52話・どこ、ですか。
―武元曹駛―
俺は、街に出た。
この国の町も大体フォルド王国と同じである。
まぁ、強いて言うならフォルド王国よりも少し魔法技術が発達しているだろうか。
昼間と言う事も有り、どの店も客寄せに必死だ。
店が立ち並ぶ中、まず必要なのは、集客力だ。確かに一度来た客がもう一度来るかどうかも大事ではあるが、それ以前に一回も入ってくれなければ意味は無い。だから、まず必要なのは集客力だ。と、昔読んだ本に書いてあった気がする。
そんな客寄せの声が飛び交う街を歩く俺の向かう先は、図書館だ。
図書館なら色々とこの付近に関した本があるだろう。
要は情報収集だ。この国の門番である木尾は情報を集めてやるって言ってくれたけど、一応自分でも知っておきたい。別に木尾の事を疑っている訳ではないが、信じ切っている訳でもない。だから、一応、な。
と、思っていたんだが、全く分からなかった。というか、良く考えたら、それもそのはずだった。
文字がちげぇ。
良く似てるんだけど微妙に違う。なんかところどころ読めないところがある。
喋る分には差異はないみたいだが、文字にすると、ちょっと違うのか。自分で情報収集するのはいいとして、文章を頼りにするのは良くないな。似ているからって言う理由で判断したら、真逆の意味で、どんどんと訳の分からない方に進んで行ってしまう可能性もあるからな。素直に、木尾を頼ろう。
と、思って本を本棚に返し、帰ろうとしたところ、透明な壁に囲まれた部屋を発見した。
中では多数の人が喋っているようだが、何も聞こえないことから、恐らく防音なのだろう。
その部屋に入るための扉の上には、会話部屋的な事が書いてある。まぁ、俺の住んでいた所の文字から見ると、そう読めるというだけで、それが正しいのかは分からないけど、中の様子を見る限りでは、大丈夫なんじゃないか?今回は、きっと俺の国と意味と形が同じ文字なはずだ。
そう判断したので、とりあえず入ってみる。
やはり、ここでは、普通に喋っていたようで、中に入った途端、様々な人の声が聞こえてきた。そして、壁もまた予想通り防音だったみたいだな。
「あの、ちょっといいですか?」
とりあえず、その辺にいた二人組の男に話しかけた。
一人は黒髪黒目といういまどき珍しい、古風な特徴を持っている短髪の大人しそうな人で、もう一人は白髪長髪という男性にしては珍しいであろう、この特徴のある二人だったので、そこそこ人がいる中でも少し目立って見えたから、話しかけてみた。
「なんですか?」
「あまり見ない顔だけど、図書館に来るのは初めて?」
古風な特徴の男性が、おどおどとした様子で上ずった声を発し、当たり障りのない言葉を返す一方、もう一人の白髪長髪の方は、いきなり切りこんできた。
「ああ、そうだが、それが分かると言う事は、結構よく図書館に来られるんですか?」
「ええ、まぁ」
「そうなんですか、えーと、僕は図書館どころか、この国に来るのが初めてな物でして」
「へぇ、なるほど、一体どこからおいでになったのですか?」
うーん、言うべきか。
まぁ、騙してもしょうがないし、いいか。別に言ったからといって帰れなくなるわけじゃないし。
「えーと、フォルド王国というところから来ました」
「フォルド王国……ですか、よく来られましたね」
よく来られましたね、だと……。
こいつ、もしかしてフォルド王国を知っているのか?
