な道なのだ。時折人間が迷い込むこともあるが、それはレトが責任を持って人間の世界に返していると聞いている。

 扉を開けようとすると、郵便ポストに白い封筒が入っていることに気づく。


「……おや。何だろうね」


 その長封筒を取り、差出人名を見てヘカテーは珍しく目を見開いた。金鵄もその差し出人を見た直後にひどく嫌そうな顔をする。

 差出人名には、「八月朔日(ほずみ) 允嗣(よしつぐ)」と書かれていた。


「八月朔日? あいつ、なんの用なんでしょうか」

「さあ。でも手紙か。嫌な予感しかしないけど」


 リビングのソファーにすわり、その長封筒を開く。そのなかに入っているものは、一枚の便せんのみだった。


「……やっぱりね。直接話したくないからって、手紙でよこすとは。切手も貼ってない。直接ここに投函したんだろうね」

「なんのことですか?」

「まあ、見てみれば分かるわ」


 金鵄に手紙をわたすと、ヘカテーは自室へと向かってしまった。一人残された金鵄は、その一枚の便せんを見下ろして、その文字の羅列を目で追う。


「えぇ……」


 文字をおうごとに、金鵄の顔色があおざめていった。

 その内容は驚愕に値するものであり、さらに警察ではどうすることもできないと、八月朔日らしからぬ言葉で締めくくられている。


「八月朔日の妹がいなくなった……って、それこそ警察の出番でしょうに」

「理由があるんだろう。警察が動けない理由が」

「そんなことがあるんですか?」

「ああ、まあ、人間たちには人間たちの事情ってのがあるんだろうね」

「それで、ヘカテーさま。行かれるんですか? 八月朔日の家に」

「恩を売っておくのもいいだろうよ」


 ヘカテーは黒い繊細なレースがついたエンパイアドレスに着替え、ベージュのショールをはおった。出かけると言うことだろう。


「えー……。でかけるんですか?」

「ああ。失踪だか誘拐だかわからないが、話を聞いてみるだけでもいいだろう。ごちそうにありつけるかもしれない」


 先刻帰ってきたばかりだというのに、と金鵄がつぶやくも彼女には逆らえない。渋々うなずいて、自身も仕立てのいいスーツから私服に着替えた。



 そうそうに家を出ると、日はすこしだけ陰っていた。雲がかかり、雨がふりそうでもある。


「ヘカテーさま。あいつの家、分かるんですか?」

「ああ、便せんに地図が書いてあっただろう。この辺りの地理はだいたい頭に入っているからね」


 いつも通る林をぬけると、コンクリートの地面が広がった。その地には、まるい水滴がしたたりはじめている。雨が降ってきたのだろう。持ってきた傘を開く。


「おや」


 傘を持ったさきに、男がいた。

 険しい顔をして、傘もささずにただ立ちすくんでいる男が。

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