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断罪?どうぞご自由に。――婚約破棄を完璧に受理して国庫を整理したら、国王陛下に泣きつかれて次期宰相に指名されました。  作者: 折若ちい
第4章 偽りの聖女と、鉄の断罪

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40話 北方からの「バグ」と異界の観測者

アステリア王国の王立魔導研究所。そこは今、大陸で最も「情報の密度」が高い場所となっていた。

 アイリス・フォン・ベルシュタインが構築した世界初の気象制御システム『デウス・エクス・マキナ』。それは今や単なる雨風の管理を超え、大陸全土の魔素マナの動きをリアルタイムで監視する「世界観測装置」へと進化していたのである。


深夜。管制室の冷たい青光りの中で、アイリスは数百枚の魔導スクリーンの前に鎮座していた。

 その瞳は、流れる膨大なログデータを網膜に焼き付けるように動いている。彼女の隣では、ルキウスが複雑な数式の羅列を見て顔をしかめていた。


「……アイリス。北方の極北領、永久凍土の観測ポイントで異常なノイズが出ている。……気温が摂氏四〇度を突破。さらに周辺の重力定数が、標準値から一二パーセントも乖離している。……これは、気象の変動なんてレベルじゃない。……物理法則そのものが『壊れて』いるんだ」


「……ええ、承知しておりますわ、ルキウス様。……熱力学第二法則を局所的に無視したエントロピーの減少。……エネルギー保存の法則を無視した、真空からの魔力抽出。……これは自然現象の範疇を逸脱した、極めて悪質な『外部干渉』ですわ」


アイリスの手が、キーボードを猛烈な速度で叩く。彼女が作成した診断プログラムが、北方で起きている現象を赤く点滅させていた。


「……診断結果が出ましたわ。……検知されたのは、この世界のOS(理)に存在しない、異質な実行コード(スキル)。……いわゆる『勇者』という名の不確定要素が、この世界に不法侵入アクセスしています」



その時、管制室の重厚な扉が音を立てて開いた。

 黄金の魔力を全身から奔流のように溢れさせ、大剣を肩に担いだゼノスが、野獣のような鋭い視線でアイリスを見つめる。


「……アイリス。……北の国境守備隊から、たった今伝令が届いた。……国境の『絶壁の関所』が、たった一人の子供の『一振り』で消滅したらしい。……それも、剣を振った風圧だけで、山ごと削り取られたってよ。……俺の勘が言ってる。……ありゃあ、俺や貴様が知ってる『魔法』の範疇じゃねぇ。……理屈抜きの、純粋な『暴力』だ」


「……ご苦労様、ゼノス。……あなたの直感は、時に私の演算機よりも正確ですわね。……理屈抜き、ですか。……いいえ。彼らが使っているのは、神という名の管理者オペレーターから与えられた『管理者特権アドミン』……。つまり、世界の計算リソースを無限に消費して放つ、極めて非効率な特権命令チートですわ」


アイリスは椅子から立ち上がり、北の空が不自然なほど輝いているのを、窓越しに睨みつけた。


「……彼らは、神の加護という甘言に乗り、この世界の住民が積み上げてきた『等価交換』のルールを土足で踏みにじっている。……他者の努力を、たった一つの『スキル』で無に帰す。……これほど市場を冒涜し、世界のバランスを崩壊させる存在を、私は断じて許しませんわ」


「……はは、相変わらずの言い草だな。……で、どうするんだ? ……俺があの『勇者』とかいうガキの首を、直接叩き割ってきてやろうか?」


「……いえ、ゼノス。暴力にはコストがかかります。……彼らが『ルール無視』で戦うなら、私はその『ルール』を彼らの敵に変えて差し上げますわ。……ルキウス様、準備は?」


ルキウスが、分厚い羊皮紙の束――アステリア王国特許庁の『緊急登録原簿』を掲げて、不敵に笑った。


「ああ、完璧だ。……勇者が使うであろう『異界の術式』……。それらの物理的根拠を、我々が先に『特許』として定義した。……今この瞬間から、この大陸で許可なく空間を歪めたり、光子を収束させたりすることは……重大な知的財産権の侵害になる」




数日後。北方の荒野。

 そこには、たった五人で数万の軍勢を蹴散らし、意気揚々とアステリアへと進軍する「異界の勇者一行」の姿があった。


「……ははは! この世界の奴ら、弱すぎ! 僕の『次元斬』があれば、お城も軍隊も、紙細工みたいだね!」


現代日本から転移してきたという少年サトシ。彼は神から授かった聖剣『エクスカリバー・オルタ』を振り回し、道端の巨岩をバターのように切り裂いて悦に浸っていた。


「サトシ、あんまりはしゃがないで。……でも、確かにこの世界はイージーモードね。……私の『無限魔力マナ・インフィニティ』があれば、どんな大魔法だって撃ち放題。……さあ、あの『魔女』が支配するっていうアステリアを、神様の正義で浄化してあげましょう!」


聖女を自称する少女が、慈悲深い(自尊心に満ちた)笑みを浮かべて頷く。


だが、彼らの前に、たった二人の人物が立ちふさがった。

 豪華な革張りの椅子に腰掛け、優雅に紅茶を啜るアイリス・フォン・ベルシュタイン。

 そして、その傍らで、抜いたばかりの大剣を爪切り代わりに使っているゼノス。


「……お待ちしておりましたわ、不法侵入者(勇者)の皆様。……および、物理法則の無断使用による重過失の皆様」


「……は? 誰だお前。……僕たちは神様に選ばれた勇者だぞ? 悪政を行う魔女アイリスを倒しに来たんだ。……どけよ、さもないと……」


サトシが聖剣をアイリスに向け、スキル『次元一閃』を放とうとした、その時。


――ガキィィィィィィィィン!!


耳を劈くようなエラー音が、虚空から響き渡った。


「……なっ……!? スキルが、出ない!? どうなってるんだ、聖剣が……石ころみたいに重いぞ!」


「……当然ですわ。……あなたがたが今行おうとした『空間の局所的歪曲による切断現象』……。それは一時間前に、我がアステリア知財局によって『特許登録』されました。……特許番号第〇〇一号:『空間干渉型切断術式』。……登録者は私、アイリス・フォン・ベルシュタインですわ」


アイリスは、動揺する勇者たちに、一枚の書面を冷酷に提示した。


「……この大陸の魔素マナは、すべて私の『デウス・エクス・マキナ』を通じて、特許使用料ロイヤリティが支払われない限り、その発動を拒絶ブロックするようにプログラミングされています。……勇者の皆様。……あなた方のスキル、一回につき金貨五〇万枚のロイヤリティを請求いたしますが、お支払いは一括でよろしいかしら?」


「……ば、化け物……! 物理法則を……金で縛る気か!?」


サトシの絶叫に、アイリスは眼鏡を冷たく光らせて応えた。


「……いいえ。……私はただ、この世界を『神の気まぐれ』という名の不法占拠から、正当な『法と契約』による管理へと、正常化リカバリしているだけですわ」

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