正反対
『―ありがとう、ふゆちゃん』
「―ありがとうございます。卯月さん」
「…あ、はい、いえ、食堂混みますからね!」
私が確保していた席について、園田さんは律儀に頭を下げてお礼を言うと手に持っていた野菜炒め定食をテーブルに置いた。
私は常温水を飲みながら、不躾にならない程度にしみじみと目の前の殿方を眺めた。
細く長い手足やら眼鏡やら表情やら、絶妙に、似すぎている。
ここ最近ほとんど思い出さなかったのに。
いや、思い出しても特に心動かされることがなかった、というほうが正しいだろうか。
しかし流石にこんな近いところに元カレ激似な男性がいたら少しだけ勝手に気まずさを感じてしまう。
雰囲気がまんま葵君なのだが…いや、大人なのでそんな態度に出したりしませんけども。
「お、ふゆたろ~良い席とってんじゃーん。
いれて~」
気を取り直していただきますとカレーを一口食べようとした瞬間、前方から腑抜けた声で味噌カツどんをもった玉地と、昼にまでエナジードリンクを持っている七瀬主任が現れた。
「ファミレス席とれるなんて運いいなぁ、卯月。
その運を上司にも分けてくれ」
「お疲れ様ですー。
もちろんですとも主任様」
コの字型の席なので4人でも余裕な広めの席である。
詰めようと腰を上げると、玉地がぐいと主任を押し込もうとした。
「んじゃ、七瀬主任様どうぞ奥の上座へ」
「いやトイレ行きにくいからこっちでいいわ」
「さいですか」
肩を竦めて玉地は園田さんの横に座り、私の横には主任が座った。




