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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第四章・俺、ですか?
54/203

53話・仕事、ですね。

 ―武元曹駛―


 寒い。

 やっぱり、夜は冷える。というか、俺、今までどうしていたんだ。森の中を歩くときは、帰ることに必死で全く記憶が無いんだが。多分一行でまとめられるくらいに記憶が無い。

 食って食われて、魔法を覚えて強くなった。

 ほら、出来た。

 ああ、それにしても寒い。


「おまえ、何してるんだ?」


 ベンチで横たわっていると、誰かに話し掛けられた。


「ああ、え、ああ、どうも」


 俺は、相手の顔も見ず適当にそう返したのだが……


「どうもってなんだよ、グルック」


 と、俺の名前を知っているようだ。

 ああ、良く考えてみれば、この声は聞き覚えがある。


「なんだ、木尾か、なにか用か?」

「なんか用って……お前……というか、何してんだ? お前」

「何してるって、泊まるところが無いから……」

「泊まるところが無いってなんだよ」

「いや、金ないし」

「マジかっ!!」

「うん」


 格好悪いけど、仕方ないよね。

 本当はお金有るんだけど、フォルド王国とその周辺諸国で使われているお金で、こっちで使えるか分からないし。


「お金ないってことは昼飯は?」

「食ってない」

「マジかっ!!」


 こっちの方は、森の中にいた頃が反映されているのか、余り食わなくても腹は減らない。胃が収縮してしまったのだろうか。

 って、そんなことないよな、死ねば肉体は戻るはずだし。

 ただ単に慣れただけかな。


「じゃ、じゃあ、今日一日どこに?」

「ああ、ずっと図書館に」

「マジかっ!!」


 でも、これは別に悪いことではない。

 おかげで、色々分かったこともあるしな。


「ええぇ……じゃあ、お前これから、この国いる間ずっと野宿か?」

「まぁ、最近はずっと野宿だったし」

「マジかっ!!」


 まぁ……


「うーん……よし、お前、これから俺のうちに来い」

「え、いいのかっ!?」

「ああ、もちろん」

「え、でも俺お金ないよ」

「取らねぇよ」

「マジかっ」

「おう、マジだマジ」

「あ、ありがとう」

「じゃあ、こっちで使えるか分からんけど、これをあげよう」


 と、俺は、持っている通貨が全て入った巾着を木尾に差し出した。どうせ使えないなら、無用の産物だし、フォルド王国に帰るといっても、この金を無事に持ち帰られるかも怪しいし。炎吐くようなモンスターとあったら紙幣は全部燃えるだろうし、むしろよく失わずに森を抜けられたなーとも思うくらいの物なので、あげちゃってもいいさ。


「なんだこれ?」

「俺の国の通貨」

「へぇ……って、金持ってるじゃねーか」

「いや、だから、それ、俺の国の通貨」

「いや、これ、この国の通貨」

「………」

「………」

「……えっ、使えるの……」

「ああ、使える……」

「まじかー……」

「マジ……」


 そっかぁ……使えたかぁ……なんだったんだろうなぁ……今日一日。


「ああ、まぁ、でも、せっかくだし俺の家には来いよ、ここで再開したのもなんかの縁だろう、泊まっていけよ、それと……」

「おっと」


 木尾が巾着を投げ返してきた。

 俺は、俺を危うく落としそうなところでキャッチする。


「朝の建物覚えているか、ほら、お前が寝ていたところ」

「ああ、覚えているが……」

「そう、あそこがこの国の兵士の寮みたいなもんだ、実際は賃貸も払っているんだけど、兵士なら格安で済むし、普通の兵士は大体そこに住んでいる」

「それって、俺が住んでもいいのか?」

「まぁ、実際は兵士の寮でも何でもないし大丈夫だろ。ただ、兵士は格安で部屋を借りれるってだけだしな。それに、同じ部屋に住むくらい問題ないだろ、一種のルームシェアみたいなもんだ」

