62話・あ、依頼。
―武元曹駛―
俺は、しばらくは今国に留まることになった。
その間、監視も兼ねてまた木尾の部屋で暮らすことになったらしいが、あくまで監視と言うのは建前で、また木尾と一緒に住ませてくれるのは、あちら側の配慮なのだろう。
優しいな。というか、優しすぎる。
俺は、この国の首頭を殺したようなもんなんだぞ。いいのかよ、野放し同然で……。
まぁ、それは置いておくとして、俺は一つ大事なことを忘れていた。
ああ、ドラゴンのことを忘れっ放しだった。
ここ数日は、国の会議みたいな感じのところに呼ばれることが多くすっかり忘れていた。
その会議は、例の集団の対策などの事を離すので、もちろん何よりも重視されて当然なのだが……この依頼いつから放置しているんだろうか。他の依頼に関しては、全部済ませてあるのだが、このドラゴンの一件だけは、ずっと放置してある。
ということで、久しぶりに会議のない今日の内に終わらせて来ようと思う。
まぁ、この立て続きの会議が会った日々……会議期間としよう……その会議期間の間も俺は、ちゃんと新魔法の開発と鍛錬をサボらずにしていたため、きっと大丈夫だろう。ドラゴンくらい今日一日で終わらせてやる。
そのタイラント型とは関係ないが、俺はドラゴンに少し私怨が有るのでな。全力でぶち殺させてもらうぜ。
せいぜい逃げないでくれよ、逃げたらお前を殺せないからな。
数時間後……
東の森……カブリア森林
全力で、ぶち殺された。
3回ほどぶち殺された。
というか、なんだこれ。サイズと強さが比例していねぇ……。
サイズで言えば、例の洞窟のドラゴンの半分もない、大体5分の1くらいのサイズだろうか。だが、めちゃくちゃつえぇ……。俺の炎魔法だろうが稼魔法だろうが水魔法だろうが雷魔法だろうが、全部澄ました顔のまま受け流される。というか、受け止められる。なんか直撃しているはずなのに、何事もなかったかのような顔で突っ込んでくる。
くっそ、今、俺は逃走しているのだが、中型とはいえドラゴンの中型だ、人間との体格差が少なからずあるのですぐに差を詰められてしまう。それに奴の吐く火球も非常に厄介だ。戦うにせよ逃げるにせよ、中遠距離から攻撃できるうえに、それにあたってしまえば、鎧ごと焼かれるため、死ぬ。マジで死ぬ。
タワーシールドで防げば、一応防げるっちゃ防げるんだが……持ち手とタワーシールドが使い物になるため、一回は防げるのだが、連続で防ぐのは無理だ。しかも、もう一度防げるようになるまでの盾と手が回復するのに所要する時間はそう短くは無い。
だから、どうしようもない。
今、俺の後ろから飛んできている火球はな……
俺は、背中から火球を受け、焼け死んだ。
そして、生き返る。
ああ、どうしたものか……。
ドラゴンは冷静に見えるが、多分怒っている。逃げてる俺を追ってきているし。
「ああ、もう、使いたくないけど、行くぞ」
もう4回死んだし、5回も6回も変わらないよね。
俺は、ランス、シールドを構え、ドラゴンに突進した。
ドラゴンは俺の突撃に驚きもせずに、その馬鹿でかい腕を振り下ろしてくる。
だが、そんなの関係ないね。その腕引きちぎってやる。
「喰らえ、人間爆弾&金属爆弾ッ!」
俺は……俺と俺の装備は、炸裂した。
そして、またしても死んだ。初めて使ったんだが、一つ安心できる点を発見した。
これ、即死するから痛くない。倫理観とかそういうの投げ捨てれば、全然使用できる。
俺は、少しして目を覚ます。
すると、目の前には、大きな血痕と腕があった。
この血痕は、あのドラゴンのものだろうな。
腕は先ほどのドラゴンの物であることに間違いない。
となると、この血痕を追っていけば……その先にあのドラゴンがいる。先ほどまで、敵ではないとなめていたであろう俺から逃げ出すほどだ、よほどの大けがを負ったに違いない。
よし、とどめを刺してやる。
俺は、なんかもったいない気がしたので、落ちているその大きな腕を拾い上げ、その血痕を追っていった。あー、重い重い。
そして、その血痕の先には、もう動くのさえ辛そうなドラゴンがいた。
「よお、どうだ? 痛いだろ?」
と、理解もしていないだろうけど、そう嫌味を言いかけた。
「よし」
俺はドラゴンから少し離れたところに、そのドラゴンの腕を置いた。
吹き飛んでも悪いしな。
「よいしょ」
ドラゴンの背に乗り、ランスを突き立てた。
まぁ、この際、倫理観は捨てる。だって、今この場で俺が持つこいつへの有効手段は、これしかないからな。
「人間、金属爆弾」
その森にはきっと爆音が響いた事だろう。
そして、俺は気を失った。
さてと、目を覚ましたら、床が濡れている。
で、この後、俺は下を見なきゃよかったと後悔することになるんだが……。まぁ、見るよね。濡れてりゃきになる。
下には、肉塊ベッドがあった。こんなところで二度と寝たくないね。
ゼロ距離から受けた俺の最大火力魔法は、兵器と同等の威力を持っていた。
ドラゴンの体の半分は吹き飛び、あちこちに肉片が飛び散っている。
そして、俺が炸裂する直前に本能的に頭は守ろうとしたのか下げていたようで、原型を留めたままなのだが、その顔には恐怖の表情が見えた。
ああ、えぐいね。まぁ、なんかもったいない気がするし、ドラゴンの死体は持って帰ろう。皮とか素材になりそうだし、ならなくても肉は食えるだろ。美味しいかもしれない。ちなみにソードバードはめちゃくちゃ美味かった。もう一度食いたいくらいだ。まぁ、美味しかったのは俺の腹が減っていたせいなのかもしれないが……だって、飯全然食ってないし。ほとんど木尾に食われてな……
気にしちゃいないけどさ。
さて、今日は無事仕事も終えたし、帰るとしよう。




