63話・マジで、いいの。
―武元曹駛―
いま、俺はドラゴンの死体を持って傭兵センターに来ている。
そんで、周りから奇異の目で見られている気がしたので、その辺の空いているスペースに死体を置いた。ちなみに、床が汚れるんじゃないかとか、その辺はご心配なく。水の魔法をかけており、死体から血は止まっている。そんでもってシートもしてあるから、床が汚れることは無いだろう。ああ、重かったな。物凄く。風魔法で、この巨体を下から支えつつ、頑張ってここまで運んできた。森の中は気が邪魔で仕方がなかったが、街に着いたら着いたで、人々から変な視線は受けるわ、引かれるわで、別の意味で疲れた。
「あの、すいません」
で、依頼達成の知らせをするために、受付の人に話しかけた……血まみれの姿で。
「はい……きゃあああああああ!」
はい、来ました、悲鳴。
ここに来るまでにも数回聞きました。
まぁ、仕方ないよね、血腥いし。血まみれだし。まるでホラーだよ。怪談のなかのお化けだよ。
「あ、すいません。大丈夫です。血生臭いのはすいません。でも、俺は大丈夫です。すいません。この血はあの死体のなので、大丈夫です。すいません」
俺は、一体何回すいませんと大丈夫を言うのだろうか。
そんなことを思いながら、半身が無く、片腕の取れているドラゴンの死体を指差しそう言った。
「え、その、あの」
「いや、その大丈夫ですので、本当に、えっとその、依頼の方の達成報告で……」
たしか、他の依頼は個人からの物だったが、この依頼だけは傭兵センターが直々に出した依頼だったはずなので、あの血生臭い森に死体確認をさせに行くのもあれだと重い死体まで持ってきて、この傭兵センターまで来てやったのに、この扱いか。まぁ、実際のところ、さっさと報酬を受け取りたかったから、確認の手間を省いたに過ぎないので、別にいいことをしたとは思っていないのだが、ただ、ちょっと労働の割に合わないなと思っただけだ。
「え、えっと、その、た、タイラント型のドラゴンの討伐です……か?」
「はい」
ああ、怯えちゃってる。なんか申し訳ないな。
「す、少しお待ちください、今確認してまいります」
と、俺の所為ですっかり怯えてしまったセンター職員の少女は声を震わせて奥に消えてしまった。
ああ、うん。俺の所為だけど、俺は悪くないよね。
暫く、その場で自分の体から臭う血の匂いと格闘しながら、ドラゴンの死体を見ていると、男性職員が、こちらにやって来た。
「あ、あの、すいません」
「え、なんでしょうか、急に……」
もしかして、そんな依頼は無い、とか、もうとっくに誰かが終えているから無効とか、そういうのだったりしないよな。
いや、このドラゴンの依頼自体あの怪しげな女が、俺を操ったあの女が持ってきたものだ、実際には無い依頼だとしてもおかしくは無い。
そういえば、あの女……どうなったんだろうか。流石にここで、この国で、働き続けることは出来ないだろうが……。
「その、本当にすいませんグルックさん」
と、良く見れば、その男性職員は、あのライセンス取得試験の時の試験監督じゃないか。
で、なんで頭を下げるんだ? もしかして、本当にこの依頼は存在しないものだったのか?
「その、チップ=ライク……いえ、その名前はきっと偽名だったのでしょうが、件の女性職員につきましてはなんとお詫びを申したらいいか……」
「女職員……ということは、あいつか? ほら、あの窓口にいた」
俺は、思い出したくもないが、思い出さずにはいられないあの女がいた窓口を指差しつつそう尋ねた。
「はい、そうでございます。その、本当にすいませんでした」
「いえ、それに関しては別に気にしてないので、いいんですが、その依頼の件について……」
気にしていない……と言う事はない。むしろ、物凄く気にしてはいるが、今はそれよりもこの依頼だ。もしも、この依頼が存在しない物だったとしたら、過去に死んでいった6人の俺と街中で奇異の目で見られた俺、計7人の俺が報われない。おお、可哀そうに。
「え、ええ、その件でしたら確かに……こちら、報酬金となっておりますが、その、お連れの方々は?」
「いや、そんなの居ませんが……」
「え? いや、その、ドラゴンですよ? タイラント型の」
「そうですね、中型ですが……」
そう、大型じゃないし、まぁ、ドラゴンと言うのは随分と強い生き物らしくそれでも苦戦したが、やはり中型と言うのもあって、なんとか俺一人でも倒すことが出来た。
「そうです、中型ですよ?」
それに対し、教官さんはそう声を荒げて言う。いや、おかしいって、中型ドラゴンは普通の兵士でも5人くらい集まれば倒せるくらいなんだろ?
確かに、それを一人で倒したのは少し凄いかもしれないけど、そんなに驚くほどじゃないだろ。魔法とか使えるし、俺じゃなくとも手練れの兵士なら一人で倒せるんじゃね?
「その、お連れ様は?」
まだ聞くか。だから、一人で倒したっつーの。
「だから、居ませんって」
俺は、再度そう言う。
「じゃ、じゃあ……」
と、まるで信じられないと言うような顔をしているので、先を予測してこう言った。
「はい、その一人で倒しましたが……」と。
いや、なんだ、その顔。失礼だろ。その化け物を見るような、強者を敬うような、そんな顔はやめろ。
「そ、その、す、すばらしくお強いんですね」
「いえ、そんなことは無いですよ、苦戦しましたし」
ああ、そうだ、6回も死んだ。内二回は自爆だけど。
「当たり前ですよ、苦戦せずにタイラント型を倒せる訳が無いでしょう」
「そうなんすか、まぁ、ドラゴンですしねぇ」
「いや、そうじゃないですって……」
と、俺の言葉に対し、少し震えた声でそう返す。
いや、あんたまで怯えんでくれ。
「も、もしかして、ご自分のなされたこと、正しく理解していないのですか……?」
終いには、そんなことを訪ねてきた。いや、理解してるって。
「タイラント型の中型ドラゴンを倒した、それだけでしょう?」
「それだけじゃないですって、それだけで済ませられるものじゃないですから」
「そうなのか?」
「そうですよっ! そうに決まっているじゃないですかっ! タイラント型なんて小型でも手練れの兵士5,6人必要とするんですよっ! 中型なんて、一個小隊でやっと倒せるかどうかなんですよっ! そ、それを……ひ、一人でっ……」
「んな、大げさな……ってわけでもなさそうっすね」
目の前の教官さんが、一人でタイラント型を倒したとかなんとか大声で言っているのと、ドラゴンの死体を先ほど俺が持ってきたのと、俺が血まみれなのもあって、その情報は傭兵センター中に届き渡ったらしく、皆が俺の方を見ている。
畏怖の目で……
一体、どうしてこうなった……
「そ、その、と、とりあえず、これ、これが報酬金です、それと、そ、そのドラゴンの亡骸は、ご自由にどうぞ、素材として武具屋に売ればそこそこの値段になると思いますので、そちらをお勧めしますが、も、もしも不要でしたらセンターのほうで処理させていただきます」
と、俺にずっしりお金が詰まった麻の袋を手渡してきた。
流石2000ギジェ、かなりの重さだ。
「そ、それでは、ま、また……」
試験官のお兄さんはそう言ってどこかへ去って行ってしまった。
俺、ここで依頼受けにくくなるのか、まじかー。
とりあえず、嫌な未来は考えず、あの重い死体をまた担いで、武具屋にでも向かうか……。
街中で血まみれの人いたら、そりゃ引きますよね、当たり前の反応だと思います。