「じゃあ、お言葉に甘えるとしよう」

「ああ、そうしろそうしろ」


 と、俺は、野宿という寒く暗い未来を、木尾の部屋という明るく暖かい未来に変えることが出来た。

 いやー、感謝感謝。

 流石にタダで二晩泊めてもらうのは、悪い気がしたので、メシは奢ったが、この国の肉は美味しいな、ちょっとお高い奴ってのもあるんだろうけど、フォルド王国の物よりおいしい気がする。まぁ、単純に森の中で生肉しか食ってなかったから、舌が肥えているのとは逆の状態で、舌が飢えているだけかもしれないが……。


「それで、お前どうするんだ?」


 木尾がそう尋ねてきた。


「どうするって、どういうことだ?」

「いや、国に帰るんだろ」

「ああ、一応帰る道順には目処が付いたが、もう少しはここにいるつもりだ」


 そう。帰る。帰るさ。

 ただ、もう少し、ここに留まる。理由は簡単。

 もっと強くなる必要があるからだ。

 きっと、このままだと帰れない。死ななくとも、帰ることは出来ないだろう。この先、人居住区域が有るとも限らないしな。

 それに、馬もなければ、魔道車もない。いくら時間が掛かるか分かったものじゃない。それなりに準備を整えて行かなければ、きっと、俺を待つ未来は廃人化しか残っていないだろう。いくら生き返ると言っても、死んでは生き返り、死んでは生き返りを繰り返していたら、いつそうなってもおかしくはないはずだ。事実、今の俺が森の中の記憶がほとんどないのは、その時の俺が、ほとんど廃人と化していたからだろう。

 ああ、たぶんあと一ヶ月、いや、一週間森の中にいたのなら、今、俺が俺を保てていた保証は何もない。

 俺が得た力は不老不死。確かに強力な力だ。だが、相手に対して何か出来る力ではない。あくまで、自分に無限で永遠のチャンスを与えてくれるだけの力だ。もしも、もしもだが、あの試練をクリアしたものが他にいるのならば、きっとそれは、不老不死よりも強力な物なのだろう。

 不老不死。

 確かに凄い能力だ。

 でも、その能力は欠陥だらけである。

 もしも、生きたまま捉えられたら。

 もしも、何度生き返っても、相手と圧倒的な戦力の差があって、行きあえること自体が無意味になってしまったら。

 もしも、俺以外のやつを人質にされたなら……。

 だから、俺は強くなる必要がある。チャンスはあくまでチャンス。チャンスが訪れるかどうかは運次第だが、それを掴めるかどうかは、己の実力で決まる。

 そして、俺にはチャンスが確実に訪れるようになっているんだ。

 だから、あとは、実力さえあれば……


「そうか、お前も、情報収集していたんだな」

「ああ、まぁ、自分の事だしな」

「それもそうか、で、俺からの情報なんだが、傭兵っていう職業は知っているよな」

「ああ、そりゃな」

「やっぱりな、で、なんか気づかないか?」

「なんかって……そんなことだけ言われてもな、傭兵を知っているからってな……あれだろ、なんでも屋」

「ああ、その通りだ」


 そう、傭兵というのは、昔の名残、本当に兵を務める訳じゃないし、辞典や昔の本に載っている傭兵とは違う。

 でも、それが、どうしたっていうんだ。

 で、その傭兵の仕事がどうしたと言うんだ。そんなの俺の国にもあるし、なにも珍しい事じゃ……

 ああ。

 なるほど、そう言う事か。


「どうやら気づいたようだな」

「ああ」


 そう、傭兵は俺の国にもある。

 そしてこの国にもある。

 それと、傭兵登録を済ませるとどこの国でも依頼を受けることが出来る。

 つまり、傭兵センターは何らかの連絡通信手段を持っているという事だ。


「いや、お前が傭兵志望と言っていた事を思い出してな、調べてみたら案の定だったぜ」

「そうなのか?」

「ああ、なんだっけなWWW(トリダブル)だっけなぁ……まぁ、忘れたけど、なんかフォルド王国の事も知っていたぜ」

「そうか」

「で、お前は、しばらくここにいるんだろ」

「ああ、そういうことか」

「ああ、そういうことだ」


 ここで傭兵登録をして、依頼をこなしながら、フォルド王国のへ帰る手段を調べるということか。

 適当に言った傭兵志望という言葉がまさか本当になるとはな……本当に、人生何があるか分かったもんじゃないよ……


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