「もしかして、フォルド王国を知っているのか?」
「ええ、まぁ、一応これでも本の虫ですから、知識だけは持て余してますよ、無意味なくらいね」
「いや、この場合は無意味なんてことは無いですよ、その情報は僕が欲していた物なんですから」
「それはどういう意味ですか?」
そう尋ねてきた辺りで、黒髪の方が、白髪の男性の耳元で何か呟いてどこかへ行った。
それと、俺は心の中で謝っておいた。
「ごめんね、彼は恥ずかしがり屋でね」
「彼?」
「うん? ああ、なるほど」
と言った後、彼は、俺の耳元で呟いた。
「君は気付いちゃったみたいだね」
ああ、そうだ。
「なんで、あんな恰好をしているんだ?」
「ああ、あれはそう言う家の決まりらしくてね、僕もよくは知らないんだけど、成人するまではずっとああしていないといけないんだって。まぁ、彼の本当の事を知っているのは彼女の家族以外では君が二人目となるね。ちなみに、一人目は、僕。まぁ、でも、この話はここだけにとどめておいてね。それがばれると、ちょっと不味いから」
「ああ、分かった」
誰にでも、事情はあるだろう。そう、彼女が男装をしている事にだってな。
つまり、最初の上ずった声は、別に上ずっていた訳では無くて、ただ単純に俺にいきなり話しかけられたことに驚いて、元の声が出てしまっただけだろう。
あんなのでよくばれないな。
「あれで、良くばれないな」
「本当に、僕もそう思うよ」
呆れた様子で彼はそう言った。
その後、色々話したのだが、結構考え方が似ているのか、意気投合してしまい、日が暮れるまで会話をしてしまった。
いや、お互いの住んでいた国の話とか、文字の差とか話していたら、ついね。
でも、おかげで、この国の文字の事が分かったし、この国の事も。あと、彼らのことも分かった。
まず、俺と話していたこの穏やかな少年の名前は椎川 満曳、椎川家の長男らしい。家は結構大きなものらしいんだけど、人付き合いが苦手らしくて、家の付き合いが嫌で、よく図書館に逃げ込んでくるらしい。
人付き合いが苦手って……そうは見えないけどな。まぁ、裏があるのかもしれないし、詮索はしないけど。
それと、あの男装少女とは幼馴染らしい。
その男装少女の名前だが、奴井名 恩というらしい。
二人は、家の付き合いで小さい頃に、会ってからの付き合いらしい。へぇ。深入りすることでもないだろうし、これ以上こっちから聞くつもりはないけど。
でも、偶然かどうかは分からないけど、最初に会った門番の木尾と二人の名前からして、この国では、まだセカンドネームを最初に持ってくるのが一般的らしい。
まぁ、本当にたまたまの可能性もあるんだけどさ。
「はは、もう日が暮れちゃったね」
「そうだな」
なんて、笑い話の途中、奴井名が戻ってきた。
「そろそろ、帰るよ」
奴井名は返って来るや否や、満曳にそう言った。もちろん、低めの声で。
まぁ、俺が低めの声だと思ったのは、奴井名が女性だと分かっているからであって、男性だと思って接していれば、きっと高い声だと思ったんだろうけど。
「ああ、そうだ、すっかり話し忘れていた」
「何がだ?」
「フォルド王国の話……」
ああ、そうだ。
すっかり忘れていたな。
一番大事な話なのに。
「で、フォルド王国なんだけど、まずは北西に向かって」
「北西に?」
「うん」
「まずは、というのは?」
「それなんだけど、そのうち、海が見えるはず。フォルド王国は海に面した国だよね、それと、その海はきっと北西の海だと思う。そして、そのあとは北に向かうように海に沿っていけば、時間はかかるけど確実にたどり着けると思う」
「そうなのか?」
「うん」
これが、今日最大の収穫だった。
本当は、もうちょっと詳しく聞きたいところだったのだが、奴井名が満曳のそでをぐいぐいと力無き腕で引っ張っていたので、さよならをして、帰ることにした。
で、帰ろうと思ったのはいいのだが、えっと、どこ帰ればいいんだ。
野宿?
いやいや。え、マジで?ホームレスですか?
俺は仕方なく、日も沈み切り自然の光源が消えた頃、肌寒い空気の中、熱源にもならない街灯の灯る公園のベンチに腰を掛けて、ため息をついた。
「今晩、どうしよう……」
それは、心の奥から出た呟きだった。
森にいた頃は、野宿どころか、寝もしなかったのに、いざ、街に来るとこうなるのか。人間って、どんな心境の変化があるか分からないね。
まぁ、俺は人間なのかどうか怪しいけど。
さて、本当にどうしよう。




